- 2017-05-14 :
- 慢性腎臓病
腎臓病と高リン血症のこと
腎臓と骨。ちょっと関係がなさそうに思える二つの組織ですが、リンとカルシウムを介して密接なつながりがあります。今日はリンと腎臓のお話をします。
ヒルズさんからの腎臓疾患用療法食です。
はじめに猫用のものを紹介していきます。
Elliott先生の研究のもとになっているのはこちらの療法食です。
こちらの療法食も世界的なシェアが大きい食事です。
セレクション。
ロイヤルカナンさんは2種類のラインナップ。
<骨と腎臓の関係>
骨を強くするためには「カルシウムの多い食品を摂ること、できれば腸での吸収の好いものがいいですね。それから日光浴もしなければいけない。」という話も聞いたことがあるかと思います。「日本人は1日に必要なカルシウム量を十分摂れていないから、健康になるためにはカルシウム強化牛乳を飲んでみましょう、おやつには小魚やナッツを食べましょう。」と、カルシウムは身体に良い食べ物として信じられています。絶対的な信頼度でこれを犬や猫に応用されている方もいらっしゃいますよね。事実その通り、骨を強くするためにはカルシウムは必要です。
そして、腸でカルシウムの吸収を高め骨へのカルシウム定着を促す仕事をするのは活性型ビタミンD(カルシトリオール)で、これも強い骨の形成に欠かせません。腎臓はこの活性型ビタミンDの生成に関わっています。ビタミンD(脂溶性ビタミンです)は食事から摂取し、紫外線を皮膚に浴びると体内で合成され、肝臓や腎臓の働きを経て、この活性型ビタミンDに変換されます。ビタミンDが十分活性化されないと、体内で必要なカルシウムが不足するため、骨からカルシウムを溶かして出すことになります。つまり腎臓の機能が低下すると、ビタミンDの活性化が低下してしまうため、「骨がもろくなって」いきます。
そしてカルシウムとともに骨の構成成分となっているのがリンです。リンは骨を強くするほか、エネルギーの運搬をしたり、細胞膜の成分になったりと、やはり身体に欠かすことのできないミネラルです。リンは食事とともに体内に入り、一部腸から吸収され、残りは便と一緒に体外に排出されます。健康なときは吸収されたリンと同じ量のリンが腎臓から 尿中へ排泄されますが、腎機能が低下してくると吸収したリンを排出することができなくなります。腎臓の機能が低下すると、リンは体内でたまって「高リン血症」をおこします。
日清製粉さんからの療法食です。
サニメドシリーズはオランダ産です。
いろんなメーカーさんから腎臓病食が出ているので
一つ二つで食べなかったからといって
あきらめないで、いろいろトライしてください。
<異所性石灰化>
高リン血症が進むとリンとカルシウムが結合して、骨以外の組織にくっついてしまうことがあります。「異所性石灰化」といいます。たとえば関節が石灰化を起こすと関節炎になります。腎臓に石灰沈着をおこすと、それは腎臓そのものを悪くすることになります。腎臓が悪くなるとリンがたまり、リンがたまると腎臓を悪くします。そいう悪循環です。
ヒルズさんの犬用の腎臓疾患用療法食。
お試しできることを知っていただくために
サンプル袋を写真に撮りました。
猫用でもサンプルはご用意があります。
ロイヤルカナンさんの腎疾患用療法食です。
猫用と同様、犬の療法食も2種類用意してくれました。
<腎性二次性上皮小体機能亢進症>
腎臓の機能が低下すると、血清リン値が上昇するとともに、活性型ビタミンDの産生が低下して血清カルシウム濃度が低下します。この二つの状況から、上皮小体ホルモン(パラソルモン:PTH)が過剰に分泌されることになります。PTHはリンを排出させる働きがあります。初めのうちはリン排泄の良好な代償作用になるのですが、進行するとリンの排出が滞ってリンがたまってきます。体内の組織のリン過剰がやがて高リン血症をもたらすことになります。それからPTHは骨に作用して、骨からカルシウムとリンを流出させます。その結果骨はもろくなります。これが腎性二次性上皮小体機能亢進症です。
腎臓病をもつ猫の2/3は高リン血症を発生しているといわれています。高リン血症は腎性二次性上皮小体機能亢進症の原因になります。腎性二次性上皮小体機能亢進症は慢性腎臓病をもつ猫の臨床症状の一つでもあるし、慢性腎臓病を進行させる要因でもあります。それから猫の生存期間を縮めてしまうし、猫の具合そのものも悪くさせてしまう、悪いことだらけの病気です。
ドクターズの療法食は、あの「ヨード卵光」で
みなさんご存じの日本農産さんが作ってくれています。
もちろん、国産が強みなんです。
<高リン血症の発生>
高リン血症は慢性腎臓病がだいぶ進行してから発生します。その段階ではすでに身体の中で、大きな問題が発生しています。腎臓病が悪化した犬や猫はみな高窒素血症(BUNやCreが高い値になっている)を発生していて、食欲の低下や時折の嘔吐などを示しますが、高リン血症があっても特徴的な臨床症状を出しません。検査をしないと分からないのです。しかし高リン血症なら腎性二次性上皮小体機能亢進症ですといえますが、リンの値が正常範囲内に入っていても腎性二次性上皮小体機能亢進症ではないとはいえないと言われています。
猫用のウェット食。
缶詰やアルミパック、パウチがあります。
液体のものは経鼻カテーテルなどにも使えますが、
味も悪くなく、そのままお口からの投与OKです。
<高リン血症を避ける方が良い理由>
高リン血症があると
① 上皮小体ホルモンの排出が高まります。
② 腎性二次性上皮小体機能亢進症をおこします。
③ 活性型ビタミンD(カルシトリオール)が低下します。
④ 骨からカルシウムやリンが溶けて骨がもろくなります。
⑤ 骨以外のところに石灰沈着をおこします。
⑥ 猫の具合を悪くします。
⑦ 結局、猫の生存期間を縮めてしまいます。
リンを制御すると、
① 腎臓病の猫は調子が良くなります。
② 生存期間が長くなります。
③ 腎臓病の進行も遅くなります。
「高リン血症でなくても腎性二次性上皮小体機能亢進症になっているかもしれない」ということは、高リン血症を起こしていなくても腎臓病であるのがわかっていたらリンのコントロールをしていった方が猫にとって有益だ、ということですね。
犬用の缶詰、アルミパックとリキッドです。
液剤はハイカロリーです。
食欲不振時でも嘔吐さえコントロールできれば
最低限度の栄養を確保できます。
<高リン血症の治療>
リンのコントロールは食事療法と薬物療法で行います。
腎臓のための特別療法食は、すでにリンが制限されているので、一般食から腎臓病食に切り替えるだけで、第一段階のリン制限はクリアされます。リンはタンパク質が豊富な食品に含まれているので、タンパク制限をすると、同時にリンの過剰摂取を防ぐことができます。
このときにおやつや副食としてリンの多い食品を与えないように注意することも必要です。リンが多く含まれていて、猫に与えがちだけれど、それにはふさわしくない食品をあげておきます。肉類、魚類、小魚、桜エビ、牛乳、チーズ、ヨーグルト、するめ、アサリ、ナッツ、ハム、ソーセージ、かまぼこなどです。
リンを制限した食事で生存期間が延長することが分かっています。2000年のElliott先生たちの研究によると、一般食だと264日、リン制限食の場合だと633日という驚くほど生存日数が違う結果が出ています。
血清リン値は食事を変更してすぐに低下していくわけではありません。気長に治療していきます。6週から8週くらい開けてモニタリングします。目標達成まで数ヶ月かかる場合もあります。
なかなか下がらない場合は、「療法食+薬」だったり、別の種類の薬を2つ組み合わせ「療法食+薬+薬」にして対応します。それからどうしても療法食への切り替えがうまくいかなかった猫では「薬」だけで下げるようにします。
<経口リン吸着薬>
経口リン吸着薬は消化管内で食事に含まれるリンと結合して、腸内にとどまりそのまま便とともに排泄されます。結果として体内に吸収されるリンが減少することになります。
リンの吸着薬には、水酸化アルミニウム製剤、炭酸カルシウム、炭酸ランタン、クエン酸第二鉄、リン酸結合性ポリマー(塩酸セベラマー、ビキサロマー)などがありますが、安価なもの、高価なもの、それぞれの利点欠点もさまざまです。これらはすべて人体薬です。各先生で得意な薬、処方慣れしている薬があるかと思います。
動物薬として出ているものがあります。これらは、すべてサプリメント扱いです。
① レンジアレン
鉄剤を主にしているので貧血を伴う腎臓病猫さんには
こちらはおすすめです。
塩化第二鉄や炭酸ナトリウムを主成分にしています。
個包装で、1日に1~4袋を食事と一緒に食べさせます。
② カリナール1
低カリウムになりがちな猫の腎臓病に
おすすめです。
リンに続いてカルシウムも高値になってしまった
動物では別のものをおすすめします。
バイエル社から出ています。
炭酸カルシウム、グルコン酸乳酸カルシウム、クエン酸カリウム、キトサンなどが成分です。
1日に備え付けのスプーンで1~2杯を食事に混ぜて与えます。
③ イパキチン
ベトキノール社から出ていたIPAKITINEですが、
日本でも昨年から入手可能になっていました。
キトサンが硫化物も吸着するようです。
高カルシウム血症の動物には
おすすめではありません。
日本全薬社から出ています。
炭酸カルシウム、キトサンなどが主成分です。
④海外の水酸化アルミニウム製剤(動物用)
*Alu-capR :3M社から。
⑤同、炭酸カルシウム製剤(動物用)
*pronefraR :Virbac社から。
*Easypill Kidney Support CatR :VetExchange社から。
*IpakitineR :Vetoquinol社から。
<おわりに>
リンのコントロールで長生きできます。
今日はリンの少ない腎臓疾患用特別療法食の代表的なものと、リンの吸着薬として扱われるサプリメントをご紹介しました。
他にもあります。
とにかく、いろいろあります。
動物病院の先生がおすすめしてくださるもの、いろいろ試してみてください。
一つだけで「食べなかった」とあきらめてしまうのはもったいないです。
「療法食+薬」だからリンが下がるみたいで、「一般食+薬」ではあまりリンは下がらない感があります。
それから、高窒素血症が高くなっているとき、例えば初診から間が無く「今から補液治療で高窒素血症をコントロールしましょう」というときにはまだ始めないでください。先生から療法食の紹介が無いのは「今は悪気や嘔吐をコントロールしたいとき」だからです。こういうときに無理に療法食を与えると、療法食のことが大嫌いになってしまいます。BUNやCREの値が下がってきて、気分も良くなり、これまでの食事ものどを通るようになってから、食事変更をしていきたいです。
それから、第4期になるとこれもやっぱり食欲が湧きません。ここからは栄養補給を主目的にして、無理なく好きなものを食べてもらいたいと思います。
次回、リン代謝に関与するペプチドホルモンについてお話しします。