猫伝染性腹膜炎

 猫コロナウィルスによる病気、猫伝染性腹膜炎(FIP)は病気のタイプとしてドライ型とウェット型の2つの型があります。これは臨床徴候からの分類です。

ドライ型は食欲がない、無関心で元気がない、発熱する、体重が減ってくるなど、特異的な臨床徴候がありません。腹腔臓器や眼、中枢神経系の漿膜表面に肉芽腫が作られると、黄疸になったり、眼が濁ったり、神経学的な機能不全の症状をみることがあります。

ウェット型は全身性の血管炎による胸水や腹水が発生するので、全身性の症状に加えて、呼吸困難やお腹周りの拡張が見られます。

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典型的な症状を抱えることがないため、診断は難しくなります。身体検査の後、血液検査や眼科検査、超音波検査、X線検査を実施します。貯留した液体があるからと言って、猫伝染性腹膜炎であるとは限りませんので、胸腔や腹腔から採取した液体を用いて、さらに詳しい検査を実施します。液体の分析は外部委託検査で、ある程度時間がかかります。ウィルス学的な検査や、病理組織学的な検査です。診断のために大変重要な検査です。

液体貯留のないドライ型では診断の手がかりとなるものがないため、1ヶ月くらい保存療法を実施し、いよいよ病気が進行してきて、やっと診断の糸口が見つかった、というようなことも現実にはよくあることです。決め手になる診断に辿り着けないまま、病気が進行してしまう、というかんじです。

 

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ウィルス検査で陽性という結果が出たとしても、これは猫コロナウィルス(FCoV)に暴露されたことを示すもので、これは必ずしも猫伝染性腹膜炎ウィルス(FIPV)にかかっていることを示すものではありません。また、陰性という結果がでたとしても罹患していないとも言い切れません。大量の抗原が抗体に結合したために、検査段階で遊離した抗体が残っていない場合もあるからです。ウィルス学的検査も特異度、感度ともに100%ではないことも知っておいてください。

診断はウィルス検査の結果も含めて、総合的に行っていきます。

 

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では、診断が付いたら、どんな治療があるのでしょうか。

実は厳密に評価された薬はほとんどありません。一般的に治療は支持療法と対症療法です。輸液をしたり、滲出液を抜いたり、栄養学的な補助をしたり、といったようなことです。

ウィルスが炎症性のサイトカインを出すと血管炎や滲出液を増加させるため、抗炎症剤を使います。従来、この治療法が主軸になっています。また、疾患が進行していくと免疫機能が落ち、二次感染症を生じる可能性が高くなるため、感染を防ぐ目的で抗生物質を使います。免疫調整剤や抗ウィルス薬が有益であるという証明は今のところありません。インターフェロンを用いて有効であったという報告もありますが、科学的な証明はなく、高価な治療ですが確実ではないのが実情です。

 

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総合的にいうと、猫伝染性腹膜炎(FIP)は例外なく進行性で、しかも死に至る病気です。予後は要注意。猫のQOLを充分考えた上で、その場しのぎの治療を繰り返すだけという治療が、病気に苦しむ猫にふさわしい治療方法であるのかどうか、じっくり話し合う必要があると思います。

 

とてもこわい猫伝染性腹膜炎(FIP)のお話は今回で終了です。


追加

なんと、これを書いた5日後に新しい研究発表がありました!
http://news.cornell.edu/stories/2013/06/discovery-offers-hope-against-deadly-cat-virus

悪さをしないコロナウィルスとFIPウィルスとの間には遺伝子的な違いがあることを突き止めたようです。診断とワクチン開発に新たな光ですね。1日も早く確実な診断と完全な治療、ワクチン予防が確立されますように。

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No title

はじめまして。先日、FIPで愛猫を看取りました。
この病気は本当に怖いですね。ブログも参考になります。

ウチの場合は、先生とも相談してインターフェロンは使用しませんでした。
素人ながらも、私が理解した範囲では、
「インターフェロンを打つと、マクロファージを活性化させ、FIPウイルスが増殖。病気の進行を早める可能性がある。マクロファージが活性化するので炎症もでる」、という認識です。

もしそうであれば、FIPにインターフェロンは禁忌のように感じるのですが、実際はインターフェロンを使う病院は多いですよね。
なんだかシックリきません。
インターフェロンには、もっと他の作用もあるのでしょうか。
免疫のしくみは、難しいですね。

Re: No title

ハンナさん、こんにちは。
私も獣医大卒業後直ぐに、飼っていた愛猫をFIPで失いました。その当時は腹水の症例ばっかりでしたが、私の愛猫は珍しく胸水の溜まるタイプでした。溜まってくると呼吸が苦しくて動きが悪くなるし、食事も取れなくなるし、見ていてつらいものでした。とにかく溜まったら胸に針を刺して抜くこと、これの繰り返しでした。新米のぺーぺー獣医にとって、エコーのない状況下で穿刺するのは大変でした。
いつかは研究が進んで予防も治療もできる時代がきっと来る、と信じてかれこれ○○年。他の病気に比べるとまだまだ不十分ですが、わずかながら研究が進んでいます。
インターフェロンの効果も数が集まっていないからだと思いますが、①統計的にみて「効果があります」という報告よりも、②こんな子に使ってみたら「効果がありました」という報告の段階なのですよね。
お気を落としのことと存じます。心中お察しいたします。
あのときの私のように、あなたのぽっかり空いてしまった心に、別の猫ちゃんがちゃっかり入り込んで来てくれますように。お祈りいたします。

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Author:ハート動物病院
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〒445-0062
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