FC2ブログ

猫免疫不全ウィルス感染症の検査

 今日は世界エイズデー。ネコのエイズとして知られるネコ免疫不全ウィルス(FIV)感染症について、特に検査の解釈のことを中心にお話しします。

 

<ネコエイズは怖い病気?>

ネコ免疫不全ウイルス(FIV)に感染すると、ウィルスが免疫系を攻撃し、他の多くの感染に対して防御が甘くなります。FIVに感染した猫は何年も健康そうに見えるかもしれませんが、最終的にはこの免疫不全に苦しみます。ですが、ネコ白血病ウイルスやコロナウィルスなどに感染していない限り、通常の寿命を生きていくことが示唆されています。

 

<感染経路>

感染リスクの高い猫は外出をするオス猫です。FIVの主な感染経路は咬傷によるものです。ほかの猫に好意的で攻撃性の少ない接触、つまりグルーミングや食器の共有などは、ウイルスを広めるルートではないようです。同居猫がけんかをしない安定した家庭にいる猫は、FIV感染のリスクはほとんどありません。まれに、胎児が産道を通過するとき、または新生児子猫が感染した母乳を飲むときに、感染した母猫から子猫に感染が伝染します。性的接触は、FIVを広める経路ではありません。

 0813120202.jpg

<症状は?>

感染の初期段階で、ウイルスは近くのリンパ節に運ばれ白血球の中で増殖します。その後ウイルスは全身の他のリンパ節に広がり、一時的なリンパ節の腫脹を引き起こします。このときにたいていは発熱しますが、この段階では気付かれずに過ぎてしまう可能性があります。もしくは咬まれたことによる細菌感染からの発熱だと思われて終わることもあるでしょう。

感染した猫はほぼ健康な状態で、時折不都合な事象が繰り返されたりして、徐々に悪化していきます。悪い徴候は感染後何年も現れないのが普通です。病状が悪くなって来院され検査を受けてはじめて、陽性結果を知り驚かれる患者さんも多いです。

免疫不全兆候は全身のどこにでも現れ、そのため症状は様々です。毛並みが悪い、食欲不振、発熱を繰り返す、歯肉炎や口内炎がある、目がおかしい(ぶどう膜炎)、慢性の皮膚炎がある、上部気道感染が慢性や再発性におこる、持続性の下痢がある、膀胱炎を繰り返すなどです。そのほかあまり知られていませんが、発作や行動上の変化などの神経学的な症状も出る可能性があるし、血液学的な問題(貧血など)を起こすこともあります。自然妊娠ののち流産を起こすメス猫もいます。腫瘍になりやすい傾向もあります。 

<ウィルス検査>
FIVは、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)検査などの手法を使用して検出できます。病院で行なわれるスクリーニング検査は抗体を用いたELISA法です。血液中にFIVウイルスに対する抗体が存在するかどうかを濾紙に発色させて陽性かどうかを見ていきます。

PCR検査は、ウイルス遺伝子を検出する検査です。PCR検査は猫が作り出したFIV抗体の検出ではなく、ウイルスのDNAを検出することによって、血中にFIVウイルスが存在することを確認する検査です。ELISA法は感染症の理想的なスクリーニング検査ですが、特定の状況がある場合(移行抗体があるかもしれない子猫の感染の確認や、FIVワクチンを接種したことがある猫の感染の判定など)には、PCRの検査が理論的に優れています。PCR検査はELISA法で判定が困難な場合に外注で依頼している検査です。日常的には行なっていません。

検査の必要性ですが、ご自身の猫の健康を維持すること、ほかの猫への感染拡大を防ぐことが2大目的です。

 0812113820.jpg

<こんな猫におすすめ>

  一度も検査を受けたことが無い猫。

  病気になっている猫。(過去に実施され感染が無いことを確認してあっても、その後の感染を除外することはできません。)

  新しい猫を養子として迎え入れるとき。(先住猫が居る場合一緒にできるかどうかをみるために。)

  感染しているかもしれない猫との接触が考えられるとき。(自由外出で目が届かない場合に。毎年の検査が理想です。)

  FIVワクチンの接種を検討しているとき。(どちら由来の陽性なのかをはっきりさせます。)

 

<陽性結果がでたとき>

猫は感染を完全になくすことはほとんどないため、検査結果が陽性に出る(抗体が存在する)ことは基本的にFIVに感染していることを示しています。

ただし、偽陽性の結果が生じる可能性はあります。猫の生い立ちや臨床症状などから鑑みて検査結果と合致しないような場合は、PCR検査を使用して結果を再確認することをお推めしています。

6か月未満の子猫では解釈が異なります。感染している母猫は、授乳中の子猫にFIV抗体を移します。そのため、感染した母親から生まれた子猫は、出生後数ヶ月間、陽性の検査結果を示すことがあります。でもこの子猫が実際に感染していることにはならないかもしれません。それで感染状態を明らかにするために、FIV陽性という結果が出た6か月未満の子猫は、少なくとも6か月になるまで60日間隔で再検査する必要があります。もしくは母猫からの移行抗体の影響を全く受けなくなる6か月齢まで待ってから検査をするということもできます。子猫の時に陽性だったのに数年経ってから検査したら陰性になったというのは、感染が免疫力によって陰転したのではなく、子猫の時に親からもらった移行抗体をキャッチした可能性があります。

検査結果を正確に解釈するために、猫のFIVワクチン接種履歴を知ることは不可欠です。FIVワクチンは、ワクチン接種された猫にFIVウイルスに対する抗体を産生させますが、FIVウイルスに対する抗体は、FIVの自然感染に反応して猫が産生した抗体と区別することが困難な場合があります。この場合は一般的なELISA法は有用ではありません。今は「差別的ELISA」と呼んでいる新しいテストができました。この検査ではFIV、ワクチン接種後に産生される抗体とFIV感染後に産生される抗体を区別できるとされています。それでも正確に知りたい場合はPCR検査を受けることをおすすめします。

大切なことを言っておきます。陽性結果は「死の宣告」を示すものではないことをご理解ください。最初にお話ししたように、FIVの感染があっても複数のウィルス感染が無ければ寿命を全うできることもできるくらいです。前向きに捉えてください。

 0813024253.jpg

<陰性結果がでたとき>

陰性の検査結果は、猫の体がFIVに対する抗体を産生していないことを示しています。ほとんどの場合、これは猫が感染していないことを示唆しています。

ただし、通常検出可能なレベルの抗体が血流に現れるには、感染後812週間かかります。そのため、この期間に検査を実施すると、偽陰性の結果が生じる可能性があります。したがって、FIVに感染している猫または未知の猫の咬傷などによる未知のFIV状態の猫と接触した猫は、検査を受けたときに陰性であっても、最新の暴露(感染したかもしれない事件が起こった日)から最低60日後に再検査する必要があります。これにより、猫の体がウイルスに対する抗体を開発する時間ができます。

ごくまれに、FIV感染の後期にある猫は、免疫系が非常に損なわれているため検出可能なレベルの抗体を産生しなくなり、FIV抗体検査で陰性となる場合があります。

 

<治療と管理>
残念ながら、現在、FIVに対する決定的な治療法はありません。何らかの症状を出したときに、ひとつひとつ、その病態に対する処置を行ないます。例えば口内炎なら口内炎の治療です。猫の寿命を予測することは不可能ですが、FIVに感染した猫でも適切に管理すれば、表面上は通常の生活を送ることができます。もしFIVに感染した猫が感染の結果として1つまたは複数の病気を発症した場合や、持続性の発熱と体重減少が存在する場合、一般的な予後はあまり良好ではありません。

FIVに感染した猫には去勢手術(避妊手術)を行ない、屋内だけで飼育し、近隣の他の猫がFIV感染しないよう、FIVの拡大を防いでください。栄養的にバランスの取れた食事を与え、生の肉や卵、低温殺菌されていない乳製品などの調理食品は食品媒介細菌や寄生虫感染症のリスクがあるため避けてください。そしてストレスのない生活を提供するようお願いします。

FIVに感染した猫は、少なくとも半年に1回くらいの割合で診察にいらしてください。歯肉、目、リンパ節に特に注意を払いながら、身体検査を行います。身体検査のほか血球数、血清生化学検査、や尿検査を実施します。これは健康な猫が受ける検診項目と同じです。多くの場合、体重減少は悪化の最初の兆候になります。ご家庭では食欲と体重減少に注意を払ってください。FIVに感染した猫の健康と行動の観察は、感染していない猫よりも重要です。猫の健康上の変化を気にかけ、おかしいと感じるところがあれば、検診予定日が来ていなくても診察にいらしてください。

一部の抗ウイルス療法は、口内炎(口腔の炎症)を伴うFIV感染猫に有用で、環境に放出されるウイルスの量を減らすことが示されています。体内のウィルス量を測定することはできませんが、少なくとも口内炎の症状緩和になるように思います。FIVの効果的な治療の開発は、まだ研究の途上にあります。

 4276868762_b7b3e485c1.jpg

<予防、新しい猫の同居に際して>
FIVのワクチンが開発されていますが、ウイルスのすべての株に対する有効性はまだ決定されていません。ですから、FIVの感染を防御するのに大切なことは、感染している猫と接触しないようにすることです。うちのかわいい猫ちゃんを保護する唯一の確実な方法は、ウイルスへの暴露を防ぐことです。猫に噛まれることは、感染が伝染する主な手段であるため、猫を屋内に入れ、噛む可能性のある感染した猫から遠ざけてください。屋内飼育猫が感染する可能性を減らすには、感染していない猫だけを家に持ち込み、感染していない猫だけを飼うことが理想的です。場合によっては、家庭内で感染してしまった猫と感染していない猫を分けて飼育することになるかもしれません。子猫の新規導入の時は、検査しても正しい結果が反映されない期間のことを考慮して、しばらくは先住猫と別に飼育することをおすすめします。

残念ながら、FIVに感染した猫の多くは、他の猫と何年も一緒に生活してきてから診断されます。そのような場合、家庭内の他のすべての猫を検査する必要があります。FIVは主に咬傷によって伝染するため、安定した社会構造を持つ家庭(つまり屋内猫同士は仲良しさんであるとき)は、感染した猫から感染していない猫への伝染は、外に出てけんかをしてくる猫に比べ少ないです。

FIVに感染した猫が家庭内にいる場合は、新規の猫に感染の機会を与える可能性があります。また、新しい猫の導入がストレスとなり、日和見感染的に新たな病気を発症する可能性もあります。できれば新たな猫を家に持ち込むのは避けたほうがいいでしょう。

なおFIVはほとんどの環境で数時間以上は存続しません。しかし、前にFIV陽性猫が住んでいた環境(今は猫が居ない)に、改めて猫を導入する場合はFIVや他の感染症の伝播を最小限に抑えるために、消毒を行なってから迎え入れてください。食器や水食器、寝具、猫用トイレやおもちゃは洗浄し消毒をするか、または新しいものに交換してください。家庭用漂白剤の希釈溶液は、優れた消毒剤です。新しい猫や子猫は、家に入る前に他の感染因子に対する適切な予防接種(混合ワクチン)を受ける必要があることも念頭に置いてください。

FIV感染から保護するためのワクチンはありますが、猫のコアワクチンとは見なされていません。推奨される接種方法は、2回~3回のコアワクチン(3種混合ワクチン)が済んでから、初年に1か月間隔で3回、その後も1年に1回の追加接種をしていく方法です。勝手な思い込みで数年に1度接種をしてみたところで予防にはなり得ません。またワクチン接種された猫が確実にワクチンで保護されるわけではないため、ワクチン接種された猫であっても、曝露を防ぐ(感染猫との接触を避ける)ことが重要です。

 

<ヒトの健康への懸念>
FIVHIV(ヒト免疫不全ウイルス)に似ていて、人間のAIDS(後天性免疫不全症候群)に似た病気を引き起こしますが、ネコだけに感染するウイルスです。FIVがヒトに感染したり、病気を引き起こしたりするという証拠はありません。

 

 猫のウィルスチェックは、子猫を飼い始めたときにすぐ実施したいと思うかもしれません。けれど偽陰性や偽陽性の出やすい時期があることを考え、早期に実施した場合は後日再検査の必要性が出ることもご承知置きください。

猫の世界からFIVを無くすことができるのは、陽性になった猫を外に出さない、感染の輪を広げないことにあります。陽性判定の出た猫では、「だって外に出たがるんだもの~外じゃないとトイレができないし~」の気持ちもわかりますが、去勢手術により出たい気持ちにブレーキがかかります。ぜひ出さない方向に重きを置いた対処法にご協力ください。

師走に入りました。ご多忙とは思いますが、ご自身のおからだも大切になさってください。

スポンサーサイト



テーマ : 動物病院
ジャンル : ペット

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

ハート動物病院

Author:ハート動物病院
ハート動物病院です。
〒445-0062
愛知県西尾市丁田町杢左51-3
TEL/0563-57-4111
オフィシャルサイト:http://www.heart-ah.com/

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
ブログランキング
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード