心臓病から腹水

 犬の心臓病というと、「僧帽弁閉鎖不全症」がその筆頭に揚げられます。小型犬に多い、あの病気です。「左心房と左心室」の間にあるのが「僧帽弁」で、「右心房と右心室」の間にあるのは「三尖弁」です。心臓は血液の流れの途中にあるポンプで、一つの臓器ですが、血液は心房中隔や心室中隔という壁を隔て流れは全く違う方向へ向かっています。そのため「左心系」、「右心系」というふうに、血液の流れを基準に2つの系統に分けています。左心系と右心系では問題が起こったときに発生する症状が違ってきます。

今日は僧帽弁疾患とは少し違う右心系特有の病状のことについてお話しします。

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<左心系と右心系>

左心系を流れる血液はこれから圧がかかって全身に届く酸素に富む血液、動脈血です。それに対し右心系は、全身を流れた血液がたどり着くところで静脈血が流れています。右心系は左心系に比べて圧が低いので、僧帽弁と同じくらい弁に障害があってもなかなか優位な症状を現すことはありません。でも、僧帽弁閉鎖不全症の末期になってくると、慢性的な血液のうっ滞で心臓に負担がかかってきたために、心臓が大きくなり、三尖弁が完全に閉じきれない状態になり、右心系の不全を生じると考えられます。

また、フィラリアの虫体は右心系に寄生するのでフィラリア症になったときも同じような右心系の症状を発生します。(フィラリア特有の別の症状もあります。)

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<三尖弁は3枚の膜>

僧帽弁は弁膜が2枚ですが、三尖弁はその名前の通り3枚の弁で構成されています。丸いケーキをベンツマークのように、120度ずつに3等分したとしましょう。1人前に切り分け扇形になったものが弁で、ケーキ周囲の円は弁輪になります。心臓が拡張していくのに伴って弁輪も大きく広がっていきます。切り分けてからそれぞれのケーキを少し外にずらした状態に同じです。弁輪が開いても、弁の大きさ(切り分けたケーキの大きさ)がそれに伴って大きくならなければ中央部は空いてきます。三尖弁の閉鎖不全はこのような状態です。

 

<腹水>

右心系の異常が発生したときの最も特徴的な症状は「腹水」です。腹水は腹腔内に貯留した液体です。腫瘍や炎症でも腹水は生じますが、右心系に問題があった場合にも腹水が生じます。「腹水」は病気の名前ではなくて、臨床症状の一つです。

腹水は視診でおなかがふくれていることから疑いを持ちます。さらに触診で確かめます。ぽんぽん!っとおなかを弾いたとき、もう一方の手に液体の波が感じられます。そして超音波の検査ではっきりと確認できます。

右心系のうっ血液心不全が生じると毛細血管内の静水圧が上昇するので血管から水分が漏れやすくなり、腹水の発生につながります。内臓の毛細血管の静水圧を上昇させる原因のひとつに門脈高血圧があります。門脈は腸から肝臓へとつながる血管です。右心不全があると門脈高血圧になります。原因と結果がぐるぐる回る、悪循環です。

循環が悪いとき、腹水だけでなく、胸水も貯留することがあります。また腹水が大量に貯留する頃には手足や腹壁の皮下がむくんで指で圧すとへこむこともあります。

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<腹水の影響>

腹水は全身性に影響を及ぼします。

①大量の液体は腹圧を上昇させます。これによりさらに心臓の動きが悪くなります。(静脈還流が悪くなって、心臓の拍出力も減少させてしまうことがあります。)

②腹圧が高まると横隔膜の動きを悪くさせます。それで小刻みに「はぁはぁ」させるパンティング呼吸になります。肺を大きく膨らませることができませんから、身体に十分な酸素を取り込むことができなくなります。

③腹圧は犬にとって非常に不快なものです。

④浸透圧の関係から、便が緩くなることがあります。

⑤活動性の低下が起こります。

⑥食欲も低下します。

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<腹水を抜く>

腹水穿刺をすると、排液した検体を利用して検査することもできるし、抜くことそのものが治療になるので、動物の不快を解消するためにも行われる一石二鳥の処置です。

たいていは鎮静や麻酔の処置なしで実施することができます。

動物の大きさや貯留している液体の量にもよりますが、静脈内点滴などに用いられる留置針や翼状針を用いて、超音波で最適な穿刺位置を探り、おなかに針を刺し、そこから繋げたチューブを介して注射筒に液体を採取します。

少なくとも数10㎖、場合によっては1ℓもの液体が貯留している場合があります。

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<合併症も考えられる>

腹水を穿刺する場合、全く危険がないわけではありません。呼吸が苦しいときは、動物を横に倒しただけでも呼吸が不安定になります。酸素処置を行いながら処置することもあります。

穿刺位置によっては、大きく腫れた肝臓や脾臓などの臓器の裂傷を起こさせる危険もあります。

ときに腹壁に開けた小孔(小さな針の穴)から皮下組織に腹水が漏れ出ることもありますが、こちらは小さな問題です。

 

<お薬の投与>

大量の腹水の中には、本来からだが利用するはずだったタンパク質が含まれています。何度も腹水を排液しているとタンパク質が枯渇し、さらに腹水が貯留しやすい「低タンパク血症」をもたらすことがあります。そのため、処置としての腹水排液後は必ず「このあと再び腹水が溜まらないようにするお薬」の投与が必要になってきます。

ひとつは利尿薬です。滞って腹腔内に貯留するはずの血液中の水分を、腎臓から尿にして出すようにします。利尿薬は循環を良くする役割も持っています。また循環系に作用する薬である血管を広げる薬(血管拡張薬)や強心薬なども使います。

しかしこのような内服薬をしっかり投与していても、腹水をコントロールできず、定期的に腹腔穿刺をして腹水を抜かなければならないようなこともあります。慢性化してきて、腹水のある状況でも犬が比較的安定していて、呼吸に無理がないようであれば、「抜かない治療」をすることもあります。

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<お願いしたいこと>

わんこのご家族の方にお願いしたいことがあります。

①運動の制限

 激しい運動や興奮することは避けてください。心臓に負担がかかり、腹水は溜まりやすくなります。

②栄養の管理

 ナトリウムを摂取すると、血中のNa量が高まり、水分を呼び込み、血液量が増えるため、心臓はさらに負担が増してしまいます。低Naの食餌を与えるようにお願いします。また、どうしてもタンパク質が腹水に逃げて生きやすいため、必須アミノ酸をしっかり備えた食餌を与えるようにお願いします。

③お薬の服用

 薬にはそれぞれ作用時間があり、24時間効果が続く薬もあれば、8時間しか効果の持続がない薬もあります。ご家庭の都合によって「11回の薬を希望します」といわれることもありますが、残念ながら私の力では薬の効力を延長させることができません。ぜひ処方通りに服用させてください。

④モニタリング来院

 定期的に病院へお越しください。体重測定や血圧測定で犬の様子を観察させて貰うほか、血中の電解質やタンパク質の数値、高窒素血症が発生してはいないかなどを確認するため血液検査を実施します。心臓と腎臓は密接につながっています。腹水をうまくコントロールするために初期は短い期間での来院をお願いすることが多いです。

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<予後は>

運動がほとんどできない、じっとしているだけで元気がなくなった、体重も減ってきてしまっている、食餌を十分に摂れなくなってきている、下痢をしている、時々失神を起こしてしまうなどは悪い兆候です。

 

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810日の「健康ハートの日」にちなんで、当院では81日から92日まで、ワクチン時のサービス価格で心臓病関連の血液検査を行っています。ラボ検査のためお時間はかかりません。結果は後日ご報告いたします。心臓病が気になるわんこさん、春先の検査で「ひょうじゅんコース」や「おてがるコース」を選択されたわんこさん、「心臓病コース」で出た結果をもとに薬の変更があったわんこさんにおすすめです。

 

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