心臓病を知る血液検査

先週は健康診断の腎臓病特別セットの検査項目、SDMAについてお話ししました。今週は心臓病特別セットの検査項目、ANPについてお話しします。

 

<バイオマーカーというのは>

ANPというのは心臓のバイオマーカーです。バイオマーカーというのは血液とか尿などに含まれるタンパク質やホルモンなどを測定して、ある病気にかかっているのか、どのくらい重症なのかを知ることができる物質のことです。心臓のバイオマーカーには、心筋で作られるホルモン(ANPBNP)や心筋に特異的なタンパク質(心筋トロポニン)があります。心臓細胞に無理がかかっているのかや傷害を受けているのかを血液の検査で数値を出し、その値から心臓病や心不全の様子を把握することができます。

 IMGP9946.jpg
わんこが歳をとったこと、以外と気づきにくいものです。

<心臓検査に先だって>

心臓の検査といえば、まず聴診。心雑音が聞こえたり、咳や運動不耐症(*)などの臨床症状があればレントゲンや超音波などの画像検査。脈が乱れていれば心電図。という評価方法が一般的です。これらの検査は心臓の機能をみるうえでとても大事です。ですが、レントゲン検査は結構高価です。そして吸気や呼気によって胸郭の膨らみが変わりますし、心臓の方も拡張期と収縮期で大きさに変わりが出ます。それでレントゲンに写った心臓と胸郭の割合を数値で出すのに違いを生じることがあります。また超音波検査は時間がかかります。犬がじっと静かにしていてくれないとうまくポジショニングがとれなくて、詳しく見ようにも時間だけが経ってしまうし、循環器を専門にしている先生のように逆流圧などの測定ができなくてテクニカルエラーも出てしまいがちです。心電図検査は犬が震えていると、その小刻みな震動をとらえてしまいきれいな波形が得られず評価に戸惑うこともあります。

最初のとっかかりを得たいと思うとこのバイオマーカーは血液を採るだけで良いので簡単で実用的です。異常値が出たら次の判断を行えば良いかと思います。

IMGP9949.jpg
わんこの死因、第2位は心臓病です。
 

<ナトリウム利尿ペプチド>

これまで心臓の役割は「血液を全身に送り出すポンプ作用」として知られていました。ですが、心臓の研究が進むにつれて、心筋の細胞の中に特殊な顆粒があり、心筋が伸びるときにこの顆粒から血中にホルモンが分泌されることが分かってきました。血管を広げる作用やナトリウムを介してオシッコを出させる作用があることが知られていて、このホルモンの作用によって身体を巡る血液の量が保たれ、血圧も調整されているのです。

心房筋から出されるホルモンは心房性ナトリウム利尿ペプチド(Atrial Natriuretic Peptide : ANP)です。また心室筋から出されるホルモンには脳性ナトリウム利尿ペプチド(Brain Natriuretic Peptide : BNP)があります。どちらのホルモンも分泌されるときにANPNT-proANPBNPNT-proBNPが放出されますが、検査に使われるのはANPのほうはANPが、BNPの方はNT-proBNPが用いられています。

ANPは人用の測定キットが犬猫でも利用可能です。アミノ酸配列が似ているためらしいです。NT-proBNPは犬専用の抗体を用いて測定されます。

 IMGP9950.jpg
心臓は徐々に悪くなっていきます。

ANPが評価すること>

犬に多い心臓病である僧帽弁閉鎖不全症では、僧帽弁の逆流があるので心臓から全身へしっかり血液を送り出すことができません。血液が心臓内にうっ滞しています。心臓内に多量の血液が充満している状態を「容量負荷がかかっている」と呼んでいます。左心室から大動脈へスムーズに血液が流れず、左心房に血液が逆戻りした病態が進んでいくと、左心房には高い圧がかかることになり、次第に左心房は拡張していきます。左心房圧が高まると肺動脈にも同じように圧力がかかるようになります。

胸部レントゲンによる心臓の検査は、こうして拡張した部分が心臓の陰影で膨らんでいるのを確認します。心臓超音波検査は僧帽弁の逆流している様子をリアルタイムに見たり、左心房のサイズを測定したり、流速の波形からどのくらい圧がかかっているのかを知ります。

ANPは左心房や肺動脈の圧が上昇すると、同じように上昇します。それも重症度と一致して上昇します。おおよその目安として、診断基準値(これ以上高いと心臓病の心配があります。これ以下なら大丈夫でしょう、とする数値)は25pg/mlです。そして、100pg/mlを越えるような数値が出れば重篤な心不全の兆候である肺水腫になってしまうリスクが高いということもわかっています。そして治療により心臓の負荷が抑えられていると、数値は低下してきます。つまり、うっ血の兆候を知ることもできるし、病態によって上下するので、治療効果もこれによって判断することができる検査です。

IMGP9976.jpg
まずは健康診断受けてみませんか。
 

IMGP9978.jpg
心臓検査は画像検査まで含めたものが理想ですが、
とりあえずバイオマーカーで心臓の傷害レベルを見ておく、
ANP検査の結果から画像検査をするという順でも
悪くはありません。




<結果から>

僧帽弁閉鎖不全症は、重症度をグレード分けされています。そのグレードにANPの数値を当てはめるとすると、①25 pg/ml未満のものは心臓病の心配は無いでしょう、

25 pg/mlから50 pg/mlの間くらいのものは血液の滞りがきわめて少なく軽症でしょう、

50 pg/mlを越えているものは血液うっ滞が中等度にあると思われるし、

100 pg/mlを越えたものでは重度な心不全である肺水腫になる可能性がかなり高いので十分な注意が必要です、

とお伝えすることになると思います。

 IMGP9985.jpg
元気いっぱいそうに見えても、
実は心臓病が始まっているかも。

<おわりに>

健康診断では特別なことは行わずできるだけ簡単に、できれば低価格で、確実に悪いところを見つけ出すことを目的にしています。今回、検査機関さんとのタイアップで心臓病特別健診をワクチン時検査に加えることができました。心臓病は心配だったけれど、心臓病の検査はいろいろあって時間がかかるし、費用も心配だったし、と躊躇されていた飼い主さんにはすごくいいんじゃないかなと思います。この機会にぜひご利用ください。 
スポンサーサイト

テーマ : 動物病院
ジャンル : ペット

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

ハート動物病院

Author:ハート動物病院
ハート動物病院です。
〒445-0062
愛知県西尾市丁田町杢左51-3
TEL/0563-57-4111
オフィシャルサイト:http://www.heart-ah.com/

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
ブログランキング
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード