犬のリンパ腫3

 犬のリンパ腫についてのお話し、3回目です。

 リンパ腫の治療の主役、抗がん剤についてです。

 

<抗がん剤を選ぶときに考慮していること>

抗がん剤を使うとき、薬の効果を最大にして、副作用を最小にとどめるための最適な方法を考えています。

①動物側の問題としては年齢、一般状態、病期(ステージやサブステージ)のこと、

②腫瘍側の問題としては腫瘍の臨床型、細胞の種類、分化のグレード(挙動の特性)のこと、

③家族側の問題としては時間的な配慮または経済的な意向など

これらが総合的な判断材料になります。

何がベストな治療法なのか、それによってどのような予後が予想されるのか、答えは一つになりません。リンパ腫の治療方法は個々の症例で異なってきます。

おすすめするプランをいくつかお話しした後、おうちに持ち帰っていただき、できるだけ早く結論を出してもらい、再来院し、再びご相談してプランを決定しましょう。どの治療方法を希望するのか、または希望しない場合はどうするのかという場合も出てくるかもしれません。

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<抗がん剤を使用した治療計画の例>

何回かプロトコールという用語を使ってきました。これはリンパ腫と闘うために使用する化学療法の投与計画です。どの薬剤をどの量いつ使うかといったものです。

この計画で使われる薬剤のほとんどが静脈内に点滴するか、直接注入する薬で、一部は内服薬です。静脈内から薬液が漏れ出ると血管周囲や皮下組織に激しい炎症と皮膚にまで広がる壊死を起こす危険があるため投与中は診察台の上で静かに動かないようにしておく必要があります。(安全性の確保のために鎮静剤を必要とする場合もあるくらいです。)導入に際して数日間は入院で、その後の投与は通院になりますが、投与日は原則お預かりで処置を行います。(初回の入院処置は臨床型によってはとらない場合もあります。)

例えば多剤併用療法では週に1回くらいのペースで12週間から25週間にわたって行います(途中2週間に1回になります)。

ドキソルビシンを用いるならば、初回導入まで数日の入院で、その後は3週間に1回の通院で投与していきます。

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<たくさんの薬を使う狙い>

抗がん剤を使った治療計画に単剤で行う方法と複数の薬を使って行う場合があります。治療効果に違いが表れることをお話ししました。どうしてたくさんの薬を使った方がより良い効果を得られるのでしょうか。

がん細胞と正常細胞とでは細胞分裂や代謝の違い、特定の薬に対する依存度に差があります。これを利用してがん細胞だけを傷害し、正常細胞をできるだけ傷害しないような薬物を抗がん剤として利用しています。効果を示すためにはがん細胞にその薬に対する感受性がなければいけません。始めは抗がん剤の感受性があった細胞も、抗がん剤を使用した後は耐性ができて効かなくなってしまいます。薬物代謝が活性化したり、薬の細胞内の取り込みが減少したり、標的となる物質の量が変化したり、DNAが修復されたりして、腫瘍細胞が薬の毒性から逃れられるように変化してしまう結果です。

それで、複数の薬が効くのであれば1種類を繰り返し使うよりは、何種類かの薬を交互に組み合わせたプランを実施して、できるだけ腫瘍細胞が薬に耐性をつくらないようにしながら治療する方が好ましいことになります。

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<有害事象と目指す治療について>

動物が耐えられる最高量を最短間隔で投与すると、抗がん剤の最大効果が得られます。ややこしい言い回しですね。用量を高く、頻回投与すると薬の濃度が体内で高まるのは分かりますね。そのようなことです。けれどそれによって完全寛解率が高まっても有害事象も最大になります。これでは体がへたばってしまいます。(有害事象というのは薬を投与したときに現れる様々な好ましくないことがらで、副作用も含まれます。)

それで完全な完治を目指して治療するのではなく、完治はなくても体への負担が重くなく、最大の効果が得られる方法で治療することを目標に置いて治療します。残念ながらリンパ腫は完治することができない腫瘍だからです。上手に抗がん剤と向きあい、QOLを損なうことのない最長の延命を目指します。

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<有害事象とその回避>

抗がん剤には期待したのとは違う作用が発現します。よく心配されるのは

「毛が抜けちゃうの?」

「おう吐が止まらないんじゃないの?」

「下痢をするって聞いたわ」

「食べられなくなっちゃうのかしら?」

「だるいんでしょ?」

というような事柄です。

抗がん剤を用いて治療を始めるとき、まず初期段階で発生する可能性があるのは「腫瘍溶解症候群」です。いきなりハードな治療を行うと不意打ちを受けたがん細胞が一度にたくさん壊死します。そのため血液中に多量の好ましくない物質が出現し、それにより体が異常をきたします。これを避けるため、最初の抗がん剤治療は入院し、点滴を受けながら十分な観察のもとで行われます。

有害事象の中で発生が多いのはおう吐などの消化器症状と骨髄抑制と称している血液細胞の減少症です。抗がん剤は盛んに細胞分裂を行っている組織に向けて作用します。それは消化管粘膜上皮細胞や、骨髄、毛根の細胞です。日々新しい細胞がつくられている場所というわけです。抗がん剤には腫瘍組織と健康組織の区別はつきません。ただひたすら増えていく時期の細胞に腫瘍、正常の見境なく作用してしまいます。

嘔吐が発生するのは直後と3から5日後になります。薬が直接、脳のおう吐中枢にかかわる場合と、消化管粘膜の障害によって発生する場合とで、おう吐が起こる時間は投与時刻とのズレが生じます。下痢が起こることもあります。消化器症状の発生は各種の制吐剤等でコントロールが可能です。

毎日血液細胞をつくっている骨髄に傷害があると血液細胞が産生されなくなります。血液中に出ている血液細胞の寿命との関係から、血液細胞が少なくなる日は投与日から遅れて発生します。薬によって、あるいは血液細胞の種類によって最も数が少なる日は違います。血液細胞の減少症に対しては頻回の血液検査を通してチェックし、低値を早く検出できるようにします。対応策としては骨髄を刺激する薬の使用があります。

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心配される脱毛は動物では極めてまれなことです。被毛に影響することは少ないのですが、治療開始から数か月経過したころにひげの脱毛が起こることはあります。

そのほか血管外に薬液が漏出すると激しい血管周囲炎、皮下組織炎から皮膚や周囲組織の壊死を招く薬剤もあります。そのため抗がん剤の注入時は診察台の上で静かにしてもらう必要があります。

薬によっては膀胱炎をおこすものがあります。血尿が出ます。

また心臓によくない作用を起こすことが知られている薬もあります。どんなに効果があっても使える回数に限りがあるのは、こうした薬に限度量があるためです。

なお薬用量を減少すると効果が得られません。効果がある分量を使うか、休薬するか、別の薬を選択するかなど、可能な限り減薬しないで安全に投与するようにします。

嘔吐や下痢などの副作用は治療の過程で、個々の特性が出てきます。回を重ねるうちに対処方法が容易になってくるような傾向はあります。

 

 

今回のお話はここまでです。抗がん剤にまつわるあれこれについてお話ししました。

次回はご家族の方にお願いしたいことや栄養管理についてお話して、犬のリンパ腫についてのお話を最終にしようと思います。

 

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