猫のリンパ腫・治療・悩むとき

猫のリンパ腫についてのおはなし、3回目。

今回は治療についてです。

 

<ローグレードなら>

猫のリンパ腫では発生部位によりある程度の悪性度が決まってきますが、細胞検査から間違いなくローグレードと判断されれば、キツい抗がん剤を入院または外来で実施しなくても、家庭で内服薬を投与していくだけでよい場合があります。

 

<ハイグレードだと>

 残念ながら高悪性度の結果が出た場合は、犬のリンパ腫の時と同じように複数の抗がん剤を組み合わせたコンビネーションプロトコールが必要になります。もし検査のために試験開腹をしたのであれば、術後2週間くらいしたところから開始します。

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<抗がん剤の予定>

 お勧めするのは多剤のコンビネーションプログラムです。約2カ月間、毎週同じ曜日に抗がん剤の投与を行います。そしてその後は2週間に1回の予定で約4か月半継続する方法です。内服薬も11回の投与を続けてお願いします。複数の抗がん剤を併用して使うことの利点については犬のリンパ腫のところでお話ししました。25週を一区切りとして、安定していればしばらくお休みに入ります。

 このようなポロトコールのほかにも、毒性の強い抗がん剤を使用しないプロトコールがあります。2種類か3種類くらいの抗がん剤を使うやり方です。高齢の猫で治療に耐えられるかどうか不安なとき、無理に進まない、けれど手放しであきらめたりはしたくないというようなときは話し合って、多くのポロトコールの中から納得できる方法を選ぶことができます。

 注意したい副作用は白血球数の減少による発熱事象です。白血球は細菌をやっつける兵隊細胞ですから、白血球数が減少すると細菌感染を起こしやすくなるのです。抗がん剤によって最も白血球数が少なくなると予想される日がありますので、まめに血液検査を行い、少ないと判断された場合は白血球を増やす薬や予防的な抗菌薬の投与を行います。また歯周病があれば先に治療しておきます。下痢も腸内細菌のバランスに影響を与える因子ですから、整腸剤などであらかじめ体を整えておくのも有効です。菌が体に入らないようにすることが大切なのです。

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<補助療法>

 リンパ腫の治療の中心は抗がん剤による化学療法です。しかしがん治療はがんをなくすことだけを目標にしているわけではありません。がん患者である猫のQOLを考えたトータル管理が重要です。

 脱水があれば点滴で改善させます。点滴と同時にビタミン剤を投与したり、低ナトリウム血症などがあれば電解質の補正も行います。痛みがあるようならば疼痛管理、気持ち悪そうにしていたりおう吐することがあれば制吐剤の投与をします。この中には食欲を低下させる要因をコントロールしていくことにもつながっています。食欲刺激剤を使用しなくても、総合的な対応で猫は食欲を回復してくれます。

消化器型リンパ腫の場合なら間違いなく、またそのほかの部位にできるリンパ腫でも食欲がそがれています。それなりに食べていても「痩せてきた」という場合、慢性的な栄養の代謝異常が起こっています。「食べているのに痩せが目立ってきている」のは食べた栄養ががん患者である猫の体に十分に回らず、がん細胞がこの栄養を奪っている状況です。「がん性悪液質」と呼んでいます。十分な栄養補給のために行う補助療法は不可欠です。栄養療法を充実させると栄養状態が良くなるだけでなく、抗がん療法の成績も上がりますし、好ましくない副作用も減少します。

 栄養チューブを設置することもあります。

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<栄養療法>

 栄養療法はがんと立ち向かう治療チームの中でも、とくにご家族の方の活躍が功を奏する部分です。積極的なご協力をお願いしたいです。

犬のリンパ腫のところでもお話ししましたが、がん細胞は炭水化物が好物です。栄養素としてたんぱく質の利用はふつうで、脂肪は栄養素として使うことができません。そのため高脂肪、とくにω3脂肪酸を多く含む青魚などはリンパ腫の猫向きの食事です。

 処方食であればhill’sa/ds/dがこれに相当します。とくにa/dは粒子が細かいためポンプ投与ができ、栄養補給には好適です。

 炎症性腸疾患との絡みで下痢がある場合は、高脂肪食だと消化が悪く、がんのことを考えると適切な食事になりますが下痢症状を悪化させてしまうことも考えられます。この場合は消化の観点から下痢を起こさないものを選びます。

 「あまり先がないのなら」と嗜好性に重点を置いた食事を与えたくなるかもしれませんが、下痢をすると栄養として利用できないことも考え、症状に合わせ、好適な食事を選んでください。

 食事内容のほか、食事を人肌程度に温めてより興味をそそるにおいを出させることや、鰹節などの香りの高い食材のトッピングをするのも食欲を高める工夫です。高齢猫で関節症が考えられるときは食器を台の上に乗せ、首をたくさん曲げなくても食べられるようにしたり、同居猫がいれば関係性を考えて食事を与えることもプラスの作用があります。

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<悩むとき>

 診断のための検査の段階でも、どうしようかと悩む場面があるだろうと思います。さらに治療となると、どう選択したらよいのか考えることも多いだろうと思います。病院に連れてこられる人とは別にご家庭に今後のことを決める立場にある人がいる場合、ご来院くださった方が家に資料を持ちかえって説明するのも大変でしょうし、説明を受ける方もわからないことが多いだろうと思います。やはり複数の方に来院していただいて、皆さんに同時にお話を聞いていただくのが好ましいと思います。質問などもその場で受けることができます。もちろん院内で決定することができない場合は、ご家庭でさらに検討を重ねていただき、そのうえでまた疑問点が沸いて来たらメモしてきてもらって再度話し合いをします。このようにして納得できる方法を探すのが一番だと思います。

 治療方法に関しては時間的な制約や経済的な問題も関与してきますから、十分に話し合う必要があります。

 もし積極的に治療をしていきたいとお考えの場合、高次病院での治療も考えられます。病猫がまたはじめから検査を受けなおさなくても済むように紹介病院への資料添付を行いますので、遠慮なくお申し出ください。

 また、プランした治療が順調にすすまないこともあります。予定が変更になることもあります。魔法の薬があればいいのに、そうはいかないのが抗がん治療です。使える薬があるうちは細く長く続けることができます。猫さんの体調さえしっかりしていれば継続することは可能です。

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<緩和ケア、終末期ケア、延命治療>

 緩和ケアというとがんに対しては何もせず、自然体でいるように思われがちですが、前述したような総合的な補助療法はすべて緩和ケアです。

 終末期になった時には痛みやおう吐を取り除くことに主眼を置いた治療に入ります。腫瘍に対して抗がん剤で応戦するようなことはしません。ただ、この時期に飼い主さんの気持ちの整理がついていないと、嫌がる猫に「食べないと死んでしまう!」と強く食事を与えようとしたり、苦しむ猫に気づかず抱きしめたりしてしまうことも見受けられます。落ち着いて現状を受け止め、冷静に対応できるように、ご自身も静かに過ごす時間を作っていただくとよいかと思います。飼い主さんの心の安定は患者である猫さんの望みだろうと思います。

 延命治療というのは先がないものにチューブをつなぐようなこと。交通事故の救急搬送でもないのにがんの終末期に気管挿管をして酸素療法に入るようなことはしません。緩和ケアも終末期ケアもケアであって、患者のことを考えて行うものです。はじめから抗がん治療を延命療法だと考えるのは残念な気がします。

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 どんな病気でも、永遠の命はないので終末期がやってきます。とても苦しく、辛そうになってきたときにどうしようかと考える日がきっと来るだろうと思います。積極的な治療を選択すれば「抗がん治療は辛くなかっただろうか」と悩み、消極的な治療を選んだ場合も「寿命を縮めたのではないか」と考え、治療を選択されなかった場合も「何もしてやれなかった」と肩を落とすのです。

愛猫が病気になると、いろいろ調べては「こんな治療法があるみたい」、「あんな治療法があるみたい」と振り回されがちです。おうちの方があれこれ試してみたくなるのも愛情ですが、それにばかり目が行くと、いつもの、あなたの家族の生活そのものが失われ、そういったものばかりに左右されてしまいます。むしろがんのことを忘れて生きていく方が心にゆとりを持つことができ、アップダウンしがちな気持ちも平穏になれます。もちろんいつもポジティブでいる必要はありません。悲しい気持ちはいつだって襲ってきます。

だからいろいろ思い迷うこともおありでしょう。けれどご家族の選ぶ方法はどれも間違いではないのだろうと思います。患者である猫の気持ちを思い、寄り添い、大切にしてあげることが一番です。ほかの病気に比べて腫瘍はより未来が見えやすいかもしれません。期限付きの命であればこそ、今を大切にしてほしいです。治療の合間の楽になる時ならなおさら、思い出作りのためのあれこれをするのもご家族のためにいいのではないでしょうか。

 

猫のリンパ腫についてのおはなし、今回で終了です。 
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テーマ : 動物病院
ジャンル : ペット

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No title

いつも伴侶動物の情報をありがとうございます。
最近、愛猫を亡くしたもので、この記事の最後の方の言葉に慰められました。感謝します。
愛猫は心筋症(おそらく拘束型と言われました)での突然死でした。
もし可能ならば、猫の心筋症に関する解説をお願いできないでしょうか。先生の分かりやすく、優しい言葉でのお話を伺いたいのです。
どうぞ、よろしくお願いいたします。

Re: No title

KUUさま

ブログをご覧いただきありがとうございます。
心筋症は突然死を起こしますね。
ほんとにがっくりします。こちらも全身の力が抜けてきます。
実は先日もそんな悲しいお別れがあり、猫の心筋症について文章を準備していたのですが、いまひとつ、ブログに乗せるまでに推敲ができなくておるところでした。
獣医療に携わるものとしてお恥ずかしい話しですが、ちっちゃいサイズのペットロスのようなものが発生します。
お便り戴いて、元気が回復しました。ありがとうございます。
心筋症について、まとめますね。

ワタシの綴りでよろしかったらまたご覧ください。

ハート動物病院 すぎた
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