- 2012-10-07 :
- 慢性腎臓病
慢性腎臓病。その3
慢性腎臓病のお話、3回目です。今回は治療についてお話します。
治療の目的。
ここは必ず読んでください。
慢性腎臓病の治療はただ、やみくもに、命を長らえるために治療を施すのではありません。私たちは自分や家族が腎臓病であることを知ったら、1日でも長く生きたい、生きてほしい、と願うはずです。ところが動物となると、どうやら気持ちが変わってしまうようです。
「慢性疾患は治ることはありません。徐々に進行していく病気です。」とお話しすると、「治療をしても死んでしまう。」「無駄なことだ。」「無理に治療をして長生きさせても意味がない。」「注射が痛い。」「かわいそうだ。」「病院を嫌っている。」などネガティブにとらえる患者さんがいらっしゃいます。しかし慢性腎臓病の治療は「良い状態で普通にくらし、寿命をのばす」ことにあります。治療をすれば動物の身体は「つらい、だるい、動く気になれない、きもちがわるい、吐きそうだ」といった状態が無くなり、QOLの高い生活を送らせてやることができるものです。決して「痛い」「つらい」状態を長く伸ばすための治療ではありません。
がん治療でもそうですが、①動物に痛みをもたらさないこと(苦しみも同じ)、②動物が嘔吐するのを避ける治療をおこなうこと、③動物がきちんと食事できるようにサポートしてやること、の3点は治療を進めるにあたって、当院からの3つのお約束事項です。
慢性腎不全で最も大事なのは早期発見と早期治療です。ことにステージⅡやⅢで発見されれば、腎臓を保護しながら、腎臓が悪くなることに拍車をかけないようにしていくのですから、良い状態で長生きさせることが可能です。
家庭でできる支持療法
まずは進行を食い止めるための初期の家庭療法についてお話します。ステージⅠでしたらこの方法です。
1)食事
食事は特別療法食(腎臓のための処方食)がおすすめです。腎臓病用の処方食は腎臓の負担を軽減するため、たんぱく質量を減らし、窒素代謝物がなるべく出ないように作られています。窒素代謝物がたまると、「食欲がわかない」「きもちがわるい」「嘔吐する」などの不快な症状がでてきます。それで良質なタンパク質(必須アミノ酸がうまく取れる)を必要な分だけ入れてある食事です。また、高リン血症を防ぐためリン酸を制限しています。骨が脆くなったり、他の組織にカルシウムが沈着するのを防ぎます。尿中に排泄されやすいカリウムやビタミンBを増量してあります。高血圧予防のためナトリウムが少なくなっています。体重維持のため、他のフードに比べカロリーは高めにできています。これは食欲が出なくて少ししか食べられなくても必要なカロリーが補えるようになっています。この処方食は延命効果があることも長期の研究の結果、確認されています。(エビデンスがあります)
注意していただきたいことがあります。ステージが進む前にこの食事を導入すると、たんぱく質が少ないために筋肉が減ってしまう場合があります。導入時期については必ず動物病院の獣医師としっかり相談して決めて下さい。勝手な思い込みでネット通販で購入なさらないよう、お願いします。また、いろいろなメーカーが腎臓病用の処方食を作っているので、もし1種類のものを試して食べなかったとしても別のものを選びなおすことができます。「病院の食事は高いだけで食べないから一般食にします」といわず、ご相談ください。
2)水分摂取
必要充分な水分を摂取することは特に「代償期」にある動物には大切なことです。不十分な水の摂取では脱水を招きますし、脱水は腎臓を巡る血液量を減らしますから、病態悪化につながります。慢性腎臓病では尿を濃くする力が失われてくるため、薄い尿がでます。水分の喪失が大きいのです。多尿は避けることができない代わり、そこで失われる水分をしっかり補充していく、というのが水分摂取の大事な役割です。欲しいときにいつでもたっぷり水が飲める、そういう状況にしておいてください。
摂取水分量を増やす方法にはドライフードよりもウエットフードのほうが良いようですが、個体による好みの問題もありますので、いけるところまでは水で対応していただければ良いと思います。
なかなか水を飲まない、という子に水分補給だから、と牛乳やスープを与える方もいらっしゃいますが、リン酸の多い牛乳、塩分を含むスープはお薦めではありません。
3)ストレスを与えない
安定している生活の中に変化が起こると、水の飲み方も食事の食べる量も変化が起こってきます。ストレスホルモンである副腎皮質ホルモンが常に出ているのも腎臓に好ましいことではありません。避けることができるストレスはできるだけ避け、穏やかな生活を送ることができるようにしてやってください。
4)予防処置
腎臓にダメージを起こすことが分かっているような薬は絶対に使わないこと。当たり前のことですけれどね。もし、あなたの愛犬や愛猫が、かかりつけの病院のお休みのときに他院を受診することが起こったら、腎臓が悪くて治療をしている旨、伝えてください。
次回は治療のお話の続き。動物病院で行われる治療や処方されるお薬についてお話します。
コメントの投稿
No title
慢性腎不全と診断されて半年になります。
先生のブログの内容を拝見させて頂き
今している治療を前向きにとらえる事ができるようになりました。
感謝致します。
Re: No title
コメントありがとうございます。
一日も長く、こころ穏やかな日が続きますように。
ときどき、病気のことを忘れられるといいですね。
ステージは?
それでいろいろネットを検索していたところこちらの情報を見つけました。
尿素窒素96.8 クレアチン1.8
この数値はステージいくつになるのでしょうか?
Re: ステージは?
IRISのCKD(慢性腎臓病)のステージ分類は、正確に行うとなると
「①安定した動物で
②少なくとも2回の別の時点で測定した
③絶食時の血中CRE(クレアチニン)濃度に基づいて行う」
ということになっています。
サブステージ分類がこのほかにあります。
単純に今回の血中クレアチニン値だけで判断すると
ステージⅠ:CRE<1.4
ステージⅡ:1.4<CRE<2.0
ステージⅢ:2.1<CRE<5.0
ステージⅣ:5.1<CRE
の簡易表からステージⅡ、軽度の腎性高窒素血症ということになります。
ですが、血中尿素窒素(BUN)値96.8と比べ、CRE値が低いようです。
BUNをCREで割って出した数値(BUN/CRE比)が53.78ですが、
20を超えている場合、ストレートに腎臓が悪いという判断が難しく、
循環系(心臓病など)が原因となってBUN高値になっている疑いもでてきます。
13歳を超えるマルチーズさんだと、僧帽弁閉鎖不全症などの病気に
なっていても不思議ではないと思います。
腎臓に限らず心臓についても診ていただくといいかもしれません。
なお、IRISによる病期分類は「分類後の活用」を目的にしています。
結果をみて「良かった」とか「残念だった」ではありません。
分類に基づいた最もふさわしい治療法を国際的な専門医(IRISメンバー)が示してくれています。
この世界標準と同じものを(専門医のいる病院と同じように)
受けられることにすばらしさがあります。
体調が安定した日が長くつづきますように。
ハート動物病院
杉田恵子