歯周病と麻酔下の処置

 今日は歯科処置についてお話しようと思います。

 

歯のことについては皆さん結構関心があります。歯が汚れているのも知っていて気にしていらっしゃいます。しかし

「おうちで歯磨きは難しいから病院でなんとかしてもらえないかしら」

こんな風に全面委託のことが多いです。

おうちでは何も「いたしません!」の姿勢で、次に言われるのは

「麻酔をかけるほどの大げさなことじゃなくて、外来で、簡単でいいの。ちょちょっと歯石を欠かして、汚れを取ってちょうだい。」

こんなご要望に

「えーっ!そんなの無理っ!」と心の中で叫んでみますが、

「じゃ、じゃぁ、できそうなところまで、やってみますかぁ」

なんて答えてしまって後悔しています。

どうしても麻酔なしで行える処置には限界があります。というか、限界だらけです。

 

 

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こちらのポスターはAmerican Veterinary Dental Collegeからペットオーナーさん向けに配信されているお便りです。

" Say No to "Anesthesia Free Dental Cleanings" Your pet's oral health care depends on it!

と書いてあります。これを訳すと

「無麻酔の歯石除去"NO(イヤです)と言おう。」あなたのペットの口腔衛生は、それにかかっています!

になります。

 

そうなんです。歯科専門医は無痛歯科処置を勧めているのです。日本小動物歯科研究会でもアメリカ獣医歯科学会のこの方針に賛同しています。

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右側上顎の臼歯の汚れ。歯石がしっかり付いています。

 

ここで、よくあるストーリーをお話します。

1・若い時は歯がきれい。

だから何もしなくて大丈夫。

2・歯に汚れがついてきた

歯磨きを始めようとしたけど嫌がってやらせてくれない。だからやめた。かわりに歯磨きガムを与えることにした。ガムがあるうちは毎日与えているけど無くなったらしばらくやらないこともある。忘れちゃう。

3・口が臭くなってきた。

これはまずいぞ、と思ってガーゼで試してみた。やっぱり嫌がってできなかった。他にいいデンタルグッズはないかしら。ショップに行って歯のコーナーを見てみたけど、良さそうなものが見つからない。またにしようと思って帰ってきた。そのうち歯のことは忘れちゃった。

4・結構においがキツくなってきた。

でもまだ大丈夫だろう。麻酔かけると死んじゃうとか聞いたし、うちの子の歯、まだそこまでは悪くなっていないんじゃないかな。食欲もあるし、元気だし。様子を見ておこう。。。と思いつつ、歯を観察するのも忘れてしまったなぁ。

5・歯がぐらついてきた。

あぁ、歳なんだなぁ。こうなると麻酔もかけられないな。歯の処置をして歯を抜かれることになったら痛くて食べられなくなるんだろうなぁ。歯がなくなるのはかわいそうだしなぁ。

6・目の下の部分が腫れてぷくんとしていた。

いつの間にかそれは消えていた。まぁ、消えちゃったんだから癌じゃないよね。歯から来てる?まさか。

7・くしゃみしてどろんとした鼻汁を飛ばした。

寝ているところに何かわからないけど汚れが付いていた。よく見たらくしゃみをしたときに鼻から鼻汁のようなどろっとしたものが出てきた。鼻汁って歯と関係があるの?うそでしょ。

 

こんな経過をたどって悪くなっていきます。はじめは予防的に歯磨きができるとよかったね、なのですが、歯肉炎の発症時期にも手を打つことなく過ごし、立派な歯周病へと発展させてしまっています。気が付いておられるのに放置して悪化していくという残念なストーリーです。

 

実は非常にまれですが、この後さらに悲惨なストーリーに発展してしまった犬もいます。

8・口が閉まらない。

よだれが出たままになっている。食べるどころじゃない。顎がぷらんぷらんしている。

というものです。これはとうとう下顎の骨が折れてしまった結果です。ここまで悪くなってしまうこともあるのです。


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大きな歯石はスケーリングの前に割って取り除きます。

 

 飼い主さんから寄せられる「歯周病に関係するイメージ」は

1・歯が汚いのは病気だ。

2・歯がきれいなのは病気じゃない。

3・元気や食欲があれば病気じゃない。

4・麻酔をかけると死んじゃう。

5・歳をとってくると麻酔はかけられない。

6・歯を抜くと痛くて食べられない。

というものです。

 しかし、みんなNO。間違いです。



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歯の裏側は見えにくいところですが、歯石はここにもついています。



歯の表面にヤニのような茶色のものが付着していたとしても、歯の付け根の部分、歯肉と歯が接合するところがきれいであれば歯周病ではないし、逆に目に見える部分は毎日きれいに磨かれていてもいわゆる歯周ポケットの部分に問題があれば歯周病です。歯周病が発生する部分というのは歯肉に覆われているから見えないのです。もりもり食べて元気でいても歯周病はじわりじわりと進行していきます。高齢になると全身麻酔のリスクは高まるのは確かですが、若齢であっても麻酔のリスクが全くないことはありません。全身麻酔を施し歯科検査や歯科処置をしている間に大きな問題が起こる可能性がないかどうかは、事前にチェック(血液検査やX線検査、心電図検査など)をし、あまりに状態が悪い場合は、治療し状態をよくしてから実施しますし、どんな場合でも一般の手術と同じように麻酔中はモニターを取りながら点滴ラインを入れ処置がとられます。抜歯すると痛いように思われていますが、悪い歯が痛みを出している場合は痛みの根源となる歯を抜いてしまうとストレスも無くなり、食欲も出て快活になります。


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超音波スケーラーできれいにしているところです。

 

 ところで、さきほどのポスターが乗せられていたお便りの本文ですが、うまく翻訳されているのがありましたので、内容をそのままお借りして載せます。ここ、大切な部分なので、色をつけておきます。


・無麻酔下の歯科処置では、歯周病を予防するために重要な歯肉線より下の部分をクリーニングすることはできませんし、チェックすることもできません。

・無麻酔下の処置で、あなたのワンちゃんネコちゃんの歯の表面をハンドスケーラーで削っても、細菌がもっと接着しやすくなるザラザラとした表面と溝が歯に残ります。

・無麻酔下の処置では、あなたのワンちゃんネコちゃんはたぶん不快で、痛みも伴っていると思われます。麻酔下では痛みはもちろん不快を感じることもありません。

・ワンちゃんネコちゃんの歯が、無麻酔下の処置でより白く見えるようになったからといって、それは歯周病が予防できたということではありません。

 

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これから細かいところのお掃除です。


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歯根部がかなり露出しています。
このあと研磨して終了になります。



というわけで、全身麻酔で処置をするのは何やらこわい、という印象をお持ちかもしれませんが、

「外来でちょこっと歯石を削るのでは大事な歯根(本当の意味の歯周、歯が歯槽骨に植わっている根っこの部分)の検査やクリーニングができないので、ぜひ、全身麻酔のもとで、きちっとしっかりのクリーニングをさせてください。」

というお願いをつらつらとお話しいたしました。今日のお話はこれでおしまいです。



 

 

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