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肛門周囲腺腫

先日の診察のことです。わんちゃんです。美容院で「お尻が膨らんでいるので病院で診て貰ってください」とコメントがあったということで来院されました。

結論から先にお話ししますと、それはめったに診られないくらい肛門腺がいーっぱい溜まって大きくなっていただけのことでした。けれどトリマーさんが気づいてくれることこと、それから無理はしないでベターな対処法についてお話ししてくれ私たちにバトンタッチしてくれたこと、これは大変価値のあることです。彼女(彼?)は肛門腺が溜まって大きくなっていること以外にも、肛門周りには重大な病気が隠れていることがあるのを知っているからこそできた対応なのでしょう。

今日はそんな怖い病気のことも知っておいて貰うことも大事だと思いまして、お話しを続けます。肛門の周りには「肛門周囲腺腫」という良性の腫瘍ができることもありますが、「肛門のうアポクリン腺癌」という悪い腫瘍が発生することもあります。そしてこれはできるだけ早期に見つけて小さなうちに対処することがこ大切です。
9月はがん征圧月間です。今週「肛門周囲腺腫」と来週「肛門嚢アポクリン腺癌」のお話をすることにします。
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  肛門周囲腺腫

<概要>

肛門周囲腺は、犬科の動物(コヨーテ、イヌ、キツネ、ジャッカル、オオカミなど)に特有の皮脂腺です。猫には肛門周囲の皮脂腺がないので、この種の腫瘍は猫では非常にまれ(発生しない)と考えられています。肛門周囲腺の機能は完全には理解されていませんが、フェロモンの産生や領土のマーキングなどにおいて役割を果たすと考えられています。

通常は肛門周囲に位置します。「通常は」というのは、あまり知られていないのですがこの腺がオス犬の包皮やメス犬の腹部乳房のあたりにも存在するし、そのほかに会陰、尻尾(背中側と裏側)、ふとももや後肢、腰の周辺などにも存在するからです。わき腹の皮膚にできた腫瘍を採取して病理の先生に診て貰うと、こんなところにできた腫瘤が「肛門周囲腺だった!」と驚くこともあります。

肛門周囲腺を構成する個々の上皮細胞は、顕微鏡で見たときに肝細胞(肝臓の細胞)と外観が似ているために、肝腺という別名で呼ばれることもあるようです。

肛門周囲腺腫は良性腫瘍です。肛門まわりにできる腫瘍のうち80%から90%くらいがこの腫瘍で、残りが肛門のうアポクリン腺がん、そのほかの腫瘍です。

年配の未去勢のオス犬に比較的よく発生が見られます。同時に睾丸の腫瘍も併発していることが多いという報告もあります。
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<原因は?>  

  肛門周囲腺腫の原因は不明です。アンドロゲン(男性ホルモン)の産生が腫瘍形成を刺激する可能性があります。エストロゲン(女性ホルモン)は、肛門周囲腺腫形成に抑制効果があります。

                                                            

<腫瘍の発達>

初期段階のものは、肛門周囲の皮下にくるんとした小さな飴玉が入っているかのような感触で触れることができます。「小さな結節」と表現しています。肛門周りの皮膚が厚くなっているように感じることも有るかもしれません。肛門周囲腺腫は成長がゆっくりで、痛みもありません。中には1年くらい前からあったと言われる患者さんもおられるくらいです。初期に犬には腫瘍に関連した症状はありません。肛門腺絞りをするときに美容室のトリマーさんが気づいてくれるのはラッキーです。

それから、大きさや直径が異なる粒が肛門周りで複数触れるようになります。いくつかの腫瘍が炎症を起こして感染するようになると血が出てきます。痒みがあり、犬にとって刺激性で、軽い痛みを引き起こすことがあります。「犬がお尻を気にして、しょっちゅう舐めている」というお話しが聴かれるのはこのくらいからです。肛門腺が溜まっているときに犬が「お尻でスケート」するような行動をとることがありますが、そのような動きをすることもあるでしょう。

小さなつぶつぶ同士がくっついて腫瘍が大きく発展してきたり、犬が気にして激しく舐めたり、どこかにこすりつけたりしてくると表面を覆っていた肛門の皮膚が崩れ、そこから出血したり、じくじくした汁が出るようになります。ここまで来ると無関心な飼い主さんでも犬の肛門に異常が起こっていることを認識するようになります。

さらに大きくなった場合、排便を妨げることになります。いきんで排便しにくい様子が見られます。直腸の粘膜が肛門からはみ出て赤いものが見えてくることもあります。排泄後に肛門周りの血が糞便に付着してあたかも「血まみれの便」が出たように見えることもあります。出血が多いとき、犬が盛んに舐めて、これを嘔吐することがあります。「血の嘔吐」にびっくりされる飼い主さんもおられるかもしれません。

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<悪性腫瘍との区別>

初期は外見上の特徴が異なるので、「これは肛門周囲腺腫。良性のものでしょう」と判断できますが、中には表面だけで無く、深度の深い腫瘍を持っている場合や結合して大きく肛門周囲全体に及ぶものなどありますので、腫瘍の塊を病理検査で調べることは、重要で、それはそのまま次の安心につながります。けれど二次感染や出血があり、また組織がぐちゅぐちゅした壊死組織の様相を示すほどになってしまうと、採取したサンプルの細胞が十分に取れなかったりするため、肛門嚢アポクリン腺癌と肛門周囲腺腫を細胞学的に区別することが難しくなってきます。

良性腫瘍であると言うことは、大きくなるスピードがゆっくりだとか、腫瘍と正常組織との境界がはっきりしているとか、局所だけで転移を起こさないなどの特徴を持つものですが、腫瘍が大きく育ってからではそれらがあやふやでわかりにくいことが多いです。

肛門のうアポクリン腺癌では、血液中のカルシウム値が高くなっていることが多く、また腰椎付近のリンパ節に転移が見られることがほとんどなので、血液検査やレントゲン検査、超音波検査でもこれら二つの腫瘍を区別する手立てにはなります。

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<治療の基本は手術>

未去勢オスであれば、腫瘍の外科的切除と同時に去勢手術を行なうのが最良の治療法の選択肢です。大きな腫瘍があるオス犬では、腫瘍を切除する前に去勢手術だけしておいて、腫瘍の大きさが小さくなるのを待ってから腫瘤切除をするという二段階を踏むことで、完全切除ができやすくなることもあります。

メス犬の場合、外科的切除が最適な治療法です。

大きな腫瘍よりも小さな腫瘍を除去する方が常に簡単です。特に腫瘍が外科的は閉鎖を問題とする領域(肛門周りはその代表的な場所です)に位置する場合は、完全切除が困難になるサイズまで成長させないうちに手術することがおすすめです。肛門周りをぐるっと360度取り囲むほどに腫瘍が大きくなってしまった場合(このときはすでに腫瘍の塊で肛門の穴がどこにあるのかさえ見分けがつかないくらいですが)、これでは手術で肛門括約筋の役目を失ってしまうことが有ります。術後の便失禁を回避することが困難かもしれません。すでに術前から排便障害が起こっているとは思いますが、便失禁は一緒に暮らす家族のQOLも損ねてしまいますから、早期に気づいて早期に手術に踏み切ることはとても大切です。

ホルモンと関連があるため、ホルモン療法を施すことによって、内科的な改善を期待されるかもしれません。しかしエストロゲンによる治療は再生不良性貧血を呼び込む可能性があるため、おすすめではありません。

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<手術の後は?>

完全な切除ができると予後は良好です。完全切除後の腫瘍の再発は非常にまれです。大きすぎて完全に切除ができなかった場合は再発する可能性があります。切除が完全にできたかどうかは病理の先生による顕微鏡検査を基準にします。 

一部の犬は、切除されなかった残りの非腫瘍性の肛門周囲腺から新たな肛門周囲腺腫を発症することがあります。小さな腫瘍で、一部分を切除した場合にはこのようなことが有るかもしれません。局所再発という錯覚を与えてしまうかもしれませんが、これは再発ではなく、新生のものと考えます。

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<予防ができます!>

  1. 去勢手術を行うと、予防できる病気がたくさん有ります。それが精巣腫瘍であり、肛門周囲腺腫であり、前立腺過形成(肥大)であり、会陰ヘルニアです。どれもが高齢になってから発症する病気のため、手術はハイリスクになります。去勢手術は性成熟完了前~直後である6か月からおそくても8か月頃までに行なうことをおすすめしています。若いうちの手術はリカバリーも速いです。(大型犬ではもう少し遅くても良いです)
  2. 去勢されたオス犬は一般にしつけしやすいです。未去勢のオス犬は、家のいたるところに強い臭いの尿をスプレーすることで自分のテリトリー印を付けます。さらに攻撃性の問題の多くは、早期の去勢手術によって回避することができます。
  3. 去勢手術が犬を肥満にさせることはありません。運動不足や過食があると、犬の体重は増えてしまいます。しっかり運動をし、食物摂取量を飼い主さんが監視していけば、健康的な適正体重を維持することが可能です。
  4. 去勢手術は費用対効果が非常に高いです。 去勢手術の費用は、腫瘍が発生してからそれを治療する費用よりはるかに少ないのです。コストパフォーマンスはワクチン並みの高さです。


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テーマ : 動物病院
ジャンル : ペット

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