- 2019-11-10 :
- 消化器系の病気
体重低下がある慢性の下痢に
<慢性の下痢>
「うんちがゆるいときがある。良いときもあるし。時々悪く、繰り返してる。このごろ悪い時の方が多いかも。気がついたら1か月とか2か月、もしかするともう少し前からかもしれない。いいときもあったから、そんな悪いことだと思わなくて。なんとなく。そんなまま来ちゃった。」
こんな風なのが「慢性の下痢」です。下痢を主にお話ししていますが「痩せてくる」(体重減少)のも特徴です。診察室で体重を量ると、「えっ!そんなに痩せてた?細くなったかな、とは思っていたんだけど。」と驚かれることもあります。食欲は減退しているわんこ、変わらないわんこ、ともにいます。時々嘔吐することもあります。はじめはあんまり気にならないのだけど、だんだん不安になってくる感じです。これまでに診察を受けているわんこもいます。ウンチの検査で「寄生虫はないね」、血液検査で「肝臓や腎臓、膵臓に問題は無いね」、レントゲンやエコーの検査で「腸閉塞は無いようだね」、ってなったときに私たちが頭に思い浮かべるのは慢性腸症です。まじめに、じっくり取り組んでもらわないといけない病気です。
<慢性腸症はどうして発生するのか>
原因ははっきりと解明されていません。
① 免疫が乱れているのかもしれない、
② 腸内細菌の異常があるのかもしれない、
③ 食餌中の蛋白質にアレルギーを起こしているのかもしれない、
など。いろいろな要素が複雑に絡み合っているとする説がいわれています。
これまで検査をしていたとしても、いわゆる普通の検査です。健康診断のときの検査項目といったらわかりやすいかもしれません。でも慢性の腸疾患が疑われてからはそこに特化した特殊検査も行ないます。血液で内分泌の検査やビタミンの検査、膵臓の特別な検査を行います。糞便の検査も、これまでのような寄生虫やウィルスなどを遺伝子レベルで調べる検査です。どれもお値段が張る検査です。けれど、ここをクリアしておかないと、「内視鏡して病理組織を取ってこなくちゃならない」(もっと高額になってしまう)ので、「その前にできることはやっておきましょう」って気持ちでやっています。
<食餌療法>
さて。検査の結果が出てくるまで、何もしないわけではありません。最初は療法食をお願いしています。「食事反応性下痢」を最初に疑っての治療です。これがなかなかうまくいかないことが多いです。「おじいちゃんがおやつをやっちゃう」とか「孫が食べてる袋菓子を犬にもやっちゃった」ってな具合です。激しい排便状況でもなくお片付けがそんなに面倒じゃ無いと、「欲しがったからつい」、なんてご本人さんも別のものをあげていたりします。まじめに取り組んで欲しいのですけどね。でも、そういう事実を隠してもらってももっと判断に困りますので、お伝えくださるのはありがたいです。
治療に用いる食事は特別療法食です。「可溶性線維と不溶性線維のバランスが良い食事」「消化の良い食事」「低脂肪の食事」です。皮膚や耳、目などにアレルギー症状が見えるわんこには「低アレルギー食」もおすすめです。近頃の慢性下痢をおこすわんこたちは炎症性腸症のことが多いので、おなかにもやさしいけれどアレルギーを起こしそうにない食事、つまり「低脂肪で低アレルゲンの食事」を選んでいます。ここまでの血液検査で「低アルブミン血症」があって、尿検査では異常がでなかったわんこたちにもこの食事です。このわんこたちにはこの時点で「タンパク漏出性腸症」(PLE)という病名が付けられています。(でも感染症や炎症や腫瘍に続発したものかもしれないので、これは最終的な診断名にはなりません。可能であれば続きの検査を受けていただきたいです。)
この段階で治っっちゃうと、以前お話ししました「食事反応性下痢ですね~」ってなります。
<エコー検査>
さて。食事だけでうまくいかないわんこたちにはエコー検査をもう一度行います。外来で次の患者さんが居てバタバタした状況だと気分的にいやなので、しっかりお時間をいただいて、じっくりみていきます。(ここで怪しいところが見つかると、「内視鏡プラス組織検査」のすすめがかなり高くなってきます。)
<試験的治療>
怪しさが無ければ「抗菌薬」を処方します。いっしょに腸内細菌のバランスを整える「プレバイオティクス」のサプリメントと「消化酵素薬」もお願いすることが多いです。
ここで治れば「抗生物質反応性下痢でしたね~」、ってなります。
長くなりましたので、続きは次週に。