猫の伝染性腹膜炎・その3

 猫伝染性腹膜炎のお話、3回目です。

治療のことや、猫コロナウィルス抗体陽性野猫が猫伝染性腹膜炎を発症するのを防ぐために、どうしたらよいのだろうかということについてお話しし、連続3回のお話しの締めくくりにしたいと思います。

 

 

<猫伝染性腹膜炎は炎症性の病気?>

猫伝染性腹膜炎は「伝染性」が付いてはいますが、伝染性疾患としてくくるには水平感染は起こりにくい病気で、むしろウィルス性「感染症」の病気です。さらにその病態も「炎症」と免疫亢進による「アレルギー」様でもあります。そこで、治療は①ウィルス増殖を抑えることと、②炎症を抑えることが二大柱で、あとはそれぞれの症状に応じて対症治療を行います。

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<基本の治療・ガイドライン>

KIRK'S Current Veterinary Therapy に記されている治療が、猫伝染性腹膜炎治療のお手本としてあります。2005年版です。

ウェットタイプは胸腔内または腹腔内にステロイドの注射液を注入するほか、プレドニゾロン内服による治療です。はじめはかなりの高用量を使い、10日から14日ごとに、その薬量を減らしていきます。減量により悪化したらまた増やすこともあります。また、インターフェロンも使われます。1日おきに注射し、貯留液を認めなくなったら頻度を週に1回に減らす、というやり方です。

ドライタイプも同様です。ウェットタイプに同じプレドニゾロンを使い、インターフェロンは毎日です。

目の症状が出ている場合、点眼液にもステロイド剤を使用します。

インターフェロンはとても高価な治療なのですが、反応する場合と反応しない場合が有り、どのような症例に効果的なのかはその違いが分かっていません。

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<そのほかの治療>

トロンボキサン合成酵素阻害薬(塩酸オザグレル)はアレルギーの抑制に使われるお薬ですが、猫伝染性腹膜炎ウィルスによって亢進する血小板凝集を抑制する作用があります。血小板の凝集を抑えると血管炎の進行が抑えられ、場合によっては腹水の貯留がなくなったり抑えられたりします。1998年に亘先生が学位論文で発表されてから、日本ではKIRK'S Current Veterinary Therapy の治療に加えて使用される先生が多くいらっしゃいます。内服薬です。朝夕2回服用して貰います。

 

それでも猫伝染性腹膜炎に対する有効な治療方法はまだ確立されていません。致死的な病気なのでぜひ望まれるところです。

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<研究中の治療>

猫伝染性腹膜炎ウィルスがマクロファージ(細胞の名前です)に感染すると、ウィルスは細胞内で爆発的に増殖をはじめます。このときに猫伝染性腹膜炎の病態を悪くさせるサイトカインがいろいろ出てきます。この中の一つ、TNR-αに対して抑制的に働く薬として、ペントキシフィリン(薬品名トレンタール)がありますが、この薬は日本での製造が終了してしまいました。良く似たお薬のポリペントフィリンをドイツの大学で研究されていましたが、残念ながら効果なしとの評価を受けています。

「ポリプレニル免疫賦活剤はドライタイプの猫伝染性腹膜炎の生存期間を延長させる」と、テネシー大学から研究発表されています。完治ではないものの、猫の体調を改善させ、200日とか300日といった単位での生存日数を掲げられていて、これからの治療に非常に期待が持たれます。

翻訳されている記事です。

https://the-mal.com/news/feline-infectious-peritonitis 

 

日本でも、北里大学の高野先生たちが抗マラリア薬であるクロロキンの効果を研究されていました。抗ウィルス効果、サイトカイン産生抑制効果が認められています。しかしクロロキンも日本での製造が中止されてしまいました。現在はヒトのエリテマトーデスの治療薬として承認されているヒドロキシクロロキン(化学構造式はクロロキンに似ている薬です)で再度研究がなされています。TNF-αの活性を抑える薬や抗ウィルス薬を開発途中とのことです。結果が待ち遠しいです。

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<発症を予防する>

猫伝染性腹膜炎の発症は、感染している猫コロナウィルスが腸管内で増殖する際に変異して、猫伝染性腹膜炎ウィルスに変わることが原因です。このことを鑑みると、

①腸内の猫コロナウィルスを増やさないようにすること

②猫の免疫を低下させる原因を無くすこと

が必要になってきます。

繰り返しの重複感染を抑えるには、同居猫同士から糞便を介した経口感染をコントロールする必要があります。個人のご家庭では、多頭飼育をできるだけ避け個別飼育にし、トイレはそれぞれが別の物を使用し、食器とトイレは遠く離して(できれば別の部屋に)設置するという、衛生上の基本的な事項を守っていただくと良いでしょう。仲の悪い猫同士は別の部屋で管理し、ストレスを減らすことも大切なことです。

 

さらにⅡ型ウィルスの発生という点を考えると

③犬と接触させないこと

も予防になるのかもしれません。

 

④集団飼育施設の衛生管理を行うこと

は、キャッテリーでの子猫の猫コロナウィルス感染を防ぐ上で重要です。

1か所で多数の猫を飼育するのを避けることは、集団飼育施設においては難しいこともあるかもしれませんが、猫を衛生的に保つという意味で大変重要です。さらに清潔の維持のほか、個々の猫のストレスを減らすためにもぜひ進めていただきたいことです。できれば仲の良い猫同士3~4頭ずつを別の部屋で飼育して貰うと良いです。理想は個別飼育です。

 

さらに

⑤ブリーダー施設に情報をフィードバックする

ことが可能ならば、購入先から繁殖元へ連絡を入れるのも、猫の将来のためになることでしょう。子猫が猫伝染性腹膜炎を発症するのはブリーダーの手を離れ、新しい家庭に入った頃に起こりやすいため、繁殖元では猫コロナウィルス感染について知ることがない可能性があります。情報を届けることにより、子猫が移行抗体の残る時期にウィルス陽性猫から隔離する策を取ることができるので、猫コロナウィルスの感染チェーンを徐々に絶つことができるかもしれません。

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<ワクチン接種>

米国では猫伝染性腹膜炎のワクチンがありますが、(経鼻接種です)有効性は十分には確立されていません。米国猫専門医協会(AAFP)では、このワクチンの使用をすすめてはいないそうです。

 

 

<どのように消毒をすすめていったら良いのか>

乾燥した環境で7週間も失活しないといわれる猫コロナウィルスですが、太陽光線や紫外線照射や熱などで不活化されるようです。56℃数分で感染性を失う、という記述も見かけました。ほとんどの消毒薬に感受性をもち、塩素やアルコールなど入手しやすい消毒薬や洗剤でも失活することから、猫コロナウィルス感染している(抗体陽性の)猫が使用するトイレは家庭用洗剤で洗ったのち、塩素消毒し、屋外で天日干ししておけば十分かと思います。

感染は

「猫の糞便」→(ヒトの手などが仲介する可能性もある)→「別の猫の口」

というルートで成立するので、⇒部分の消毒を徹底し、ここを断てれば感染は起こりません。

これらは猫コロナウィルスに関しての対策です。猫伝染性腹膜炎に対し水平感染が起こるためにとる対策、ということではありません。猫伝染性腹膜炎発症猫からウィルスが伝播されることもあり得ますが、通常これは起こりません。

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<おわりに>

予後不良の病気を診断してしまったとき、どんな風にお話しを切り出して行こうか、これが長く臨床をしていてもなかなか悩むところです。

診察に時間がかかると、途中で待合室を行き来しているVTに「悪そうだね。」って声がけしてくださる患者さんがいらっしゃいます。読みが深いです。VTからの連絡を受けて、「あー、察知されている。うん、そうなんだよ、そうなんだけどねっ。うわー。」っと言葉を飲み込んでいます。なんとかこの事態をブレイクさせる方法はないものか、考えていたりします。それから、説明室にお通しした段階で「先生の顔色で分かるわ。良くない病気なのね。」って先に口火を切ってくださる患者さんもいます。「すみません。大当たりです。」

そんなこんなで、「実は、、、」「あまり良くないお知らせですなんですが。」となるわけです。

それでも、今、頑張ってくれているのは目の前の猫さんなのだし、清書に書かれている数字はありますが「それはそれ、こちらはこちら」。ご家族の希望する治療方針をご相談しながら決定し、そこに沿うように努力していこうと思っています。

それから、繰り返しになりますが、猫コロナウィルス抗体価が陽性であることと、猫伝染性腹膜炎を発症しているということは別物です。もし抗体価が高かったとしても、抗体価の推移を見守り、できるだけストレスなく過ごすようにしてやりましょう。

今回はなかなか重い病気のこと、お話ししてきました。3回に渡る長いお話しにおつきあい、ありがとうございました。世界中からこの病気がなくなることを思ってやみません。

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