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犬と猫の尿石症

 犬と猫の尿石症についてのお話しです。

6月から待合室で「犬猫の尿石症」について掲示しています。暑くなってくる前に、飲水量を増やすことに注目していただきたいので梅雨時だけど今がいい頃合いだというのと、たまたま某メーカーさんの予防食リニューアルというのもあって、オリジナルの説明プレートを用意してみました。今日までに2週間ほど経過しましたが、初診で尿石症を診断することが多く、尿石症はどちらかというと少し冷えてくる秋に多いイメージでしたが、そんなこともない、やっぱりオールシーズンいつでも発生している一般的な病気であることを痛感しています。

尿結石の中には、注意しておけば予防できるものがあります。今はなんともないように見えて、問題はこれから発生するかもしれません。決して他人事の病気ではないのです。

そんなわけで、尿路にできる石のお話にお付き合いください。

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尿路結石についてご紹介しています。
別の用件で診察に来られても、
「あっ!そうだ!オシッコがおかしかった!」
なんてことがあれば、ついでにお話しください。

<尿路に石があるとどうなるか>

尿路はオシッコができて、流れて、排泄される経路です。腎臓~尿管~膀胱~尿道になります。

腎臓~尿管を上部尿路、

膀胱~尿道を下部尿路

といって、分けています。尿管と尿道は一文字違いですが、別の組織です。

尿結石はこのうちのどこかに存在する石です。

尿結石は尿路のさまざまな場所を自然に通過したり、ずっとそこに居続けたりします。そのあいだ、そのままの状態で成長せずにいることもあるし、自然に溶解してしまうこともありますが、成長を続ける(大きくなる、数が増える)こともあります。どこかにある石全部が何かしらの症状を出すのではなくサイレントで、気がつかれないこともあります。たった一度血尿を出したけれど、その後はなんともない、なんていうこともあります。たまたま画像検査をしたら発見するということもあります。

けれど、好ましくないことも起こします。

いくつかの、怖い例を挙げてみます。

・石がある組織の内側の壁、たとえば膀胱なら膀胱の粘膜を傷つけます。傷がつくと粘膜表面から量の問題はありますが出血します。

・傷があると、細菌感染を起こしやすいです。

・慢性的な刺激によって粘膜はポリープを作るかもしれません。それは腫瘍と区別がつきにくいものです。

・腎盂(やや広い)→尿管(とても狭い)→膀胱(広い)→尿道(狭い)という構造になっていますので、石が移動し、狭い部分を通過する途中で閉塞を起こすかもしれません。

・両腎に影響するほどの完全で持続的な閉塞が起こると、腎障害を起こします。それは急性の尿毒症を起こすかもしれません。

・重篤な閉塞が生じた後、尿の流れを早急に再開させないと腎臓は急速に壊れ、2日から4日くらいの間には亡くなることも予想されます。

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いろんな石があります。
石毎にでき方に特徴が有ります。
手術しなくても大丈夫な石もあります。
きちんとしてれば予防も再発しないようにもできる石もあります。

<石によって組成が違います>

尿路結石にはいろいろ種類があります。石の成分のことです。

昔、激しく昔ではないけど、そう、昭和の頃です。犬も猫も、「尿石ができているぞ」とわかったとき、その石はほとんどがリン酸アンモニウムマグネシウム(ストルバイト)でできていました。この石は長いこと、結石の原因のNO.1でした。それも80%くらいはこの石でした。今は減ってきています。この石は予防が可能になったからかもしれないし、飼い方が良くなったせいかもしれません。

近年増えてきているのがシュウ酸カルシウム結石です。これまで80%を占めていたストルバイト結石は、その半分(よりちょっと多く)をシュウ酸カルシウム結石に譲った感じです。猫のシュウ酸カルシウム結石は腎臓から落ちて(膀胱まで行く途中の)細い尿管で石が立ち往生してしまうと、急性の腎障害を起こし命の危険が高いので、特に注目が集まっています。この状態に対しては外科、それも緊急の外科が必要ですし、手術ができたからといってこうなった猫たちを100%救えるかというとそうではなく、もし危機的状況を一旦回避できても難しい状態が継続します。亡くなる確率も高いし、救えても慢性の腎臓病となってしまうことも多い厳しい病気です。

ストルバイト結石が大半を占めていた昔でも、シュウ酸カルシウム結石がその半分を譲られた今でも、変わらず10%~20%くらいは別の石が占めています。それが代謝に関係してくる石と不明の石です。一部の犬では腸から肝臓に行く血管(門脈)に異常があったり、また肝臓に障害のある犬があり、そのために尿酸アンモニウム結石を形成することがあります。またダルメシアンに代表されますが、遺伝的にプリン体の代謝ができない個体でも発生しやすいことがあります。それから腎尿細管で再吸収されないことから発生してしまうシスチン結石があります。まれなのですが、これも遺伝的疾患で、できてしまう犬には繰り返し石ができてしまいます。原因はわかっているけれどコントロールが難しい結石です。

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犬も猫も、よく見られる石の種類は変わってきています。

<尿結石を発見する>

石の発見に使われるのは、レントゲン検査や超音波検査などの画像検査(と尿検査、可能ならば血液検査)です。レントゲン検査するとき私たちは、「KUB」:腎臓(K)~尿管(U)~膀胱(B)を全部入れて撮影しますが、さらに尿道とその先の出口までしっかり撮影するようにしています。ときに、一枚では治りきらず、前の方、後ろの方の2枚に分かれて撮影することもあります。(横から撮影するだけで)

読影するときはじっくり見ていきます。小さい動物ではできている石も、ほんの小さな石であることがあります。撮影後も色合いの調整や拡大など、画像を調整して確認します。X線の「透過性」と私たちは呼んでいますが、くっきり写る石からぼんやりレベルの石、また、X線をすり抜けて写らない石というのもあります。レントゲン撮影そのものは皆さんもご存じの通り、「はい、息を大きく吸って~止めて~はい」「バシャン!」の数秒のことなのですが、読影には時間がかかります。

超音波検査では、動物にじっとしていただくことが要求されます。一瞬の撮影タイムであるレントゲン撮影と違って、それなりの時間が必要です。石のようなもの、石かどうか怪しい物体があるような場合は、尿道に管を入れその管から生理食塩水を流し、水の流れや物体の動きを通して、怪しい物体を探ります。大きな石でしっかり影を作るようなものだと判断しやすいのですが、微妙なときは判断するのに困ることがあります。直腸にウンチがいっぱいあってわかりにくいということもあり、「浣腸してから撮りなおししようか」なんてことにもなります。

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腎臓から尿管、膀胱、そして尿道まで、
石はどこにでもできてしまいます。
レントゲン検査でわかる石を載せています。

<見つかった石、取らなきゃいけない?>

「悪さをしている石」は無くした方がいいです。たまたま偶然見つかっただけで「悪さをしていそうに無い石」の場合は見守りもありです。

「悪さをしている」、「悪さをしそう」などの判断は重要ポイントです。たとえば腎結石が見つかっても、流れを妨げている、感染症を繰り返している、痛みを出している、腎臓が圧迫されるくらいでっかいなどは「悪さをしている」ので「切る方」に入る石です。偶然見つけた小さな腎結石で、流れも妨げていない、感染もしていない、痛みももい、とても小さな石の場合は「見守り」になります。また膀胱にあって「悪さをしそうにない石」というのは、今も問題を起こしていない(血尿とか尿路感染などの症状が全く出ていない)し、適度な大きさがあって尿道に落ちそうにない(閉塞しそうにない)石です。症状が出たときにどうしようか考えれば良い「見守り」になります。

そして「手術でなければ取り出せない石」と「内科的に溶解が可能な石」があり、溶かせることができる石ならば(何か緊急に困ることが無ければ)ゆっくり溶かしていくのが動物にやさしい方法です。「手術しなければならない石」で「予防法がない石」ならば、何度も繰り返し手術するくらいなら、見守り続け、必要以上に手術回数を増やさない方法もあることになります。

「見守る石」は「様子を見ましょう」と言われるかもしれません。これは「そのままにしておいて良い」という意味ではありません。定期的にチェックが必要ですが今は手を出さないという意味です。獣医師からの言葉をちょっとアレンジして判断されてしまっている飼い主さんもおられますのでお伝えしておきます。

基本的にストルバイト結石は溶かす石に分類されています。尿酸結石とシスチン結石も一度は溶解を検討してみる石です。見守りや取り出しの手術になりやすいのはシュウ酸カルシウム結石です。

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今月からリニューアルの尿石予防食です。

<石の種類は体内にあるときに特定できるか>

石によって切らなくても溶かせる石がある、となると、取り出してから検査するのでは無く、体内にあるうちに決定して処置を決める必要があります。出てきていない石がどの組成の石なのか、外から見て分かるものでしょうか。

動物の品種・性別・年齢やできている石の場所、代謝異常などの病気の様子、尿路感染の有無、食餌などから、どの石なのかを予測することは可能です。また画像検査で推測することも可能です。例えば、X線には写らないけれど超音波検査だとはっきりわかる石、X線でぼんやりわかる石、X線で小さくてもくっきりわかる石などの写り方によっても判断できます。それから超音波検査でいろいろな角度からあててみて推測されるおおまかな形、石の大きさと数なども参考になります。尿検査で尿のpHを調べることができますが、酸性度、アルカリ度によってできやすい石に違いがあるので、これも参考になります。結石成分が過飽和であったとき、管に入れた尿を回転させ沈んだ物を顕微鏡で調べてみると、結晶成分を見つけ出すことができます。有力な手がかりです。

こんなことをヒントに、だいたい推測することができます。しかし、ある石が原因で感染が起こり二次的に感染性のストルバイト結石を形成することもあります。血液検査でミネラル成分を調べ、高カルシウム血症があるなど、というのもヒントにはなります。

しかし状況証拠が一つの方向に正しく導かれるとも限りませんので、判断に苦しむこともあるし、複数の成分が絡み合ってできている「混合結石」の場合もあるため、決定が難しいときもあります。

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サンプルフードが並べてあります。
石ができていない犬猫でも、
肥満を含めたほかの病気がないときには
これらを利用することが可能です。
予防になります。

<特殊な犬?普通の犬?>

遺伝的疾患を持った特別な犬や猫だけに尿結石ができるのはできた石全部のなかで10%~20%未満です。あとは「こんな風に飼っていると石ができちゃうかも」というのがあります。もちろん体質によって「すぐにできちゃうぞ」から「いずれできちゃうぞ」くらいの巾は有るかもしれません。「うちの子は一度もできたことないし、関係ない病気じゃないかな」と思われていらっしゃる飼い主さんはとても多いです。でも人生における「まさか」は犬でも猫でも起こりますので、「関係ないぞ」なんて思わないで予備知識を入れておいていただけると良いなぁと思います。

 

<続きますが、ひとこと>

「様子を見ているうちに変化して、すぐになんとかしなければいけなくなる結石」は一定数あります。はじめはきっと「見守り」だったのだけど、どこかで「悪さをし始めた石」に変わったはずです。はじめから「切除が必要だったけれどそのままにしちゃった石」も無いとはいえませんが、すべてがそうではないと思うのです。「定期的な検査で様子を追っていく」ことで「切りどき」を逃さないようにすることが大切です。「様子を見る」というのを「何もしなくてもいい」と読み違えてしまうと、「切りどき」を過ごしてしまう危険があります。

「見守り」「様子観察」「様子見」はいつも以上に「神経を細やかにして臨床症状が出ていないかどうか気を配る」必要があるし、忘れずに再診に出かける必要があるというのを心に留め置いてください。

<改正動物愛護法のこと>

話は変わりますが、動物愛護法が変わりました。これまで以上に罰則は強化されました。心を痛める事件もありますが、これによって無くなればウレシイです。
ショップで売られる子犬の週齢も、今後引き上げられることが決定しました。小さい方がかわいい、幼い方がなつきやすいといった逸話は、動物行動学からは完全に否定的です。幼少時には親子のスキンシップと同腹子同士の遊びを通じて得られるものが多く、これが日本犬に適応されなかったことはとても残念です。日本犬だけを除外するエビデンスはありません。
飼育者にとって関連してくるのは「マイクロチップ」の埋め込みです。これまで飼育されてきた動物には努めて入れて欲しいということになっています。終生飼育の義務づけ的な側面もありますが、むしろ、万が一大きな災害が起こって迷子になっても、最後はマイクロチップの情報を頼りに飼い主さんと再会することができます。いつでも挿入は可能です。この際にぜひ、ご検討ください。不安に思うこと、知りたいことがあれば診察のときにどうぞ。






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