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認知機能障害・1

 今日は、動物の認知機能障害についておはなしします。

 

<認知機能障害>

残念なことに、人と同様、犬や猫も、認知機能障害症候群として知られる脳疾患を発症します。けれど人と違って、脳機能が衰えているという徴候は、状態が進むまで気づかれません。それで病気の進行を遅らせるために環境を整えてもらったり、薬の投与をしてもらっていることはほとんどありません。

愛犬がおもちゃで遊ばなくなったり、家族が帰宅したときに玄関にお迎えに行かなくなったり、毎日の散歩ルートを忘れてしまったりした場合、犬の認知機能障害(Cognitive dysfunction syndrome : CDS)、または犬の認知機能低下症になっている可能性があります。

犬の認知機能障害は、脳機能の低下です。 研究によると、認知機能障害の徴候は、

12歳で発生率が増加し、

1214歳の犬で15%くらいが、

14~16歳の犬で30%くらいが、

16歳以上の犬では60%くらいが発生している

ことが示唆されています。これは少なくとも1つ以上の症状を出しているということです。年齢とともに認知機能障害のリスクが高まります。

猫の場合、2011年に猫の認知機能低下について発表した研究で、11歳から14歳までのすべての猫の3分の1が加齢関連の認知低下を起こしていると推定しています。 15歳以上の猫の場合、この数字は50%に増加します。

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認知機能障害のことを掲示板に貼りました。
敬老の日がある9月はずっとこのままの予定です。

 

<脳内に変化が起こる>

愛犬・愛猫の脳機能の低下には物理的な原因があります

認知機能障害は行動学的な問題として提示されますが、根本的な原因は物理的なもので、年齢に関連した脳内の変化の結果です。犬と猫の脳は同様に老化し、神経細胞の変性や喪失、脳血管の硬化、β-アミロイド斑の発生などを起こしています。また神経伝達物質も減少しています。

β-アミロイド斑は、人のアルツハイマー病患者にも見られるものです。Nicholas Dodman先生によると、「正常な老化」というものが存在するそうです。 認知機能のいくつかは年齢と共に減少していくのですが、アルツハイマー病に見られるタイプの認知機能障害は正常ではないそうです。つまり、老化という自然現象ではなくて、ひとつの病気であるという解釈です。β-アミロイド斑は脳の前頭葉に蓄積され、それは最終的に脳の他の領域に広がります。前頭葉は記憶や学習、感覚情報を制御するところで、ここが侵されると記憶をなくしたり、方向を失い、空間認識を欠いたり、運動機能に問題を起こします。それから視力や聴覚、学習した行動にも影響が出てきます。

犬の認知機能障害は多くの点でヒトのアルツハイマー病に類似していますが、人のアルツハイマー病とまったく同じではありません。また今のところ、犬ではアルツハイマー病という分類はありません。現段階では認知機能障害そのものを犬では分類できていません。

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<まずは飼い主さんの認識から>

ほとんどの犬は、品種に関係なく、年齢を重ねるにつれて何らかの形の認知機能障害を経験します。ご家族の多くは、私たち獣医師が「行動学的に問題があるな」と考えるものを、認知機能障害のひとつの症状とは思っていなくて、「歳のせいだよね」と軽く流しています。まずは病院でいつもの様子を話していただくといいと思います。

近頃の「ボールを追いかけなくなった」という行動が、「関節炎を患っていて痛いから動かない」のか、「もうボールに興味がない」のか、または「ボールに気を払えない状態になっている」のか、というような身体の問題と脳の問題を区別し、改善できることがらであれば積極的にトライしていくことが大切かと思います。

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<診断と検査>

認知機能障害のいくつかの症状は、変形性関節症、糖尿病、腫瘍、高血圧症、甲状腺機能低下症、心臓病、腎臓病、それから聴覚および視力喪失などの他の年齢関連症状と重なります。さらに、分離不安症や痛みにより引き起こされた攻撃性行動、家庭での不十分なしつけの結果などの行動学的な問題も含まれてきます。これらの病気による症状ではないことを区別するため、お話しをていねいにうかがう必要があります。そして犬の症状に応じて、X線、血液検査 、尿検査 、また他の診断検査を行います。

でも、こうすることにはハードルがあります。高齢の動物はたいてい複数の病気を持っていて、それらの健康状態を管理しなければならないという現実があるのです。そのため行動学的な問題はどうしても後回しになってしまいます。飼い主さんが犬や猫の行動上に変化があると気付いたとしても、そのことを話し合うために新たな診察日を作ることは有りません。いつもの診察日にはいつもの病気に関する経過やその他のことについて話し合っていて、典型的な症状が訪れたときに「そういえば、、、」とお話しをいただいたとき、それは実はずいぶん前から起こっていたことだったということがあります。それは遅すぎるという印象を持つことが多いです。

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<認知機能障害の診断アンケート>

認知機能障害に関するアンケートがあります。チェックリスト、ですね。(アンケートは古すぎですか?)これが日常的に行われると、「遅かった!」という問題の改善に繋がるだろうと思います。

以前からご紹介しているのは、今は亡き内野先生が研究していらしたときの100点法の痴呆症の診断基準です。先生が研究していらしたときはまだ「認知症」とか「認知機能障害」という言葉ではなく「痴呆症」という名称が用いられていたため、「痴呆症の診断基準」になっています。(今後、内野先生の方式を改訂することにでもなったら名称が「認知機能障害の診断基準」に変更になるのかもしれません。)

当院でワクチンのDMに挟まれた「健康に関するチェックリスト」の一部にも行動に関する欄がありますが、国際的に用いられるようになってきているのがDISHAのチェックリストです。DISHAのチェックリストはもっと認知機能障害に結びつけやすいチェックリストです。15歳を越えた動物にはこちらへの記入もお願いすると良いのかもしれません。今後検討しますね。

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DISHA

DISHAの頭字語は認知機能障害に関連する顕著な兆候や変化を特徴付けることができるとされ、他の病気との鑑別診断にも用いられています。DISHAという用語は、

Disorientation:環境における見当識障害

Interaction: 人や他の動物への相互反応の変化

Sleep-wake cycles : 睡眠サイクルの乱れ

House soiling: 不適切な場所での排泄

Activity: 活動レベルの変化

などの症状を指します。

DISHAのチェックリストは、認知機能障害の指標として考えられていて、DISHAに該当する行動変化が増加すると認知機能障害の疑いが強くなります。 より多くの兆候と頻度が出るほど、問題の重要性が増しますが、 それぞれの兆候や症状が特定の段階を意味するものではありません。

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DISHAのチェックリスト>

犬の認知機能障害を示す可能性のある症状は次のとおりです。

D:見当識障害

飼い主さんが気づくかもしれない最も一般的なことの1つは、いつもの環境にいるときでも混乱してしまうということです。たとえば犬が部屋の外に出て行くとき、間違ったドアに向かって行くとか、ドア前でもドアの開かない方の側(蝶番の付いているところ)に行ってしまうようなことです。それから空間認識ができていないこともあります。ソファーの後ろをさまよって、自分がどこにいるか、出る方法がわからなくなってしまいます。また就寝時に自分のベッドで丸くなっていなくて、「居ないじゃない?!」と探してみると別の部屋で壁を見つめてぼーっとしていることがあるかもしれません。このようなことが見当識障害です。

I:相互反応の変化

犬の認知機能障害は、人や他の動物との相互作用に影響を与える可能性があります。ご近所で人気のあった社交的な犬も、気味の悪い行動をとったり、他の動物や子供たちのまわりをうろついたりします。大好きだったぬいぐるみやおもちゃを噛んでしまうかもしれません。それから家族が好きだった活動をしなくなることがあります。それぞれの家族のところに行ってはおねだりをするとか、おてんたらをすることがなくなります。(あ、おてんたらは方言だったようです。おべんちゃらです。あら?これも方言ですか?見え見えのゴマスリとか、お世辞みたいなかんじの言葉です。)玄関のチャイムが鳴ったときに訪問者に挨拶しに行かなくなるとか、チャイム音に無関心になったり、宅配便の人に吠えなくなるかもしれません。散歩に行くためのリードを見せても喜ばなくなったりします。自分の好きなクッキーが自分のものであることを認識できなくなることもあります。

S : 睡眠サイクルの変化

睡眠パターンの変化または生活リズムの混乱は、認知機能障害に関連する症状のひとつです。むしろ、これこそ認知機能障害として家族を困らせてしまう症状かもしれません。健全に眠るのが当たり前になっている犬は、今夜も健全に寝ることができます。多くの犬が通常のスケジュールを逆転させるので、昼間の活動が夜間の活動になります。この昼夜逆転現象は、ご家族に不満と疲れをもたらしてしまいます。

H : 不適切な場所での排泄(粗相)

犬の排尿または排便も認知機能障害を知ることができる一般的な方法です。この場合は、犬が自発的な排泄能力を無くしてしまったのか、排泄を知らせる能力が残っている可能性があるのか見極めるのが大切になります。検査をして膀胱感染、腎臓疾患、糖尿病などが存在しなければ通常は認知的な変化ということになります。

A : 活動性のレベルの変化

認知機能障害のある犬は、探索する欲求が減少し、その環境内にいる人や、そこにある物や音に対する反応が減少することがあります。 彼らが好きなおもちゃを取るため、「キュー」という音を出しても反応しなくなるかもしれません。 また集中力が弱く、刺激に対する反応も低下します。食べ物や水を見つけるのに困っている犬もいます。こうしたことは視力や聴覚に問題がなければ、認知機能障害を表しています。不安行動や同じことを何度も繰り返す反復運動をすることもあります。頭部の動き(ゆらゆら揺れているようなこと)、足の震え、サークル内を一定方向に歩き続けるなどの反復的な動きを示すことがあります。それまで静かだった犬が、過度に吠えるとか、何も起こっていない時に吠えるなども変化のひとつです。

 

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長くなりました。今日はここまでにして、次回は治療のことをお話ししようと思います。

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テーマ : 動物病院
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