犬の白内障・3

犬の白内障について3回目です。

「うちの子の手術には不安が残るなぁ」ということが大方のご意見だろうと思います。これは「手術関連ではどんなことがあるのかをよく知らないから」なのかもしれません。少し具体的にお話しします。「なるほどわかった。これなら受けられるかも。」と思われるか、「やっぱり無理だわ。こわい。」と思われるか分かりませんが、ひとつの判断材料にはなるでしょう。手術についてお話しします。

<白内障の手術は絶対に必要なわけでは無いけれど>

白内障手術は、ヒトでは一般的に行われる手術ですが、白内障になったすべての犬が白内障手術を受ける必要があるかというとそうではない場合もあります。実際、ほとんどの犬は白内障の手術を受けていません。犬の場合、水晶体の不透明度は小さくても大きくても白内障ですが、どれもが視力を著しく損なうものではないからなのかもしれません。犬の目に白内障があるからというだけで、すべての犬が白内障手術を受けなければならないことはありません。白内障手術が必要になっているかどうかは獣医眼科専門医の判断によります。

白内障手術は、生命には無関係の手術です。救命手術ではありません。犬のQOLを高めるための手術です。犬が白内障手術を受けることができるかどうかを決定する前に、獣医眼科専門医は多くの基準に適合しているかどうかを細かくチェックします。白内障手術で盲目に近くなった犬の視力を回復させてあげられることは獣医眼科専門医にとってとても満足度の高い仕事です。おおきなやりがいがあるわけです。彼らによって手術され、視力を失った犬がもう一度視力を取り戻すことができるようになるわけですから。盲目だった犬が家族を見て、おもちゃで遊んで、素晴らしい景色を見ることができるようになるというのは、犬にも家族にも、人生が変化するくらいのできごとにちがいありません。犬が高齢で、聴覚障害や認知機能障害を抱えている場合なら、その視力を回復して生活の質を大きく変えることができるとすれば、もっとそう感じるだろうと思います。

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<手術の様子は?>

イヌの白内障手術のために使用される手技と器具は、人間に使用されるものと同じです。手術に使われる機器は非常に高価です。手術は高倍率の手術用顕微鏡を使い行われます。水晶体を超音波で乳化し吸引する装置も高価な機械です。

目(角膜または結膜)に3mmほどの小さな切れこみをつくり、そこから水晶体を保持する袋(水晶体嚢)に穴が開けられます。その後、特殊なプローブを差し込み、水晶体を超音波乳化して水晶体嚢内の濁った内容物すべてを吸引していきます。曇った水晶体が除去された後には空になった水晶体の袋が残ります。眼内レンズ(Intraocular lens : IOL)をその袋の内に挿入します。眼内レンズは、硬質ポリマープラスチックレンズまたは軟質折りたたみレンズのいずれかです。挿入する眼内レンズは、どちらにするか、またソノサイズにするのか、獣医眼科専門医が選びます。それから非常に細い吸収縫合糸で眼を閉じていきます。犬の眼の構造物に、ほんのわずかな傷がついても悲惨な影響を及ぼすことがありますので、白内障手術はとても技術の高い、繊細な手術です。

両眼が罹患している場合、通常は両眼を同時に手術されます。

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<どのくらい見えるようになる?>

犬の白内障手術がうまくいくと、傍目にはほぼ正常に見えますが、犬は完璧な視力を取り戻すわけではありません。元の生体レンズがいかに精密に作られているのかということに尽きます。

犬は手術後、ヒトよりも多くの炎症をおこすのでより瘢痕を残しやすくなっています。この瘢痕は視力をわずかに低下させます。手術後の炎症や瘢痕(水晶体嚢胞白濁)は、抗炎症薬および経口抗酸化剤補給の両方によって軽くすることができます。レンズの摘出術は、特に子犬や若犬で関心をもたれますが、不透明化のリスクを軽減する最も良い方法は、眼内レンズの植込み、ブドウ膜炎のコントロール、日々抗酸化剤の補給を行うことです。抗酸化物質サプリメントには、相乗的に作用して不透明化のリスクを軽減するための成分が含まれています。水晶体嚢が不透明になると、それらは獣医学的に元に戻すことはできません。人では白内障手術後に発生する嚢胞の不透明をレーザー手術で軽減することができるそうですが、犬ではできません。ほとんどの飼い主さんは、白内障手術が行われた後、犬が驚異的に視力を取り戻しているのに気付かれますが、視覚困難が残ることも知っておいてください。

手術後、白内障は再発することはありませんが、形成された瘢痕組織、緑内障、網膜剥離のために、白内障手術後の視力年数がそう長くない犬もいます。術後再び失明する確率は3年後で10~20%だそうです。それからまれなケースになりますが、白内障手術の時点で眼内レンズの設置ができない犬もいます。
術後数週間、数ヶ月、または生涯にわたって再診と、抗炎症薬などの点眼薬が必要になります。手術の後も、特定の抗酸化剤サプリメントを使用すると、二次的な緑内障や網膜剥離のリスクを軽減するのに役立ちます。

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<白内障手術は高価?>

白内障手術は高価だと思います。それは特殊な装置と、獣医眼科専門医に高度なテクニックのトレーニングが必要なためです。犬の白内障手術に使用される機械と器具は、人の白内障手術に使用されるのと同じものです。さらに、認定の獣医眼科専門医は高度なトレーニングと専門知識の取得のために多大な資金を使っています。特別な治療を受ける対価として高価であるに違いありませんがが、いろいろなことを考慮すると妥当なところになるのだろうと思います。

人は白内障手術を受けるとき保険に加入しているため、通常正規料金を窓口で支払うことはありません。犬ではそうはいきません。犬の白内障手術とそれに関連した診察や治療のための費用、100%を支払うことになります。遺伝性の白内障の場合、保険会社によっては遺伝性疾患の手術を除外することがあるかもしれません。犬の健康保険を持っている場合は、白内障手術をカバーするかどうかを保険会社に確認してください。主な保険会社では、高齢犬に発症した白内障の手術は、保険適応内になるようです。

    
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<白内障手術を受けるとき>

最初のステップは獣医眼科専門医による診察です。紹介させていただきます。予約の診療になります。

専門医のいる病院では、検査を実施して愛犬が手術適応かどうかを判断します。手術前には全身の身体検査と血液検査も行われます。全身麻酔のリスク評価をするためです。これらの検査に合格すると、眼科専門病院では網膜電図検査(electroretinographyERG)や眼球専門の超音波機械を使っての検査が実施されます。こちらの検査は鎮静処置されたのちに行われるので、犬は不安や不快感を引き起こすことはありません。ERG検査は白内障手術を行うために、カメラのフィルムに相当する網膜が機能しているかどうかを調べるために行われます。眼の超音波検査は、網膜剥離がないかどうかを判定するために必要な検査です。さらに眼の排液角度を評価し、眼が術後に緑内障を発症する遺伝的リスクが増加しているかどうかをみるのにゴニオスコピーの検査を実施されるかもしれません。

こうして超音波検査やERG検査に合格すると、白内障の手術を予約することができます。手術当日は手術前の集中的な眼科治療を受けるため、朝早く病院に到着する必要があるかもしれません。術前には規則正しい時刻でいろいろな点眼薬の投与がされ、着々と手術の準備が整っていきます。そうして全身麻酔下で手術が行われ、順調であれば数日を病院で過ごした後に帰宅できるようになります。

手術後は胴輪を着用してもらいます。散歩をするときのリードは首輪ではなく胴輪に付けるのです。それは頸静脈に圧力がかかり、眼圧が上昇するのを防ぐためです。

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<手術を受けてから>

術後帰宅してからも指示通りに点眼薬をつけ、内服薬を投与するよう指示が出ます。目を自分で傷つけてしまわないように、犬はエリザベスカラーをつけて帰ってきます。生活に不自由なことがあっても、絶対に外さないでください。それから毎日ていねいに眼を観察してください。視力は通常、手術後1週間のうちには(通常は24時間以内に)改善されますが、機能的視力の復帰には23週間かかることがあります。ほとんどの犬は手術後にわずかな痛みがあるか、または全く示さないこともあるようです。退院後もたびたび再診の必要があります。決められた日に再診に出かけてください。



犬の白内障の手術は人のように「あたりまえ」になっていません。またあれこれ制約も多いし、術後はさらに「やらなければいけないこと」が沢山あります。でもそれをやってのけ、得られることは大きいので、もし「頑張れそう!」という場合にはぜひ手術への道を選択してみてください。

長くなりました。次に続きます。

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