猫伝染性腹膜炎・その2

猫伝染性腹膜炎のお話、2回目です。

どのような猫に対してこの病気を疑うのか、疑いがあったらどのような検査を行って診断に結びつけていくのかをお話しします。

 

 

<猫伝染性腹膜炎を発症しやすい猫>

猫伝染性腹膜炎を発症しやすい猫がいます。すべての年齢層の猫に見られるのですが、多頭飼育されている環境下(保護施設やブリーダー施設などのような)の若齢猫でもっともよく見られます。たいていは2歳未満で発症し、特に1歳未満の猫では病状の進行が早いです。17歳とかの高齢の猫でも見られますし、一部、感染に敏感な猫種や系統(ベンガルなど)があるようです。

総じて、多頭飼育されてきた経歴のある若齢猫で怪しい症状が見られると、疑いは濃くなります。

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<猫伝染性腹膜炎を疑うときの猫の様子>

「もしかして、この子、猫伝染性腹膜炎なのでは!」、と閃くきっかけになる猫の様子はいろいろです。

    ウェットタイプを疑うとき

 おなかがでっぷりしていたり、呼吸が苦しそうであったりすると、腹水や胸水を疑います。活動性が低下していて元気がないとか、寝ていることが多いなどの沈うつがあるということがわかったり、身体に触れたときに熱感があったり、検温で軽い発熱があるのが認められたりすると心配が増していきます。

②ドライタイプを疑うとき

 こちらの方がわかりにくいです。だるそうにしている日が続いていること、元気がなく静かにしていること、食欲が低下し体重が減ってきていることなどしか分かりません。身体に触れてみて、リンパ節が大きいかな?腎臓が腫れっぽいかな?と感じることや、可視粘膜を見て色白だったり軽く黄ばんでいたりするのも不安が増します。

③目の様子

目の様子に変化があるのも心配な要素です。透明であるはずの角膜に何か着いているように見えたり、目が濁って見えたり(目の中に卵の白身のような物や血の塊などが浮かんでいるように見える)、虹彩の色が変わってきているとか、左右の目で瞳孔(黒目・ひとみ)の大きさに違いがあるとかすると、なおさら「もしや」「まさか」の疑いを持つことになります。わけもなく目が小刻みに動いている(揺れている)ときも心配です。

④そのほか

バランスよく動くことができないとか、震えがある、異常な行動を取る、過敏な反応があるなどの神経症状があるのも心配要素です。

  

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<診断のために行う検査と疑いを深めることになる検査結果>

診断のために、院内では次のような検査をしていきます。疑いが濃厚になる結果を示しておきます。

①ウェットタイプを疑うとき

腹水や胸水が確認されたら、診断と治療を兼ねて水を抜き、採取した液体を検査します。採取した液体のタンパク量やアルブミン・グロブリン比(A/G)、総白血球数、細胞成分を調べます。血液検査も行います。猫伝染性腹膜炎の腹水や胸水はたいてい琥珀色で透明です。採取した液をポンプから容器に出して空気に触れさせておくと、ゼリー様のぷるるんとしたかたまりができてくるのも、怪しさが増してくる所見です。この採取液を検査してみると、タンパク量が多く、A/Gが低いこと、さらに白血球の数が少ないことや、調べた細胞は好中球が多数というような場合、猫伝染性腹膜炎の疑いがさらに強まります。血液検査では貧血や白血球増多、総蛋白の増加とアルブミン・クレアチニン比の減少が疑いを強める所見です。

②ドライタイプを疑うとき

 ウェットタイプと同様の血液検査を行います。疑わしい所見は同様です。

 さらにX線や超音波などの画像検査も行います。これは猫伝染性腹膜炎を疑って、というよりも、何か手がかりはないだろうかと猫の身体の情報を収集するために実施するというのが近いかもしれません。なにせ、ドライタイプの所見は、あれやこれやいろいろな病気でもみられることの多い所見と重複しています。腹部のリンパ節や腎臓などに腫瘍のようなものが見られると診断は複雑になります。

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<確定診断に結びつけるための追加検査>

院内の検査で疑いが増した場合、次に外部の検査機関に委託して追加の検査を行います。

①ウェットタイプを疑うとき

 採取した液体や血漿(血液の上澄み液)を外部の検査機関に送ります。腹水または胸水で猫コロナウィルスの抗体価を、血液で蛋白分画を調べて貰います。

②ドライタイプを疑うとき

 血漿(血液の上澄み液)を外部機関に送ります。猫コロナウィルスの抗体価、蛋白分画を調べて貰います。炎症性蛋白の値(血清アミロイドASAAなど)を調べて貰うこともあります。

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<猫コロナウィルスの抗体検査の解釈>

猫コロナウィルス(FCoV)の抗体価の検査は猫伝染性腹膜炎の診断をするときによく用いられる検査です。ですが、あくまでも猫コロナウィルスの抗体価を見るものであって、猫伝染性腹膜炎ウィルスの抗体検査ではありません。抗体価が高いからといって猫伝染性腹膜炎を発症しているとはいえません。また、猫コロナウィルス抗体価がマイナス(―)であるのならば猫伝染性腹膜炎は発症していないと言い切れますが、抗体価が低くても猫伝染性腹膜炎でないとは言い切れません。体内のウィルス(抗原)と抗体が結合して免疫複合体を形成しているため、結果として見かけ上抗体価が減少しているだけなのかもしれないからです。猫伝染性腹膜炎を疑う症状があって、抗体価が高いときには、猫伝染性腹膜炎を診断するに十分確定的になります。


 

臨床症状は出ていない

臨床症状が出ている

抗体価(―)

おそらく陰性でしょう。

 

抗体価が低い

可能性があります。

必ずしも猫伝染性腹膜炎ということではないです。

疑いは残ります。

猫伝染性腹膜炎ではないとは言い切れません。

抗体価が高い

 

猫伝染性腹膜炎でしょう。

ほぼ確定的です。



 
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<確定診断をする検査>

特殊な検査になります。免疫染色法でマクロファージから猫コロナウィルス抗原を検出するのが確定診断になります。「ウィルス検出=陽性=猫伝染性腹膜炎が確定」です。しかし、陰性であっても猫伝染性腹膜炎ではないと言い切れません。

検体はウェットタイプなら滲出液ですが、ドライタイプだと腹腔内にできた肉芽腫病変から採取したもの(生検)になります。ドライタイプ疑いの猫に全身麻酔下で開腹手術を行い、検体を採取するのは現実的ではありません。

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<疑いを突き詰めた先に何があるのだろうか>

陽性であることを確認するために免疫染色法という特殊な検査まで実施する意味はどこにあるのだろうかと考えることがあります。

諸外国では、猫伝染性腹膜炎のような予後不良の病気を発症している場合、動物が苦しむ前に安楽死を推奨されていることが多いです。欧州猫病学諮問委員会(The  Europian Advisory Board on Cat Diseases : ABCD)もこの疾病に対し、「一度は治療してみるものの、3日以内に改善しない場合は治療が難しい、安楽死を考えるべき」、という推奨ラインを出しています。診断後の寿命がわずか9日、という数字は生存期間が短い病気であるということをいっているのではなく、そうした推奨に従う症例が多いからなのだろうと思います。さすがに安楽死となると、きっちり診断をつける必要があります。あいまいのまま、疑いがあるくらいで安楽死を実施することはできないからです。特殊であろうが、高価な検査であろうが、確定診断に結びつける必要があるでしょう。

私たちは日本に住み、和の心で日常を送っています。合理的といえば合理的、でも割り切れなさが残るこの推奨ラインに従うには苦痛があります。「疑いがある」ことを「間違いない」にまで煮詰めて安楽死に臨むよりは、「おそらくそうだろう」の線で留め起きながら、愛猫が苦しまないよう緩和療法を交えた治療を行い、自然死を迎えるまで暖かく見守ることを選択する方が、日本人としての考えに近い気がします。家庭猫という状況であれば(特殊なキャッテリーという状況でなければ)なおさらそうだろうと思います。

そのようなわけで、当院では、多くの病気については世界的なその道の専門家が推奨するガイドラインに沿った治療を学び、理解し、実践することを目指してはいますが、この猫伝染性腹膜炎に関しては、そうした世界の王道に沿わない道を選択しています。

 

 

今日のお話はここまでです。

次回は治療のことや、どうしたら発症を防ぐことができるのか、といった内容でお話ししたいと思います。

 

    
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