いつから心臓病の薬を始めるか

 4月のブログに掲載した心臓の機能をみる血液検査ANP、
(http://heartah.blog34.fc2.com/blog-entry-962.html)
今年の春の健康診断から始めましたが、すでにそれなりの結果が出てきています。ちょっとご紹介しますね。

ケース1:
心臓が悪くて薬を服用中だけど大丈夫なのか心配で受けてくれたわんこさん、思いの外「心房の負担は軽度」という結果。お母さんも安心してくれました。

ケース2:
そんなに悪くはなっていないだろうなぁと思いつつも、心臓のお薬を服用しているから確認のために検査になったわんこさん、「あら、いつの間にか進行していたみたい」という結果。それで、お薬増量になりました。

ケース3:
まだ年齢的には大丈夫なんじゃないかしらと思っていたけれど、お母さんの希望で心臓検査コースを選択され実施したわんこさん、「あらまびっくり、こんなに心房筋負担があったなんて」。そして慌てて詳細な心臓検査を実施しました。

概して、この検査は実施して良かったと思っています。

 

 さて、今日は犬の弁膜疾患のときの治療法について、近頃話題の心臓病の論文も併せてお話しします。

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ACVIMのガイドライン>

いま、当院では2009年に米国獣医内科学会(American College of Veterinary Internal Medicine ; ACVIM)から発表された「犬の慢性心臓弁膜疾患の診断および治療ガイドライン」に沿って治療を進めています。10人のメンバーが話し合った結果、「このような状態ならステージはどこで、この場合はこの薬を使うことを推奨します」というものが出されているので、ジェネラリストの私でも心臓病の専門家の先生がおすすめする内容に沿って世界的標準の治療を行えるというわけです。

ただ、「臨床症状がある」「ない」で初期のステージが異なるものがあるのですが、おうちの方がずっと愛犬と一緒にいない場合なども考えて、ご家族の方からのお話しでは「よくわからない」という結果を、「症状なし」にはせず、「ありそう」と思われるものは「症状有り」にしています。少なく見積もって、心臓病が悪くなっているのを放置してしまってもいけないからです。

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<ステージ分け>

さて、この分類では病期は初期段階のAから進行したDまでの大きく4つに分けられています。お薬をスタートする時期は、ステージBの段階です。

ステージAはリスクがある犬、というだけです。小型犬やキャバリアキングチャールズスパニエルです。

ステージBは心雑音がある犬たちですが、このステージのわんこたちが次の段階、ステージCの予備軍です。急性期のステージCである肺水腫という心臓イベントは死亡率も高く、本当に苦しそうで何度経験してもつらいです。できることなら家庭医としては最も力を入れてステージBのわんこたちをより良い状態で毎日過ごすようにさせ、ステージCのイベントを起こさないようにしてやりたいのです。そして、まさか初診時がステージCのイベントだなんてことがないように、日頃から早期発見し、早期治療に向けお話しをしていこうとしている次第です。

肺水腫イベントを何度も繰り返すわんこ、一度でも死亡率高いのに、そこから復活してまた発症してしまう強者のようなわんこもいますが、そんな急性のイベントもなく過ごしてもさらに心臓は弱っていき、慢性期であるステージCを経過し、もうスタンダードな治療には反応しない、末期の心不全であるステージDへと進行していきます。

 

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<ステージごとに異なる治療>

ACVIMのメンバーの先生方は、犬の心臓病の世界的な名医である先生たちですが、治療に対しては統一見解が得られていないものもあります。心臓の薬は先生によって使い慣れた薬がそれぞれ違うのかな、という気がします。

例えば、心臓病の初期段階ステージBで、当院ではじめに処方しているのはアンギオテンシン変換酵素阻害薬(ACE-I)なのですが、この薬に対し大半の先生が処方することに同意していますが、一部の先生からは同意が得られていません。また、交感神経β受容体遮断薬(βブロッカー)に関していうと、少数の先生方が処方に同意している、というところです。どちらも心機能を応援する薬としては「ゆるい」クラスのお薬です。

ステージCDになってくると、全員の先生が処方に同意する薬も沢山ありますが、すべての先生が同意しているわけではない薬もやはりいくつも出てきます。

動物病院でアンギオテンシン変換酵素阻害薬の次に良く処方されるのがピモベンダンという強心薬ですが、ステージCになると急性期、慢性期を問わずどの先生方もこの薬を処方することに同意しています。

 使われるお薬のことについてはこちら
http://heartah.blog34.fc2.com/blog-entry-819.html

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<注目の論文>

待望されたEPICStudyの結果です。前述のピモベンダンの使い始めをいつ頃にしたら良いのかの研究です。これまでは「ピモベンダンを使うのはまだ早い」と、ステージBの段階ではどの先生方も処方を推奨されていなかったのですが、この研究では早期からこのピモベンダンを使った犬たちが、従来のように早期の段階でピモベンダンを使わなかったグループと比べて、どのような生活を送り、生存期間はどうであったかを長期にわたり観察し数値化しました。

その結果、投与期間中も安全性は高く、薬の副反応と思われるようなものも対象薬のグループと変わりない割合で、ステージBの期間を長く過ごし、生存期間も長かった、という結論が出ました。

ステージCまで病期が進んでからピモベンダンを使うという従来の方法に比べると、より積極的に心臓を守り拍動を助けていくという感じが強いです。

こちらです。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27678080

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<心臓病の症状はわかりにくい>

心臓が悪いときの症状というと、まず「咳をする」というのがこれまで中心になっていました。心臓が大きくなって、心臓の背中側を走る気管が左右の気管支に枝分かれする場所を心臓が鼓動のたびに圧迫すると、断面が円形だった気管支をつぶし、気管は扁平になります。ストロー笛や草笛は、そのままのかたちだと息を吹いても音はしませんが、つぶすと音が出ます。気管支からの咳はこんなことだと思っていただけると良いかと思います。大きくなった心臓で気管がつぶされて出てくるのが心臓性の咳です。心臓病では、血液の流れを良くするお薬を処方しますが、流れが悪いために心臓に血液がうっ滞し心臓が大きくなっているのですが、血液のうっ滞が解除され心臓の大きさが緩和されると、圧迫がとれるため咳が減り、病犬は楽になります。

ですが、ほぼ「咳」を感じられない犬もいます。

「元気がない」という、何が原因なのかさっぱり分からない症状で来られるわんこの一部が心臓病だったりします。のっそりと食事は食べるけれど、喜んで食べない。時間をかけて1日分をかろうじて食べている。というのも同時に観察されています。また「あまり動かない」「動きが悪い」様子も観察されているのですが、これらを称して「元気がない」と表現されています。まぁ、「動きが悪い」と言われて骨や筋肉、関節や神経などの病気の方向に関心が向いてしまうことを思うと、まだ「元気がない」と表現され、内臓系の疾患に関心が行くので、これも一概に悪いとも思えません。

散歩についての質問では「散歩に行きたがらなくなった」「散歩に出てもダッシュしないでのろのろ歩いている」のですが「年だからこうなんだと思っていた」と言われます。

室内での行動はさらに明らかなものがあります。「家族の誰かが帰宅しても玄関へ走って行かない」「ピンポンが鳴っても客人に吠えまくることがなくなっている」のですが、やはり「年のせいでこうなっている」と思われている節が多く、感じてはいてもこちらから聞き出さないと「行動の変化」として伝えてくださることはまずありません。

「元気がない」の一言ですが、以上のような行動上の変化を一つずつ確認していくと私たちが「運動不耐」とよぶ状態になっていることが分かります。

さらに、この状態が続いた犬たちに血液検査をすると血中尿素窒素(BUN)が高くなっていることがあります。腎臓病だと思われてしまうと、点滴治療などで余計に循環液量を増加させ、症状が悪化してしまいます。クレアチニン値はさほどでもないのにBUNだけ高値なのは、血の巡りが悪くなっている印でも有り、心臓のお薬を飲み始めると劇的に改善することがあります。

心臓病になるのは小型犬に限ったことではなく、柴犬のような中型に分類される犬でも発症します。高齢になるからこそ発症してくるのが心臓病です。この大きさの犬だと、心臓が悪くて静かにしていても「認知症なのか」と思われてしまうこともあります。僧帽弁閉鎖不全症の好発犬種以外でも注意が必要です。

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<心臓病だと分かったら>

心臓病だとわかったら、快適な状態をできるだけ長く続けることが目標になります。早期に治療介入し、穏やかに過ごすようにお願いしたいです。ナトリウム摂取制限食、心臓のための薬の継続、運動負荷をかけないこと、暑さや寒さに配慮した環境を提供することなど家庭での注意事項がいくつかあります。

もうひとつ、安静時呼吸数を数え、万が一のときに慌てないようにしていただきたいです。吸ってはいてで、ひと呼吸です。胸またはおなかが上に下に動くので、この動きを見るまたは胸に手を当て動きを感じるのでもカウントできると思います。静かにしているとき、特に睡眠時に1分間に何回呼吸をしているのか数え、記録してください。30秒間カウントして2倍するのでもOKです。「Heart2Heart」というスマホのアプリもあります。大変便利です。

院内にはパンフレットもご用意があります。遠慮なくおたずねください。

 

 

心臓病のお話し、今日はここまでです。

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ジャンル : ペット

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