猫汎白血球減少症

 猫汎白血球減少症についてお話しします。

この秋、体の動揺の止まらない子猫の診察をする機会がありました。さらに冬になり、白血球をカウントできない子猫たち、それも近隣出身ではない子猫を数頭、続けて診察することになりました。頭のどこかで、「パンロイコは昔の病気、今はワクチンをみなさん接種してくれるようになって診ることもなくなった」と思っていたのですが、「まさかのパンロイコ」は今なお健在で子猫を中心に暴れまくっているのでした。

ほとんど説明する機会も無くなってきた汎白血球減少症ですが、まとめてみました。長くなってしまったので、今日と来週の2回に分けて掲載することにします。

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<汎白血球減少症>

この病気は「猫ジステンパー」とも呼ばれ、非常に伝染力が強く、感染すると命に関わる恐ろしい病気です。「猫ジステンパー」とも呼ばれますが、「犬ジステンパー」とは全く違う病気です。病気は「猫パルボウィルス」に感染して発症する感染症で「猫パルボウィルス感染症」と呼ばれることもあります。「pan leucopenia」すなわち「pan=汎=すべての」+「leuco=白血球」+「penia=欠乏症」という言い方が、この病気の特徴をよく表しているので、私は主に「汎白血球減少症」と呼んでいます。このあともこの名称で綴っていきます。

 

<ウィルスの特徴>

パルボウィルスは直径20~22ナノメートル(1ナノメートルは1mmの100万分の1)というきわめて小さなウィルスです。正20面体対称立体をしています。パルボウィルスは様々な動物を宿主とします。元々はミンクの腸炎でこのウィルスが確認されています。さらに猫だけでなく、アライグマや犬に感染を起こすパルボウィルスも確認されています。ことに犬のパルボウィルスは1978年にアメリカで発症するとわずか1年あまりの間に全世界に広まってしまいました。人でも「伝染性紅斑」の原因となっているのがパルボウィルスです。

パルボウィルスは感染猫の体外(乾いていて、体温よりも低い気温で、栄養の供給されないような環境の中)でも、最長1年くらいは生存が可能です。つまりとても生命力が強いです。そして小さくて軽いため、何かに付着したり、また離れて空中を舞うことができます。

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<感染経路がはっきりしている場合ばかりではない>

そのようなわけで、何が感染源(ウィルスが付着しているもの)なのか特定ができないことがほとんどです。

猫から猫への接触だけでなく、何かを介してウィルスが運ばれて感染が成立してしまうという、目に見えない恐ろしさがあります。

もし同じ家の中で発症した猫がいれば、感染猫が使用していた食器やトイレのほか、世話をしている人の手指からも感染の機会があります。それも、数ヶ月とか1年近く経過した後でも、適切な消毒薬でウィルスを殺すことができなかった場合はウィルスが環境中に残っているので、ウィルスが付着していた換気扇やエアコンフィルターから風に乗って舞い落ちることもあります。

また、もしかすると屋外の感染猫の排泄物を踏んだことから靴を介してわたしたちが自宅にウィルスを持ち帰ることもあります。

(屋内でだけ過ごす猫にも汎白血球減少症の予防をするワクチンを定期的に接種するようにおすすめするのはこのような理由からです。)

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<ウィルスはどのように猫を攻撃するのか>

パルボウィルスは体内のさかんに細胞分裂が行われている部位を好みます。その結果、栄養を吸収する細胞を作る腸の上皮細胞、血液細胞を作り出す骨髄中の細胞、そして妊娠中のお母さん猫の子宮内の胎児の細胞が最も攻撃を受けることになります。

腸管の細胞が壊されると、猫は水分や栄養分の吸収ができなくなります。激しい脱水と衰弱が起こります。粘膜がはがれ落ちると腸内細菌が腸に分布している血管を介して体内に入り菌血症を起こします。

骨髄内で白血球が攻撃を受けると血中の白血球数が極端に少なくなります。白血球は細菌を食べて殺していく仕事をするもの、免疫を高めて病原体から体を守る仕事をするものなどありますが、すべての種類の白血球が無くなるために病原体から身を守ることができなくなります。

感染源からのバリアーになるはずだった白血球の喪失で、リンパ球の駐在所であるリンパ節はウィルスに乗っ取られてしまうと(リンパ系への侵入)、猫の免疫力は瞬く間に無くなっていきます。ウィルスからも、体内にいた常在細菌からも簡単にやられてしまいます。

妊娠初期の段階で感染した母猫は流産を起こします。妊娠後期の感染になると、早産を起こします。胎盤もまた盛んに細胞が作られている組織です。また胎児である子猫は主に小脳を侵されます。小脳は運動やバランスの調整を行う組織です。小脳の形成不全を伴って生まれてきた子猫は、不安定な歩き方をしたり、集中しているときでさえも静止できず体を揺らします。成長するに従い、こうした揺れは軽くなりますが、すっかり正常に戻ることはありません。

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<感染した猫の様子は>

・急な発熱や嘔吐、元気消失から病気は始まります。

・あまりにも免疫力の無い子猫はそのまま亡くなってしまうこともあります。

・食事に対する関心も失せ、おとなしくうなだれます。

・1日か2日くらい、姿を見せない猫がいるかもしれません。

・じっと隠れて体調が悪いのをしのいでいます。

・水を飲みたそうに水食器の前で頭を下に傾けている姿を見るかもしれません。

・激しい嘔吐が続きます。

・血にまみれた下痢です。

・トマトジュースのような鮮血の赤い水様便を噴射します。

・とろっとした粘液が混じった便だったりもします。

・非常に血生臭い便、悪臭です。

・日常好んでリラックスしている場所にいないかもしれません。

・妊娠初期のお母さん猫は流産や早産をおこすことがあります。

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<病院へ急ぎましょう>

みるみるうちに状態は悪化していきます。

病院では、

    屋内で暮らしているのか、屋外にも出るのか。

    最近ほかの猫が新しくメンバーに加わっていないか。

    いつごろどんなワクチンを接種したかのか。

などを年齢や性別などのプロフィールと一緒に伺います。

それから

    おうちでどのような状態だったのか。

    どんなふうに病気が経過してきているのか。

を伺います。

そして、ほかの病気も視野に入れながら血液検査や糞便検査を行います。

血まみれの便は特徴的な症状ですが、病気の経過途中ではまだ現れないこともありますし、ほかの病気でも同じ症状を出しますので、区別が必要になります。

決め手になるのは、血球検査で、白血球数が極端に少ないことです。普通、血球数のカウントは機械にさせますが、特別な場合は、血液を薄くのばして染色し顕微鏡下で視覚的に観察することがあります。機械の数値に間違いが無いかを確認する作業です。機械と、人による作業とのダブルチェックを行います。

血球検査で疑問が残るような場合、もう一つの確認として糞便を材料にしてウィルスチェックをすることもあります。犬用のパルボウィルスキットを使います。100%の信頼度があるわけではありませんが、参考にはなります。最近ワクチンを接種したばかりというような場合は擬陽性の結果に出ることがあります。ワクチン接種後間もない場合は、まだ免疫が作られておらず、ワクチン株ではない強いウィルスに感染してしまうこともあります。


今日のお話はここまでです。
治療について、予防については次回お話しすることにします。

 

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