猫の高血圧性眼症

 猫の腎臓病に関連して、また甲状腺機能亢進症に併発して、全身性の高血圧症が発症することがあります。猫の高血圧症は比較的一般的なことです。腎臓病が悪化すると高血圧になるというのではなくて、高血圧症になる猫と、そうでない猫がいるようです。(遺伝子検査が普及すると、高血圧症になるタイプとそうでないタイプを発症前に発見することができるようになるかもしれません。)

今日は「猫の全身性高血圧症」と高血圧症に併発して発生する(かもしれない)「高血圧性眼症」についてお話しします。

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腎臓と甲状腺のある位置はココです。

<猫の高血圧症>

猫の動脈血圧が正常よりも連続的に高い場合、「高血圧症」(Hypertensionhigh-blood-pressure)と呼びます。全身性の高血圧症です。ヒトで見られる「原発性高血圧症」は猫ではあまり見られません。別の病気によって引き起こされる「二次的な高血圧症」がほとんどです。(80%は二次性に分類されます。)元の病気としては腎臓病、甲状腺機能亢進症が一般的で、糖尿病も関連があります。また高齢に伴って高血圧のリスクは高まります。

いろいろな研究報告があり、「慢性腎臓病の猫の65%、甲状腺機能亢進症の猫の87%に高血圧症が認められ、年齢の幅としては4歳から20歳」というものです。これからすると「うちの猫」が高血圧症になる確率も結構高く、他人ごとではないかもしれません。

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こんな風にカフを腕に巻きます。

<血圧を測定する>

猫も人と同じように血圧を測定します。心臓が鼓動するときに動脈に圧力がかかります。収縮期と拡張期の2点を記録します。人で12080mmHgなどと示されますが、猫も同様です。ただ、猫の正常値は人の正常値よりも高いです。

血圧を測るときは尻尾か足にカフを巻きます。正確に測定するために、安定した状態で5回かそれ以上測定します。はじめの測定値をカットしたり、途中の興奮度合いなども考慮して、さらに測定を繰り返すなどして数回分の安定値を採択します。落ち着かない日はパスし、測定値にあげないこともあります。

いわゆる「ホワイトコート症候群」(「白衣症候群」、「白衣性高血圧」と呼ばれることもあります。病院に来て白衣を着ている医師や看護師を見るだけで血圧が上がってしまうという現象が猫にもおこります。)による影響を避けるため、猫が検査環境に慣れるように、何度もトライします。

高血圧症であると診断するのには、安定した条件下で複数回(別の日という意味です)測定した結果が必要です。

 BP.png

<測定値の判断>

国際獣医腎臓病研究グループ(International Renal Interest Society : IRIS)は、高血圧症の身体への影響(リスク)と治療の必要度に応じて、血圧の数値をいくつかのグレードに分けています。

正常と判断する・・・150/95以下

ボーダーライン・・・150/95から159/99

中等度高血圧・・・・160/100から179/119

重度の高血圧・・・・180/120を越える

中等度高血圧以上の場合は治療が推奨されています。ボーダーライン上の血圧値である場合、治療の是非はまだ意見が分かれています。

 

<高血圧症が影響を及ぼす器官>

高血圧は、心臓や神経系(脳)、眼、腎臓など、猫の身体の多くの器官に影響を与えます。

高血圧が持続的に長期間作用した場合、心臓の左心室が肥大を起こします。心臓に栄養を送る冠状動脈が閉塞を起こしたり、動脈硬化などの血管障害を起こすと心臓は急激に弱ります。

高血圧性脳症は高血圧による血管への影響で、物静かになったり、ぐたっと力が抜けたようになったり、意識障害を起こしたりします。重度の高血圧症で脳出血が発生すると昏睡や突然死を起こすこともあります。

眼は見かけによらず血流が多く、特に障害を受けやすい組織です。明るい部屋にいるのに左右とも瞳が大きくなっているとか、眼が赤くなっている、目が見えていないみたいなどの症状を現します。

腎臓は高血圧症によるダメージを最も受けやすいと同時に、高血圧症の発生や継続に根本的に関係しています。慢性腎臓病は持続性高血圧症の最も多い原因となっていますが、血圧が上昇すると腎臓のネフロンを壊し、腎臓病を進行させることになります。互いに悪い方への影響を強く及ぼし合っています。

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赤いラインで示した部分が網膜と視神経です。

<血圧が上昇したときの眼への影響>

高血圧と眼の症状について、もう少し加えておきます。

眼には細い動脈がたくさん分布しています。高血圧は小さな網膜の動脈(網膜に栄養を供給している血管)の損傷を引き起こす可能性があります。血管が損傷すると血管から血液の液体成分や赤血が漏れ出てきます。網膜は水気を帯びて厚くなります(網膜浮腫です)。さらに血管から液体が漏れ出ると、網膜と網膜が付着していた外袋の間に液体が貯留し、はがれてきます(網膜剥離です)。網膜は入ってくる光線から明瞭な画像を作り出す仕事をしていますが、網膜浮腫や網膜剥離が発生すると画像はゆがんでぼやけてしまいます。剥がれる範囲が一部分から広範囲になり、視神経乳頭部に障害が及ぶと失明することになります。網膜剥離から視力喪失までは急速に進みます。

ひとまとめにすると「高血圧性眼症」ですが、

①高血圧性網膜症

②網膜剥離

③高血圧性視神経症

などが、単独でまたは併発で起こっています。

また血管は圧力がかかると破裂する可能性があり、眼の中で出血することがあります。

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目がまん丸に開いています。
明るい部屋でもこうなっているのは危険。

<高血圧性眼症を知るには>

眼は特殊な検査方法があります。

網膜とそれに付随する血管が安定しているかどうかは眼底検査により観察することができます。また光に対する反応もこれによって知ることができます。

眼圧の検査も役に立ちます。眼に出血があると見えないので、眼の奥(網膜)を観察できませんが、眼内圧が上昇します。

 hypertensive-retinopathy.jpg
目の奥を特殊な機械で覗いて網膜を観察します。

<高血圧症の治療>

高血圧症と判断したら、降圧剤を処方します。

カルシウムチャンネルブロッカーと呼んでいるこの薬は、心筋と平滑筋にカルシウムが取り込まれるのを阻害し、心筋と血管の平滑筋がカルシウムに依存して収縮するのを妨げます。アムロジピンというお薬が一般的に使われています。血圧降下に良く効くお薬です。用量の調整をするため、はじめは短い期間で何度か来院してもらい、そのたびに血圧測定を行います。

アムロジピンと併行して、アンギオテンシン変換酵素阻害薬(ACE-Iangiotensin converting enzyme inhibitor)であるベナゼプリルか、またはアンギオテンシン受容体阻害薬(ARBangiotensin receptor blocking)であるテルミサルタンをのんでもらうこともあります。血管の収縮や末梢血管抵抗、アルドステロン分布を減少させて血圧を降下させます。

腎臓の機能が落ちている動物に投与すると、急に代償機能が衰え一時的な高窒素血症をもたらすことがあるので、投与開始には注意深く観察し、必ず血液検査を受けていただいています。

目標は収縮期血圧を160mmHg以下にすること。できれば140mmHg前後にしたいです。特に200mmHgを越えるようなときは、眼に異常をもたらす危険性が高まるので早く治療を始めたいです。もし網膜が剥離を始めてもその時間が短ければ視覚の回復が見込めるといわれています。

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k/dはおすすめの腎臓のための療法食です。

<高血圧の食事療法>

食事中の塩分制限は抗高血圧治療になります。けれど、食事療法だけでは血圧が明らかに低下するほどにはなりません。それでもナトリウムは血液中に水分を保持させ、全体の血液量を増やすので血圧を高めてしまいますから、低ナトリウム食がおすすめです。療法食では「腎臓病用」が第一選択になりますが、一般食だと「シニア食」です。「シニア食」はほかの食事よりもナトリウムが低めになっています。

もし、これまでに割とナトリウムが高めの食事を摂取していたとしたら、急な変更はさけ、1週間から2週間、場合によっては1か月くらいかかってもよいので、ゆっくりと低ナトリウム食に変更するようにしてください。

 

<目薬で治る?>

高血圧性眼症は残念ながら点眼液で治療しても改善されません。

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にゃんこのグッドビジョンを守ってあげて。

<高血圧眼症を防ぐ>

高齢になったら腎臓病や甲状腺機能亢進症を早期に知るため、定期的に健康診断を受けてください。

②健康診断では血液検査だけのコースを選ばず、血圧測定や尿検査の含まれたコースを選んでください。

③もし腎臓病を発症していると分かったらフォローアップ検査も積極的に受けてください。

④高血圧症と診断されたら、処方されたお薬を確実に投与してください。

⑤お薬処方を受けるだけだと分かっていても、必ず診察を受けに来てください。眼を含めた全身の身体チェックをすることができます。

このようなことで高血圧症が早期に診断され管理されるため、ある日突然眼が赤くなった、目が見えなくなったという事態を回避することができると思います。

 

 

9月最終の日曜日は(今年は24日ですけれど、毎年日が変わります)「網膜の日」です。私たち「見えなくなったら困るなぁ」と思いつつ、目をいたわることすら無く、それどころか酷使しながら毎日を過ごしていますよね。自分の一部ですが大切にしてやらないといけません。同じように大切な愛猫の眼も大切にしたいです。猫さんがいつまでも大好きなあなたのお顔を判断することができますように。
猫の全身性高血圧症からくる網膜の病気についてお話ししました。

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猫の眼圧の疑問

はじめまして。10年前に飼っていた猫が画像のような縮瞳しない状態で居ました。血圧は正常と言われてました。

私自身、人の医療従事者で、眼科経験があったので、獣医師に眼圧と関係ないでしょうか?とお聞きしたところ、可能性はあるかもしれないけど、猫の眼圧はわからないと言われ、それよりも胸腔内に腫瘍があり胸水が溜まって呼吸不全で13歳9か月で目はそのままで亡くなりました。

狭隅角により眼内に還流している体液が排出されず、高眼圧で虹彩が圧迫され、また年齢的に水晶体も硬化してきている事も関連して縮瞳できないのではないかと思っていました。

人間では、高血圧と高眼圧はさほど関連は薄いと言われていますが、
猫さんの場合は関係あるのですか?

高血圧で散瞳しっぱなし、という事があるのでしょうか?


Re: 猫の眼圧の疑問

こんにちは。

ぎんじさんのおっしゃるように、高眼圧から散瞳と考えるのが一般的だと思います。
ただ、猫という自由気ままな動物に正確な眼圧測定ができるかというと、難しいことがあります。眼科専門医であればゴニオスコピーの検査も致しますが、一般の家庭医はそこまでの検査ができません。ごめんなさい。

全身性の高血圧から眼圧が上昇するかどうかですが、猫の緑内障の原因として全身性高血圧も考えられます。

もし緑内障であったとして、これは内科的なコントロールがすごく難しいため、そのまま散瞳した状態が続いてしまうと思います。また高血圧由来の散瞳の場合は、適正な治療があれば目の様子は可逆的ですが、不可逆的な散瞳が継続していることを発見されての来院(高血圧症を知るきっかけが眼科疾患由来になっている)のことが多いことから鑑みても、「散瞳しっぱなし」は有りです。

もうひとつ。猫には「悪性緑内障」といわれるFeline aqueous humor misdirection syndrome というのがありまして、misdirection をどう訳したら良いものか、ですが、眼房水の流れの向きが硝子体方向になり高眼圧になる緑内障があります。これは診断したことがないので清書の受け売りです。すみません。

お礼

迅速なお返事ありがとうございます。
丁寧に説明頂き、十分納得できました。

実は、ここに来たのは、全く別件の「頑張った猫ちゃん・タマちゃん」の
画像から参りました。

今飼っている9歳♀の子の内眼角から出血して、いつも診て貰っている動物病院から抗ウィルス薬と抗生剤、点眼で治療受け、良くなったらワクチン、良くならなかったらまた連れて来てと言われ、一時良くなり出血もくしゃみも治まったのですが、腫れが出てきたので、再診で抗生剤の追加だけだったので、心配になってタマちゃんの画像をみつけて、別の病院に行く決心がつきました。
即日エコーと生検して頂けました。

リンパ腫のページを読ませて頂いていたおかげで覚悟もできましたし、治療も決断する事ができました。

無治療で余命2カ月くらいと言われました。治療しても数カ月なら自然に任せるつもりでしたが、もともと美人さんなので、眼球摘出や自壊して死んでいくのは忍びないので、こちらに来てタマちゃんの画像を見て化学療法受ける決心がつきました。夫にも見せましたら、治療をしても良いと覚悟してくれました。

どうしたいか、言う事が出来ない猫たちの心の声をボディランゲージからも感じました。食欲が旺盛で、前より甘えて膝にのるようになりました。もっと生きたいのだなと、感じました。(飼い主の勝手な見解ですが・・・)

まだステロイドと、L-アスパライナーゼだけですが、腫れが退いてきました。副作用や継続できる体力か等もこれからが心配ですが、自分の治療に対する迷っている気持ちを修正して頂き、感謝いたします。




Re: お礼

おなじように、悩んでいらっしゃる飼い主さんが大勢いらっしゃると思います。
治療で得られる結果にどれだけの幸福をお渡しできるのか、私たちも測りきれないところがあります。

ただ、清書通りの治療は「標準治療」と呼ばれます。そして標準治療ができるのならば、それは一番良好な状態で長生きのできる治療法です。
「標準」と呼ばれていますが、決して「松・竹・梅」の「竹」コースではなく「松」コースです。
一度は寛解に持ち込み、できることなら完全な寛解を得て、飼い主さんと穏やかな生活を過ごして貰いたいと願う、世界のそして過去から今に続いている腫瘍の専門医たちが推奨するスタンダード治療なのです。

どうか代替療法などに迷い込まれること無く最良の方法で、納得のいく治療生活を得られますように。

感謝します。

L-アスパラキナーゼs.c.から1週後の本日ビンクリスチンi.v.してきました。

プロフィール

ハート動物病院

Author:ハート動物病院
ハート動物病院です。
〒445-0062
愛知県西尾市丁田町杢左51-3
TEL/0563-57-4111
オフィシャルサイト:http://www.heart-ah.com/

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