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猫の膿胸

8月に入りました。「8」は語呂合わせのよい数字のようで、早々の1日から「肺の日」でした。今週は8日が「international cat day」猫の日です。(こちらは語呂ではありません。)今日は「肺」が膨らめなくて息が苦しくなる猫の病気、「膿胸」についてお話しします。発生頻度はあまり多くありません。

 <猫の膿胸>

 膿胸は胸腔に膿が蓄積すると発生する病気ですが、病態的には化膿性の敗血症で、全身性の病気です。猫に多く発生します。発生頻度はさほど高くはありません。

膿は細菌の侵入に対する体の自然な免疫反応で、白血球(好中球)と死んだ細胞でできています。細菌感染が発生すると、炎症が起こります。血管が腫れて太くなり、血管の壁から細菌を食べる白血球や、組織を修復しようとする細胞などが血中から出てきて感染部位に集まります。白血球(ことに好中球)は細胞を食べて死に、周囲の傷ついた組織の細胞とともに、膿の特徴である濃い白っぽい黄色の液体が残ります。膿がたくさん貯留し胸膜の内側を覆い、最終的には胸腔いっぱいに広がると、肺が十分に膨らめず、猫の呼吸機能は著しく損なわれます。

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 <原因>

 膿胸の最も一般的な原因は、細菌による感染症です。猫は咬傷から膿胸になることが多いのですが、皮膚に刺さった異物(枯れ草の芯のようなもの)が体内を迷走することや、肺炎などの呼吸器感染症が胸腔内に広がったりすることによっても感染します。胸腔に定着する細菌は肺や食道からも入ることができるのです。原因菌で多いのはパスツレラムルトシダ、バクテロイデス、黄色ブドウ球菌などですが、ごくまれに抗酸菌のこともあります。

 

<症状は?>

 膿胸のある猫は突然呼吸困難の症状を示します。それまでは、食欲がない、食べない、動くのを嫌う、おとなしくしている、呼吸が速い、痩せてきたなどの症状を出すことがありますが、これらのどれも、この病気特有の症状ではありません。猫を抱いたときに熱く感じたり、耳やお腹などの毛が薄い部分に触れたときに熱っぽさを感じることもあります。冷たくなってほぼ動かなくなってきていたら危険な印です。うずくまっていて突然はっと動き、またじっとするなど、息が苦しくて身の置き所が無いときには、不思議な行動に見える動きをとることがあります。

 

<身体体検査をしてみると・・・>

診察にいらしてもらったときには、軽症の「速い呼吸」から重度の「呼吸困難」までいずれかの段階の呼吸の変化が見られます。呼吸困難は急に悪化することがあり、レントゲン検査の途中に猫が倒れ込んでしまうこともあるくらいです。
体重の減少を確認できます。そのほか、毛がばさついている様子、いかにも体調が悪そうな様子が見て取れます。
発熱を確認するときは、脈も強いのですが、胸部の貯留液のために心拍は遠くに聞こえてきます。お腹からの聴診の方がはっきりするくらいです。
脈が細く、脈拍数が少ないときもあります。猫が病気に負けそうになっているマイナスのサインになります。

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<診断の助けになる飼い主さんからの情報>

まず、猫の普段の生活や健康状態について、できるだけ詳しく教えてください。またこの病気に先行して猫に起こった事件(ここ数日~数週間の間に発生したできごと、例えば猫が隠しているかもしれないけんかの傷や胸の怪我など、びっこをひいて帰ってきたことがあるならそのようなこと)もいろいろ伝えてください。
そして、今回調子がおかしいと思ったことがいつごろから始まって、それはどのような症状であったのかを教えてください。
状態が優れない場合はいつもそうですが、飼い主さんからいただける情報の量があればあるほど、的を射る検査につながります。こんなことは関係ないかなと思わず、猫に関する情報をたくさんください。(情報が少ない場合は、多くの検査が必要になります。)

 

<診断に向けて行なう検査>

血液検査は必須です。身体の状態を知るために重要な情報が得られます。血球検査は白血球分類まで行なう完全なもの、生化学検査も電解質も含めて実施します。
呼吸困難がひどいときは、酸素を与えながら検査を進めていくかもしれません。レントゲン検査の前に、胸部の超音波検査を行なう場合もあります。呼吸困難で来院する猫の大半は難しい病気です。息を苦しくしているのがどんなものなのか見分けるのに、レントゲンか超音波どちらかということはなく両方ともに必要ですが、液体貯留があるときは胸の中の水を取り除いてから撮影した方がわかりやすいレントゲン写真が得られますし、胸部レントゲン検査をするのに猫を横に寝かせただけで呼吸不全になって亡くなってしまうこともあるのです。レントゲン検査は見やすい写真を撮影するために動物にとって楽ではない姿勢をとらせる必要があります。苦しいときにはわずかなことも命に関わるほどの負担になってしまいます。そのため、排除できる液体貯留が認められれば、排液して少しでも楽になってから検査を行なうようにします。
超音波検査は、水たまりを黒く映し(低エコー性といいます)、しっかりした物体を白く映し(高エコー性といいます)、そして石や骨などの硬いものを通さず、肺のような空気を含む物体は大変見づらくなります。超音波は水を含む組織を映すのを得意とするため、液体貯留が疑われるときは、先に超音波検査を行ない、そのまま診断と治療も兼ねて、液体を吸引排液する処置を施します。(胸腔穿刺術)

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<貯留液の検査は確定的です>

胸腔から採取した液体は、検査室で生化学的な性状を検査します。敗血症性滲出液は、pH、蛋白濃度、細胞数などに関して一定の基準がありますが、これに合致する結果が出てきます。
胸に液体が貯留する病気はほかにも有り、「乳び胸」や「猫伝染性腹膜炎腹膜炎型」などと区別しなければいけません。それぞれに生化学的な性状が異なるため、採取した液体の検査は膿胸であることを確実に決定づけるために重要な検査になります。
また、顕微鏡検査のためのスライドを作ります。細胞と細胞の間の空間に細菌があるのを見つけ出せます。好中球やマクロファージが細菌をたくさん食べている(貪食:どんしょくといいます)のもわかります。一部は病理検査用で、炎症細胞以外の、腫瘍を臭わすような細胞が混在していないかどうかを病理の先生に判断して貰うために送り出します。
排出液を滅菌チューブに取り分け、細菌学的な検査のために送り出します。細菌培養は酸素を必要とする細菌、および必要としない細菌の存在、まれに真菌も診て貰います。最も効果的に細菌を退治する抗菌薬を決定する検査も同時に行なって貰います。

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<胸腔チューブ設置術による治療>

胸腔穿刺術で液体を排除しただけでは膿胸の治療は完了になりません。幾分呼吸が楽になって、次の処置が行ないやすくなるくらいです。胸腔にチューブを設置し、この太い管を介して胸の中を洗浄する治療(胸腔ドレナージ設置術)が最良の方法です。全身麻酔下で行ないます。感染を完全に根絶するのには数日(から数週間!)かかります。このチューブを通して胸腔の排液をしていきます。とても重要な処置です。排液をするほか、チューブを介して胸腔を温かい滅菌生理食塩水で洗い流します(洗浄)。出てきた液は、どのくらいの量出てきたのか、排液中の細胞成分が減少してきているかなど、良好な兆しが出てくるのを期待しながら検査します。
この状態の猫は治療のために集中治療室に入院する必要があります。集中治療室は温度管理、酸素管理そのほか、猫に快適な環境になるように整えています。ことに酸素濃度はルームエアーに含まれる酸素濃度よりだいぶ高めに設定します。膿によって圧迫されていた肺は、胸の中がきれいになるにつれて胸の中が元の陰圧状態が戻り、膨らむことができるようになります。それに従って換気量は増え、モニターしていた猫の血管の酸素分圧(SpO2)の値も限りなく100に近い数値を出してくるようになります。
静脈内に入れた針を通して点滴とともに抗菌薬を投与します。培養検査の結果が出てくるまでは広範囲の菌に有効な薬を使います。結果が出てからは、結果に従って有効な薬を使います(変更します)。もし猫の状態が改善しない場合は細菌培養を繰り返し行ないます。
痛みに対して鎮痛薬を使うなどして、回復を早めるようにします。
炎症により消費されるエネルギーやビタミン類なども考慮に入れる必要があります。栄養学的な側面からのバックアップです。消化可能であると判断したときから、チューブで栄養を与えます。もちろん、猫が食事に嗜好性を示して積極的に食べてくれるようであればチューブは不要です。
X線、超音波(病院によってはコンピューター断層撮影(CT)、または磁気共鳴映像法(MRI)が利用可能な病院もあります)で肺に膿瘍やねじれ、異物、広範囲わたり大きな塊状になった膿などを見つけた場合は、開胸手術が必要になります。治療を重ねても膿液がうまく抜けてこない、呼吸困難の回復が良くないなどの徴候が見られたときには上のような合併症を疑うことになります。

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<入院時のケア>

入院している間は毎日注意深いケアが必要で、連日排液の検査や血液検査、レントゲン検査を通して、状態が悪い方に向かっていないかどうかを確認していきます。
胸のチューブは清潔に扱っています。また猫が気にして噛みちぎってしまわないように、胸の周りに包帯を巻き、猫の首にもエリザベスカラーを装着します。
面会時、包帯で巻かれ、そこかしこからチューブが出ていて、心電計に繋がれるコードや酸素をみるためのコードも複数繋がれている猫をICUの窓から観察すると、とても悲しい気持ちになってしまうかもしれません。猫は必死で闘っています。また病院のスタッフも寝ずの番をしていると思います。応援してください。

 

<良い兆し、悪い兆し>

初期の積極的な治療は猫の状態改善に不可欠な処置です。猫が最初の2日間をしっかり乗り切ってくれると、炎症は徐々に沈静化してきます。廃液量、液に含まれる細胞の量ともに減少してくるのは良い徴候です。猫に動きが見られたり、食欲を見せてくれるのも回復の印です。
最初の来院時に体温が低くぐったりしていたり、呼吸困難のためによだれがだらだら垂れていたり、脈が細かったりしているのは、麻酔中にも命を落としかねない危険な状況です。また、処置後も排液がたくさん続いているとか、一度良くなりかけたのにまたぶり返してしまうのは良くない兆しです。処置後も肺が十分に膨らめず呼吸が芳しくない状況は「肺癒着」があるかもしれません。このようなことは残念ながらあまり良い状態とは言えません。

 

<退院後の生活>

 チューブ設置から7日くらいすると、1日の排液量がわずか10mlかそこいらになってきます。採取した液体内の細胞数もまばらになってきます。その頃には猫も回復し、自力で食事を食べ、ICUから一般の猫舎へ移動もできます。部屋の中に置いたトイレを利用することも可能になり、いよいよチューブを外し退院できる目処がついてきます。膿が形成されたことによる肺損傷は残っているかもしれませんが(まるきり元通りということは期待しないでください)、胸腔内に液体は存在していないはずです。
 めでたく猫が退院した後は次の再診日までの経過観察の予定を立てます。感染が解消された(血液検査の結果が正常であるとか、X線写真で体液が再蓄積されている証拠がないことをもって、感染が無いと判断します)後、少なくとも1ヵ月間は抗菌療法を続けてください。猫の運動レベルは24ヶ月かけて徐々に正常に戻ります。
ほとんどの場合、再発は起こりません。よく頑張りました!


 

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ジャンル : ペット

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