猫の慢性腎臓病・長期管理2

 猫の慢性腎臓病の管理についてのお話、続きです。

前回は脱水、栄養、高窒素血症、高血圧の管理についてお話ししました。

 


5、タンパク尿のコントロール


タンパク尿は腎臓病の進行を速めてしまいます。IRISのサブステージ分類ではUPC0.4を超えたものを治療対象にしていますが、境界性タンパク尿である0.20.4のものでも治療を始めた方がよいだろうとする先生も多くいらっしゃいます。

ベナゼプリル(ACE-I)やテルミサルタン(ARB)で治療します。フォルテコール、セミントラはどちらも動物用のお薬です。(フレーバー錠、水剤)

目標数値は0.4未満です。

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6、高リン血症のコントロール

血清リン濃度を適正値におさめるのに、脱水の修正は不可欠です。腎臓病が疑われ検査した時点である程度進行している腎臓病だとわかったときに、血清リン濃度がとても高くなっていることがあります。高窒素血症をともなったこの時点で、いきなり高リン血症のコントロールのためのお薬を投与するのは難しい場合が多いです。早くリンの値を下げて、腎性二次性上皮小体機能亢進症(長い名前ですね)を制御したいと気持ちがはやるかもしれませんが、おう吐をコントロールし、内服薬を投与しても吐くことがなくなってから使用すると猫に無理がないと思います。

リン吸着薬にはいろいろな種類がありますが、当院では主に水酸化アルミニウムを使用しています。(水に溶いて使う白濁液剤)アルミニウムについては長期使用において不安な点を指摘する見方もありますが、猫の慢性腎臓病ではヒトに比べ使用期間は極めて短い間になります。また胃壁をカバーするので尿毒症性胃炎にも有用です。(胃潰瘍の時にも使用されるお薬です)

高リン血症が点滴療法やリン吸着薬療法で低下させることに成功すると安心です。たいていは高窒素血症のコントロールと同時に高リン血症も低下させられると思います。

維持期には、食事は療法食(これはリン制限されています)を選択します。リン制限食を食べられない場合一般食になりますが、この時はリン吸着効果のあるサプリメントを使います。レンジアレン、カリナール1といったものです。動物用に作られたものです。(細かい顆粒)

目標数値はIRISのステージにより異なります。ステージ2では4.5mg/dl以下、ステージ3で5.0mg/dl以下、ステージ4で6.0mg/dl以下です。

 

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7、貧血のコントロール

慢性腎臓病では赤血球をつくるホルモン、エリスロポエチンの不足が貧血を招くため、エリスロポエチンの補充療法がとられます。遺伝子組み換えエリスロポエチン製剤を注射します。

これらの効果を最大限に生かすには、不足している鉄剤の補充も不可欠です。(顆粒)

採血の頻度を下げ、1回の採血量を少量にすることも私たちにできる目標事項です。

ひどい貧血で食事もままならない状況では適合ドナーからの輸血も効果的な治療法です。一時的にせよ、食欲回復に役に立ちます。ひとたび食欲が回復すれば、栄養面からのサポートができるからです。

目標のヘマトクリット値は2730%です。

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8、低カリウム血症の管理

食事からの摂取量が不足することや尿からの排泄が増えることから血液中のカリウム濃度が下がります。カリウム値が下がると筋肉が弱まり、食欲も低下します。

療法食にはカリウムが添加してあります。

それでも低カリウムになる場合にはグルコン酸カリウムを投与する必要があります。(散剤)

カリウムが投与できるサプリメントがあります。動物用で、フィトケアといいます。(液剤)

重度の低カリウム血症では点滴の液剤にカリウムを加えてゆっくり補液します。

血清中のカリウム濃度は4.0mEq/l以上を目標にしています。これはいわゆる標準値といわれる数値範囲の「中から高」になっています。

ステージが上がり、尿生成が落ち、乏尿になったころ、身体が酸性に傾くのと一緒に高カリウム血症になることがあります。体の変化に敏感に気づくために定期的な検査は欠かせません。

 
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9、尿路感染症の管理

慢性腎臓病の猫では尿路感染をおこしやすくなっています。定期的に尿検査を実施します。細菌尿が認められる場合には抗菌薬を投与します。数週間から数か月間薬が必要になる場合もあります。

尿の培養検査を実施し、どのような薬剤に感受性を示すのかを検査してから効果的な抗菌薬を選択することが望ましい方法です。

ヒトでそうであるように、猫でも尿路感染症が認知症の症状を発症させることがあるらしいです。高齢猫の尿路感染症の管理は生活全般にも影響を与えそうです。

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10、おまけ:感染症の予防

腎臓病だと定期的に接種しているワクチンをどうしたらよいものか悩まれる飼い主さんがいらっしゃいます。腎臓病では感染症に対する抵抗性が低くなっているため、感染した場合は重症化しやすくなります。安定期であればワクチン接種も可能です。予防医療はとても有益な医療です。

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<飼い主さんと動物病院の結びつき>

腎臓病の病態は個々で違います。誰かが飼う猫の病態は自分の飼う腎臓病の猫とは異なった様相をとるので、誰かの猫に良かった治療方法がすっかりそのまま当てはまるわけではありません。また腎臓病は常に進行しています。Eliott先生は「腎臓病はエスカレーターではなく、階段状に進行する」とおっしゃっています。ある時までは平たんで穏やかな安定期があり、ある時ひょいっと1段昇るような感じで進行するということです。

そのようなわけで、腎臓病だと診断されてから、次の再診までしばらく間を開けるということがなく、できるだけ密なコミュニケーションをとっていきたいと思います。再診されたときには些細なことでもお知らせしていただき、心配になっていることが腎臓にとっていいことなのか、ほんとはよくないけど仕方のないことなのか、絶対に避けるべき悪いことなのかなどアドバイスしていきたいと思います。定期的な検査はもちろんですが、状態が変化したときにも確認の検査を行い、ちょっとの悪化を見逃さずすぐに対処するのがベターな方法だと思います。それには病院に来やすいということが不可欠でしょう。日ごろ病院に来ていればこそ、こうしたフットワークの軽さが生まれるものと思います。

時にはがっかりし、暗い気持ちにさせてしまうことがあるかもしれませんが、そんな時こそしっかりサポートさせていただこうと思います。

病気についての正しい知識を飼い主さんが持ってくださると、飼い主さんが望むことの中で、今できること、ぜひするべきこと、もうできなくなってしまったことなどが明確になってくると思います。もちろん猫さんが望むことも徐々にわかってくるだろうと思います。

猫の慢性腎臓病について4回にわたってお話ししました。今回で一旦終了します。


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テーマ : 動物病院
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