認知症の犬の治療

認知症の治療のお話、今回は治療についてです。

日常生活を送ることができるレベルだと認知症予備軍になるかと思います。認知症治療は介護が必要になってからよりは、予備軍のうちに治療を開始し、脳を活性化させ、症状の進行を遅らせるのが良いと思います。

 

 

1、環境改善

高齢犬は歩幅が狭く、つまづきやすくなっています。関節症などの影響からジャンプもできません。このような動きの問題が出てきたら段差をなくしてスロープにします。いわゆるバリアフリーです。また床材を滑りにくいものに変えるなどの対応をします。

高齢犬では目が見えない(見えにくい)ことや新しいことに馴染みにくいことなどから、長年の記憶にあるままの部屋の配置にしておきます。部屋の模様替えはせず、歩行スペースに荷物など障害物を置かないようにします。トイレが遠いときは徐々に近づけるようにします。いつもの場所にないとまごついてしまい、トイレの失敗につながります。また使いなれた犬用のベッドですが、クッションのことも毛布を折りたたんで使っていることもあるかもしれませんね、こうした犬用の寝床が汚れてたからといきなり新しいものに交換するとうまく寝られないことがあります。古いものと新しいものと並行して使うなど様子を見ながら変更してください。また寝る場所、つまり寝床をどこに置くのかということですが、急に離れたところに設置換えすると寝ていい場所が分からなくなってしまう場合があります。トイレ同様、場所移動したいときは少しずつ変えていきます。

直径の短い円運動(旋回運動といいます)になり、歩くことを止められないレベルになってくると、周囲を丸く囲ったサークルが必要になります。このエンドレスケージは自家製でお作りいただくか、小型犬であれば子供用のビニールプールでも代用ができます。この頃には排泄もコントロールが効かなくなっていることが多く、ペットシーツをずれないように敷きつめる必要が出てくるかもしれません。

寝ている時間が増え、じょく創(寝ダコ)が心配になってからは、低反発マットやウオーターベッドなどを使用します。

全く動けなくなってからは体位を頻繁に変える必要が出てきます。こうなってからは体位交換のたびに積極的に四肢を動かしてやります。犬からすると受動的ではありますが、こうしたリハビリを受けることで関節が固定し動かなくなってしまうのを予防することができます。

寝たきりになると排泄の管理も必要です。オムツ交換をまめに行います。汚れやすい被毛は短くし、皮膚に尿ヤケができないように常に清潔にしておく必要が出てきます。

食事も口元まで運びます。水も同様です。食事の途中でも眠りに入ってしまうことがあります。食べることも疲れるのです。できるだけ起こし、食べるのを促します。食事はこれまでのようなドライフードからウエットタイプのものにするか、またはドライをふやかして与えます。嗜好性も変化してきますが、食べるままに任せていろいろな食材を与えると便秘や下痢になり管理が大変になりますから、節度を持って与えてください。

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併発する病気があればこれも治療します。

 

 2、生活改善

日中はできるだけ運動をさせます。若いころの散歩は朝夕でそれなりの時間を費やしエネルギーを発散させるような形態をお願いしていたわけですが、高齢期の散歩は短くてもよいので何回も外に連れ出し、日光を浴び、外の気配を感じるようにすることが大切です。適度な運動は筋力を維持させ、立てなくなるのを遅らせることができます。

日光浴はメラトニンの関係から日中のサイクルを整え、昼夜逆転になるのを予防することができるため重要です。ビタミンDを活性化するため骨粗しょう症を予防することもできます。

これまで屋外でトイレをする習慣になっていた犬では、屋内にペットシーツを敷いた犬用トイレを置いても、それが何のためのものなのか理解できません。そろそろ怪しいかも、という時に導入するのであれば再学習が可能なこともありますが、認知症が始まってからはそれができません。ヒトでも高齢期になるとトイレが近くなりますが、犬も同じです。屋内で失敗されると困るのでしたら、日に何度でもトイレを促す、つまり屋外に連れ出すしか有りません。ここで面倒だからとオムツをしてしまうと、まだ元気のある犬では狂ったようにオムツ外しにかかります。深夜にオムツの中の高分子ポリマーが散らかってしまうか、誤って食べてしまうかの惨事になるかもしれません。またおとなしくオムツを受け入れても動きが悪くなるため、寝たきり生活に近づく結果にもなりかねません。安易に走ると認知症を進めてしまう結果になります。

脳を刺激する遊びも取り入れます。これまでできていた命令をしつこく繰り返します。赤ちゃんのときのトレーニングを復習し直すわけです。「お手」「おかわり」のほか、特別な芸事ができていたのでしたら、それをさせます。できたらごほうびをやります。消化の悪いジャーキーは避け、いつも食べている高齢犬用のドライフードを与えます。それでは味気ないと思われるのでしたら、別の銘柄の高齢犬用フードでも真新しくて良いかもしれません。耳の聞こえも悪くなっていますから命令も大きくてはっきりした声を出してあげます。クリッカーを使うのも良いでしょう。

一緒にいられない時間帯でも知育玩具を用いて脳に刺激を与えることができます。コングが有名ですが、他にもショップでいろいろ売られています。小さいサイズのペットボトルの横に穴を開け、転がすとフードが出てくるようにしたものでも代用は可能です。

介護生活の初期は、犬の方も適度に動きがあり、思わぬハプニングが起こりやすいので飼い主さんを疲れさせる結果になります。つい感情的になって犬を叱りたくなることがあるでしょう。でも叱っても何の意味もありません。犬もそうしたくて失敗しているわけではないのですから、根気よくお世話をするしかありません。ひとりで抱え込まず、家族が分担できるように協力し合ってください。またショートステイなど、病院を利用するのも良い方法です。飼い主さんも心身のリフレッシュが大切です。また「ここをこうするともっと楽です」というヒントの具体例は私たちも個別に対応すると出しやすいです。

 

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認知症の治療は多方面からの総合治療です。

 

3、食事療法

認知症は脳に病理学的な変化が生じて発症するものなので、活性酸素が働かないようにする、抗酸化作用のある物質を多く含んだ食事を与えると進行を抑えることができます。

ビタミンEやビタミンC、βカロチン、セレニウムは抗酸化作用のある物質で、酸化による脳細胞のダメージを抑えます。

またLカルニチンやαリポ酸は脳細胞の代謝を助け組織へのダメージを抑制します。

DHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)、ARA(アラキドン酸)などのω3脂肪酸は神経細胞膜を保護します。

フラボノイドやカロチノイド、ポリフェノールは抗酸化、抗炎症作用があります。

脳を活性化させることを目的にした処方食、ヒルズのプリスクリプションダイエットシリーズb/dは残念ながらなくなってしまいましたが、同系列のサイエンスダイエットプロシリーズの中の「健康ガード脳」は上記のような脳に良い物質が配合されたフードです。

これらの物質をいつものフードのほかにサプリメントとして摂取しても同様の効果が得られます。動物用のサプリメントは効能を「脳」に主眼を置いておらず、「骨関節」や「皮膚」「被毛」「健康」などを前面に出しているものもありますが、抗酸化作用は全身に良い影響を与える物質なので、お気に入りのサプリメントがあればそのまま継続していただくのが良いと思います。ただ複数を与える必要があるので、大変かもしれません。

認知症に特化したサプリメントとして、メイベットDC(明治製菓)やセサミン(サントリー)、ペットヘルス(共立製薬)などがあります。当院ではアンチノール(ベッツペッツ)もおすすめしています。

食事にしても、サプリメントにしても、即効性ではありません。1か月もしくは2か月といった月単位で様子が変わってくると思います。諦めず気長に様子を見てください。

 

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脳の変性を抑えるのに適した栄養素があります。
食事またはサプリメントのかたちで摂取すると良い効果が得られます。

 

4、薬物療法

行動学的側面からの治療法のほか、お薬で認知症の進行を遅らせる方法もあります。薬というと、対症療法の薬を望まれる方が多いです。ほとんどは「夜鳴きをすぐに沈めて眠れるようにしてほしい」というものです。ここで紹介するのは鎮静や催眠を促すお薬ではありません。

ヒトでモノアミンオキシダーゼ阻害薬としてパーキンソン病の治療薬に用いられている薬はドーパミン濃度を高め神経を保護する作用のほか、フリーラジカルスカベンジャーとしての作用もあります。塩酸セレギリン(エフピー錠)です。

またヒトでアルツハイマー型とレビー小体型の認知症で使われている薬も脳内のアセチルコリンを増やし、認知症の症状を軽減させます。塩酸ドネペジル(アリセプト)は犬での研究もあるお薬です。

 

多くの方が、「歩けなくなるのは困る」とがんばって犬を立たせ、動かすようにしてくださっています。これは結果的にリハビリになっているのですが、いよいよ「寝たきり」に近づき、「昼夜逆転」や「夜鳴き」が始まった頃にお手上げになって、今のつらい症状を1回の薬でなんとかしてほしい、と訴えてこられます。中にはいきなり「安楽死」を望まれるほど切羽詰まった事情の方もおられます。「強く言われると犬の脳には好ましくない抗精神薬の処方をせざるを得ない」のが我々仲間内のぶっちゃけた話ですが、もう一度脳を活性化させたいというのが真の気持ちです。

今の現状は

①飼い主さんの「認知症」という診断

②飼い主さんの自己流の介護

③症状悪化(グレードの亢進)

④ヘルプを求める

のサイクルになっています。

他の病気だったらこんなことはないはずです。

①症状が出て

②病院で診断を受けて

③治療があり

④それでも進行性の病気では末期がやってくる。

というのが普通です。むしろ今は

①定期検査をして

②早期のうちに病気をキャッチし

③うまくコントロールしながら

④長く穏やかな日を過ごす。

方が主流になっているほどです。

 

「高齢になったらこれも普通、こんな変化はしょうがない」なのではなくて、「歳はとったけれどこういうことは何とかならないものか、何を工夫すれば暮らしが楽になるのか」と前向きに関わっていただきたいと思うのです。よたよた歩くこと、目が見えなくなること、耳の聞こえが悪くなること、眠りが浅くなること、それぞれの経過の中で介助できることを探していただきたいと思います。

 

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5、介護の先にあるもの

寝たきりになった老犬も、いつかは終わりのときを迎えます。心臓病や腎臓病などの病気が悪化したり、食事の途中に与えていたものを吐いたのがきっかけで誤嚥性肺炎を起こしたり、食べる分量が減ってきて低栄養から衰弱して眠るように亡くなることもあります。

しかし、飼い主さんが先に疲れてへとへとになってしまうことも考えられます。家庭内の事情などいろいろなことを考慮し、あらかじめ「家族みんなで見送る特別の日」のことを考えておく必要があるかもしれません。 

高齢期の愛犬のことで困ったことがありましたら、家族だけで抱え込まず、ぜひご相談ください。
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テーマ : 動物病院
ジャンル : ペット

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