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犬呼吸器コロナウイルス

 先週の続きです。一般に犬のコロナウイルス感染症といえば腸炎です。けれど呼吸器を冒すタイプのコロナウイルスもあります。

犬呼吸器コロナウイルスについて


犬のコロナウイルス(CCoV)には第2のタイプが存在することがわかっています。2003年にイギ​​リスで急性呼吸器感染症の犬で最初に発見されました。グループIIとして知られるこの株は、腸ではなく犬の気道に影響を与えます。この犬呼吸器コロナウイルス(Canine respiratory coronavirusCRCoV)は、腸に問題を起こすコロナとは別の仲間、ベータコロナウイルスに分類されます。

このウイルスは主にイギリス、アイルランド、ギリシャ、イタリアといった欧州で見られていますが、望月先生や石田先生たちによる「Etiologic Study of Upper Respiratory Infections of Household Dogs:飼い犬の上部呼吸器感染症の病因学的研究」(2008年)の発表により、このウイルスが日本にも存在することが明らかにされています。また最近の研究から、米国とカナダにも存在し、試験した犬の約50%がウイルスに対する抗体を持っていたことからCRCoVの感染が過去にあったことが伺えます。

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<感染症の症状は?>

CRCoVは急性呼吸器感染症(風邪のような感染症)を引き起こします。ほとんどの犬は、咳、くしゃみ、鼻漏(鼻汁)といった軽い症状だけで、食欲が低下することも元気がなくなることもありません。

犬呼吸器コロナウイルス感染症という病名を使うことはなく、犬感染性呼吸器疾患(CIRD)または伝染性気管気管支炎(ITB)と言っています。「ケンネルコフ」(犬小屋の咳の意味)と言う方が、なじみがあるかもしれません。CRCoV感染は単独でも感染性呼吸器疾患(CIRD)を引き起こす可能性がありますが、通常はパラインフルエンザウイルス、アデノウイルス、ジステンパーウイルス、ヘルペスウイルス、インフルエンザウイルス、気管支敗血症菌(Bordetella.bronchiseptica、マイコプラズマ類、連鎖球菌(zooepidemicusなどの他の病原微生物との同時感染で、病気を発症させています。単独感染よりも混合感染した場合の方が病状は強く出ることが多く、一部の犬は肺炎に進行することがあります。一部症状がない犬もあります。(無症状感染)

 

<感染は?>

犬のブリーディング施設、動物保護施設、ドッグショー会場など、多数の犬が一緒に(密室で)収容されている場合に感染リスクは高くなります。 腸コロナウイルスの感染と同じように、犬呼吸器コロナウイルスの感染もすべての年齢で感染が起こりますが、幼少の犬(ことに1歳未満の犬)で問題になることが多いです。

非常に伝染性が高く、感染した犬との直接接触、咳やくしゃみによって発生するエアロゾルによって広がります。症状の出ていない犬でも、他の犬に感染させる可能性のあるウイルスを排出します。

潜伏期間は不明ですが、数日かかる場合があります。ウイルスが排出される日数も不明です。通常、症状は12週間で消失します。

感染した犬を扱っている人の手を介して、食べ物や水食器、首輪や鎖、衣服を汚染する可能性があります。

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<診断は?>

犬感染性呼吸器疾患(CIRD)を引き起こす病原体はどれも、「咳、くしゃみ、鼻汁」の同じ症状を引き起こすので、症状だけで犬呼吸器コロナウイルスの感染を診断することはできません。確定診断を得るには、症状のある犬の鼻腔または喉の奥から検査材料をぬぐって採取し、外部の検査室に提出する必要があります。IDEXX(検査機関の名称です)は、「呼吸器疾患パネル」として、犬呼吸器コロナウイルス(CRCoV)、犬パラインフルエンザウイルス3型(CPIV-3)、犬アデノウイルス2型(CAV-2)、犬ジステンパーウイルス(CDV)、犬ヘルペスウイルス(CHV)、犬インフルエンザウイルス(H3N8,H1N1,H3N2)、犬ニューモウイルス(CnPnV)、気管支敗血症菌(Bordetella.b)、マイコプラズマ(Mycoplasma Cynos)、連鎖球菌(Streptococcus equi susp.zooepidemicus12項目の呼吸器病原体の検査を実施しています。検査方法は遺伝学的検査(リアルタイムPCR法)です。検査結果が出るまでには45(営業)日かかります。

*犬インフルエンザウイルス、犬ニューモウイルスは犬呼吸器コロナウイルスと同じく新興感染症に分類される呼吸器疾患の病原体です。日本での発生報告はありません。

 

<治療は?>

治療は、症状に基づいた支持療法(二次的な細菌感染の兆候があれば抗生物質、また猫のインターフェロンを犬に応用するなど)で、ウイルスに特異的な治療法はありません。一般的なケンネルコフの治療法です。

非常に伝染性が強いため、病気の蔓延を最小限に抑える目的で隔離をします。隔離時間は不明ですが、推定は3週間です。他の病原体との混合感染が疑われるときは、(数か月に渡って排出される可能性があるため)隔離期間をさらに延長します。

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<予防はできる?>

現時点では、犬呼吸器コロナウイルスに対するワクチンはありません。CRCoVは犬の腸内コロナウイルスとは異なるため、犬腸コロナウイルスのワクチンは接種しても効果的ではありません。パラインフルエンザウイルス、アデノウイルス2型、ジステンパーウイルス等のワクチンが利用可能な他の呼吸器病原体に対してワクチン接種をします。(いわゆる犬の混合ワクチンです。)これにより、これらの病原体との混合感染のリスクが軽減されます。

CRCoVに一度感染すると再感染のリスクを減らすか、感染が起こった場合の症状を軽減する抗体が作られることが研究により示されています。感染による免疫の持続時間は不明です

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<感染の管理は?>

 CRCoV 感染の蔓延を防ぐための重要な管理は、犬を隔離することのほか、感染した犬を扱った人が看護のあと衣服を着替え、手を洗う必要があります(バイオセキュリティ対策)。このウイルスが環境内で存続する期間は不明ですが、数時間程度という説もあります。アルコール等の消毒剤によって不活化されます。水分はウイルスの生存を助けるので、洗浄後は完全に乾かしてください。

混合感染でなければ呼吸器コロナウイルスの感染も重症化しそうにない印象を受けます。が、一部恐ろしく手強いタイプのウイルスも存在しています。日本の日常診療では見かけることがないものです。次回に回します。


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ジャンル : ペット

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