犬の前立腺の腫瘍

 11月最終日になりました。

 

ハートニュースでお知らせしたように、11月はNovemberをもじったMovenber(モーベンバー)の月でした。111日から口髭を伸ばし始めて、会う人に「おやっ?」という発見をしてもらうこと、そしてそのことで「実は、、、」という会話の糸口から「前立腺がん」について知ってもらおう、という啓蒙の月です。

犬にも前立腺腫瘍がありますが、いわゆる前立腺肥大症の方が発症頻度は高いです。今日は前立腺腫瘍について知っていただくために、少しばかりお話をします。前立腺のその他の病気についてはまたあらためてお話ししようと思います。

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<犬の前立腺腫瘍のあらまし>

犬の前立腺に発生する腫瘍は腺がんだけでなくて、尿道の方から発生してきた扁平上皮がんなどのこともあります。発生頻度は少なくて、犬に発生する腫瘍のうちの0.20.6%という資料もあるくらいです。発生年齢はだいたい10歳ころが多く、品種的な好発種類はありません。中型から大型の犬に発生が多い、ということですが、私の体験したのはいわゆる日本でみられる愛玩小型犬種でした。残念なことに、他の前立腺の病気は去勢手術をしてあると予防ができるのに対し、前立腺腫瘍は去勢手術をしてあっても防ぐことができません。

 

 <こんな症状が出ます>

前立腺腫瘍がある場合の症状は慢性的な尿路疾患の症状が始まりです。血尿や、ちょっとした尿漏れ(いつもなら我慢できている時間なのに、おしっこが出てしまっているようなこと)、尿に勢いがなく尿線が細いようなこと、排尿がスムーズではないこと(出にくそう)、寝ているところが排尿口からの分泌物(血のようなもの)で汚れるなどが起こります。さらに前立腺が大きくなって直腸を圧迫すると排便も一生懸命にいきんでするようになります。骨盤や背骨の骨に転移が起こると痛みのために歩き方がおかしくなってきます。

 

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<検査と診断です>

エコーやX線などの画像の検査と、細胞の病理学的な検査が診断に役に立ちますが、病気そのものはたいへん悪性の様相です。前立腺周囲への浸潤性も、転移性も高いのです。前立腺は膀胱より少し尻尾の方に近づいたところにある組織で、膀胱からの尿は前立腺の中の尿道を通過して排泄されます。お腹の中にある組織ですが、正確には骨盤腔にあり、ここはとても奥まった部分です。見つかりにくいところにあるため、発見されたときにはすでに転移していることが多いのです。

 

 

<治療について>

積極的な治療は外科手術と放射線の組み合わせになります。前立腺の全摘出手術は前立腺尿道も含めて実施されることにもなります。場合によっては尿路変更の手術も必要になるかもしれません。高度な技術が必要になりますので大学病院など、経験豊富な先生のいる病院をご紹介します。

すでに転移が認められる場合は、治癒を目的とする根治的治療ではなく、緩和治療を主眼に置いたものをおすすめします。痛みからの解放、スムーズな排尿を確保するための尿路カテーテルの設置などです。

しかし病態がとても重篤であることが多く、良好な予後は望めません。最後まで病と闘うのかどうかも含めて、厳しく生と向き合う必要のある病気です。

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<むずかしい問題ですが>

この病気に限っては、最愛の犬の最期の時期をどのようにするかは病気のステージが進まないうちに検討すべき課題です。重い問題ですが、安楽死について思うところを記しておきます。

まずこれはあなた自身、もしくは家族全員で考えて決めなければいけない問題です。というよりも、愛犬を介護するに当たり、あなたにはそうした決断をすることが許されています。そして犬は苦しまない最期を持つ権利があります。

 

安楽死がどのようなものか、私たちも陰になった部分なので、あまりおおっぴらにお話しすることはないので、おおよそ想像がつかないのではないかと思います。それは手術時の麻酔をかけるのと同じです。血管につないだ管から麻酔薬を注入していきます。そうすると数秒から数分の間に犬の意識はなくなります。恐怖も痛みも無くなります。静かに優しく愛情をこめて厳かに行われます。手術のときと同じようにモニターにつなぎ、心臓の拍動がなくなるのを見守ります。全く苦しむことはありません。くつろぎながら深い眠りに落ち、そのまま穏やかな死を迎えます。意識を失うまでの間は呼吸もしています。最期の瞬間に少しだけ動くことがあります。脱力によって膀胱や肛門、腸の動きをコントロールできなくなりますので、失禁することがあります。目は開いたまま死を迎えることもあります。

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どんな治療を選択するのか、もしくは安楽死を選ぶのかについてはいろいろな判断基準があります。

まずは今のそしてこれからの愛犬のQOLがどうなのかという問題です。調子の良さそうな日と調子の悪そうな日の割合とか、以前はできていた大好きなことはできているのかとか、痛みに関連するしぐさの有無などでQOLは判断していきます。ほとんどは飼い主さんの主観になります。それからあなたが愛犬にどんな生涯を全うしてほしいのかという問題もあります。沈みきった姿はふさわしくないと思うのか、最期まで望みは捨てずがんばるとかはあなたの生き方を反映させるのかもしれません。そしてあなたが愛犬に割くことのできる介護のための時間とか、経済的な問題も考えのなかに入ってくることでしょう。

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 今月の初め、脳腫瘍のために安楽死を決意した女性の話題が世界中で駆け巡りました。その後同じ疾患に侵されている女性がスポーツ大会に参加している姿も報道されましたし、医師による自殺ほう助だと残念がる見方もありました。人の安楽死について、簡単に結論は出せませんし、まだまだ白熱した論議が出ることでしょう。

しかし犬や猫の重篤な疾患の治療に関しては、どのような選択をされても間違いではないと思います。飼い主であるあなたとあなたの家族が納得し、望む治療を選択するのが最も正しい方法なのだと思います。

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