猫ヘルペスウィルス感染症

 しばらく犬関係の病気のお話が続いたので、今日は猫ちゃんの病気のお話をしましょう。

 今日、お話しする予定にしているのは猫ヘルペスウィルス感染症です。

 

 「ヘルペス:herpes」の語源は、熱病疱疹「herpes  febrilis」の皮膚病変を表すギリシャ語のherpes(這う)に由来するのだそうです。這うように皮膚や粘膜に水泡を形成していく感染症、になるわけです。なるほど、たしかに猫の鼻腔、口腔粘膜のびらん病変はそんな感じに広がっていきます。

って、そんなことから始まっても、面白いことはありませんね。

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さて。

猫ヘルペスウィルス感染症は猫ヘルペスウィルス1型(Feline herpesvirus-1FHV-1)によって引き起こされます。猫カリシウィルス(Feline calicivirus:FCV)とともに、猫ウィルス性鼻気管炎(Feline viral rhinotracheitis:FVR)の原因になっています。

FHV-1FCVが合わさってこの病気を引き起こす、のではなく、どちらかのウィルスの感染によってこの病気にかかるのです。ウィルス学的にはこの2つのウィルスは違いが大きいのですが、発症させた病状はとても似ていて、臨床の現場ではこの2つのウィルスのどちらが猫ウィルス性鼻気管炎(FVR)の原因となっているのか、鑑別することは困難なのです。ウィルス学的にPCRなどの検査を実施すれば特定することは可能です。が、臨床的に原因を突き止めたからといって大きな意義はないので、そのような検査は日常は行いません。

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猫ウィルス性鼻気管炎(FVR)はなかなか発生率の高い病気です。感染猫の鼻汁やくしゃみなどには大量のウィルスが含まれていて、これを介して別の猫に感染します。感染した後は、鼻、口腔などの粘膜や目の結膜でウィルスが増え、その後咽頭や気管といった上部気道へと感染を広めていきます。

 

典型的な症状は発熱、元気消失、食欲不振、くしゃみ、よだれ、鼻水、鼻汁、結膜の充血や浮腫です。病状が比較的重く、鼻の粘膜が腫れて鼻の穴が狭くなり、口を開けて息する(開口呼吸)ようになります。舌や口腔粘膜のただれやえぐれ(潰瘍)が見れることもあります。激しい鼻炎のため嗅覚が低下し、舌や口腔粘膜の潰瘍もあると、食欲をなくし、また食べ物が口腔内にはいっても疼痛があり、やはり食事をいやがります。ヘルペスウィルスは体内深部の体温では増殖しにくいとされているため、肺炎は起こりにくいようですが、子猫では全身感染で症状が重篤になり、残念な結果になることもあります。

 

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猫ヘルペスウィルス(FHV-1)は年齢を問わず感染します。そしてFVRに感染し、回復した猫の80%以上が三叉神経などの神経節にウィルスを潜伏させていて、生涯に渡ってウィルスを保持する(キャリアーになる)ことになります。そしてストレスなどが加わり免疫抑制状態になるとウィルスは再び活性化し、症状を発症することになります。

一度かかったら免疫ができるから次は罹らない、ということはないのです。体調を崩したらまた発症してしまう。それが猫ヘルペスウィルス感染の特徴です。

また猫ウィルス性鼻気管炎は胎盤感染をしない、といわれていますが、妊娠、出産、授乳(育児)等は母猫にとってストレス状況です。このときにウィルスが再活性すると、親譲りの免疫が少ない子猫は、親から排泄されるウィルスから感染し、発生することがあります。

交配して子猫が欲しい、と思っているのであればこの病気をしっかりコントロールしておかないと、せっかく妊娠し、五体満足な子猫を出産しても、授乳している間に子猫が感染を受けてきちんと育て上げることができなくなってしまうので注意が必要です。

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で、どのような注意なのか、というと、それはなんといってもワクチンです。定期的なワクチン接種で免疫を高めておくこととストレスの少ない生活をさせることが大切なのです。ワクチンは猫ヘルペスウィルス(FHV-1)と猫カリシウィルス(FCV)に猫汎白血球減少症ウィルス(Feline Panleukopenia Virus:FPLV)を加えた猫3種混合ワクチンと、これにさらに猫白血病ウィルス(Feline Leukemia Virus:FeLV)や猫クラミジア(Chlamydophila felis)を加えた5種混合ワクチンがあります。

 

万が一、感染してしまったときの消毒方法について記しておきます。専門的な話になりますが、このウィルスはエンベロープというウィルス外側の膜を持っているために、この膜を壊すことで案外活性を失いやすい構造になっています。各種の消毒薬、強酸、強アルカリ、熱水(8010分)でも壊れます。一般に私たちが使う70%イソプロピルアルコール、次亜塩素酸ナトリウムで充分有効です。

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猫のウィルス病は怖いものが沢山あります。追々お話していくことにします。

今日のお話はここまでです。

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猫ヘルペス

猫ヘルペスの口腔内の潰瘍(ただれやえぐれ)とは、腫れるというのとはまた違う別の症状をさしますか?
猫ヘルペスで、気道が塞がり呼吸ができないような、口腔内から咽頭周辺にかけての浮腫は起こりえますでしょうか?

Re: 猫ヘルペス

こんにちは。

皮膚や粘膜を砂でつくった表面に例えると、「潰瘍」は「砂を掘った=くぼんだ」状態です。「腫れ」は「砂を盛った=もりあがりの」状態です。
口の中、特に舌の表面や鼻の表面などに潰瘍はできることが多いです。

鼻腔や気管などは筒のようになっている組織です。
「ちくわ」を想像してください。真ん中の穴の部分が空気の通り道です。周りからの腫れのために狭くなっている(ちくわの厚みが増しているかんじ)や、鼻水などで詰まっている(チーズが挿入されているようなかんじ)があると空気の通りは悪くなります。

猫のウィルス性鼻気管炎では、炎症に併発した腫脹(前者)や分泌物過多(後者)、どちらによっても気道閉塞が起こります。それで口を開けて別のルートから呼吸を行うようになります。また、鼻粘膜も分泌物で覆われ、臭いのセンサーがうまく働かないので、用心な猫(食べ物を臭いで確かめてから食べるようなタイプの猫)では極端に食欲が減少してしまいます。

口を開けて呼吸をすると乾燥が進むので脱水に注意してください。また、匂いが取りにくく食欲が減少している場合の食事は①ドライよりはウエットな食べ物を②体温程度に温めて③根気よく1日に何度でも④いろんな種類の食品を試して与えてみてください。

なお、ヘルペスウィルス感染症以外にも気道閉塞をおこす病気はあります。

おだいじにしてくださいね。

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ハート動物病院

Author:ハート動物病院
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〒445-0062
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