猫が慢性腎臓病だと言われたら

腎臓病の診断と検査、2回目のお話です。今日のお話はちょっと専門的で長いです。腎臓病だと診断してから、この病気を管理していくことはすごく重要です。

 

腎臓病だと診断してからはさらに詳細なデータを集めます。
詳しい検査を実施する目的は獣医学的な興味で行うものではありません。基礎疾患や合併症を見つけること、体を詳しく知ることが目的です。一言に「腎臓病」といっても、腎臓を悪くしている基礎疾患や併発している病気が見つかれば、それぞれに沿った治療ができ、体をより良い状態に持っていくことができます。個体別のオリジナルの治療法を見つけ出すものです。お友達の猫さんと、うちの猫さん、診断名は同じ「慢性腎臓病」かもしれませんが、病態は個々に違うので、治療が違います。それぞれの治療対象になるものを探していきます。

 注)初めから腎臓病を疑って検査を進めている場合は、これらの検査を同時に行われている場合があります。

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1、再度くわしく問診します

食欲はしっかりあるでしょうか。慢性腎臓病の猫は尿毒症をおこす物質により胃炎を併発していることが多くみられます。以前食べていた量と近頃食べている量に違いはないでしょうか。「おう吐」や「悪心」、吐かないまでも気持ち悪そうにしていることはないでしょうか。十分に食べられること、食べたものが身になっていることはとても大切です。
体重はボディコンディションスコア(3/5)または(5/9)を維持することが目標になります。

さらにこれまでに使われた薬について覚えていれば教えてください。

また「こんなことがあったけれど、きっとこれは腎臓には関係ないだろうな」なんて思っていて、お話しいただけなかったこと、何でも構いません。「とんちんかんだなぁ」なんて思いませんから、思いつくままにお話ししてください。そんなことがもしかしたら重要なヒントになる場合もあります。

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2、血圧測定

慢性腎臓病の猫のうち20%から25%くらいが全身性の高血圧症を発生するといわれています。全身性の高血圧症があると、失明や神経症状、心臓への悪影響や腎臓病を悪化させることになるので、血圧測定を行い、高血圧症があれば治療するようにします。ただし腎臓病の重症度と高血圧の発症には相関がありません。腎臓病が軽症であっても発症する可能性があります。

血圧測定は静かな場所で複数回測定しますが、高血圧であると判断した場合も、猫は「ストレス性高血圧」や「白衣性高血圧」を起こしやすいため、高血圧由来の症状が見られなければ2週間くらい開けて再計測し、確定するようにします。高血圧由来の症状は目(網膜)に現れるので眼の観察も行います。

拡張期血圧も示しますが、収縮期血圧を中心に考えます。

 

収縮期血圧 組織のダメージリスク 血圧サブステージ
   <150mmHg 最小限 正常血圧
150~159mmHg 軽度 高血圧ボーダーライン
160~179mmHg 中等度 高血圧
   ≧180mmHg 重度 重度高血圧

 

3、蛋白尿の検査

タンパク尿があると慢性腎臓病は急速に進行します。タンパク尿そのものが腎臓を傷害するのです。それでタンパク尿の重症度を調べ、タンパク尿が認められれば治療します。

猫ではタンパク尿のコントロールはヒトほど寿命の延長に対して効果はみられていないようですが、QOLは向上します。病状が安定して同じステージにとどまる期間が長くなります。

尿スティック検査でも「タンパク」を見る項目があり、多くの猫は微量のタンパクが検出されますが、腎臓病のために濃度が著しく希釈された尿では少量のタンパクであるため誤解が生まれます。そこで「尿蛋白クレアチニン比」(UPC)の検査が進められます。これは外部の検査機関に尿を提出して調べる検査です。本来タンパク尿は24時間に排泄されたすべての尿をもとに「1日にどのくらいのタンパクが尿中に喪失してしまうのか」を調べる検査ですが、実際的ではありません。そこで尿中に排泄されたタンパクとクレアチニンの比率からタンパク尿の重症度を調べます。「尿蛋白クレアチニン比・UPC」は「24時間尿のタンパク喪失量」と良好に相関する信頼のおける検査です。ただし、膀胱炎など他の要因に影響を受けることもあるため注意点もあります。UPCの検査も異なる2回(2週間とか4週間くらい開けて)の検査で再評価し、確認します。

 

尿タンパククレアチニン比 解釈
  <0.2 タンパク尿ではない
0.2~0.4 タンパク尿ボーダーライン
0.4~2.0 中等度タンパク尿
  >2.0 重度タンパク尿

 

4、血清リンの値(IP

高リン血症は慢性腎臓病の猫に多く見られます。約60%の猫が高リン血症になるといわれています。高リン血症があるとQOLも低下しますが、生存期間も短縮してしまいます。高リン血症があると、腎性二次性上皮小体機能亢進症の発生を誘発する可能性があります。これは骨をもろくさせ、大切な組織に石灰沈着をもたらすものです。

IRISは多くの検査機関が設定している基準値は慢性腎臓病の猫の評価には不適切とし、独自に血清リン濃度の目標値を定めています。正常値とされている値よりも低くするように提言しています。正常値の下限になるようにキープしていれば上皮小体機能亢進症が起こりにくいのではないかという理由からです。それでもステージ4では6.0mg/dlという高い値に目標を定めています。実際、このステージまで来ると4.5mg/dlあたりに設定しても無理があるため、より現実的な数値になっているわけです。そしてこの数値内に入るように治療を行います。

高リン血症を避けると、猫は具合がよくなります。また病気の進行が遅くなり、生存期間も延長します。IRISでは高窒素血症があれば高リン血症がなくても、リン制限をすべきという見解を出しています。

 

IRIS CKD stage CRE値(結果) 血清リン目標値
1     <1.6mg/dl 2.5~4.5mg/dl
2 1.6~2.8mg/dl     <4.5mg/dl
3 2.9~5.0mg/dl     <5.0mg/dl
4     >5.0mg/dl      <6.0mg/dl

 

IRISの評価ではクレアチニン値に基づいたステージ分類の次に、血圧と蛋白尿によるサブステージ分類を行っています。また血清リンの目標値も定めています。血圧とタンパク尿、血清リンの検査、そしてそれらの検査結果に基づいて治療し、血圧とタンパク尿、血清リンをコントロールすることはとても大切です。

 

5、貧血の検査

貧血は慢性腎臓病の猫でよく見られます。貧血があるとおとなしく寝ていることが増え、体が弱まり、食欲がなくなり、体重も減少します。食事から鉄摂取量が減ることや、消化管でじわじわっと出る出血のために鉄欠乏になり、貧血になってしまいます。

すでに赤血球数(RBC)やヘモグロビン値(Hb)、血球容積(PCV)(ヘマトクリット値:Ht)で貧血チェックは実施済みのことが多いですが、まだ検査していなければ実施します。鉄に関する検査項目を追加することもあります。
目標とする赤血球容積値は27~30%です。

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6、血清カリウム(K)の検査

慢性腎臓病では低カリウム血症に陥りやすくなっています。食欲不振からカリウムの摂取量が減ってしまうことと、尿からたくさんカリウムが排泄されてしまうために艇カリウム血症は発生します。重度な低カリウム血症では全身の筋肉が弱まり、寝ていることが多く、静かで弱弱しくなります。食欲不振に拍車がかかり、ますます食事をとらない傾向になります。「ごめん寝」で知られているあごを引いて首をおなか側に屈曲させて休む姿勢が低カリウム血症に特徴的な姿です。低カリウム血症は腎機能に対しても有害になります。

血清カリウム(K)は電解質検査で分かる値です。ナトリウム(Na)とクロール(Cl)とともに測定されます。血清カリウム濃度の目標値は4.0mEq/lを下がらない値です。

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7、画像検査

腎臓病をもたらしている原因をさぐる手立てとしてX線検査や超音波検査を行います。左右の腎臓の大きさや、内部構造を知ることができます。

ペルシャ猫で遺伝的に発生する「多発性嚢胞腎(PKD)」はとても大きな腎臓に触れますが、日本猫でも発見することがあります。触診で左右の腎臓の大きさが非対称であるとき、「腎結石」を見つけることもあります。そのために腎臓が大きくはれて「水腎症」になっていることもあります。これはアメリカンショートヘアーだけでなく日本猫でも発生があります。またいびつな形の腎臓では「リンパ腫」などの腫瘍ができていることがあります。腎臓の周りに水がたまる「腎周囲のう胞」という病気もあります。

根本的な治療が可能な病気の場合は、これを治療するとうまくいくことがあります。

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8、尿路感染症の検査

慢性腎臓病の猫の25%くらいが病気の途中のどこかで尿路感染症を起こしているといわれています。腎臓病では尿が薄く、細菌感染を起こしやすくなっています。無症候性の場合もあり、臨床症状からだけではわからないこともあります。細菌が膀胱から尿管を経て腎臓に到達すると腎盂腎炎を起こしさらに腎臓の機能を悪化させてしまいます。その逆のこともあります。尿路感染症はコントロールしたい併発生です。

血球検査で白血球増多から感染症の可能性を疑うことができますが、膀胱炎を中心とした尿路感染症を調べるためには尿を遠心分離させ、沈んだところを顕微鏡検査する尿沈渣の検査が必要です。炎症のために出現している細胞や感染のもとになる細菌を見つけることができます。さらに尿培養、感受性試験を行うと、どのような菌が出ているのか、どのような抗菌薬が有効なのかを知ることができます。

 

    
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