猫の心筋症

猫の心臓病の中で数多く遭遇するのは心筋症です。人の心筋症の有病率は500人に1人(0.2%)だそうですが、猫の心筋症の発生率を調べてみたらあら、びっくり。もっと高くて、9%くらいという報告や、15%くらいという報告もありました。それじゃぁ忘れてもいないうちに心筋症の猫さんが来るわけです。

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<猫の心筋症の特徴>

猫の心筋症は早期診断が難しい!のが特徴です。
   
まず発症年齢がまちまちです。多くは中年齢で発症するのですが、もっと若い年齢でも(1歳未満)、高齢になってからでも見られます。ですから犬のように
「年齢が来たら心得ておく」とか、「中高齢になったら検査を受けて早期発見する」とか、「発見されたらステージに合わせた治療に入り悪化するスピードを抑え健康寿命を延ばす」といったルールがありません。

    徐々に進行していく病態の中で症状らしい症状がありません。犬の僧帽弁疾患のように「咳が出る」というような指標があるとそれをもとに診察にいらしていただけますが、非常に重篤な状況になるまで症状が現れないことが多いです。犬の心臓病では散歩を嫌ったり、散歩に行っても疲れやすくとぼとぼ歩くとか、散歩の途中で座り込んで歩かなくなったりする「動けない状況」(運動不耐といいます)があるのですが、猫の生活ではそのような観察ポイントはありません。

    心筋症の場合、定期検診で聴診しても、必ずしも心雑音が聞かれるわけではなくて、実は猫の場合心雑音が聞かれたとしても心臓に異常が認められないこともあるため(機能性雑音といいます)、そのほかの様子に問題が無ければ「OKですね」ということになるかもしれません。ましてやそこから発展して、若い年齢の猫の胸部レントゲン撮影や心電図検査を行うことはあまりないかと思います。猫というのはあまり検査に協力的でない動物ですから。(検査を実施しないことの言い訳っぽくなっているかもしれませんが。)

    そして、たとえ胸部のレントゲン検査をしても、明らかな心拡大や、うっ血性心不全(の所見が見られないと、心筋症を検出するのは難しいことです。

    それに猫は病気を隠す動物です。調子が悪いと動かず寝て過ごします。もともと日がな一日寝て過ごすのが猫という生き物ですし、しんどければなおさら、ただ寝ているだけなので状態を知ることが難しい。

 

そのようなわけで、いきなり「死にそう」なまでに発展した病状の猫に対して、「もっと軽いうちに病院に連れてきてあげられていれば」とか「初期症状を見逃してしまったのかも」というようなことはないので、そのように考えておられる飼い主さんが自責の念に駆られているようでしたら、それは今、きっぱりと捨ててしまってください。

 

………と、まずそのような話をしたところで、病気についてお話をすることにします。

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<猫の心筋症の分類>

これまで心臓のかたちと、運動性の異常にもとづいて猫の心筋症は分類されてきましたが、最近はもっと細分化されています。それでも一番多いのは

肥大型心筋症(Hypertrophic cardiomyopathy : HCM)で、次に

拘束型心筋症(Restrictive cardiomyopathy : RCM)、そして

拡張型心筋症(Dilated cardiomyopathy : DCM)と続きます。

割合的には肥大型心筋症と拘束型心筋症で8割を占めます。

全身性高血圧症や甲状腺機能亢進症に続発する心筋の肥厚は二次性心筋症として、原発性心筋症とは別のものという分類になっています。

このあとは最も多い肥大型心筋症に的を絞ってお話しします。

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<好発品種と発症の原因>

なんといってもメインクーンです。メインクーンは肥大型心筋症の原因として「ミオシン結合タンパクC遺伝子」の変異が特定されています。おそらくラグドルとアメリカンショートヘアーも同じ変異があるのだろうといわれています。ペルシャ猫にも家族性の発生があるようです。

猫の肥大型心筋症の原因は遺伝子によるものだけなのかどうかは不明です。それはミオシン結合タンパクC遺伝子の変異が認められていなくても発症しているケースがあるからです。もちろん、これ以外のまだ見つけられていない遺伝子の変異があるのかもしれません。そして遺伝とは無関係に発生する場合もあるのかもしれません。

加藤キララ
メインクーンのキララちゃんです。
キララちゃんは検査上異常は認められていません。



どのようにして心臓が悪くなるのか、肥大型心筋症の病態生理についてお話しします。少々お話しが長くなります。犬の心臓病の時もそうでしたが、血液の流れと血行動態から心臓とその周辺組織がどのように反応して病的な状態になるのかを知ることは病気を理解する上で大切なことですが、肥大性心筋症と診断されてまだ気持ちが落ち着いていないときには、内容が煩雑なので、ここは飛ばしてもらってもいいかなと思います。

それにしても肥大型心筋症は進行性の病気で、最終的にはうっ血性心不全に至り、悲しいかな、呼吸不全かまたは心不全で亡くなります。


<肥大型心筋症の病状が発生するしくみ>


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正常な循環の模式図です。
下の図と比べながら、肥大性心筋症のときに現れる心臓の変化を確認してください。


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肥大型心筋症の時の模式図です。
ガス交換がうまくいかないため、肺から出る血管を赤から紫にしています。

 
① 最初に左心室の心筋壁が肥厚します。筋肉の肥厚にはたいてい原因があります。まだ歩けない赤ちゃんを抱っこするとお母さんの二の腕が太くなる、というように。けれど肥大型心筋症の始まりである左心室の肥厚はどうして起こるのかがわからないまま、始まります。肥厚は心臓の内側に向かって起こります。ですから心臓の内腔は狭くなります。(心臓の超音波検査で壁の肥厚をとらえることができます。心室中隔と左心室自由壁どちらか1方かまたは両側、わかりやすいのは両方厚みがある場合です。くわしくはもっといろいろな切り口で肥厚を分類します。)

② 心室の筋肉内には心臓の筋肉に栄養を送っている毛細血管がありますが、肥厚により圧迫を受けるため十分な栄養を心筋に送ることができません。心筋虚血という状態になります。心筋そのものに障害が起こり、心臓の内腔を広げようとしてもうまく拡張させられません。(心筋細胞のダメージは血液検査でとらえることができます。また心電図検査を行うと心室性の不整脈をとらえることがあります。超音波検査では不十分な拡張を確認できます。)

③ 肺でガス交換された酸素たっぷりの赤い血は左心房を通って左心室に入りますが、血液が送り込まれても左心室に十分な容積がないので、左心房と左心室を隔てる僧帽弁を通って血液が逆流してしまいます。この血流のために僧帽弁は損傷を受けて弁に隙間が生まれます。(隙間があると血液は逆流し、聴診で心雑音が聞かれます。)

④ 左心房は逆流した血液を受け止めますが、肺静脈からも血液は送られてくるので血液でいっぱいになります。こうして左心房が拡張します。(レントゲン検査で左心房の拡張した心陰影を確認することができます。)血液をしっかりと受け止めようとして左心房の壁も厚くなります。

⑤ 左心室に送られるはずの血液が渋滞し、うっ血性心不全の兆候である肺水腫や胸水を起こします。肺胞でのガス交換がうまくできないため、身体はしっかり酸素を取り入れることができなくなります。(息が苦しくなります。レントゲン検査で肺野が白く映し出されます。これは危険な状態です。)

⑥ また左心房での血液のよどみは、内腔の内皮細胞が壊れることやや血液が固まりやすくなるその他の条件が重なると血栓を形成します。(超音波検査で「もやもやエコー」をとらえられるかもしれません。動脈血栓塞栓症*の併発です。さらに危険度は増します。)

⑦ 左心室の内容量が少なくなると、1回の拍出で全身に送られる血液の量は少なくなります。全身、特に脳などで必要としている酸素や栄養素が届きません。(虚脱や失神、場合によっては突然死が起こることになります。虚血は明らかな致死的不整脈によってとらえられます。)

 

うっ血性心不全

*動脈血栓塞栓症については後日説明します。

 

話が長くなりましたので、今回はここまでです。

やっぱり肥大型心筋症は怖い病気です。

次は「うっ血性心不全」ってナニ?っていうお話しと、「お宅の猫ちゃん、肥大型心筋症です」と説明することになった猫さんがどういう理由で病院に連れてこられたのかというお話し、そのとき病院ではどのようなことをするのかということをお話しします。

 

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