猫の慢性腎臓病の長期管理

 猫の慢性腎臓病の管理(治療)

 

この前は慢性腎臓病を診断する検査のこと、診断されてから行う検査のことをお話ししました。

慢性腎臓病だとわかって、身体の様子もわかり、IRISのステージ分類もできました。合併症の有無についても確認ができました。その後病気を進行させないように管理するにはどういう治療をすればよいのだろうか、というところを今回お話していきます。どうしてそれを管理する必要があるのかについては先回お話ししましたので、今回はちょこっとだけ。

 IMGP8347.jpg

1、脱水のコントロール

水分摂取は何がともあれ最重要事項です。代償性機能のために腎臓病初期は飲水量が増加します。多尿により体から出た水分を飲水で補うのです。この自然の機能を大切にし、脱水が起こらないようにします。脱水は腎臓機能を悪化させ、高窒素血症を高めます。これにより悪心やおう吐を招き、栄養不良になってしまいます。

猫に強制的に水を飲ませるのは難しいので、のどの渇きを覚えたときにいつでもどこでも十分に飲めるように工夫していただくのが水分摂取対策になります。それぞれの猫の好みがあるので、水食器は高さや広さの違うものをいろいろ用意し、あちこちに置き、水を並々と入れておきます。流れる給水器を置くのもよいですし、洗面所や風呂場(の蛇口)にもアクセスできるようにし、洗面器に水をためておくという方法もありです。洗面器は清潔さを保てるように洗って湯垢を落としてくださいね。野生の猫はどんなところから水を飲んでいるのかを想像すると、これらの方法は似ているな、と気づかれるかもしれません。池のほとりからアクセスする並々とたまった水、泉から湧き出る水(動く水です)、沢の落差からちょろちょろと流れる水などのように。

いよいよ飲水量を上回る排尿量になってくると体の水分不足が起こります。定期的な点滴を始める時期です。通院で可能です。またおうち点滴でもよいですが、その際は最大1か月間隔で再診にいらしてください。

IMGP8353 (2) 

2、栄養管理

腎臓病のための処方食は科学的根拠の最も高い治療法です(エビデンスレベル1)。1994Harte先生は処方食を与えると一般維持食と比べ腎臓障害の進行が遅れQOLが高くなることを、2000Elliott先生は食事マネージメントされた群ではそうでない群に比べ中間生存日数が大きく延長する(264日に対し633日)ことを、2002Jacob先生、2006Ross先生が管理食により尿毒症のエピソードや腎臓に関連した死亡が減少したことをそれぞれ報告しています。IRISのステージ2,3,4の段階の猫に効果が実証されています。ステージ1の段階ではまだライフステージに合わせた一般食で構いません。

腎臓のための特別療法食は蛋白質やナトリウム、リンなどを制限し、不足しがちなカリウムやビタミンBなどを添加しています。体が酸性に傾かないような工夫や抗炎症作用を示すω3脂肪酸なども加えられています。蛋白質からのエネルギー量を脂質から得るよう脂肪分は高く作られており、これが嗜好性を高めています。

食事療法を成功させるため、いくつかの注意事項があります。腎臓病を発見されてから間もなくの高窒素血症があるときには無理に食事変更をしないようにします。気持ち悪い時に新しい食べ物は気が乗りませんし、「気持ち悪い」という記憶と「腎処方食の匂い」の記憶が一緒になってしまうからです。

食事変更についてですが、徐々に変えていきます。昨日まで一般食、今日から処方食という切り替えでも食べられる猫はいますが、もっと長く、数週間かけて変更していくつもりで少しずつ今の食事に混ぜながら変えていきます。場合によっては3か月くらいの心づもりをしてください。それでも長い目で見ると療法食は良いのです。ドライフードよりウェットフードがよいと言いますが、猫はこれまで食べてきた形状のものを好むようで、ドライからウェットへの変更は難しい場合があります。もし、一つのメーカーの一つの銘柄を喜ばないとしても数社から数種類の異なったフレーバーのフードが出ていますからいろいろチャレンジしてください。

食欲減退の原因は「嗜好性に合わない」だけではありません。貧血や尿毒症性胃炎、脱水、代謝性アシドーシス(体が酸性に傾いていること)、低カリウム血症などでも食欲を失います。適切に判断し、合併症の治療をすると食欲が出てくる場合があります。適切な治療を併用したうえで検討してください。

腎臓病が進行しIRISのステージ4くらいになるとどうにも高窒素血症のコントロールが難しくなり食欲の確保ができなくなってきます。この段階からは療法食にこだわることなく「食べること」を優先させてください。ここでもし選択が可能でしたら、成猫用メンテナンスフードよりはシニア猫向けのフードの方が好ましいです。

正しい栄養管理は体重や体形に現れます。目標の体重は個体それぞれで違いますが、ボディコンディションスコアは(5/9)または(3/5)を目指します。

食欲を促すための食欲増進剤があります。シプロヘプタジンです。(錠剤、シロップ)

悪心やおう吐をコントロールするのにH2ブロッカーやメトクロプラミドを使うことができます。(錠剤、シロップ)

制吐剤としてのマロピタントは注射薬で、おう吐を中枢性に抑制できる良いお薬です。

食べる量が不十分になったとき、もしくはこれからの食事量に不安があるというとき、食道ろうや胃ろうチューブの設置処置をするという選択肢があることをお伝えしておきます。

IMGP8346 (2) 

3、高窒素血症のコントロール

高窒素血症は代謝によって生じた老廃物のうち、窒素を含む物質がうまく排泄されず身体に残ってしまった状態です。BUNCREが指標になっています。高窒素血症はそのままにしておくと尿毒症に発展します。尿毒症は生命の危険に直結するよくないサインです。高濃度の窒素代謝物は吐き気を催させ、消化管の微細な出血を招くので、栄養不良や貧血にもつながっていきます。

腎臓を通過する血液量を増やして、残るネフロンの活躍を期待し、点滴治療を行います。

心臓の働きがよくない場合など、基礎疾患があればそちらの治療をします。

蛋白質を多く含まない食事(腎臓用療法食)によりBUN低下の補助ができます。

窒素代謝物の吸着薬があります。活性炭です。食事と一緒に摂取すると活性炭が窒素を吸着し糞便中に排泄されます。日本で開発されたお薬で、コバルジンは動物薬、クレメジンが人体薬です。(ごく小さな細粒)錠剤になっているサプリメントもありますが、信頼度の面から当院では使用していません。

IMGP8358 (2) 

4、高血圧のコントロール

高血圧があると腎臓をさらに悪化させます。網膜症から失明などの二次的な影響も起こすためコントロールしておきたい合併症です。

食事中のナトリウム制限をすることは血圧コントロールの治療になります。

血圧降下薬であるアムロジピンが治療薬です。(錠剤)

これだけでも効果が得られますが、ベナゼプリルを併用することもあります。(フレーバー錠)

それでもコントロールできないときは他の降圧剤の併用が必要になることがあります。

軽症の場合はタンパク尿のコントロールに使用するテルミサルタンで効果がある場合があります。(水剤)

目標は収縮期血圧を160mmHg未満にすることです。

 

長くなりました。続きは次回に回します。

スポンサーサイト

テーマ : 動物病院
ジャンル : ペット

コメントの投稿

非公開コメント

糖尿病猫の慢性腎不全の食事

はじめまして
19才オス糖尿病歴10年めです。

診断後2年めに嘔吐が多くなり、慢性膵炎、低血糖の発作、ケトアシドーシスになりました。コントロールがむずかしいため、自宅で血糖値測定を始め、現在はインスリン0.5単位以下を1日3回打っています。時にジェットコースターのようになることもありますが、フルクトサミン、糖化アルブミンはまあまあ良好です。

自宅測定と同時にお肉ごはんも含めた高たんぱく質の食事に切り替えました。
ウルソ、フォルテコールを服用しています。(尿蛋白が出ていて高血圧も疑われたことがあったため)皮下点滴はしていません。
ここ2年ほど、BUNは60〜90、CREは1.8〜2.3、リンは約1年前から5〜6で、カルシウムは9、TPは7、ALBは3台です。先月、尿比重は1.020で、菌、潜血、尿蛋白マイナスで、UPC正常とのことでした。
食欲もあり、お水もよく飲んでいます。排泄も◯ですが、最近しっぽが少し痩せてきました。先月兄弟猫が亡くなり少ししょんぼりしています。。

もうリン吸着剤や腎臓用の療法食を始めたほうがいいでしょうか?
糖質が増えること、また療法食だとドライのほうを好むため、水分量の不足が気になりますが、それでも療法食を始めたほうがいい時期でしょうか?
かかっている先生はリンが10以上になったら吸着剤とおっしゃっていました。よろしくお願いいたします。

Re: 糖尿病猫の慢性腎不全の食事

はじめまして、こんにちは。
19歳の猫さん、素晴らしいですね。そして10年間の看病、頭が下がります。
コメントを発見するのが遅くなり、お返事まで日がかかってしまいました。
ごめんなさい。
猫さんは平穏な日々を送られていますでしょうか。

さて、糖尿病に腎臓病を併発したときの食事の件ですが、
東大の松木先生のセミナーで、併発疾患の処方食を優先する、とのことでした。
糖尿病のための処方食はHill'sのm/dなど、高タンパク質、低炭水化物で、
インスリン要求量を減らせるように作られています。
けれど実際は他の疾患があり、これらの食事が登場する機会は少ないとのこと。
糖尿病食が適さない猫の筆頭に腎臓病の猫があげられています。
この場合は腎臓サポートやk/dを使用します。
低タンパク質、高炭水化物食ですが、案外うまくいくそうです。

それから、リン吸着薬についてです。
国際的な腎臓病グループ(IRIS)の先生方が提唱している
血清リンの目標値があります。
IRISステージ1では目標リン値は2.5~4.5mg/dl、
ステージ2では<4.5mg/dl、
ステージ3では<5.0mg/dl
ステージ4で <6.0mg/dl  になっています。
本当はどのステージでも<4.5mg/dlらしいですが、それは実際的では無い
つまりステージが上がってくるととうてい無理がある、ということで
こういう数値に目標設定されているようです。
これらは正常値(参考基準値)といわれているものよりも
さらに低くなっています。

リンのコントロールの意義は、
1、病猫の具合が良くなるから。
2、生存期間がのびるから。
3、病気の進行が遅れるから。
とあり、今現在高リン血症が無くても、高窒素血症(BUNやCreが高い)があれば
リン制限をしていくべき、ということです。
リン制限は腎臓病用の食事の摂取でも可能ですが、
リン吸着薬との併用がなお望ましいようです。
こうしたお話しは、サラキャーニー先生から伺いました。


リン吸着療法を始めてもすぐにリン値は下がりませんが、
数週間、数ヶ月といった長い目で続けていくことが良い結果を生みます。
食事変更には難色を示す猫さんもいますが、
ゆっくりでも変えてもらうと良いと思います。
以上です。

おだいじにしてください。

ハート動物病院
杉田恵子

ありがとうございます!

杉田先生

お忙しいところ詳しいお返事
どうもありがとうございました!
すごく勉強になります ほかの記事も本当に参考になり
とてもありがたく読ませていただいています

療法食 少しずつ試してみようと思います

リンですが、IRISの基準と比べると
10に上がるまで待っていていいのか
ちょっと心配になりました。。
その頃にはもうなんらかの症状が出たり
別の病気になったりする可能性も高くなってしまうでしょうか?
調べているとき石灰化とか腎性二次性上皮小体機能亢進症と
いう病気がでてきたのですが・・

またリン吸着剤でカリナール1を使う場合は
カルシウムをモニターしながらということですが
大体どのくらいの間隔でチェックするのが
望ましいでしょうか?

以前、アルサルミンという吸着剤があると
かかっていた先生から聞いたことがあるのですが
先生が書いていらっしゃった水酸化アルミニウムと
水酸化マグネシウムの合剤というのと同じでしょうか?

またたくさんお尋ねしてすみません
教えていただけたらうれしいです

tonto

Re: ありがとうございます!

こんにちは。

高リン血症があると、猫のQOLも低下するし、生存期間も短縮するということで、
腎臓病の先生方は、すべてのCKDの猫に、病初期からリンコントロールを勧めています。
血漿リン値がいくつになったら始める、というのではありません。
高窒素血症(BUNやCRE値が高くなっている状態)があれば必ず、です。
ただ、食欲不振があったり、ほかの治療を行っていたりして
プラスのお薬を飲ませるのが大変だろうとか
飼い主さんに経済的な負担をかけすぎてしまうだろうかと
心配される先生におかれましては、すぐに処方にはなられないかもしれません。

使われるお薬ですが、他にもありますが主なものは次のものです。
①水酸化アルミニウムゲル
これは安価ですし、胃の粘膜保護にも使われるお薬のため使いやすいです。
「透析を行っている人には使わない」というのもあり、
アルミニウム中毒を気にかける先生もおられるかもしれません。
私はこれをずっと使っていますが副作用をみたことはありません。
アルミニウム中毒の報告は2例あるそうです。
長期に多量の薬を使うのは心配かもしれません。
②炭酸カルシウム
血漿Ca値が高いときには使われません。
こちらも安価なお薬です。

これらの薬に対して、動物用にサプリメントが出ています。
①レンジアレン
旧ノバルティス社(現エランコ)が作ってくれました。
塩化第二鉄や炭酸ナトリウムが主成分です。
うんちは鉄の影響で黒くなります。
貧血を起こすことも多いCKDの猫には鉄補充の効果もあると思います。
②カリナール1
バイエル社の製品です。
炭酸カルシウム、グルコン酸乳酸カルシウムなどが主成分です。
どちらも消化管内でリンを吸着し便とともに排泄されるお薬です。
動物用のお薬の場合、「飲みやすさ」を追求するため、
お薬が単剤にならず、飲ませるための+αもあり
「サプリメント」の扱いになるし、単価も上昇してしまいます。

リン制御の効果判定は6~8週とサラ・キャーニー先生はいわれていました。
とにかくすぐには下がらないけれども、地味に続けるように言われました。
判定後減少が無い場合は、
腎臓用療法食と薬を組み合わせる、薬を増量する、2番目のリン吸着薬も使う
などアレンジされます。

腎臓病とリンコントロールがとても大切なことなのに、
ここにまとを絞ってお話しする機会は無かったかも。です。
また、ブログに載せられたらと思います。
まとめてみます。

猫さんのこと、おだいじにしてください。

ありがとうございます!

お返事ありがとうございました!

兄弟猫がそれまでは元気で、食欲もあり、尿量も普通、菌も潜血もたんぱく尿もマイナスだったのですが、急に足がふにゃふにゃ立たなくなって食欲が少し減ったため病院へ行きました。前月からひと月の間にBUNが61から124に、CREが1.8から3.6に、リンは4.6から8.7に上がっていて、貧血もみるみる進み、その後2週間あまりで旅立ちました。信じられない思いでした。

自分ももっとしっかり知っておかなければ!と思っていたときにこちらのブログにたどりつきました。慢性腎臓病についての診断の方法、検査、吸着剤、おうち点滴などの記事も本当に勉強になりました。

糖尿病のコにはいろいろ見逃さないよう早めにケアしてあげたいです。
腎臓病とリンコントロールの記事、また勉強させていただけるのを楽しみにしています。ありがとうございます。

tonto
プロフィール

ハート動物病院

Author:ハート動物病院
ハート動物病院です。
〒445-0062
愛知県西尾市丁田町杢左51-3
TEL/0563-57-4111
オフィシャルサイト:http://www.heart-ah.com/

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
ブログランキング
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード