肥大性心筋症のスクリーニング検査

 間が開きました。
猫の肥大型心筋症のお話4回目です。

事前に検査をしておくとひどい症状で倒れる前に対処することができるのでしょうか。これは無症状の心筋症を見つけ出す(拾い上げる)という作業です。専門的にはスクリーニングといいます。

 

<どんな検査ができる?>

    問診と身体検査、視診、触診、聴診

    血圧測定

    血液検査

    心バイオマーカー

    レントゲン検査

    心電図検査

    心エコー検査

    遺伝子学的検査

ざっと思い浮かぶのはこのくらい。

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<問診と身体検査など>

ここで重要なのは遺伝的に疑いのある品種かどうかという点です。メインクーン、ラグドル、アメリカンショートヘアー、ペルシャ、ノルウェージャンフォレストキャット、ブリティッシュショートヘアーあたり。在来の日本猫もこれらの血が混じってしまっている交雑種もいたりして、真相はわかりませんが全体数が多いので日本猫の発生もそれなりにあります。

同じ兄弟に比べて体格が小さくはないのかとか、運動性、活発に動けるかどうかも気になります。

最初に静かにしているときの呼吸様相を観察したいです。触る前、興奮させる前に観察です。あとは脱水の確認。脱水があるとレントゲンをとったときに心臓の形が普通より小さくなっていて心筋症を見逃すことになってしまうんです。貧血はないか、可視粘膜の観察をします。貧血があると心臓性ではない心雑音が聞こえます(貧血性の心雑音)。おそらくは普通に歩いてジャンプもできる状態で連れてこられているわけですから、拍動のチェックは不要だとは思いますが、念のため股動脈を触り血圧を確認しますね。

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<血圧測定>

血圧を上げる病気によって二次的に心筋が肥厚することがあります。心筋が肥厚していることと肥大型心筋症とは別物です。こちらの可能性がないかどうか確認します。

 

<血液検査>

血球の検査で、貧血チェックです。

生化学検査ではいわゆる腎臓や肝臓の数値、血糖値など総合的な項目をチェックします。

電解質の検査も実施します。

甲状腺機能亢進症になっていないかどうか判断するために甲状腺ホルモン(tT4)値も調べたいです。

何か数値が上がっていたとしても、必ずしも心筋症に結びつくかどうかはわかりません。でも日常の健康診断項目ですので、ここまでの検査を6ヶ月か1年ごとに受けるのはとてもおすすめです。

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<レントゲン検査>

胸部レントゲン検査では心臓の大きさや形をチェックします。バンザイの姿勢で背中を下に胸を上にして撮影したもの(VD像といいます)では、心房が拡張した肥大型心筋症に特有のハート型フォルムを見ることがあります。(バレンタインハートと呼んでいます。)この形が見られると心筋症が確定ということはありませんし、この形が見られなかったら心筋症ではないということもありません。横に寝て撮影する場合も、心房部分が突出しているのがわかることがあります。

問題を持たずに、元気で来られていると想定すると、肺水腫や胸水の貯留の所見は見られないはずです。

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バレンタインハート型の心臓です。
 

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横から撮った写真、心臓の隣の白い陰が肺水腫です。
呼吸が苦しいので胃内に空気を吸い込んでいます。




<心電図検査>

聴診でリズムの乱れがなくても心電図検査は心筋症を検出するのに有用な検査になります。猫の心拍数はとても早くて、1分間に200を超えるようなとき、聴診器を当てながら、ごそごそっと動く猫に苦労しながらカウントするくらいなら、心拍数を心電図検査にゆだねるのは効率が良いかな、と思ってしまいます。実際、猫に不整脈が見られた場合、95%は心筋症などの心臓病を持つといわれていますから、疑われる場合は積極的に検査をするべきかもしれません。

正常な心拍いくつ当たりに一つの異常心電図が見られるのかはわからないので、猫がある一定時間端子につながれたまま、静かに横になってくれるとありがたいです。

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<超音波検査>

最も有効だと思われるのは超音波検査です。心エコー検査とも呼ばれます。

この検査を実施する時にいくつか問題があります。検査時間を猫が静かに過ごすことができるかという点と、超音波検査の機械が一般検査用のものか心臓病に特化した高性能なものかという点、そして検査実施者の技術的な面です。肥大型心筋症の診断に関しては細かな診断基準があり、エコーの切り口がずれると測定値に影響します。0.5mmで判断が変わることを思うと、一般病院では誤差が生じやすく、正確な結果を出せないでしょう。ここは循環器専門病院で、心エコー検査を得意とする同一の獣医師が検査に当たり、経時的に検査を繰り返すのが最も良い方法だと思います。

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<心臓バイオマーカー>

心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)や脳性ナトリウム利尿ペプチド(NT-proBNP)、心筋トロポニンI(cTnI)などの心臓バイオマーカーがあります。

心房性ナトリウム利尿ペプチドと脳性ナトリム利尿ペプチドは心筋が伸びる刺激によって放出される心臓ホルモンで、それぞれ心房筋と心室筋で産生されています。心筋トロポニンIは心筋内にある蛋白で、心筋に傷害があると放出されます。

それぞれの特徴から、心房性ナトリウム利尿ペプチドは肺水腫(うっ血性心不全)のマーカー、脳性ナトリウム利尿ペプチドは心室筋障害のマーカー、心筋トロポニンIは心筋傷害のマーカーということになります。

障害が発症したときにはとても有用なマーカーとなると思われます。しかし無症状で過ごしているときに心臓マーカーが反応して上昇しているかどうか、グレーゾーンで判断が難しい判断になるかもしれません。現時点で心筋に無理がないと数値は上昇していない、けれど数値が低いので大丈夫だと判断するのはまずいと思います。

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<遺伝子検査>

メインクーンとラグドルは遺伝子検査を受けることができます。

発見したら繁殖をしないということでは意味ある検査です。陽性ならばハイリスクということで、心イベントを発生させない努力ができるのは個体にとっても有効でしょう。それでも個別の病気を調べることを重きにおいた場合の費用対効果を考えると大変高価な検査です。

 


さて、こんなにもたくさんいろんな検査を実施して、「異常がでませんでした」ということになってもなお、肥大型心筋症は否定することができないのが最終結論です。


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<まとめ>

肥大型心筋症を無症状のうちに発見するスクリーニング検査は存在するのでしょうか。

一般的に、放っておくといずれ重篤な状態が訪れるだろう病気をスクリーニング検査で早期発見でき、早期に治療介入をすると長生きできるということになれば、その検査が手軽で安価であればあるほど大変有用です。尿比重の検査をして早期に慢性腎臓病を発見し、その後IRISのガイドラインに沿って腎臓を保護しながら病気のコントロールする、といった具合です。腎臓病は早く発見すればその後何年も生きていけますからね。

で、猫の肥大型心筋症の場合はどうでしょうか。聴診で心雑音をキャッチするのは肥大型心筋症に対して感度は高くありませんが安価で良い検査方法です。でも心雑音は全く問題のない猫でも聴取されることもあり、心雑音がもとで次の検査に進んでも異常がないことが明らかになることもあります。これは異常を知る入り口の一つとして有効ですが、これだけではスクリーニング検査として成立しません。しかし今回揚げた8つの検査、これだけの検査を行うと、何か異常をピックアップすることができるかもしれませんが、費用はかなり高くなります。またすべてにおいて異常がなくても否定できないわけですから、決してコストパフォーマンスに優れている検査とはいえません。そして肥大型心筋症そのものは重症のときはそれが原因で死亡してしまうかもしれない病気です。事前の検査として定期的に実施するにしては効率が悪いかもしれませんね。

 以上のことを総合的に判断すると、見かけ上健康な猫に簡単に実施できる検査で、肥大性心筋症のマーカーとして感度の高い方法はないなぁ、というのが結論です。

 

 

さて、次回で最後にしようと思いますが、今回のような検査を受けて、もし肥大型心筋症を発見できてしまったらどうしたらいかということについてお話しします。

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