がんばった猫ちゃん、ナツさん。

 がんばった猫ちゃん。ナツさんです。

 

ナツさんが病院に来たのは「元気がなくて体重が減ったみたい。水はのめるけど食事を食べない」という理由からでした。うまく食事が摂れなくなって6日目とのことでした。

身体を触ると冷たく、体温は33.8℃しかありませんでした。皮膚の色が黄ばんでいて血液検査をするまでもなく黄疸が出ているのが分かりました。

さて、こんなにひどい状態なので、最低限の情報を得るための血液検査を実施しなければなりません。けれどナツさんは大勢の猫さんと一緒に飼われている猫さんで、人との共存はあまり得意でない猫さん。シャーシャー威嚇し「あたしに触らないで!」と全身で表現してきました。けれどこれにひるんでいたら検査はおろか、治療だって出来ようはずがありません。「うほー、すごいなー」「がんばってくださいよー」と祈りながらナツさんを保定袋に押し込み、集中力で採血を済ませました。かくして、結果は、肝臓が悪いことを示す数値が上昇していました。いわゆる肝酵素の上昇、黄疸をあらわす総ビリルビンも上昇、低血糖もありました。肝臓はグルコースの代謝に関わっているので、肝機能がひどく低下すると血糖値も下がってくるのです。

検査結果が出るまでに設置しておいた静脈内留置針から、早速点滴を開始しました。もちろん保温体制にもぬかりはありません。その晩、点滴は夜中続けられました。

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お目目が寄ってるナツさんです。

翌朝、体温は平熱より低いのですが上昇してきていました。まだナツさんは敵意があるものの、治療に抵抗はせず、いえ、出来ず、の状態でした。同じように点滴治療がすすめられ、夕方には体温が37.4℃まで上がってきました。もう一息で身体の力が戻ってきそうでした。

 3日目の朝、昨日までの敵意に戦意まで加わり、ナツさんは攻撃をしてくるようになりました。うれしいやら困ったやらです。体温は39.0℃まであがり、いよいよナツさんの気持ち通りの行動を起こすことができるようになった様子です。しかし病状が良くなったわけではなく、おしっこの色もみるからに真っ黄色で、黄疸はますます激しくなっているのがわかります。抵抗されても治療を止めるわけにはいきません。

 
治療を始めると別の病気も顔を出してきました。体調が崩れることによって隠れていたものが出てきてしまったようです。長期戦に入り込む要素が山盛りになっています。出血が止まりにくい状態だったり、継続的な血液検査では肝臓の数値異常に加え、電解質異常も見られます。今回の病気はただの肝炎や胆管炎ではありません。暗黒の文字「肝リピドーシス」が脳内を太文字で埋め尽くしてくれています。まさに強敵な病気なのです。勝算はハーフ&ハーフ。膵臓の機嫌を損ねるようなことがあればさらに勝率は下がり、ほぼ勝ち目は無くなりるでしょう。

肝リピドーシスの治療の主体は食事をとらせること。身体に栄養を与えること。しかしナツさんの抵抗は厳しく、私たちを受け入れる態度は全くありません。

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診察台に静かに乗っていられるようになったのはだいぶ治療が進んでからのことです。

 
私たちには病気と闘うナツさんを応援する立場に加え、治療に抵抗するナツさんとの戦いになっていました。食事に振り向かず、ひたすら「食べない」ナツさんの口に流動食を入れます。大半はよだれと一緒に出してしまいます。食欲不振があり、口にすれば悪気が襲ってくる、ナツさんにしたら当然の抵抗でしょう。しかしそれだけではありません。病院スタッフに攻撃を仕掛けてくるナツさんの勢いのすさまじいこと。なかなか打ち解けてくれず、顔を見れば「しゃーしゃー」です。もうそろそろ慣れてくれてもいいのに。泣きが入ります。ナツさんにも、病気で食欲がないというだけでなく、病院に入る、無理やり治療をされるという強いストレスが加わっています。仕方がないことでしょう。知らないところで、なじみのない人たちに治療や看護を受けているのですから。

鼻から細いカテーテルを入れるのか、お腹を開けて胃にチューブを通すのか。そんなことにナツさんは耐えられるのか。おすすめの治療メニューはナツさんにとって辛いことばかりでした。

ありがたいことにナツさんの治療に関してはオーナーさんに全面的な信頼をいただいていました。とにかく正確な病状把握から正しい獣医学に従って治療を行いました。それでも結果が表面化しない日々が続くと「間違ってたのかな?」と自信が揺らいできます。ナツさんをみる。検査データを読む。治療法を選ぶ。実行する。これだけのサイクルですが、思うように回らない日が続きました。「でも、数日前に比べると、調子はよさそう」犬猫の看護歴は誰にも負けないVTの観察眼に狂いはありません。

こうして、さらに治療が続き、何度目かの血液検査で、これ以上の貧血では自力で食事を摂るのはむずかしい、というところまで貧血が悪化してしまいました。このころにはナツさんの抵抗はだいぶ和らぎ、治療にも素直に従ってくれるようになっていました。病院飼育の猫、甘えん坊のふくにゃんがドナーとして適していることがわかり、供血してもらい、輸血を実施しました。

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さいごは肩抱っこが出来るようになりました。
 

輸血後、あの忘れていた恐怖が訪れました。ナツさんのパワー炸裂です。治療に協力的になってくれていた、と思い込んでいたのですが、ただ抵抗する力が衰えていただけだったのですね。「あのねー、なつー、うちらは敵じゃないってばぁー!」叫んだところで分かってもらえず。まだまだナツさんからの信頼は得られないままなのでした。

 「ちょっとおばかでお人よし」そんなキャラのふくの血が功を奏し、輸血の日からナツさんの体調は少しずつ快方へ向かっていきました。下がる一方だった体重もちょっとずつ上がり始め、夜中にこっそりではありましたが、自分から食事を口にするようになってきました。点滴のために入っていた針も抜き、かすかな傷さえ閉鎖してしまえば疼痛からも解放されるのではないか、というところまで来た時には「ナツさん」と呼べば「にゃー」と返事もするし、見ている前でもドライフードをカリカリと音をたてて口にすることができるまでになってくれました。

こうして体重は状態の悪かった頃の体重から600gも増え、検査データに異常点もなく、晴れてナツさん、退院の運びとなりました。ナツさんにも温かい春がやってきました。ほんと、よく頑張ってくれました。

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「猫さんは3日食べなきゃ脂肪肝」こんな川柳を作ったのは、かの昔ですが。猫さんは簡単に脂肪肝になってしまいます。そしてこれはとても重篤な病気です。脂肪肝は肝リピドーシスともいいます。

肝リピドーシスについては次の機会にお話しすることにします。

 

 

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