猫の甲状腺機能亢進症・4

猫の甲状腺機能亢進症のお話しの4回目、今日は治療についてお話しします。

 

<治療はいくつかあります>

治療は活動しすぎている甲状腺をとってしまう外科的な方法、ホルモンを作る過程を阻害する薬を投与する内科的な方法、ホルモンの原料となるヨウ素をカットしたフードを与える食事療法があります。放射性ヨウ素の投与は国内では行われていません。

 

どの方法が良いか、というのは個別に異なるので一概に言うことはできません。例えば年齢です。8歳であればこれからの寿命のことを考えた治療を考えなくてはいけないし、すでに18歳ということであれば先が短いので無理な治療を選択するよりは状態維持を優先した治療を考えてやりたいと思います。

手術で大きくなった甲状腺を切除でき、猫の寿命の範囲内で完治が期待できるのであれば、無治療の期間を得られる手術はとても良い選択肢になります。

 

病気の重症度とか、併発疾患の有無やその病気の重症度、費用の問題も出てきます。

オーナーさんの意思や希望も含めて決定すると良いと思います。

 

いきなり手術をすることはありません。外科治療に先駆けて必ず内科治療を行います。甲状腺ホルモンの働きを制御し、猫の一般状態を改善させ、麻酔や手術のリスクを減らす目的です。また甲状腺ホルモンの影響が制御された条件で腎臓の問題が浮上してこないかどうかを確かめることもできます。安定してからそのまま内科治療を継続するのか、外科治療に踏み切ってその後の内服薬投与を不要にするのかという選択をとります。

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<手術は>

腫れて大きくなった甲状腺を切除します。両方ともに腫れていれば両方を取ることになります。副甲状腺(上皮小体)が甲状腺の中にあって、カルシウム代謝に大きくかかわっています。この組織を一緒に取ってしまうと術後カルシウム欠乏症を併発することがあります。残すように手術をしたり、一旦取り出した後に自家移植したりして対応します。術後も注意深く観察します。

 

 

<抗甲状腺薬というのは>

国内ではチアマゾールという薬があります。海外ではメチマゾールやカルビマゾールといった動物用の薬があるのですが、国内では動物薬がないので人用の薬を用います。糖衣錠になっているお薬を分割してお渡しすることになります。一般に苦い薬は表面を甘くコーティングした糖衣錠で用意されていることが多いようですが、この薬も粉に粉砕すると味が悪いため猫に喜ばれません。猫用のチュアブルタイプのお薬が出てくることが望まれますね。

 

チアマゾールの作用は甲状腺ホルモンの合成を阻害するものです。すでに作られ体内に貯蔵された甲状腺ホルモンが残っているので、薬を投与し始めてもすぐに治療効果は現れません。1週間から3週間ほどで徐々に効果が出てくると思います。体重が増加し始めるのが治療成功のサインになります。

 

副作用は少ないのですが、おとなしくなってあまり動かないとか、食事をしない、おう吐する、顔をかゆそうにするなどのサインが出たらお薬を中止して病院へいらしてください。体内で代謝され、その薬の量が半分になるまでの期間を半減期と呼んでいますが、この薬は半減期が短いので、何か不都合なことが起こってもすぐにその作用は引いていくだろうと予想されます。

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<併発症をコントロールする治療>

うっ血性心不全では肺水腫や、胸水が貯留していることがあります。必ずその治療が必要です。

また高血圧症ですが、治療前は軽度から中等度であっても治療後には悪化してきます。それは腎臓にも良くないことなので治療が必要です。

 

甲状腺機能亢進症は消耗性の疾患なため、総合ビタミン剤を初期に投与し、弱った全身状態を改善しやすくすることもあります。

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そしてとても大切なことです

甲状腺機能亢進症は腎臓の糸球体ろ過率を上昇させ、筋肉量を低下させるために血漿クレアチニン値を下げています。これは腎疾患があったとしてもその存在を隠してしまうことになります。治療後は隠れていた腎疾患を表面化させるため、高窒素血症(血漿BUN値やクレアチニン値が高い)になります。腎機能低下はその後の生存率を大幅に下げることになります。腎機能をフォローするための治療も必要になります。

甲状腺のコントロールをやや高いままで維持し、高窒素血症が現れないようにする治療というのは、最終的には腎臓を悪くしてしまうことになります。甲状腺機能亢進症の治療は始めたら、腎機能の低下がわかっても治療を継続します。そして腎臓に対する保護治療も並行して行います。

 

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<食事療法のこと>

ヨウ素の摂取量を制限し甲状腺機能亢進症を治療する(補助になる)処方食があります。缶タイプとドライタイプがあります。ヒルズプリスクリプションダイエット、y/dです。

甲状腺ホルモンの原料となるヨウ素を抑えた食餌です。軽度の甲状腺機能亢進症の猫にはこれだけでT4値がさがったという報告があります。

ただしリスクファクターである問題点も持ち合わせています。このフードには大豆が使用されていること、缶詰はプルトップ缶であることを先にお知らせしておきます。

それでも科学的に効果が証明された食事はほかにはありません。

心臓のためにカルニチンやタウリンが強化されています。

 

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<この病気の予後はどんなものなのでしょう>

こんな病気にかかってしまった猫さん、このあと腎臓のデータと食欲と体重などの管理をしながら余生を送ることになります。この病気にかかったら寿命が短くなってしまうのではないか、という心配が出てきます。

この病気にかかる猫たちは高齢のことが多いです。甲状腺の問題だけでなく、その他の併発疾患によって今後のことは大きく左右されます。
残念ながら慢性腎疾患にかかった猫たちの寿命に比べると、甲状腺機能亢進症に慢性腎臓病を併発した猫たちのほうが寿命は短いというデータが出ています。

それでも、この病気を発見することができ治療に至ったのですから、何も知らないで無治療のまま過ごすよりは寿命を延ばすことができています。そして何よりも、治療によって猫さんのこの先の暮らしは快適になっているはずです。病気になっていない場合と比較するのではなくて、治療をすることで猫さんを楽にしてあげられていることを考えていただけるといいな、と思います。

猫の甲状腺機能亢進症のお話は今日でおしまいです。



    
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はじめまして、昨日愛猫(オス、去勢済み、推定13歳)が甲状腺機能亢進症と診断され検索の中でこのブログにたどり着きました。詳しく書いていただき段々と受け入れられてきました。
一昨年から肝臓が悪く投薬も血液検査をしていたのですがT4の数値までは見ておらず、たまたま昨日のエコーで重度の肥大性心筋症と診断され、T4も見たところ11.9でした。
さらに外出のストレスがキッカケとなったのか、とても悪化したようでご飯も食べなくなり、ほとんど動かなくなり目も虚ろです。
今は投薬とゼリーのみ口にしています。
とても不安ですが、記事を読み少しでも楽な余生を送れるよう治療を続ける覚悟を持ちました。
ありがとうございます。
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Author:ハート動物病院
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