慢性下痢症・その4・膵外分泌不全症

 慢性下痢症のお話。4回目。

本日は「膵外分泌不全症」(Exocrine pancreatic insufficiency:EPI)についてお話します。

 

「膵外分泌不全症」は犬にも猫にも消化不良性の下痢をもたらします。これは典型的な小腸性の慢性下痢をおこす病気です。動物は慢性的な栄養不良で痩せていて、骨と皮ばかり。体重減少でとてもみすぼらしい姿になってしまいます。便は脂肪便、やわらかで、大量に出ます。ひどい悪臭が漂います。便の回数は多くも無いですし、しぶったりもしません。食欲はあります。ときに嘔吐がある場合もあります。水を大量に欲しがる子もいます。胃腸の細菌叢バランスは崩れていますし、ビタミン欠乏を起こしてしまうのもこの病気の特徴です。

1歳~5歳くらいの犬では膵腺房萎縮(PAA)から発症します。膵臓の外分泌腺が萎縮していて膵臓から分泌されるはずの消化酵素は正常の10%にもなりません。原因は不明です。

5歳以上の犬の場合は、ことにミニチュアシュナウザーに多いのですが、たいていは糖尿病を同時に発症しています。慢性膵炎によるものです。

老齢の猫でも同じように慢性膵炎、糖尿病併発の膵外分泌不全があります。

 
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この病気は単に消化酵素の欠乏による消化不良なのではありません。腸粘膜の酵素異常です。糖、アミノ酸、脂肪酸の運搬異常があります。空腸の腸柔毛が短く小さくなり、腸内細菌叢の異常が起こります。

 

犬トリプシン様免疫活性(c-TLI)の検査が確定診断になりますが、外部に委託する検査です。この病気ではビタミンB12(コバラミン)や葉酸も低くなるので、疑いと同時にこちらの値も調べるよう依頼をかけます。猫のトリプシン様免疫活性(f-TLI)は海外への検査発注です。膵炎の検査として、犬膵特異的リパーゼ(Spec-cPL)、猫膵特異的リパーゼ(Spec-fPL)を同時に測定依頼することもあります。

 

治療は膵酵素を与えることです。粉状になったものを与えます。腸内細菌叢に異常があることが多いので抗生物質を併用します。ビタミンB12や、脂溶性ビタミンも投与します。消化性の高い処方食による食事療法も行われるべきです。食事は少量ずつ何度かに分けて与える方法が良いと思います。

 
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この病気は特徴的な所見がいろいろあり、比較的診断しやすい部類に入ると思います。そして診断がついて、薬を処方するのもさほど特異的なことでも無いので、獣医師側はストレスが少ないかもしれません。

それに比べ、日々、この子達と接すること、治療したり看護したりということはその数倍のストレスがあると思います。そう。この病気になった犬や猫の世話をするのは、途方もなく大変なことです。うんちはたくさん出るし、臭いし、元気で食べたがるのにむやみに与えれば下痢の量が増えるだけで、痩せているのに一向に太りません。哀れな姿の犬に、心無い人は「食事が足りないのでは?」とお世話を焼いてくるかもしれません。

糖尿病を併発していれば、この下痢の管理の他に血糖値の管理も怠るわけにはいかないでしょう。旅行にも出かけられないし、社会的なシステムが整っていませんので、介護の必要な老人を抱えるよりもはるかに困難があると思います。

 

大変なときはあなたひとりで抱え込まないで、家族の協力も得ることにしましょう。どうしても外せない用事があるときや疲れてしまったときはショートステイや短期入院の形で動物病院を利用するのが、長く付き合っていく秘訣です。この病気はそうあるものではありませんが、全国のどこかに、あなたと共有した思いの愛犬家の方がいらっしゃいます。彼らも日々努力していらっしゃいます。あなた一人ではありません。あなたが元気でいてくれないと、愛犬は困ってしまいます。少し休んだら、また、いつものあなたに戻れます。

どうか元気で、愛犬と一緒に、病気と闘って下さい。わたしたちもお手伝いを頑張りたいと思います。

 

 

今日のお話はこれまで。

次回は腸管関連リンパ組織(Gut-associated lymphatic tissue:GALT)の考え方についてお話する予定です。

 

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ジャンル : ペット

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No title

はじめまして。
膵外分泌不全の猫を飼っています。
何年も前から様子がおかしく診察も数ヵ所で受けましたが原因がわからず、1年前にようやく診断がつきました。
でも、この病気はあまりないようで、検索しても情報がほとんど得られず、治療も思うようには進まず、ほとんど鳴かない子だったのに、1日中大声で鳴いて必死にご飯をねだり、食べても食べても下痢で痩せて、食糞するほどお腹を空かせている猫を見て、何もしてあげられない自分に腹が立ち、かなり辛く追い込まれていました。
そんな時、こちらにたどり着き、飼い主の辛さを分かって下さっている文章を読み、泣きました。
今では、少し体重も増えましたが、まだ完全なコントロールはできておらず、最近はステロイドの副作用で肝臓の数値が上がってきてしまいました。
でも、どこかで同じように頑張っておられる方もいるのだと思ってこれからも頑張ります。
ありがとうございました。

Re: No title


kikiさま
いろいろ大変かと思います。
状態が安定して健やかな日をすごせますよう
陰ながらお祈り申し上げます。

ハート動物病院

猫と膵外分泌炎にきく膵酵素

はじめまして。我が家の15歳の猫ですが膵炎と診断されて半年たちます。猫膵特異的リパーゼも定期的に測定しています.、最近は下痢も嘔吐もなく、むしろ便についての異常を感じております。
体重が落ちてきたので、カロリーエースとa/d を与え始めたころから便が黄色く、においも強くなり、時折表面に鮮血が糸のように混じることもあります。食べている量にたいして、出る便の回数も量も増えているような感じです。
こちらを拝見して、これは膵外分泌不全症なのでは?と思うようになりました。かかりつけ医からは特にその言葉は聞いておりません。このような症状に膵酵素は効果があるでしょうか?また、その際、その酵素の名前をお知らせいただくことは可能でしょうか?かかりつけ医に相談してみたいと思います。

突然の質問で恐縮ですが、猫の膵炎に関しては記述も少なく、迷路をさまよっている状況です。
どうぞよろしくお願いいたします。

Re: 猫と膵外分泌炎にきく膵酵素

こんにちは

猫の膵炎は「三臓器炎」と関連が深く、こちらの名前で調べると
欲しい情報がまた見つかるかもしれません。

急性膵炎のあと、慢性膵炎に移行してしまうことも多くあります。
膵臓からの外分泌(消化酵素の分泌)が極端に少なくなると
食物を消化吸収させる力が鈍ってきます。
今、怒っているのは、膵外分泌不全ではなくて、
膵炎後に発生した外分泌機能低下くらいの状態なのかもしれません。
カロリーエースやa/dは、高カロリーです。栄養素が詰ってる感じ。
膵炎のあとで膵酵素が十分量分泌できない状況になっていると、
ちょっとそれを自力で消化するのに無理があるかもしれません。
太らせたいな、っていう気持ちはすごーくよく分かるのですが、
そこを我慢、遠回りになるかもしれませんが、低脂肪食と消化酵素剤で
地道に栄養をつけていくのはどうかしら。
診ていないのでなんとも言えませんが。
当院でよく処方しているのは、
食事はi/dやローファット系、お薬は「パンクレリパーゼ」の類のものです。

慢性膵炎はずっと付き合うことになるかもしれません。
弱ったところをフォローしながら、良い状態でいてくれるといいですね。
おだいじにしてください。

膵炎 リパーゼ検査

お忙しいところご丁寧なアドバイスをありがとうございました。
とても参考になりました。

最近は体重もようやくもとにもどりつつありますので、ご助言にそって食事を変えていこうと思います。

もうひとつ教えていただけますでしょうか。
膵炎の検査、「猫膵特異的リパーゼ」の検査数値です。
計測するたびに数値が上がり下がりして、下は4.0から上は測定不能まで、数値の移動幅が1週間以内に20近くもあって、一喜一憂しております。さらに、その数値と、猫の下痢・嘔吐・食欲の症状や体調がまったくリンクしていないのです。。。

猫の膵炎闘病中の方のブログなどにも、やはり似たような経験の方をみて、この検査、決してお安くないですし、信ぴょう性に不安があります。ちなみに犬の膵炎のブログにも膵リパーセの数値の移り変わりをこまめに載せている方がいらっしゃいましたが、こちらも2週間単位ですがかなりの乱高下でした。。。

この膵特異的リパーゼの数値の変動はよくあることなのでしょうか?
この検査は膵炎の確定のための検査(数値が高い=膵炎である可能性が高い)
であるのか、すでに膵炎と確定した対象の炎症の度合いを数値化したものなのか?・・・いまひとつよくわからないのです。

お忙しいところまたまた恐縮なのですが、お時間おありの時にでもお応えを頂戴できれば幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。

Re: 膵炎 リパーゼ検査

こんにちは。

猫膵特異的リパーゼは膵酵素の漏出を関知するのに感度、特異度ともに最も高い検査ではありますが、急性期の重症膵炎で、感度100%特異度100%であるのに対し、軽度の膵炎や慢性膵炎のときに使うには、ほかの炎症(腸炎とか)の影響も出たりして完璧ではありません。慢性膵炎から猫は糖尿病を発症することがありますが、糖尿病を発見したときに併発疾患はないだろうかと猫膵特異的リパーゼも調べますが、膵炎が活動期であれば検出できますが、非活動期であると見つけ出せないこともあるくらいです。

犬に用いる膵リパーゼの検査は全く別の検査ですが、たしかに上下すると感じます。特に炎症が激しく摂食ができなかったわんこが、点滴治療後に著しく減少した後、食事を開始すると再び上昇するようなイメージを持っています。しかしこれも一時的な印象があります。

慢性化した猫の膵炎は治療に決定的なものがなくて、私たちも治療効果には満足いかないことがあります。でも、検査データに振り回されていても精神状態を良くすることはできないので、食事療法などを中心にできることを忠実に守り実行し、臨床徴候さえ安定しているのであれば、それを安心材料にした方が良いのではないかな、と思っています。

猫は本当に不思議な動物です。ストレスがストレートに膀胱に、肝臓に、現れてきます。ご心配な毎日をお過ごしでしょうが、どうか猫さんにご家族のストレスを見破られませんように。
この先、どんどん快方へ向かいますことをお祈りいたします。

ありがとうございました!

猫膵リパーゼに関してご丁寧なご説明をお忙しい中にいただきまして本当にありがとうございました。
完治しない病ならアドバイスいただいたとおりにできるだけ快適にストレスなく過ごさせてやりたいです。病院に連れていくのもストレスになるようなので、注意深く観察して最良のタイミングで連れていきたいと思います。
くりかえしになりますが、どうもありがとうございました。
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ハート動物病院

Author:ハート動物病院
ハート動物病院です。
〒445-0062
愛知県西尾市丁田町杢左51-3
TEL/0563-57-4111
オフィシャルサイト:http://www.heart-ah.com/

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