猫の下部尿路疾患によいおすすめの処方食

今日は猫の下部尿路疾患(FLUTD)向けの処方食、当院でおすすめしているものについてですが、栄養学的な特性をお話します。

 

 

前回もお話したように、下部尿路疾患の範疇にあたる病気は尿石症、尿道栓子(尿道閉塞症につながります)、特発性膀胱炎がそのほとんどで、そのほかに様々な原因による尿道閉塞症などがあります。

不適切な場所で排尿してしまう疾患はこれに心因性の問題や行動学的な問題が入るので少しニュアンスは異なりますが、そうした疾患にもこの食事は役に立つと思われます。

 

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①マグネシウム、カルシウム、リンを適切なレベルに調整してあります。

ストルバイト結石はリン酸(P)アンモニウム(A)マグネシウム(M)の頭文字からMAPと略されています。シュウ酸カルシウム結石はカルシウム(Ca)の結石です。猫の2大結石を形成させる成分であるMg(マグネシウム)、P(リン)、Ca(カルシウム)といったミネラル分を抑えることで石を形成しにくくなっています。

こんな特性をもつ食事なので、「骨を丈夫にするために煮干しを与えた方がいい」という根拠のない神話を信じて、また「猫にかつおぶしをふりかけないと喜ばない」という妄想からこれらのものを添加していると処方食の特性を失わせるどころか、石を形成させる手助けをしていることになってしまいます。やめてくださいね。

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②尿のpH値が6.2から6.4の間になるように調整されています。

ストルバイト結石はアルカリ性の尿に、またシュウ酸カルシウムの石は産生の尿でできやすくなっていることが研究の結果分かっています。もう少し詳しく言うと、pH6.0以下でシュウ酸カルシウムは形成されやすくなり、6.0から6.4でストルバイト結石は溶解され、6.4から6.6でストルバイト結石が結晶化しにくくなり、7.0以上でストルバイト結石が結晶化します。

内緒でほかのものを与えていると尿のpHはこの範囲から外れてしまいます。「処方食だけを与えています」とVTに伝えても、尿検査の結果が6.2から6.4の間にない場合、ウレアーゼ産生菌の存在よりは食事性の不備であることが多い可能性が高く、もしかして嘘かしら?と食事内容に疑問を持つことが多いです。猫の身体は正直ですから。もし食事を好んで食べない場合は別の選択肢もありますので、「できるだけ食べさせるように努力しています」というのではなく、また「酒のつまみをお相伴しました」というのは遠慮なく言ってもらった方がいいです。

それにしてもわずか0.2の間に入ることができるように調整してあるとは、すごい技術です。以前はもっとおおざっぱにアルカリ尿、酸性尿というカテゴリーで済ませていたのですから驚きの狭さです。職人技と言いたいくらい。

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③クエン酸カリウムを添加してあります。

クエン酸カリウムはシュウ酸カルシウムの結晶化、結石化を阻害する物質です。ですからシュウ酸カルシウム結石が確定した場合も、この薬を処方することはありません。そうでなくても猫さんに投薬するのはたいへんなことですので、これはとてもらくちん。

④ビタミンB6を強化してあります。

ビタミンB6はシュウ酸カルシウムの形成を抑制し、尿中への排泄を減らす働きがあります。普段ビタミンBB1B6B12の合剤になっているものを使います。B群の合剤は神経系の疾患に有効なのでよく使うお薬で、きれいなピンク色をしています。注射薬もピンク色なんです。でも色に似合わず(?)酸っぱいので猫さんには不人気な薬です。この薬も混じっているなんてラッキーです。

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⑤ω3脂肪酸(オメガ3脂肪酸=DHAEPA)を多く配合してあります。

⑥抗酸化成分を多く配合してあります。

DHA(ドコサヘキサエン酸)EPA(エイコサペンタエン酸)などの長鎖オメガ3系多価不飽和脂肪酸やビタミンEなどの抗酸化成分は強力な抗炎症作用があります。このコンビネーションは猫の下部尿路の炎症性疾患だけに推奨されているのではありません。食事からω3脂肪酸を摂取することはさまざまな代謝性、慢性炎症性疾患に罹患した犬、猫だけでなく人にも有効です。高カルシウム尿症、再発性シュウ酸カルシウム尿路結石を持つ人で、ω3脂肪酸の摂取により尿中へのカルシウムやシュウ酸の排泄が有意に減少したという報告もあります。

DHAEPA、抗酸化成分は炎症を抑え、免疫を高めることにも役立っています。サプリメントとして食事とは別に摂取するのもなかなか面倒かと思います。

 

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⑦グリコサミノグリカン(GAGs:ギャグ)を添加してあります。

ヒアルロン酸やコンドロイチン硫酸、グルコサミンがグリコサミノグリカンのよく知られた物質です。変形性関節症のときによく使われるサプリメント、というとお分かりいただけるかもしれません。グリコサミノグリカンは膀胱の表面を覆っている層で、細菌などの外敵から膀胱粘膜を守ったり、尿が下層に浸透するのを防いだりする役目をしています。人の間質性膀胱炎と猫の特発性膀胱炎の特徴が似ていることから、人で有効なこの物質を猫にも応用しています。膀胱粘膜の構成成分であるグリコサミノグリカンを摂取すると膀胱の修復を助けます。

変形性関節症(OA)が不適切な場所での排泄に関与している場合が考えられます。トイレの縁が高く、高齢な猫でこの高さを乗り越えるのが苦痛だという場合、関節のために粗相をしてしまう可能性があるのです。このような場合にもこの処方食は有効です。

 

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⑧トリプトファンを添加してあります。

⑨加水分解ミルクプロテインを添加してあります。

特に特発性膀胱炎(FIC)で問題になるのですが、心のバランスを整えることは大切なことです。FICの治療には不安を解消させる効果のあるフルオキセチンやクロミプラミン、パロキセチンなどの抗うつ薬を使いますが、これらの薬は脳内にセロトニンを増やすよう働きかける薬です。セロトニンは幸せな気分にさせてくれる物質で、不安な気持ちを解消することができます。セロトニンの前駆物質であるアミノ酸のトリプトファンを添加することでセロトニンを増やすことができるため、猫さんはより穏やかな気持ちになれます。

また、加水分解ミルクプロテインは不安症や恐怖症のみられる犬猫に処方するサプリメントです。単独でも高価なので添加してあるなら別に飲ませる手間もないし、好都合です。



<実際に使ってみた感じ>
さて、年末から1月にかけて尿路閉塞症の猫さんが例年になくあったのですが、がちがちの尿石症の猫さんにはいつも通りの溶解食を与え、結晶尿ではあったけれど尿道を閉塞させていた栓子物質が結石ではなかった猫にはこちらの再発防止食を与えてみました。入院させて経過を観察していると、シャーシャーいって抵抗する気配が少なかったのが後者の方でした。

たまたまの猫さんの性格でしょうか、処方食の(トリプトファン
&加水分解ミルクプロテイン)効果でしょうか。いずれにしても、猫さんが穏やかな気持ちで入院生活を送ることができるのもうれしいことです。


以上のような特徴があります。

うちの子にもこれを食べさせよぅ!って思いませんか?処方は簡単。猫さんを診させていただくだけです。オシッコ関連で困っていらっしゃるようでしたら、一日も早く猫さんを排尿のストレスから解放させてあげましょう。 

 

今日は当院おすすめの下部尿路疾患用処方食の特徴についてお話しました。

ちなみに、尿量を増やすためにNaを添加してある処方食、というのを私は好みません。維持食として高Na食を与えられている猫さんでは高血圧と腎臓系のレニンアンギオテンシンアルドステロン系(RAA系)システムに対し何らかの無理を与え、腎臓を守ることができないように思うからです。また前回お話したルーリッチ先生の臨床研究でも、ストルバイト結石を溶解させるのに、この処方食は高Na食よりも早期に溶解させたという結果がでています。

 

 

 

次回はまだお話していなかった特発性膀胱炎について、お伝えしようと思います。 
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