動物飼育と子どもの教育

 小動物の獣医さんの参加する学会というと、犬や猫などを対象にした先端獣医療の研究成果を発表したり、聞いたりを想像されるかもしれません。規模の大きな学会は大動物の診療をしている先生、公衆衛生方面の先生、お役所関係の先生、獣医師以外で動物関連のお仕事をされていらっしゃる先生たちも一同に集まります。あまりにも畑違いすぎてタイトルを聞いてもすっかり分からない研究内容のお話しも沢山あります。が、産業動物におけるアニマルウェルフェアのことやホースセラピー、災害時の動物救援センター構想、地域猫対策、笑顔あふれる動物園づくり、動物愛護管理法のことなど、人と動物双方に関わるさまざまな話題も拝聴できます。これは犬猫の病気を中心にした勉強会とはまた違う魅力になります。こんなシンポジウムは複数箇所で同時開催されるので身体一つ、脳みそ一つではとても足りませんから、どのお部屋でどの先生のお話を伺おうか悩みながら参加しています。

今日は学会でも話題になっていた「学校飼育動物」のことについてお話ししたいと思います。

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動物の飼育が子どもに与える影響については日々思うことがいっぱいです。動物病院には飼育者であるお父さんやお母さん、おじいちゃんやおばあちゃんと一緒に、子どもたちも来てくれます。この子たちは動物が大好きです。体調不良で塾をお休みしてもおうちで寝ていないで動物病院には足を運んでくれますし、長期休みには必ず顔を出してくれたりします。いま、家庭で犬や猫を飼育できることはとても貴重なことだと思います。実際には動物が好きだけど親の許可が無くて飼うことができない子どもたちもいるし、残念なことに動物に全く関心が無い子どもたちもいます。

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がっこう動物新聞を掲示することがあります。

<動物飼育と子どもの教育>

①飼育はたいへんだ!

動物を飼うと、自由な時間が減ってしまいます。家庭動物は自分一人では生きていけないので飼育者がいろいろな世話をしなければなりません。まずはそうした管理の手間があることを子どもたちは体験します。

はじめにおうちの方にお願いしたいのは、危なっかしい接し方に対しては「正しい扱い方」を教えてやること。動物に噛まれたり、引っかかれたりしないようにしてください。それから、子どもたちは夢中期が過ぎるとお世話がおろそかになってきますから、そのときの対応です。「あんたが飼いたいっていったから飼ったんでしょ。ちゃんと世話をするって言ったでしょ。ほら、塾の前に犬の散歩に行っといで。」は、忙しいお母さんの発してしまう言葉ですが、ここは一部でも世話ができていることを認め褒めていただきたいです。「ポチは○○ちゃんのことが大好きだよね」「ポチは大喜びだね」と。行動を認めてもらえるとまたモチベーションがあがります。こんなことをしながら、「飼育する方も、飼育される方もいっしょに育っていく」感じです。新米のパパやママが赤ちゃんを育てていくのにちょっと似ているように思います。このようにして子どもたちが達成感のようなものを得られる喜びを持ってくれると、もっと動物好きに育ってくれそうです。

②思うようにならない!

それから、そのような手間をかけても、動物は勝手に行動します。自分の思うようにならないことを体験することも大切なことです。

思うようにならない動物を「しかる」のは間違いで、正しい接し方をすると動物は好ましくない行動をしなくなることを子どもたちに教えてやりたいです。こちらが思うようにしようとしても相手には相手なりの理由があるからそのような行動に出るのだと分かって初めて、「相手の立場に立って」「相手がどう考えているのか」をおもんばかることができます。「動物の行動学」という理論に基づいた「愛犬のしつけ」が有効です。そうした行動の中には「動物本来の本能に基づいた行動」もありますが、相手を理解することから「良好な関係性を築くこと」が学べます。

もし困った行動をとる動物にどう対処したら良いのか分からないときは、ご相談にお越しください。

③話し相手になってくれる!

楽しい時間を共有できる!

さらに動物と子どもたちとの距離が縮まると、子どもたちは世話をしながら学校であったいろいろな出来事を動物に打ち明けるようになります。テストの点が悪かったとか、時には友達関係のこともあるかもしれません。どんなことがあってもいつでも動物はやさしく受け止めてくれます。もちろんいっしょに楽しい時間を過ごすこともあります。たのしくじゃれ合って遊ぶ兄弟のような関係です。

動物飼育を通してこういう時間を過ごすことが子どもの成長に良い影響を与えてくれます。ここで動物は子どもたちに対して「心理的なサポーター」という大切な役割を果たしています。

④そしてオンリーワン!

愛情をかけることはいつも気づかっている、関心を持っているという行動や態度から現れます。名前をつけてかわいがるのはその動物が自分にとって「オンリーワン」になっていることです。ご家族の動物に対する接し方から子どもたちはこれを自然に身につけていきます。

ただ、残念なことに逆効果になってしまうこともあります。もしご家族の方が多忙やそのほかを理由に十分な世話ができていないと、それが子どもたちの愛着のレベル低下になってしまいます。どのような場合もぜひ、動物への気づかいを忘れないでください。

⑤家族が一つに!

家族間の会話も動物の話題で増えてきます。動物に何かイベントがあると家族の目が同じ方向を向くようになります。

誰かが気づいた動物の変化、面白い動作、誕生日のお祝い事でも会話は弾むでしょうが、具合が悪いとかいうときにも家族が共通の話題について考え、解決策を練っていきます。思いは一つです。もし動物の変化に最初に気づいたのが子どもであったら、それは観察眼に対して褒めてやりたいところです。とにかく動物にはこうした求心力があります。

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愛知県獣医師会編著の飼育ハンドブックです。

<学校での飼育動物管理>

子どもたちが家庭で犬や猫を飼育した経験があると答えているのは約半数、という結果が出ています。(国立青少年教育振興機構。2016.7)このように直接体験の機会が減っているこどもたちには学校飼育動物の果たす役割は大きいものになってきます。生き物に親しみを持つこと、そこから命を尊重すること、慈しむこと、そして命について学ぶことなど学年が上がるにつれて目標は変化していきますが、底辺をなすものは温かさの通ういのちを大切にすることです。

家庭飼育と同じように、①世話のたいへんなことを感じ、②動物が思わぬ行動に出ることを困ることでしょう。それはお休みの日、特に長期休暇中の「餌やり当番」に現れてくるかと思います。学校での飼育にはともすると③動物から心理的サポーターをしてもらっていることや④オンリーワンとしての深い愛着を感じ取れない子どもたちも多いのではないかと思います。飼育係の子どもたちの間では⑤共通の話題から友達意識が増すかもしれません。けれど義務でお世話をするだけの教育では本末転倒になってしまいます。世話をしていく中で、子どもたちにはぜひ動物の温もりや命を感じてもらいたいと思います。

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どんな飼育舎が良いのかわかります。

<虹の橋のたもとへ>

それからどうしても避けることができないことに「死を体験すること」があります。

子どもたちが生まれたときにすでにご家庭で動物を飼育していた場合、または残念なことに寿命よりも早く伴侶動物に死が訪れたようなときに、子どもたちは各ご家庭で「死」を体験することになると思います。ウサギの寿命は犬や猫の寿命よりも短く平均5歳から8歳くらいです。ある程度お子さんが大きくなってから動物飼育を始めたようなご家庭だと、ライフサイクル的にみて初めての死の体験は家庭動物よりは学校飼育動物の方が確率は高くなるかもしれません。

「死んだら生き返らない、死んだ動物は見たり感じたりすることができない、誰にも死が訪れる」ことが「死」の概念だそうです。低学年の子どもたちにどのくらい理解されるのかは分かりませんが、お世話当番が回ってくる中学年の子どもたちにはもう理解できるはずです。

ずいぶん前になりますが、「温かい」こと、「触ると(受動的に)うごく」(能動的なものではないのだけれど)ことから、「まだ死んでいないはず」と飼育係の小学生さんが横たわったウサギを連れてきてくれました。若い先生も対応に困っていらっしゃいました。もしかすると死を分かっていたのだけれど受け入れられなかったのかもしれません。大切なものを失った子どもの反応に、ウサギに対する愛情が深かったことを感じました。死を受け入れることは私たち大人にだってつらいことです。それでも、喪失の悲しみから立ち直ることは、飼育していること以上に子どもたちに大きな成長が得られることだろうと信じています。

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オスメスの見分け方とか繁殖について。

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理想の食餌は?

<みんなに愛されて幸せだった>

今回の学会のご講演の中で、西東京市保谷第二小学校の古家、高橋両先生から子どもたちの「死」に対する反応がまちまちであることを教えていただきました。大泣きする子ども、静かになく子ども、受け入れられず落ち着かない子ども。その中で先生が「泣いていないのは愛情が浅いからなのではない」「悲しい出来事に対して受け取り方や反応はみんな違う」「しっかりお別れしましょう」と子どもたちに伝えると子どもたちの緊張もほぐれたとおっしゃっておられました。

子どもが初めて「死」と向き合うとき、大人はどのように対応したら良いのか、悩むところです。まずは静かに、お別れは悲しいことだと共感してやりたいです。そしてご遺体になったお身体にもそれまでと同じ姿勢で、自然になでて接してやりたいです。ブラシングやリボン付け、大好きだったおやつやおもちゃ、お花などを添えるなどの旅立ちへのお支度を調えつつも、また膝に抱いてなでるのも有りだと思います。お手紙を書くことができるお子さんならぜひお別れの言葉や絵を描いて、お手紙にしてもらいたいです。楽しかった思い出をお話ししながら、亡くなってもいつでも話しかけて良いし、それを動物は喜ぶと教えてやりたいと思います。

「生きているうちにしっかり愛情を注ぐ」のは後悔のない死を迎えるのに重要だと思います。

「みんなに愛されて動物が幸せだった」。旅立っていくすべての動物たちに、それからその動物に関わったすべての方にそう伝えたいと思います。

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飼育について、よくある質問と答え。

<本のご紹介>

新年度が始まりました。今年から新しく飼育係の学年に進級した子どもさんもいらっしゃるでしょう。着任早々、経験のない先生が動物飼育係に任命されることがあるともお聞きしました。愛知県獣医師会から「学校どうぶつ飼育ハンドブック」が出ています。待合室においてあります。実践的な内容なので、すぐに役に立つことばかりかと思います。お時間あるときに開いてみてください。

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動物の戸籍を作りましょう。

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飼育日誌をつけましょう。

<追加>

そうそう。はじめにご紹介したような学会には必ず「市民公開講座」があって、自由にご参加いただけます。もしお近くで開催されるというような情報が入手された日にはぜひぜひ、いらしてくださいませ。

 

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テーマ : 動物病院
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