猫の慢性腎臓病のおうち点滴治療

猫の慢性腎臓病では、IRISのグレード分けにより推奨された治療を進めています。初期は「飲みたいと思ったときに水を飲めるようにしておくこと」だけになりますが、徐々に「食事管理」(腎臓のための処方食)や「お薬の服用」(フォルテコールなどのACE阻害薬やセミントラといったARB薬・コバルジンやカリナールなどの吸着薬、フィトケアK60などのカリウム補給剤等)を進めていき、それでも水和(からだの水分の調和がとれていること)がうまくいかなくなり窒素代謝物の蓄積が亢進してきた(血液検査で高窒素血症を確認します)段階に入ると「皮下補液」をおすすめしています。「皮下補液」は個体ごとに、その時の状態によって、毎日または隔日、週に2回等の頻度で行います。状態が安定するまでは病院で行いますが、安定期になったら「おうちで点滴をしていただく」こともできます。

「通院そのものがストレスになってしまうのが心配だから」、連れてきてくださるおうちの方の「時間がうまくとれないから」などがその理由です。

 

 オーナーさんが看護師さんですと、輸液バッグや注射針などの取り扱いにも慣れてらっしゃるし、お願いするこちらも安心です。そんな方から、「点滴治療」に関してご質問をいただきました。ちょっと専門的な内容ですが、こうした質問から「人の腎臓病」と「猫の腎臓病」には違いがあるため、誤解を生じやすいのだなと思いました。ご自身、またはご家族や親しいお友達とか身近に腎臓を患っていらっしゃる方もおありかと思います。そんなときに、「猫の腎臓病の治療は人と違うぞ、おかしいな」と感じている方もいらっしゃることでしょう。それでここでもご質問をご紹介いたします。

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<水を除去するのではなく補給するの?>

水の排泄を促すのではなくて点滴で水分を投与するということが最初の疑問点でした。

人の腎臓病では、尿を産生できなくなり水が体内に溜まってむくみが出てしまいます。そこで透析で水分を窒素代謝物やその他と一緒に排除しています。

猫の場合は尿産生ができないのではなく、尿を濃縮する能力が障害されるので、濃度の薄い尿がたくさん出ます。喪失する水分による脱水を回避するためには多飲でなくてはなりませんが、初期のうちはそれができても次第に日常的な飲水量では欠乏を補てんする適切量を賄えなくなってきます。こうして脱水が発生してきます。

希薄な尿で水分は多く出ていきますが、本来排泄させたいと思う窒素代謝物は残念ながら体内に残っています。高窒素血症が起こっています。

皮下補液では、水分の補給も行っていますが、普段よりも腎臓を通過する血液量が増加しますから、溜まっている窒素代謝物も出すことができます。補液を行った日は、機能の残っているネフロンにいつもより多くの仕事をしてもらうかんじです。

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<補液剤が病院によってまちまちですが?>

飲水量が不適切になった場合に皮下補液が有効であるというのはどの病院でも言われることですが、病院によって渡される補液剤が生理食塩液だったり、乳酸化リンゲルだったり、維持液といわれている低張性電解質液で、どれが正しい選択なのかというご質問です。

結論からいいますと、どれも間違いではないと思います。

まず生理食塩液と乳酸化リンゲル液ですが、どちらも等張性の輸液剤です。等張液は細胞外液に類似したものですから、細胞の中に入り込まず、細胞間質と血管をめぐって最後は尿になります。

生理食塩液を使った時、ナトリウムやクロールの過剰によって代謝性アシドーシス(からだが酸性に傾くこと)を起こしやすくなります。クロール(Cl)の濃度を下げるために重炭酸を加える必要が出てきますが、アルカリ化するために乳酸を加えたものが乳酸リンゲル液です。乳酸リンゲル液によく似たもので、酢酸リンゲル液というのがあります。こちらはアルカリ化剤として酢酸を加えたものです。どちらも乳酸や酢酸が代謝される過程で重炭酸が産生されるので代謝性アシドーシスを抑制することができます。

それから低張性電解質液(維持液といわれているものです)、商品名でいいますとソルアセトとかソリタ、ソルデムになりますが、こちらは生理食塩液を薄めて、血漿浸透圧を等張にするために糖質を混ぜたようなイメージです。日本ならではの細かな配慮があり、

1号液:開始液

2号液:脱水補給液

3号液:維持液

4号液:術後回復液

このような種類があります。よく処方されるのは維持液の3号液です。ナトリウムの濃度が低いので、細胞外にも水分がとどまりますが、細胞内にも水分が移動していきます。(生理食塩液や乳酸リンゲル液では細胞内に水分は入っていかず、100%が細胞間質から血管内に入り込みます。)

個体によって、血液検査の結果から高ナトリウムになっている場合は維持液が選択されますし、高カリウムになっている場合はカリウムを含まない生理食塩液や乳酸化リンゲルが選ばれていると思います。

5%ブドウ糖液は皮下に刺激があるため用いられていません。

 

シェリーロス先生による慢性腎臓病の講義を受けたときには、腎疾患での輸液のファーストチョイスは生理食塩液や乳酸化リンゲル液で、維持期にはナトリウムの少ない維持液を使われているようでした。現時点ではこれが良い、という確立された方法論はなく、決められた投与量もないそうです。

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<点滴後辛そうですが、補液量が多すぎませんか?>

背中の膨らみによる圧迫感から、注入した補液が徐々に引いていくまで少しの間動きが鈍くなっている場合があります。違和感があるためと思われます。また、点滴中は涎を流すことがありますが、猫では「いやなこと」をされるときに涎が出ます。皮下から吸収された液剤が一過性に血管内の血液量を増やすためにその後も動きが鈍くなることがあります。個体差が大きく、とくに変化の無い猫もいます。

前述の先生によりますと補液量の目安として、毎日または1日おきに100mlから150mlだそうですが、病院内ではもう少し多めに点滴しています。ご自宅で補液する量は、猫が自宅で補液されるのを我慢できる時間も考えるとだいたいこのくらいになるかと思います。逆に頻度が下がれば1回量は増加させないといけないかもしれません。

慢性腎臓病は長期にわたる管理が必要な病気なので、今のつらさを「慣れ」に変えていくようにしていただいて、月単位の今後のことを考えて、この治療にご理解いただけるとありがたいです。

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<猫の慢性腎臓病の脱水の種類はどれになりますか?>

人では水とナトリウムのどちらがより多く失われたか基準にして

①水欠乏性脱水(高張性脱水)、

②混合性脱水(等張性脱水)、

③ナトリウム欠乏性脱水(低張性脱水)

に分けられていますが、猫の慢性腎臓病では厳密に脱水の種類を分けてはいません。

どれに一番近い脱水なのだろうかといえば①水欠乏性脱水に近いのかな、という気がします。

 

水分が主に失われる脱水では細胞外液の水分量が減少しています。血漿ナトリウムが上昇している状態です。この時は血漿浸透圧が高くなっているので、細胞内液から細胞外へ水の移動が起こってきます。それで細胞内の水分量が低下してしまっています。細胞が干からびている状態です。

こうした移動が起こった後では、細胞外液の水分量は低下していなくて、血管内容量も不足はありません。血圧も低下していません。事実、急激な脱水症と違い、慢性腎臓病の猫では循環不全はありません。

そういう意味では細胞内液に浸透していくタイプの補液剤(低張性電解質液)を補液していくのが良いかなぁと個人的には思っています。

 

 

今日はちょっと専門的な内容でしたが、お受けしたご質問を同じように疑問に感じている飼い主さんもいらっしゃるだろうと思ったので、文面に起こしてみました。

水と電解質については熱中症のところでもお話ししました。

 

きょうはここまでです。

慢性腎臓病の猫さんの「おうち点滴」がうまくいって、よい状態で長生きできますように。 
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テーマ : 動物病院
ジャンル : ペット

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