糖尿病性ケトアシドーシス

 糖尿病性ケトアシドーシスについておはなしします。

 

糖尿病の猫が「すごく具合が悪そう!」なとき、糖尿病性ケトアシドーシスになっていることがあります。犬より猫の方がケトアシドーシスを発生することが多いように思います。ケトアシドーシスは(ときにケトージスの状態だけということもあるかもしれませんが)油断はできません。とにかく、これは内科的エマージェンシー事態で、この病態をしっかり管理して身体を復活させないと帰らぬ猫になってしまいます。

 ケトアシ3
だるだるしていて、しんどそうです。
横たわったまま寝ています。

<症状は?>

すでに糖尿病だと診断されていると、日々健康を観察していただいているので、発見が早いかもしれません。しかし、中には糖尿病だということに気づかず、調子が悪くなって来院されたその日に「糖尿病」に「糖尿病性ケトアシドーシス」を併発していると知らされたというケースもあります。糖尿病は「多飲多尿」ではありますが、「多食」にもなっているため、「食事をもりもり食べて、すごく元気」であると勘違いされてしまうことも多々あります。

そんな「大食漢だねぇ~」「まるまる肥えてるね~」「病気知らずのからだだね~」などとまわりから評されていた猫が、ある日突然

  「食事を食べない」

  「水も飲まない」

  「元気がない」。

それに

  「寝てばかりいる」し

  「嘔吐する」。

なにせ

  「動かない」

というか、

  「横たわったまま」

で、

  「呼んでも何しても反応が少ない」、

  「かろうじてしっぽをぱたぱた動かすくらい」。

とにかく

  「死んじゃいそう」。

といった思いもよらない状態になります。

ほんとに急に、です。

IMGP9774.jpg
簡易血糖チェックはベッドサイドで重宝します。
正確な値よりも少し低めに出ます。
 

<すぐに糖尿病性ケトアシドーシスだと分かるの?>

治療をしている糖尿病の猫が治療経過中にこのような症状になると、わたしたちはすぐにピーン!と来ます。いつものように血液検査と尿検査を実施すると、特徴的な異常値が出るので分かります。

治療していない猫がこのような状態になって連れてこられたときは、予備的な情報が無いのですぐに予想はつきません。それでも身体の調子を調べるために最低限の基本的な検査を実施させていただきますから、同じように血液検査や尿検査を行うので、結果的には診断に結びつくことになります。

身体検査では「だらっと寝ている」「意識が遠い」ことに加え「脱水」がみられるのが普通です。そのようなわけで、

    臨床的な状態がすこぶる悪いこと

    血液検査で高血糖だと分かること

    尿検査でケトン体陽性だと分かること

    血液の電解質が甚だしく異常値に出ること

などから、診断にたどり着きます。

ケトアシ1
基本の点滴液は生理食塩液ですが、
電解質の補正のためにいくつかの薬を計算する必要が出てきます。
mmEqという単位です。
高校の物理の問題は間違えても、
これを間違えるわけにはいきません。
命がかかっています。

 <血液検査のこと>

採取した血液を高速で回転させると、重たいものが下に沈殿し、軽いものは上に、と2層の構造に分離することができます。下に沈んだ重たいものは血液内の細胞、すなわち血球です。赤血球が大半を占めるので赤黒く見えます。上に来るのは血液の液体成分で、血漿(けっしょう)とか血清(けっせい)とか言います。この液体成分を用いて生化学検査や電解質検査を実施します。

健康な猫では、上澄みは無色透明ですが、糖尿病性ケトアシドーシスでは多くの場合、黄ばんで濁っていて(固まってはいませんが)卵プリンのような色合いに見えるのが特徴的です。黄ばみは黄疸があることを、濁りは脂肪血症があることを意味します。たいていは総ビリルビン値(TBil)と中性脂肪(トリグリセリド:TG)が上昇しています。

ケトアシ2
点滴に色がつくと、強力な薬に早変わりして
よく効く気がするのは気のせいでしょうか。

 

<電解質の異常が死を招く>

ケトアシドーシスでは電解質(ナトリウムやカリウム、カルシウムやリン、クロール)のどれもが低下しています。低カリウム血症や低リン血症は生命維持にとって緊急事態です。

カリウムは筋肉の働きに関係していて、不足すると「脱力」や「けいれん」をおこします。心臓も心筋という筋肉で動いています。消化管もぜん動運動を起こしているのは筋肉です。不足すると「心臓は元気に動けません」し、「気持ちが悪く」なり「嘔吐」します。また「便秘」になったりもします。さらに悪化すると、足の筋肉がだらけ「身体が麻痺」したり、呼吸筋麻痺から「呼吸不全」になるとか、腸が動かず「腸閉塞」になるとか、いろいろ怖い状態が出てきます。

また、低リン血症があると、赤血球が壊され「溶血性貧血」や「黄疸」を進めてしまいます。

糖尿病性ケトアシドーシスはまさに死に直面している事態です。

 IMGP9773.jpg
安定したら猫ちゃん専用のインスリンの使用開始です。
とても細い針です。

<治療にはとても神経を使います>

まずは血管内に水分や電解質を補給するための点滴をつなげます。基本の生理食塩液に不足している電解質を加えます。点滴のスピードもはじめは速めに滴下します。インスリンも別のルートから少しずつ静脈内に入るようにします。数時間ごとに変化する体の様子をチェックし、血液検査や尿検査も行います。その都度、加える補正液を計算し直し、点滴のスピードなども細かく調整します。このような集中した治療は、低かった電解質が上昇し、尿中のケトン体が消え、血糖値も目標まで下がってくるときまで続けます。たいていはまるまる2日くらい経過した後です。「今夜はまとまって寝ても大丈夫かな」と思えるようになるのは、たいがい3日目の夜くらいです。その頃になると、猫は自分で水を飲んだり、少し食事をとったりできるようになっていますから、点滴のスピードもゆっくりで大丈夫になるし、補正のための薬も不要になるし、インスリンも普通の皮下注射に変わります。

点滴を卒業できる頃にはしっかり食事ができているわけですが、たいていは溶血のあとの貧血が残るため、これを元に戻すまでもう一踏ん張り頑張ろうね、となります。

 IMGP9771.jpg
太郎さん、しっかり首が持ち上げられるようになりました。

<糖尿病の合併症です>

ケトアシドーシスは糖尿病の一時的な状態悪化です。入院治療で危機的な状況を抜け出せても、糖尿病が治ったわけではありません。このあとも継続してインスリン治療が必要です。長い道のりになるわけですが、毎日の観察も定期的な検診のための通院もたいへん重要です。

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温度が入って暖かい診察台だとごろんと寝ころび、
のどをごろごろ鳴らします。
後ろ足もピーン。

<低血糖が怖い?>

規則正しく食事をしない、注射を打つ前に食べていないとインスリンを注射するのが怖い、というお話を聞きました。「低血糖の発作は死んでしまうけれど、高血糖状態は死ぬようなことがないから」と、ともすればインスリン注射を怖がり、インスリンの分量を半分にしたり、またときに注射をお休みしてしまうようです。

猫はだらだらと食べて寝て、遊んで、そしてまた食べて、寝てという自由な生活を送る動物で、規則的に食事を食べることはありません。けれど、だらだら食べるということは急激な血糖値の上昇はないわけです。元気で目標にしている分量を食べているのであれば、時間になったときにインスリン注射をしても大丈夫です。12時間ごとの注射もできれば理想ですけれど、プラスマイナス1~2時間のことであれば、さほど神経を使わなくても危険な事態にはなりません。

高血糖が続き、水不足から脱水が起こり、猫に発生しているストレスを知らないでいて糖尿病性ケトアシドーシスを発生させてしまうのは確実に死に通じる事態です。

日常の糖尿病猫の治療で心配なことがあったら、ご自身の判断で注射を中止するのではなく、ご相談ください。

 ケトアシ4
入院室、マイルームでは身体を伸ばして、
もっとくつろいでいます。
太郎さん、元気になりました。ヨカッタヨカッタ。

今日は猫の糖尿病に併発する「糖尿病性ケトアシドーシス」についてお話ししました。

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ジャンル : ペット

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