猫の特発性膀胱炎の治療3

 特発性膀胱炎の治療の続きです。

 

膀胱に対する治療と、行動学的な側面に対する治療について前回お話ししました。今日はストレスのない暮らしのための環境改善についてです。

 

特発性膀胱炎の具体的な治療から少し話ははずれますが、環境エンリッチメントという言葉をご存知でしょうか。動物園動物などによく使われます。Environmental enrichment とか Effective enrichment というものです。「飼育動物の正常な行動の多様性を引き出し、異常行動を減らして動物の福祉(animal welfare)と健康を改善するため、飼育環境を工夫しましょう」、というものです。それぞれ、野生の暮らし方が最も良い暮らしであることに違いがありません。けれどそれにこだわっていては展示動物は成り立ちません。すべては動物虐待になってしまいます。今置かれている状況の中で、いかに自然の状態に近づけ、ストレスを少なく飼育してやれるか、ということを工夫する取り組みです。採食、空間、感覚、社会的、認知の5つのエンリッチメントがあります。

DSC_9182.jpg 

猫にも本来の暮らし方があります。家の周りを自由に動き、時に木に登り、屋根を伝わり、日向ぼっこをし、鼠や小さな鳥を追いかけ……というような充実した毎日を送らせてやりたいものです。しかし市街地には安全に遊べる空間もなく、一つ間違えば交通事故にあわないとも限りません。そうすると安全な飼育が屋内になってきてしまうのです。そこで、5つのエンリッチメントを猫に応用してやることになります。

採食エンリッチメントでは、捕食活動により近い形を再現してやること。

空間エンリッチメントでは三次元空間を自由に行き来し、くつろげる場所を提供してやること。

感覚エンリッチメントでは音の出るおもちゃや、においをしみこませた布(マタタビなどもその一つになるかもしれません)、屋外の小鳥を鑑賞できるように窓近くの空間を開けることなど。

社会的エンリッチメントとして、複数飼育するなどして、ほかの動物とのかかわりを持たせてやること。

認知エンリッチメントとして、知性を刺激するような遊びを工夫してやることなど。

このようなことを踏まえて、環境を整えてやってほしいと思います。

 

 DSC_9190.jpg

 

猫はこんなことにストレスを感じている、ということを挙げておきます。思い当たる節はないでしょうか。避けることができそうなものは避けてください。

  猫が集団生活をすること。(部活の合宿、と例えておられる先生もいらっしゃいます)

  トイレの汚れ。(清掃作業の追い付いていない公園のトイレのような)

  住居(引っ越し、リフォーム)、生活環境(家具の配置換え)、生活パターン(家人がずっと家にいることになった、またはその逆)、食事の変更。

  同居人、同居猫の増加。

  外出の禁止(監禁ととらえられるのかもしれません)、長時間の留守番(ホームアローンって寂しい感じがしますね)。

  家族の誰かが不機嫌であること。(夫婦喧嘩、お受験間近でイライラしているお兄ちゃんや娘さんがいるなど)

  飼い主の身勝手なスキンシップ。(突然抱かれる、なでなでが長すぎる、しつこく追い回すなど)

  天候。(雨や風の強い音がする、雷鳴が聞こえるなど)

  近所の騒音。(道路を走り抜けるサイレンの音、子供たちの黄色い声、酔っぱらいの叫び声、工事中の音など)

  自然のもの以外のきついにおい。(猫に香水を振りまくのは迷惑です)

 

 DSC_9189.jpg

さて、治療についてです。治療というより、むしろお願いしたい猫の喜ぶ暮らしです。

<環境の改善>

    最も重要なのはトイレに関することがらです。

トイレの数が少ないと、猫がトイレの代わりの場所を探すきっかけになります。また複数飼育している場合にはすぐにトイレが汚れてしまうことになります。

家族の誰かがトイレ使用後、水を流し忘れていたらあなたはどう思うでしょうか。気分を害すでしょう。同じことが公共のトイレで起こったらどうですか。きっとそこは使わないで、隣のドアを開けるでしょう。

トイレを置く位置についても考えなくてはいけません。いくら数を用意していても同じ場所に並べて置くのではいけません。複数のアクセスルートがある場所に設置すると、万が一いじめっ子がトイレの前で張り込みをしていても別のトイレを使うことができます。

トイレの大きさは猫の体長の1.5倍あるのが理想です。小さすぎるトイレは好まれません。

蓋つきトイレはにおいがこもってしまう可能性があり、こちらも猫に好まれないようです。排泄物のにおいが周囲に広がらないように、というのは猫の利益ではなく人の利益になるだけのことです。

トイレのふちの高さも浅すぎると砂がこぼれ出たりたくさん入らなかったりしますが、高齢猫は変形性関節症を患っている可能性があり、ふちが高すぎてうまく入れないとトイレ以外の場所を探すことになります。高さも検討してください。

砂の種類を比較研究した先生もいらっしゃいます。自然の砂に近い粒子の形状で固まるタイプのものが最も好まれたそうです。トイレに失敗したら砂の種類を変えて試してみるとよいと思います。また無香料のものに人気がありました。香料を付加するのも人の利益を考えた結果の商品です。

トイレの衛生状態をよくすることはとても大切なことです。猫は清潔なトイレを好みます。これは気難しいとかいう問題ではなく、私たちに置き換えてもらえばすぐにわかることです。毎日排泄物(尿で固まった部分の砂や糞便)を片づけるのはもちろんですが、週に1回は砂を全部交換し、トイレそのものもきれいに洗うことで衛生状態を保つことができます。

DSC_9186.jpg 

    爪とぎを用意してください。

爪とぎはマーキング行動のひとつです。安心できる場所のアピールになります。家の中の複数個所、ちがうところに爪とぎエリアをつくってください。爪とぎは棒状の物(柱のような)でも板でも構いませんが、水平方向にあるよりは垂直方向にあるほうが、またやや高めで目立つ位置に設置するのが好ましいようです。

 

    高い位置の休憩場所を作ってください。

猫が一頭、または仲良しの猫2頭くらいがリラックスして寝そべることができる広さでクッションとか小さめの座布団などを置いておきます。猫が敵から逃れるときに木の上に登っていくのはよく知られています。それと似たような状況を作り出してやります。垂直な行動スペースが猫同士の緊張感や攻撃性を低くさせます。

梁のある家で猫がそこを自由に歩けるのは理想的なキャットハウスですが、市販のキャットタワーなどでも十分代用が可能です。

DSC_9187.jpg 

    食器や水飲み場も複数必要です。

食事の時の食器は必ず頭数分用意してください。またそれぞれが同じエリアに集まって食べる場合でも、家具の角のあちらとこちらで直接相手が見えないような場所に食器を配置するなどの心遣いをお願いします。猫同士の距離をおくのでお互いの緊張感が和らぎます。

狩猟本能を刺激する方法として、少量のフードを思いがけない場所に忍ばせて置くのもよい方法です。遊びとして扱い、ここから得る栄養量は考えないことにする程度の量でも楽しめると思います。

飲水量が足りないことは特発性膀胱炎の発症因子です。いつでも十分に新鮮な水が飲めるように、水食器だけでなく、給水器や洗面所、風呂場など、それぞれの猫の好みの方法があれば否定することなくその場所を提供してやってください。

 

    遊べる空間を作ってください。

肥満も発症因子です。1日に数回、1回に3分程度でよいので擬似捕食体験になるような遊びを仕掛けてやってください。長く遊ばなくても猫は満足です。光には物体としての形がなく、追いかけても最終的に捕獲することができませんから、レーザーポインターで遊んだ時だけ、最後に小さなものを投げ込み、「仕留めた」感覚を味わわせてやってください。

遊びを通してストレスが軽減されますし、家族との絆も高まります。間違っても猫を標的としてこちらが追い詰めていく「鬼ごっこ」はしないでください。猫をストレスの塊にしてしまいます。あくまでも猫に捕食行動を疑似体験させる遊びです。

 

    日常的に猫にかかわり、遊んでください。

この家で暮らすことそのものを楽しいものにし、猫が不快に思うような接し方はしないようにします。無理やり抱き着くとか、抵抗しているのに猫を抱いたまま離さないとか、また悪さをしたからと罰を与えるようなことはしないでください。

 

 

 

今回も長くなってしまいました。猫がストレスを感じなくするための環境改善についておはなししました。次回は特発性膀胱炎の栄養学的な側面からの治療についてお話しします。

 

 

スポンサーサイト

テーマ : 動物病院
ジャンル : ペット

コメントの投稿

非公開コメント

ケージも一助に。

初めまして。我が家の雄猫も、近所のリフォームや工事、お祭りの喧騒など、普段聞きなれない音が数日続くと、突発性膀胱炎と思われる症状が出ます。
記事にあるようなメンタル面での配慮をしていく内に症状が無くなるため、診察はしていませんが、我が家の猫には、身を隠して休息が取れる「毛布などで覆って視界を遮ったケージの設置」も症状緩和の一助になっているようてす。
また、同じくストレスが原因と思われる、皮膚が波打ち、落ち着きがなくなる「知覚過敏」のような症状にも効果がありました。

治療以外にも自宅で出来る配慮かまだあるのですね。勉強になりました。
症状が出ないのが一番ですが、上記のような避けられないストレス原因もありますので、今後参考にさせて頂きたいと思います。ありがとうございました。
プロフィール

ハート動物病院

Author:ハート動物病院
ハート動物病院です。
〒445-0062
愛知県西尾市丁田町杢左51-3
TEL/0563-57-4111
オフィシャルサイト:http://www.heart-ah.com/

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
ブログランキング
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード