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腎臓機能のバイオマーカーSDMA

 犬の10頭に1頭が、猫の3頭に1頭が腎臓病になるといわれている現在、腎臓病を早期に発見し早いうちから腎臓を守っていくことは、動物の健康寿命を延ばし、QOLの高い生涯を提供することができます。

今日は腎臓のバイオマーカーとして、今年から積極的におすすめする検査項目、SDMAについてお話しします。

 

<腎バイオマーカー>

バイオマーカーというのは、病気があるのか無いのかということや、病気があるという場合その病気の程度を、血液中のタンパク質などの物質の濃度として知ることができる検査項目です。

腎臓の機能は大きく二つの系統から調べることができます。腎臓を構成しているネフロンの構造からこうなります。

一つ目は

①糸球体濾過率(GFR)で、身体の中で不要になった老廃物を漉しとる「糸球体」の力を調べるものです。

もう一つは

②尿濃縮能で、尿が漉されてからも再利用できるものをもう一度身体の中に戻す仕事をする「尿細管」部分の力を調べるものです。

一般によく知られている腎機能をみる検査項目は血中尿素窒素(BUN)と血清クレアチニン(CRE)値です。これらは二つとも糸球体の機能をみています。一方、尿細管の機能をみるのは尿比重(USG)になります。

初めて聞く検査項目かもしれませんが、腎バイオマーカーとして腎臓病の早期発見に用いられる検査にシスタチンCとSDMAがあります。これらは二つとも糸球体の機能をみる検査です。

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症状を出す前の健康診断で病気を早く発見していくことが大切です。

 <求められる検査>

腎臓の機能を調べるとき、糸球体濾過率(GFR)は絶対的信頼のおける検査です。しかし検査が煩雑で大変なため、犬や猫では簡単に調べることができません。人では年齢や性別、血清クレアチニン(CRE)値からGFRを求める計算式もできていますが、犬猫にはそれもありません。そこでGFRに代わる何か適切な検査がどうしても欲しいところです。

腎バイオマーカーには、

     できるだけGFRとぴったり重なり合うような検査結果が出るようなもの(正確性)、

     簡素な検査で調べられるもの(利便性)、

     誰もが無理なく受けられるもの(経済性)、

     他の因子に影響を受けないもの(単独性)

が求められます。そして、

     早期に病気を発見できること

は健康診断などのスクリーニング検査では大変重要なことです。

 

 IMGP9947.jpg
腎臓病は隠れて進行していきます。

<これまでの腎機能検査の経過>

もともとは臨床症状が出て初めて来院され、検査をして病気を知り、治療を始めていました。臨床症状がはっきり分かるのは尿毒症のような状況になってからです。がんばっても良い結果が出ることはありませんでした。「腎臓を悪くするとそれはおしまいを意味する」と思われていました。こんな時代もありました。(今でも情報を広くお届けすることができず、猫や犬に腎臓病があることを知らないで来られた患者さんもいて、ずいぶんと病状が進行してしまっていることもあります。それはそれで仕方がないので、この時点から頑張って治療をスタートさせます。昔に比べると治療も進歩してきましたから、まだ頑張れることが沢山あります。)

それから、それではあまりに悲しいので「腎臓が悪くなる前に知りましょうよ」ということで、定期の健康診断で血液検査を受けてもらうことになりました。BUNCreの数値から腎臓が悪くなっているのを発見しました。けれどこれらの数値が上昇し始めるのは、腎臓の機能が約75%失われた段階です。見つかったときには残りが1/4という寂しい結果です。それでは遅すぎると誰でも思います。

それで、今度は「定期健康診断の血液検査に加え尿検査や血圧測定なども実施出来ると良いよね」ということになりました。まだBUNCreがあまり高くなっていないうちに腎臓の機能の低下を知り、早いうちから腎臓を守りましょう、ということになりました。尿比重はクレアチニン値の上昇が始まるより少し前に低下し、腎臓病をより早期に発見することができます。しかし様々な要因によって飲水量が増えると当然のこととして尿比重も下がりますし、糸球体の機能(老廃物を漉しとる力)というより、尿細管の機能(尿を濃くする力)をみるためのものですからGFRとの相関がぴったり合うものではありません。また猫から尿を採ることはそう簡単ではありません。病院で採尿しようにも、連れてこられる前にトイレを済ませた後で膀胱に尿がたまっていないこともあります。

こうなると、やはり血液検査で腎臓の変化を知ることが出来るのはとても便利なことです。今回ご紹介するSDMAは血液検査で調べることができます。そして何より、今までよりももっと早期に腎臓病を発見できることができます。

SDMAの値を調べるのは院内のラボでは出来ませんが、昨年からIDEXXさんで、今年からは富士フィルム・モノリスさんでも検査を実施してくださいます。信頼できる外注検査機関です。

 

腎臓は30万とか40万個ある腎臓内のネフロンそれぞれの働きで成り立っていて、個々のネフロンが少しずつ働けなくなってやがては全部のネフロンが働かなくなってしまうものですから、働けるネフロンが減少してきたら、残るネフロンには無理をさせず、ぼちぼちでいいのでなが~く仕事をしてもらうのが、腎臓を長生きさせる秘訣になります。臨床症状を出していない、一見健康なときから腎ケアをし、腎臓寿命を延ばしていくことが大切なことになります。

これまでは血中尿素窒素(BUN)や血清クレアチニン(CRE)濃度を中心に腎臓を評価してきました。これからもこの2つの検査項目は腎臓をみるのに外すことができない項目であることに変わりはありません。SDMAに関しては、それらに加えて腎臓機能を知る強いメンバーが登場したということです。

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まだ腎臓の機能を残しているうちに異常を発見します。

SDMAというのは>

さて、腎機能評価項目、SDMASymmetric dimethlarginine(対称性ジメチルアルギニン)の略です。前述の通り、血液検査で数値を知ることができます。SDMAはクレアチニンとの相関も高く、腎臓の機能を表すことができます。腎機能が約40%失われた段階で上昇を始めるので、早期診断に役立ちます。これまでの検査に比べ、どのくらい早く腎機能の低下を知ることができるのかといいますと、2015年のACVIM Forumで報告された内容からすると、血漿クレアチニン値が上昇する(2.0mg/dlよりも高値になる)前、犬では平均11か月、猫では平均17か月くらい前に、血漿SDMAは異常値としている数値を超えたということです。

この検査は身体の筋肉量に影響されないため、筋肉量の少ない小型犬や高齢の動物、痩せている動物でもそのまま腎機能を見ることが可能です。

ただし血液が溶血していたり、黄疸があったり、高脂血症がある場合はそれらの影響を受けるので、それらが無い場合に数値を判断します。

動物の腎臓病を気にする飼い主さんには、もちろん私たちにとっても、うれしい検査項目です。

 IMGP9984.jpg
猫さんは慢性腎臓病を発症することが多いです。
でも腎臓病は猫ちゃんだけの病気ではありません。
わんこも要注意!

<もうすこしSDMAのこと>

SDMAが身体でどのような役割のある物質なのかはよく分かっていません。「対称性」という頭が付くくらいですから、非対称性のジメチルアルギニンもあります。Asymmetric dimethlarginine ADMA)です。どちらもタンパク質がメチル化してできたものです。ADMAはさらに分解され、別の物質になります。腎臓からの排泄は20%くらいです。(SDMAは分解されること無く90%以上がそのまま尿中に排泄されるので、腎臓機能の指標になります。)

ADMAは人で心血管系の病気の発生と関連があることが分かっています。高血圧や血管内皮の障害にも関与しているようです。もしかすると犬や猫のSDMAも心血管系疾患の発生に関与しているのかもしれません。

 IMGP9982.jpg
早く治療を始めれば、病気の進行を遅らせることができます。

SDMAIRISCKDステージ>

ここまでなら腎臓は大丈夫、これ以上だと心配というラインを引くところのSDMAの数値は14㎍/㎗です。

クレアチニン値が参考範囲(犬ではCre1.4mg/dl、猫では1.6mg/dl)に入っていてもSDMAが続いて(1回だけで無く複数回の検査で)14㎍/㎗を超えていればIRISCKDステージ1に入ることになります。ステージ1では、尿検査や血圧測定などが実施され、それぞれに異常が見られたら治療を開始することになります。高窒素血症になる前の最も早期の段階で腎臓の危険信号を発見できて、ラッキーな犬猫たちがこのグループになります。

さらにIRISのステージ2、ステージ3とSDMAの数値とを見合わせて、従来の結果からはステージ2(または3)と評価されていても、その上の段階、ステージ3(または4)の範囲に入ることになる場合もあります。早々に次の段階の推奨される治療に入っていくことになります。今回は早期発見の意義としてのSDMAの紹介のため、具体的な数値は割愛します。

腎機能低下が進行するとSDMAの値はそれに伴って高くなっていきます。そのため、SDMAは早期発見の指標となるだけでなく、慢性腎臓病の進行具合を見たり予後を考えたりする参考にもなります。

 IMGP9983.jpg
症状に気づいてからでは遅い!
気づく前の検査が重要です。

<まとめです>

SDMAは糸球体濾過率(GFR)と相関して数値が上昇します。これはクレアチニン(CRE)とほぼ同じです。ですが、クレアチニン(CRE)よりも少し有用です。それは患者の筋肉量に影響を受けることがないからです。それからクレアチニン(CRE)濃度が上昇するよりも早くSDMAが上昇するので、このバイオマーカーを使うと、慢性腎臓病を早期に診断することができます。SDMAは腎臓の悪化具合を示すバロメーターにもなります。腎機能の悪化に伴ってSDMAの数値も上昇するので、病気の進行の指標にもなりますが、予後の判断をする材料にもなります。

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テーマ : 動物病院
ジャンル : ペット

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No title

こんにちは!いつもありがとうございます。
今回の記事も詳しい内容でとても勉強になりました。
わが家の糖尿病猫ちゃん19才は今年1月の検査で、BUN87、CRE2.3、尿比重が1.020、すでに慢性腎臓病ですが、今回SDMAの検査も行なわれ、22mg/dlで基準値以上でした。SDMAは早期発見に役立つものとのことですが、すでに慢性腎臓病と診断されているコには必要のない検査なのでしょうか?
よろしくお願いいたします。

Re: No title

こんにちは。
SDMAは徐々に数値が上昇していくので、
腎機能低下のバロメーターとしても利用できます。
今後も数値を追っていく価値はあります。
それにしても猫さん頑張っていますよね。
お大事にしてください。

こんばんは。SDMAを調べておりましたら、こちらのサイトを見つけることができました。
現在、10歳のパグ男の子がおりますが、半年前から排尿時に石がでるようになり検査の結果、腎結石、膀胱結石(シュウ酸カンシウム)との診断でした。その時のSDMA値は12。半年後のSDMA値は17と上昇しておりました。現在、BUN.Creは正常値ですが、今の時点で治療を始める方が良いのでしょうか?
また、担当医からは、次回のSDMA値は、半年後と仰っておりましたが、もう少し早い時期の方が良いのでしょうか?

Re: タイトルなし

こんにちは。
お返事が遅くなりました。

シュウ酸カルシウムの石ですと、小さいものなのでしょうね。いくつか数があるのでしょうか。先生が「様子を見て6か月後に再度評価する」とおっしゃっているのは腎結石の大きさや数からのご判断なのかな、と思いました。

まず、もしまだ実施していないのならば、「排泄性尿路造影」の検査も「今の腎臓の状況」を知るために有効ですのでおすすめします。静脈内にレントゲン不透過性でそのほとんどが腎臓から排泄される薬剤を投与し、腎臓からの排泄がどのようになっているのかを調べる検査です。流れの状態から腎臓がちゃんと仕事をしてくれているのかどうかを判断します。「今、石があって、それが悪さをしている」、のだとしたら待つことで悪化を放置することになります。「今、石はあるけれど、悪さをしている様子ではない」とか、「今、石はあるけれど、すでにこちらの腎臓は役目をほとんど成していない」とかいろいろな解釈ができるかと思います。
これは解釈が大切な検査ですので、ただ薬を投与して時間を追って何枚もX線撮影すればよい、というものではないので、腎・泌尿器疾患に多数取り組まれている先生のいらっしゃる病院での実施をお奨めします。
SDMA値が上昇してきているのは「石が腎臓に害を及ぼしているから」とも考えられます。ラボ検査だけでなく、画像検査からも腎機能を見ていくべきかと思います。

それから、腎臓内の石の大きさや、ある場所(腎盂なのか、もっと実質に寄ったところなのか)によっては、外科的なアプローチ、いわゆる腎切開じゃない方法、腎盂切開なのですが、これができるのかもしれないと思いました。もっともこれは非常に特殊なものです。ご希望があればご紹介いたします。

ご検討してみてください。


No title

9月で3歳になるラブを飼っています。
生後7ヶ月の頃から多飲多尿が続き、寝ている時に尿漏れをするほどでした。若年性に多い精神的な物かも知れないと言われて様子を見ていましたが、1歳半でSDMAの検査をしました。結果は14ギリギリで正常範囲でしたが、1年後(5月)再検査したところ、17になっていました。この時のBUNは18。
CREは1.1です。
エコー検査もしましたが、これと異常は見られませんでした。おやつなどもあげていませんし、年齢にも若いので、先天的に腎臓が弱く、将来、慢性の腎臓病になると診断されました。今は、他の数値には異常が見られず症状も無いので、今までと同じ生活をするようにと言われましたが、せっかく早期発見出来たのに、何も出来ないのでは意味が無いと思ってしまいます。
生活の見直しが無いかと思い、人の慢性腎臓病の本を読み、とりあえず、今まで粗タンパク質38%フードを食べていたので、総合栄養食範囲のフードですが、27%、20%と徐々に下げた物を与えています。この間、飲む水の量と尿の量を試しに量ってみたところ、何故かどちらも減り始めて、尿比重も正常になりました。尿漏れも収まりました。
再び、7月末に検査し、SDMAは14。
BUNは12。CREは1.2でした。クレアチニンは、やはり、楽観できない数字だと思っています。尿検査は異常なしです。
また、総タンパクは5,7。アルブミンは2,9.グロブリンが2,8と、この年齢のラブにしては、全てもう少し欲しい気もします。
これは、粗タンパクが多いフードを与えているときも低めでした。下痢や嘔吐は下りませんが、体重が落ちやすすく、スタミナ、瞬発力も低いです。
現在、フードをふやかし3回に分けて与え、少しでも消化吸収を良くしようと試みています。
長くなりましたが、腎不全を先延ばしにするため、アドバイスを頂けると嬉しいです。

Re: No title

ラナママさまへ

幼少時からの異常値、さぞご心配なことかと思います。
拍車をかけるようで申し訳ないのですが、やはり
ラブラドールというと腎臓の低形成や異形成、また尿管の異常等、
先天性の疾患が心をかすめます。

折々に、血液検査のほか
尿検査で蛋白尿の有無(有るとしたらその程度)、
血圧測定で高血圧がないかどうか、
なども見てもらえると良いかと思います。
もしそれらがあるようならば、それに対する治療が行えます。
蛋白尿と高血圧は腎臓を傷めてしまう要素です。

IRISではクレアチニン値からCKDのステージ分類を行っていますが、
食事制限をかけるのはステージ2から3の段階です。
あまり早期から蛋白制限を行ってしまうと筋肉量の足りない、
か細い犬になってしまいます。

ではステージ1だと何もできないのかというと、そうではありません。
腎臓に対して悪いことはしない(薬を選ぶ、脱水させないようにするなど)という腎保護と、
定期的な検査で見守るということができるわけです。
定期のフォローアップだと症状を出す前に異常を察知できますから、
ステージが上がったところで次の段階の治療をより早く始めることができます。

早めの対応をしなければと、ついつい気が急いてしまいますが、
「今をより良く生きる」ことに主眼を置いてみてはいかがでしょうか。

答えになっていないかもしれません。ごめんなさいね。
良い日が長く続きますように。おだいじにしてください。



No title

sdmaは定期的に測ったら少しづつさがってきていますが基準よりも高いです。
治療はしていませんが下がることもあるのですね。それは腎臓がどうなってきてるのでしょうか?
21から17とかにさがってきてます。
他の子の血液検査よりも良いのに21とかあるのはどうしてでしょうか?
何か他にも影響を受けてるのですか?いまいちわかりません。
基準値まで下がると腎臓は治らない臓器なのに治ったとか一時的と見てよいのでしょうか?
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Author:ハート動物病院
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