動脈血栓塞栓症というのは・ほか

 猫の心筋症のお話し3回目です。

肥大型心筋症に併発する動脈血栓塞栓症、安定期の内科治療についてお話しします。

 

<動脈血栓塞栓症>

動脈血栓塞栓症というのは、血管または心臓内でできた血栓(血の固まった物)が血流に乗って流れ、突然遠方の動脈を詰まらせてしまう状態です。詰まった部分から先の方へは血が通いません。そのままになっていると、血が届かなくなった組織は血液不足から来る(虚血性)障害が起こります。

健康な動物では血栓が作られたり溶かされたりというのはうまくバランスがとれています。血管内で血栓が作られないように常に調節されているのです。このバランスが崩れると血管の中に病的な血栓が作られます。血栓が作られるときの3条件があります。血液の凝固が亢進していること、血管の内張り細胞が傷ついていること、血液の停滞があることです。

血栓症の原因で多いのは肥大型心筋症です。肥大型心筋症では、心筋症の進行によって、左心房が拡大します。それで心房の筋肉が伸びて、内皮細胞に変化が起こり、血栓の主役とも言える血小板がくっつきやすくなっています。また僧帽弁逆流から左心房では乱流が生じていて、拡大した左心房で血液が渋滞しています。とても血栓が作られやすい状況が生まれているのです。

詰まりやすい部分があります。腹大動脈が左右の後ろ足に枝分かれする場所です。真ん中1本だった血管がそこから右左に半分ずつ(正確にはちょっと違いますが)分かれるところです。

エコノミー症候群というのは静脈血栓です。静脈でできた血栓が流れに従って最も細くなった場所(肺)で塞栓をおこすものです。血栓による障害なので似ているけど、ちょっと違うんですね。

動脈血栓塞栓症はとても急激に発症し、死亡率の高い病気です。連れてこられたときの状況がショック様のこともあります。これは、厳しい状況だといういくつかのポイントがあります。(予後不良因子といいます。)体温が低下している、心拍数が少なくなっている、ほぼ動けない状況である、うっ血性心不全を併発している(肺水腫や胸水が認められる)、後ろ足2本とも脈がない、血液検査で高リン血症や高カリウム血症があることがわかった、抗血栓療法を行っていないなどが今後の見通しに関する不安要素です。

IMGP9115.jpg 

<血栓溶解治療の後に>

さて、血栓溶解療法が成功し、血栓が溶け、血が通わなくなっていた後ろ足に循環が戻ると「もうこれで麻痺が治る」「あとは歩けるようになるのを待つだけ」という雰囲気があるかもしれません。ですが、まだ次なる問題が待っています。それまで血が通わなくなった組織で放出されている物質があります。血液が再循環し始めるとこれらの物質が全身に運ばれ、血中の酸素と反応して有害物質を作ります。これが心臓や肝臓、腎臓などの障害を誘発するのです。全身性炎症反応症候群とか多臓器不全症候群です。こうした一連のことを「再かん流傷害」といっています。一度発生した身体に良くないことは、元に戻るときにもまた試練があります。

IMGP9116.jpg 

<安定期にある場合の内科治療>

なんとか急性期を乗り越えたら心臓保護の治療が中心になります。今後の内科治療の目的は心筋の緊張を改善して狭くなった左心室腔を広くすること、心筋に栄養を送る血管の状態を良くすること、うっ血を改善すること、低酸素症を緩和すること、重大な不整脈の発生をさせないようにすることなどです。βアドレナリン拮抗薬(βブロッカー)やカルシウムチャネル阻害薬を使います。

また今後血栓を作らないようにする治療も行います。有効なものはないといわれていますが、それでも血栓形成予防は実施します。

それから根本的な心肥大を回復させることですが、残念ながらこれは今のところありません。

IMGP9118.jpg 

<ちょっとまとめ>

猫の心臓病としてわりと発生頻度の高いのが心筋症で、そのうちの大部分は肥大型心筋症です。犬の心臓病としてよく知られている僧帽弁閉鎖不全症とは全く違う病気で、初期症状そのものがはっきりしていません。そして症状が出たときにはすごく病気が進行した状態です。

心筋のダメージ度によるものなのか、適切な治療を行っているのに治療中に突然死を起こすことがあるし、データとして上がってきている中央生存期間に比べ短命に終わってしまうことがあります。悲しいです。

世界中の心臓病専門医が掲げる標準的な治療法、つまりしっかりした研究に基づいた治療法のガイドラインがありません。心臓病専門医の先生の推奨する治療法を自分の経験に基づいて取捨選択し、治療を行っています。同じ肥大型心筋症といっても症例によって年齢や体重、病態が違います。薬に対する反応、そもそもどの薬を受け入れられるか、どの容量で与えると有効な反応があるのかも違うので、いくつかの共通した薬の中から使うことにはなりますが、最終的には個別治療になります。

 

今日のお話はここまでです。

次回は症状が出る前に肥大型心筋症を検出することができるかについて。

 

 

スポンサーサイト

テーマ : 動物病院
ジャンル : ペット

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

ハート動物病院

Author:ハート動物病院
ハート動物病院です。
〒445-0062
愛知県西尾市丁田町杢左51-3
TEL/0563-57-4111
オフィシャルサイト:http://www.heart-ah.com/

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
ブログランキング
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード