ワクチン接種のこと

 76日はルイパスツールが世界ではじめてワクチン接種をした日です。この日は彼の業績にちなんで「ワクチンの日」になり、ワクチンの普及と接種率向上を図る取り組みがあちこちでされています。今日はワクチンのことについてお話しします。「犬や猫にはこんなワクチンがありますよ」的な紹介ではありません。

 

<ワクチン接種には基準となるガイドラインがあります>

わたしたちは、心臓病はACVIMの、腎臓病はIRISのというように、それぞれの専門家が推奨するガイドラインに従って診断や治療を進めています。そして犬と猫にワクチネーションをどのように進めていくと良いのかについても、心臓病や腎臓病と同様のガイドラインがあります。世界小動物獣医師会(World Small Animal Veterinary Association : WSAVA)のワクチネーションガイドライングループ(Vaccination Guidelines Group : VGG)によるガイドラインに沿って、日本の事情や当院のある地域性(感染の発生など)、それぞれの個体のライフスタイルを考慮して、またシェルター飼育される動物ではその環境を考えて、推奨するワクチンのタイプや推奨する時期、追加免疫などを決定しています。

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2010年版です。





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このほど2015年版の日本語訳ができました。
感謝です(><)




<ワクチン接種の目的はなんだろう>

個々の動物をそれぞれの病気から守ることはもちろんなのですが、動物たちが集まる社会の中で、ある程度の割合でワクチン接種がなされているとワクチン接種を施されていない動物もその恩恵にあずかれる「集団免疫」が成立します。つまり、ワクチン接種率が高まると感染症の大発生が起こるのを最小限度に食いとどめることができるのです。集団免疫ができあがると、母乳からの免疫を受け取ることができなかった幼い子犬や子猫、ある種の病気のために免疫抑制剤の使用によってワクチン接種ができない動物たち、ワクチン接種でアナフィラキシーショックを起こすため接種することができない動物たちなども間接的に守ることができるわけです。

より多くの動物たちにワクチン接種を受けていただき、接種率を上げたいと思うので、多くの患者さんにワクチン接種をおすすめしています。

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こんな風に詳細なガイドラインが出ています。
各国による状況の違いも踏まえた上での
推奨プランになっています。
これをもとに日本の、愛知県の、西尾地区の
各ご家庭の飼育状況などを考えて
各動物のワクチネーションを決めるのが良いわけです。


<ネットでささやかれていること>

インターネット上では不確定な情報が氾濫しています。個人の飼い主さんのブログで最も多いのは、「ワクチン接種は3年に1回でよい」というものです。おそらく「海外ではこうなっている!」というところから出てきている発言なのだろうと思われます。

海外のワクチンメーカーの使用説明書にある記述は「3年ごと(場合により4年)」になっています。このようなワクチンを使用して「毎年ワクチン接種を行う」と適応外使用になってしまいます。これは科学的根拠に基づいて、というよりは法的な問題に基づいた接種規定であるかもしれません。でも、つい最近まで年1回の再接種が推奨されていて、近年同じ製剤で3年(から4年)として承認されたものです。

残念ながら国内で流通しているワクチンには「3年または4年ごとの接種で」という説明事項は見られません。こうなると慣例通り1年ごとの接種を推奨していかないと、もし3年目に入る前に伝染病の感染を発症してしまった場合には、「残念でした」では済まされない状況になってしまいます。

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主な3つのウィルス疾患についての免疫状況を
インハウスラボで調べられます。

 <本当のところ追加接種間隔はどうなのか>

それにしてもワクチンは「免疫が残っているのに必要以上に接種する必要はないだろう」というのが統一見解です。問題は「前回の接種からどのくらい経過すると免疫の低下が起こるのか」ということです。免疫持続期間(duration of immunity : DOI)はワクチンの種類(メーカーではありません。予防できる疾病とでもいいましょうか。)によっても異なるようです。海外でもコアワクチン(後述します)については3年ごとですが、人獣共通伝染病であるレプトスピラのワクチンについては1年ごとの接種が推奨されています。

 VGGは「抗体検査」を重要視しています。年に1回のヘルスチェックでワクチンを接種するにふさわしい抗体の低下が見られているかどうかを調べたうえで、ワクチン接種をするかどうかを決める、というものです。「年に1回のワクチンを」ではなく、「年に1回の抗体検査を」すすめているのです。そうすると、1年後に接種になる動物もいれば、3年先まで追加接種を受けなくても大丈夫だった動物もいる、ということになるのだろうと思います。

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何度もワクチンを接種するのは怖いですか?
ワクチンは費用対効果を考えると非常に優秀な予防法です。

 <日本の実情はどうなのか>

日本では犬も猫もワクチン接種率は他の先進国に比べ非常に劣っています。また都会と地方によっても接種率に違いがあるだろうと思われます。国内のワクチンメーカーさんが「伴侶動物ワクチン懇話会」で発行したポスターによると、国内のワクチン接種率は全国を慣らした数字ですが、犬が20数%で猫が10数%です。これは集団免疫の観点から見ると十分とは言えない数値です。もしくは個々の動物の免疫が高まっていれば、「とりあえずうちの子は安心」レベルになるのでしょうか。

一方、病院単位で「抗体の力価を調べる」ことはこの春始まったばかりのことです。これまでは、例えば「ジステンパーが疑われるがワクチンは接種してあるはずだ」というようなとき、外注で検査を実施していました。この春すでに検査を受けられた方もおありかと思いますが、院内で調べるこの検査、フィラリアの検査と違って、結構煩雑な手順で、慣れないVTさんにさせるのはヒューマンエラーのもとになりそうな作業なのです。(泣)また全行程が30分ちょっとかかるため、外来で採血をさせていただいた後、結果は後日報告になりますので、結果抗体の値が低ければ、あらためてワクチン接種にご来院いただく必要があります。さらにこれまでやってこなかった検査ですので、健康診断の価格はこの分が上乗せになってしまうのでごめんなさい、というところです。(さらに、もし春先の狂犬病予防シーズンにワクチン接種の時期が重なっている動物が大勢いると、混雑必至、昼休憩は検査タイムになるだろうと予想されます。午後診察のモチベーションをキープするのが大変だっ!)(←これは私たちの実情で、飼い主さんには関係ないことですけれどね。)こんなことを踏まえた上で「ワクチン前の抗体検査」が飼い主さんたちから受け入れられるとVGG推奨の世界標準のことができると思いますし、そう遠くない将来にもこうしたことが基準になることも願っています。

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基本は病気にならないでいて欲しい、それだけなのに
難しい問題はいっぱいありますね。
 

<考えられる理想のかたちはどんなものだろう>

これは考える理想で、飼い主さんが連れてこられる都合のことや、受けられる検査の費用面などは受け入れが可能かどうかはさておき、のものです。

①春はフィラリアと狂犬病予防だけですませる。この時期にノミやマダニの予防をはじめる。

②(初夏から夏になるでしょうけど、)キャンプの前1~2か月くらいのところで健康検査で採血しワクチンの抗体値を調べる。この日にレプトスピラのワクチンを済ませる。猟犬の場合はもう少しずれても。

③結果により他の5種または6種のワクチンを接種する。抗体価があればワクチン接種は不要。

④夏の暑さを乗り越えた秋から冬の始まりに、体重検査程度の軽い健康検査をする。初夏に実施した血液検査で異常値が出たのならば、ここでも血液検査。

1年に1回だけ、全部をこの日に済ませたい、と思われている大きめわんこの飼い主さんからすると、労力が倍増しそうですね。

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主流になっているワクチンのすべてが
コアワクチンになっているわけではありません。



<コアワクチンとノンコアワクチン、推奨されていないワクチン>

VGGはワクチンを3つの段階に分けています。

コアワクチンは、すべての犬と猫に接種すべきワクチンで、

犬の場合①犬ジステンパーウィルス(CDV

    ②犬アデノウィルス(CAV

    ③犬パルボウィルス(CPV)から犬を守るワクチンです。

猫の場合①猫汎白血球減少症ウィルス(FPV

    ②猫カリシウィルス(FCV

    ③猫ヘルペスウィルス(FHV)から猫を守るワクチンです。

どちらも結構シンプルです。

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猫のワクチンもいろいろありますが。



ノンコアワクチンは地域的な要因や地域環境、ライフスタイルによって特定の感染症のリスクがある動物に必要なワクチンで、重要だと思われているのは人獣共通伝染病であるレプトスピラ症です。世界的にも注目が集まっていて、各国で研究報告が増えているそうです。レプトスピラの接種頻度はこれまで6か月から1年ごとという比較的短期間での追加接種が推奨されてきましたが、VGG2015年改訂版では1年ごとに変更されました。農場、郊外、汚れた水辺などのリスクのある地域に頻繁に行く場合、お散歩コースがこれに相当する犬、キャンプなどのアウトドアライフを飼い主さんと共有する犬、ドッグラン施設で他の動物と交流することが予想される場合も、そしてワイルドな実猟犬ではもちろん接種が必須です。

外出する猫の場合、猫免疫不全ウィルスワクチン(FIV)はノンコアワクチンとしておすすめします。西尾地域では猫免疫不全ウィルスの感染症は比較的発生頻度の高い感染症です。VGGではこれまで非推奨ワクチンに分類していましたが、ワクチンの有効性、リスクのある猫に利益になるという観点から2015年の改訂版ではノンコアワクチンに再分類されました。

猫白血病ウィルス(FeLV)もノンコアワクチンに分類されています。

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猫免疫不全ウィルス(猫エイズ)のワクチンは
ノンコアワクチンに分類されています。




非推奨ワクチンに分類されているのがコロナウィルスのワクチンです。日本ではコロナウィルス感染症ワクチンが含まれる6種混合ワクチンは普通に流通しています。コロナウィルス感染症が問題にされているのは途上国であるアジアや中南米などの地域に限られているため、非推奨ワクチンに分類されています。個人的には、猫の伝染性腹膜炎の発生原因となるのもコロナウィルスであるし、人で問題になっている新興感染症では従来のウィルスが宿主を越えて感染することから、犬猫同居の場合などは特に、犬にコロナウィルスワクチンを接種しておいたら猫の無症状感染と体内でのウィルス変異を防ぐことができるのではないかと(想像レベルのことでエビデンスはないのですけれども)思っています。(人のSARSの原因になっているのはコロナウィルスです。)

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主となるワクチンではないですが、外出する猫には
おすすめしています。



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感染するととても怖い病気だからです。



<ワンヘルスの概念と狂犬病予防>

新興感染症というのは「新たに出現した人の感染症」のことをいいますが、このほとんどは野生動物や家畜動物の病原体に由来すると提唱されています。これまで人の健康は人の、動物の健康は動物の、という区切りで研究されてきたわけですけれども、野生動物の住む世界と家畜や人が住む世界の境界がはっきりしなくなってきていることなどから互いの感染症が種の垣根を越えて感染してきています。ここは、「人の医療」、「動物の医療」、さらに「環境衛生」に従事する人が連携して「感染症を管理する」ことが合理的で効率の良い結果をもたらすだろうというのが「ワンヘルス」の概念です。「人も動物も環境も健康であること」がひいては私たち人の感染症を減らす(無くす)ことになります。この取り組みの中でも最重要課題になっているのは人獣共通感染症である「狂犬病」です。狂犬病は新興感染症でも、再興感染症でもなく、ずっと世界に広く発生している感染症です。ワンヘルス委員会の取り組みは、日本でその接種が義務づけられている狂犬病予防の取り組みと重なるものです。こちらは抗体云々という考えではなしに、継続して年1回の接種をお願いしたいと思います。

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ワクチンについて、疑問に思う点も多数あるかと思います。またの機会にお話しすることができればと思います。今日のお話はここまでです。

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