免疫介在性溶血性貧血・治療と展望

免疫介在性溶血性貧血(IMHA)についてのお話、続きです。今回は治療と今後の展望について。





 <治療の中心は免疫の働きを抑えること>

治療は集中的に行われます。IMHAは命にかかわる重篤な疾患のため入院による加療が望ましいと思われます。

病院での治療目標は大きく分けて3つです。

1、免疫抑制療法

 プレドニゾロンは最も一般的に用いられる治療薬です。アレルギー性皮膚炎で痒みを抑えるために用いるのと同じお薬ですが、はるかに高用量を使います。

 プレドニゾロン単体で免疫抑制をかけるよりも別の免疫抑制剤と併用した方が治療成績は良い、という論文が出ています。(ユトレヒト大学、Pick先生ら、2008年)この研究では併用薬はアザチオプリンでしたが、シクロスポリンでも同じように効果があります。これらの薬は経口薬になりますので、激しい嘔吐があるときは制吐剤を使いながら投薬することになります。

 また、高用量のプレドニゾロンを使用するとき、消化管の粘膜を保護する薬を一緒に使います。

2、組織かん流量を守り酸素を運ぶ

 ぐったりしていて、経口的に食事や水を摂取できず、嘔吐なども発症していることが多いため、静脈確保をして、適切な補液を行います。微小血管で血栓ができるのも、血流を良くしておくと制御できます。

貧血が著しいとき、ほとんどはそのようなことが多いわけですが、輸血を行います。少なくなっている赤血球や血小板だけの濃縮輸血は一般的ではなく、全血輸血を行います。

 輸血については危険性がないわけでもありませんが、副反応を遥かに超えると思われる有益性が期待できるため、たいていの場合行われます。

3、抗凝固治療

 血栓症を予防するためにヘパリンを注射します。

 経口投与ができるようであればアスピリンです。Weinkle先生の2005年の研究でもプレドニゾロンとアザチオプリンだけの投与に比べ、アスピリンを加えた投与群の方が生存率は高いという報告があります。

 

それでも、うまくいかない。どうしよう。

というときに行うのが

4、免疫グロブリン療法

 です。そのほかに

5、ミコフェノール酸モフェチル

 というお薬を使うこともあります。リンパ球の増殖を抑制させるお薬です。

 

それでもだめ。という場合、別の病気なのかもしれません。

脾臓の組織球性肉腫はとても似たような動向をとる病気のようです。(経験がないので聞きかじりです。)血液病専門外来のある大学病院で診ていただくのがよいかと思います。

一般的には3番までの治療(もしくは4番?)が一般動物病院の治療という感じがします。

 IMGP7141.jpg

 

<長期の管理>

治療の効果が上がり、状態が安定したら晴れて退院です。しかし、投薬はそこで終わりではありません。プレドニゾロンやアザチオプリンまたはシクロスポリンは長期投与が必要です。定期的に血液検査のために来院していただき、全身状態も良く、検査の結果も良ければお薬は徐々に漸減し、低用量1種類だけの維持療法に変えていきます。数カ月単位で維持していきます。たいていは6か月くらい継続でお願いしています。

 

 

<厳しいおはなし>

IMHAの死亡率は結構高く、前述のWeinkle先生の報告によると、プレドニゾロンにアザチオプリンを併用した場合の生存率は退院時で74%、30日後で57%、1年後で45%です。これにアスピリンも用いたグループで退院時88%、30日後82%、1年後69%です。1年後の生存数値が低いのは多くの犬で1年以内に再発が認められ、再び免疫抑制療法を始めなければならないということ、1度目よりは2度目の方が薬に対する反応が悪いということを意味しています。

論文を書かれるくらいの先生ですから、この分野の研究に詳しく、この病気に対する治療が得意な先生のはずです。そこで初回発症の治療を受けても、1/4の犬たちが死亡退院していることになりますし、約半数の犬は1年生存できていないということです。

IMHAという診断を受けた場合は、治癒率が低いという事実をどどーんと受け止めていただき、場合によっては覚悟を決めていただく方がいいかもしれません。今回の病態を乗り切れた場合は、がんばったわんこを褒めてやる感じです。けれど、うまく退院の運びとなっても再発の可能性があることも頭の隅に入れておいてもらい、しっかり愛情を注いであげるといいかな、と思います。

 IMGP7142.jpg

 

<追記>

病気のお話を書いていますが、よくみられる病気については、どうしてこうなるのかなぁ的な部分を含めてお話しし、だからこういう治療をするんだね、途中で止めちゃぁいけないんだね、という理解に繋いでいけたらと思っています。

発症頻度のあまり高くない病気については、こんな病気があるけれど、知っていたら早めに対処できるかもしれないよね、という意味合いがあります。

今日もどこかで重い病気にかかってしまった愛犬愛猫を抱えて、悩んだり苦しんだりしている飼い主さんがいるのだろうと思います。お力になれないのが歯がゆいです。


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わかりやすい説明でした

怖い病ですね。13年でコーギーが先週亡くなりました。マッチングしても副反応がないわけではないのですね。でも最期迄治療も頑張り幸せな生き方を完うしました。輸血を始めてからは家族との時間が欲しく自宅に帰りましたし、大好きなお肉やフルーツも食べました。

これからしっかりうちの子と頑張ろうと思います。
赤茶色になっているオシッコを見るたびに心がおれそうになりますが、一才四ヶ月の猫、女の子は走り回っています。近医で膀胱炎と言われましたが、抗生物質も効かず様子見と言われて……、別のところへ行ったら溶血していました。
造血の方が頑張っていて全く元気で、遊びの催促が激しいし甘えて飛び付くし、好き嫌いしてご飯も食べて太ったくらいです。
免疫介在性か、中毒か先天性か、に絞られましたが、これ以上は大学病院へと言われて、遠方で連れていけないので、まずプレドニンを飲ませています。
血尿に気づいてから20日あまりです。
この先が不安ですが、ちょうどドライフードを切り替えたタイミングでした。同じプレミアムフードですが魚系から肉系(鶏肉以外も入っている)にしたばかりだったので、どうしても気になって止めています。
そんなことはないと思うのですが、並行して与えていたものをメインにしてみています。
貧血、黄疸がないので、本当に有り難いですが、毎日が心配です。

Re: タイトルなし

>足袋さま

こんにちは。ご心配のご様子ですね。
まったく元気で膀胱炎をにおわすような症状もなく、
ただ赤いおしっこなんですね。
年齢も若いことですし、
私の脳裏を「腎性出血」がかすめました。
もし、それだとすると、
様子観察コースかもしれません。
定期的に行きつけの病院で
腎臓関連のエコーと尿検査などを受けるほかは
何の治療もせずに見守りで大丈夫なのです。
もしくは止血薬の服用だけ。
特発性腎出血は、結石や炎症、腫瘍などの赤色尿を出す病気、
考えられるすべてを検査で調べていき、「どれでも無いぞ」
となったときに診断名がつきます。
突然の赤色尿も気づくと普通になっていることもあります。
すでにしばらく経過していることですし、
今頃、治っているといいですね。
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ハート動物病院

Author:ハート動物病院
ハート動物病院です。
〒445-0062
愛知県西尾市丁田町杢左51-3
TEL/0563-57-4111
オフィシャルサイト:http://www.heart-ah.com/

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