「フィラリア陽性です」と言われたら

 毎年のことですが、フィラリアの血液検査をしていて、「陽性」の結果が出るわんこがいます。今日は「フィラリア検査結果が陽性です」となったわんこのお話しをします。

 

<フィラリア予防薬注意書き>

西尾地区はフィラリア予防薬の投与前に血液検査を受けていないわんこたちもいます。が、フィラリアの予防薬には注意事項があります。以下、某フィラリア予防薬に添付されている効能書の抜粋です。

 

1,制限事項

(1)本剤の投与前には健康状態について検査し、異常のある犬には投与しないこと。

(2)本剤の投与前には犬糸状虫感染の有無を集虫法、抗原検査法等により検査し、犬糸状虫感染犬に投与する場合は、成虫及びミクロフィラリアを駆除するなど適切な処置を行い、慎重に投与すること。

 …略…

2,副作用

 …略…

(3)本剤を犬糸状虫感染犬に投与することにより、急性犬糸状虫症(大静脈症候群)、食欲不振、嘔吐、下痢(軟便)、元気消失、歩様異常、けいれん、流涎及び皮膚アレルギー症状(発赤、搔痒)がみられることがある。(

 …略…

注意:獣医師の処方せん・指示により使用すること

 

つまり、

①投与前にはちゃんと診察に来て、健康状態をチェックさせてくださいね。

②そして血液検査でフィラリアに感染していないことを確認させてくださいね。

③ご自身で、ネットでお取り寄せして投与するのはいけないことなんですよ。

ということになっています。

 securedownload (3)
こちらが抗原検査キットです。
Tのところに縦線が浮かぶかどうかで判定します。
この子は陰性です。

<フィラリアの血液検査>

血液検査は、

①スライドガラスの上に薄くのばした血液を直接顕微鏡で観察し、血中にフィラリアの赤ちゃん虫(ミクロフィラリア)がいないかどうかを検査する方法(ミクロフィラリア検査)、
と、

②検査キットに血液を滴下し、フィラリア成虫が関係する物質とキット内の物質が結合して反応が出る検査で、心臓内にフィラリアの親虫がいないかどうかを確認する方法(フィラリア抗原検査)

の二つがあります。

1X@20120321_025347.jpg
顕微鏡画面です。
糸くずのような虫が2ひき見えます。
長さは300ミクロン、ミクロフィラリアです。
ピンクのつぶつぶは赤血球です。

子どもの虫がいないこと(①)、親虫がいないこと(②)を両方確認するのです。それは万が一、感染しているのに予防薬を投与してしまうと、(☆)のような副作用を出してしまう危険があるからです。

 わんこはみんな、たぶん、みんな、採血は好きではありません。でも、がんばって受けてくれます。それに毎年のことだし、慣れてきます。もし病気になったときでも採血はつきものです。慣れてもらっている方が良いです。それについでに他の項目も検査して、健康状態をみることだってできます。わんこはみんないい子です。大丈夫。これまでやったこと無かったよ、という子でもちゃんとできます。もしまだのわんこがいたら、ぜひ血液検査をしましょう。(余談になりました)

 securedownload (1)
陽性だとTのところにも縦ラインが出て、
縦線が2本現れます。


<フィラリア検査陽性です!>

A病院でお薬をもらって毎年きちんとやってたんだけど、B病院で検査を受けたら「陽性」って言われちゃって、どうしていいのか分からない!」って連れてこられましたわんこがいました。

 こういうときは再検査です。

子どもをみるミクロフィラリアの検査は寄生する虫の数や、検査する時間帯によっては陽性であっても「陰性」に出ることがあります。しかし「陽性」の結果が出たときは間違いなく「陽性」になります。

成虫をみる検査キットはたま~に間違いが出ることがあります。本当は陰性なのに陽性にでてしまうことがあるのです。(この反対も無いことはありません。)こういうときは、もっと正確に結果を出せる検査機関に血液を送って調べてもらうこともできます。詳細な検査で陰性結果が出たら「一安心」です。ここで陽性結果が出たら「う~ん、今年から気を引き締めて、予防を頑張りましょう」になります。

 F症尿
辛そうな表情をしているコロちゃん。
フィラリアは予防をしないと
年々成虫が増えてしまいます。

もらったお薬を投与していたにもかかわらず陽性結果になっているのは、いくつか原因が考えられます。

①はじめに薬を処方して貰ったときより、体重が増えてしまって、薬の量が不足してしまった。

②お薬を投与したのに、知らないところでわんこがペッとはき出していて、実はのんでいなかった。

③投与期間中、1か月ごとのはずが途中で間が開いてしまった。

④冬まで投与しないとイケナイのだけれど、秋になって涼しくなったからもうイイヤと早めに切り上げてしまった。

などはよくあるケースです。

 また譲渡施設から保護してきたわんこの中にはこれまでフィラリア予防をして貰ってなかったわんこもいますし、飼育中のわんこでもご家族のよんどころない事情で予防の時季にどうしても病院に来れなかったというわんこもいます。それから「フィラリア症」という病気について知らなかったから予防する機会が無かったわんこもいます。みんな、いくつかの夏を越し、今があります。

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なっちゃん、緊張の面持ち。
保護当時の面影はありません。
今では体重も増え毛のつやも良好です。



<陽性だったらどうする?>

では、フィラリア検査「陽性」のわんこは今後どうしたら良いのでしょうか。

心臓には親虫が、血液中には子どもの虫がいます。そして蚊にさされると感染子虫がさらに体内に入り、そのままだと成虫が増えることになります。

<ミクロフィラリア退治>

①はじめは、予防薬を投与するのに副作用を起こすもとになるのは子どもの虫を退治します。これにはフィラリア予防薬の極少量投与を行います。期間を空けて、少しずつ投与量を増やしていきます。フィラリア予防薬はノーベル症を受賞した薬を代表格として、それに似た「いとこ」の構造の薬も有り、ミクロフィラリアに対する作用が比較的穏やかなものがありますので、そちらの薬を使用します。使い始めの季節にもよりますが、春から始めると夏の終わりまでには安全に本来の投与量に近い分量にまで増量することができます。そしてほかのみんながお休み期間になる冬の間もそのまま投与を続けますと、翌年の春には検査で「陰性」になることが大半です。

<成虫の退治>

②心臓内の成虫に対しては、絶対安静の状態できつい駆除薬を注射し、成虫が死ぬのを待つ方法があります。成虫の生存期間は約5年なので、一度も予防をしたことがない場合には5年分の成虫が心臓内にいることが予想されます。心臓内の成虫が一度に沢山なくなると、血液の流れに沿って虫は心臓から肺へと流れ込み、急性の肺塞栓を発症することがあります。成虫を内科的に駆除するのは危険が伴います。おすすめしていません。

②’外科的に成虫を取り出すのは開胸、開心手術です。現実的ではありません。

②’’たまたま大静脈症候群を発症した場合は、開胸しなくても、心臓内の成虫が頸静脈から入れた長いフィラリア鉗子(フィラリア成虫をつかむために作られた特殊な外科器具です)で引っ張り出すことができます。人工的にこの状態を作り出し、この方法で手術をしようとするのも現実的ではありません。偶然こうなったら、手術しましょう。

②’’’心臓内の成虫は5年くらいの生存で、寿命が来ます。5年間予防に専念していると、自然に無くなるというわけです。死んだ成虫は肺に流れるわけですが、1年分ずつ(少しずつ)徐々に流れるため、人為的に駆除したときのような激しい肺塞栓になることは少ないようです。

<感染子虫の退治>

③感染子虫に対しては、他のわんこと同様の、いわゆる「フィラリア予防」になります。ただし、1年分の予防を1回の注射で済ませてしまいましょうという「注射による方法」を選択することはできません。1か月に1回、(ミクロフィラリアに対して比較的安全なタイプの予防薬を選んで)体重量よりオーバーにならないくらいの分量を(低用量ぎりぎりくらいで)予防していきます。①に連動します。

 

 securedownload (2)
モカちゃん、舌の色も鮮やか。
体調良好です。


<この先起こりそうなこと>

それでも、心臓内に成虫がいて、血中には子どもの虫がいるので、今は元気でも今後フィラリア症の症状や、後遺症を出すことも考えられます。

①急性犬糸状虫症は前大静脈症候群などとも呼ばれます。急な元気消失、食欲不振、赤色尿を特徴にしたものです。もしこんな病態になったら、一大決心をして貰い、外科手術に踏み切りましょう。

②数年後、運動を喜ばなくなったり、呼吸が苦しそうだったり、咳をするなどの症状を出すことがあるかもしれません。心臓内に成虫がいた結果、三尖弁の調子を悪くしたり、肺に流れた成虫が溶解した後に肺動脈の内壁が石灰化をおこして肺の機能を悪化させてくる可能性があります。このときは心臓や気管支のための薬を投与します。また、さまざまな影響から肝臓や腎臓の機能を低下させることも有り、フィラリア寄生がないわんこに比べると寿命が短くなる可能性もあります。

大量感染を何年も繰り返していた昔に比べ、「やせこけているのに腹水のために腹囲だけがぽっちゃりする」体型の典型的な「フィラリアわんこ」は少ないです。よくある「フィラリアの犬」として目にする絵のような状態になることは、「陽性」確認後すぐに対応してもらえたわんこではまれかと思います。

 F.jpg
急性のフィラリア症、前大静脈症候群では
こんな風な茶色いオシッコが出ます。
高速回転させていますが、膀胱炎の血尿のように
上澄みが黄色くなることはありません。

F症血液
右が前大静脈症候群のときの血液です。
左の正常わんこの血液と比べてみると、
血清が赤色になっている(溶血している)のがわかります。

 <おわりに>

「フィラリア陽性です」と言われると、皆さん、「頭が真っ白になってどうしたらよいのかわからない」、「獣医さんに話しは聴いたはずだけど全く頭に残っていない」という感想を持たれるようです。大丈夫。分からなかったり、心配になったりしたら、何度でも聞けば良いんです。

先日は遠方からお越しいただいたのにお時間が無くてお話しできずに終わってしまった患者さんには、お電話で失礼いたしました。「フィラリア陽性」が分かったときにお話しする内容はだいたいこんなお話しです。個別だと、疑問についてピンポイントでお話しができるのでもっと良いのでしょうが、紙面ではこんな感じのところです。

 

今年のフィラリア予防はまだ始まったところです。もし、まだのわんこがいたら、どうぞお早めにお連れください。そして、「めんどくさいから検査はパスしたいなぁ」とおっしゃる患者さん、「血液検査って大事なんだね」って分かってもらえるとうれしいです。

 

今日のお話はこれでおしまいです。

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