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高血圧性脳症

 高血圧性脳症は、人のこととして考えたときに理解が進むと思います。比較的身近な人に発症していることも多いかと思います。理論的には動物でも似たようなことが起こります。しかし検査と診断、急性治療とその後の予後については大差があるのではないかと思います。

高血圧症によって脳内血管に出血性の障害が発生したときに考えられることをお話しします。

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<脳出血?脳梗塞?>

人で脳血管関連の障害が発生したときに、「くも膜下出血」とか「硬膜下出血」とか「硬膜外出血」などと伝えられるかと思います。これらは出血性の疾患です。それから似たような言葉として「脳梗塞」というのもあります。こちらは虚血性疾患で、出血性疾患とは病態が異なります。

出血性疾患では血管が破綻して周囲組織に血液が出てきます。血液凝固状態が良くなければ出血はしばらく続きますが、やがて「血腫」を作って出血は止まります。腕や足を強く打ったとき、「青あざ」ができたり「血豆」になったりして皮膚の色がくすんで見えることが有るかと思います。それが脳の中で発生していると想像してみてください。一方、脳梗塞は血管が詰まって、その血管が酸素や栄養素を配ることになっていたエリアに酸素や栄養素の供給が行かなくなることから発生した脳細胞の障害です。細胞の壊死から細胞障害性浮腫が発生します。

 

<出血の原因>

高血圧は脳血管出血の原因の一つに過ぎません。腫瘍ができていて血管が破綻することもあるし、出血性素因がある個体だったという可能性もあります。脳血管に動脈瘤があったのかもしれないし、血管奇形が有ったかもしれない。すごくまれな病態まで含めてしまうと(TVにそんな番組が有ったように思いますが)寄生虫の迷入だって出血の原因になり得ます。そして探ることができ、いろいろ見たけれど原因がわからない場合ももちろんあります。

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<出血が起こると>

出血した血液による「血腫」が作られます。血の色をしたゼリー状の塊、生のレバーに似たような感じですがもっとふわっとしたババロアのような物です。これが脳の実質を圧迫します。Mass effect(マスエフェクト)といって、脳腫瘍と同じような状況を作り出します。そして、その塊によって局部的に血液の流れは障害を受けることになり、二次的に虚血性の状態(酸素や栄養素が行き渡らないために浮腫が発生してきます)にもなってきます。圧迫によっても、虚血による浮腫によっても、頭蓋内の圧は上昇してきます。

血腫は時間が経過すると吸収されますが、圧迫から組織が壊死したり、壊死部分がぽっかりと空洞になったり、他の組織に置き換わり瘢痕組織を作ったりなど、その後も脳組織が完全に再生することがないため、影響を残すことになります。

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<脳神経症状の出現と経過>

脳血管障害は急性に発症します。数時間から数日かけての経過で、一時的には悪化したようになりますが、そのときをピークにその後はあまり変化がないかあるいは少しばかり改善したような経過をたどります。多くは数日で改善傾向になって、支持療法をしているうちに寛解する(症状が落ち着く)ようになるのです。「大多数は」、という言葉を前置きすることを忘れました。

あまりにも重症だったりすると、急性期のうちに、診断を付ける間もなく亡くなってしまいます。甚急性です。

猫で、原因不明の死亡例の中には、これがあるのではないかという先生もおられるくらいです。例えば、ドスンという音がして行ってみるとさっきまでタンスの上で寝ていた猫が落下していて見るともう息がなかった、というとき、落下で死亡したのではなく、死亡した結果、落下したというようなことです。

どこにどの範囲で病変があるのかによって重篤度に違いが出ます。場所的には脳幹(脳の中心部)に病変がある方が辺縁よりもしんどいですし、できた血腫のサイズは小さい方が予後は良好です。またイベントが発生した時に飼い主さんが不在で治療開始までに時間が経過していたというような場合も、すぐに治療できた場合と比べると予後は良くありません。基礎疾患が明らかにあるとき(例えば慢性腎臓病とかクッシング症候群とか)、基礎疾患のコントロールができていても再発する可能性はあります。繰り返すことにより予後は悪くなるし、それに伴って生存期間も短くなります。

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<あらわれる臨床症状>

障害を受けた血管が走る場所によって、脳血管障害が見せる症状は少しずつ異なっています。専門の先生から見ると、この症状の細かな分類で、大体どのあたりに発生した障害なのかを推定することができるようです。①前頭・頭頂葉とか②側頭・頭頂葉とか③後頭葉、④視床や中脳、⑤小脳、⑥脳幹というざっくりした部分わけです。(すみません、私は自信持って「この場所でしょう」と言い当てることはできません。)また病変が広範囲にできていたり、複数箇所有れば、症状も重なります。

全部を箇条書きに記します。いわゆる中枢神経系の症状です。出血性でなくても同じ症状が出ることがあるので、これらが見えるからと言って、すべては脳血管の障害によるものではないこともお伝えしておきます。

・精神状態の変化(攻撃的、静か)

・意識レベルの変化(はっきりしている、眠っているよう)

・姿勢反応の低下から消失(しっかりと立っていられない)

・唇の痛み感覚が鈍る

・瞬き反応が低下から消失(目の前に手をかざしても目を閉じない)

・同じ方向にぐるぐる回る

・頭を傾ける、首をかしげたままになる

・頭を押しつける

・てんかん発作

・眼の向きがおかしくなる

・眼球がゆらゆら揺れる(くるくる回る)

・瞳孔の大きさが左右で違う

・四肢の麻痺

・顔面麻痺

 

<診断するとき>

一般に全身状態を診て、血圧測定をしたり、血液検査をしたりするくらいではわかりません。神経学的な検査を行なってもそれを確認することができるという範囲内にとどまります。症状が緩やかに落ち着いてきたところで「おそらく脳血管障害だったのでしょう」ということになるくらいです。

いわゆるゴールドスタンダードはCRMRIの検査です。可能であれば両方とも受けてもらえると、今の症状が「脳腫瘍」や「脳炎」「認知機能不全症候群」ではないという除外診断もできるし、異常が発生した部位や範囲を特定することも可能かと思います。いざ、そうなったときに大きな設備のある病院に行ければ、画像検査による判断が可能です。

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<脳血管障害の治療>

人医療と大きく異なるのは治療にも及びます。特に発生直後の急性期では「きっとそうだろう」レベルの診断になります。普通のホームドクターができる範囲内の治療は、救急的に内科的な脳圧をコントロールする治療になるでしょうが、それらの薬を使う根拠の見つけどころがわかりません。高血圧という既往歴、今発症している脳神経学的な症状から、「おそらく脳圧が上がっているに違いない」と脱水症に気をつけながら脳の降圧剤の点滴治療をするというのも危なっかしい橋を渡るような治療です。激しいけいれんがあるようであれば、特殊な系統の麻酔薬で眠らせ、気管に管を通して酸素療法があります。またけいれんに中休みがあり内服投与が可能であれば抗けいれん薬による内服療法ということになります。

それらに加え、ほとんどは支持療法、つまり、食事がとれない状態ならば水分や栄養素の補充のための点滴や流動食的な給餌療法、立てないときにはそれなりの看護をするといった内容です。

さらに経過して状態が安定すれば、リハビリテーションを含めた看護や介護が必要になってくるかもしれません。

高血圧が原因の脳症だと判断がついても、神経系のトラブルが発生したイベント時に、すぐ降圧治療を施すことはありません。脳内圧が上昇しているときには障害部位で脳の血流を調整する機能が壊れているため、急に血圧を低下させることは、障害の起こっている部分でさらにかん流が低下してしまう危険もあるからです。症状が落ち着いてから、血圧系のお薬を服用して貰います。

いずれにしても動物の様子をじっと観察しながら、行きすぎた治療にならないよう気をつけて実施することになります。

 

というわけで、標的器官障害としての脳血管障害の怖さを知っていただき、これはやっぱり高血圧症をコントロールして、予防的に備える方が賢明だとわかっていただけるとありがたいです。

今日のお話はこれでおしまいです。

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テーマ : 動物病院
ジャンル : ペット

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