前立腺の腫瘍

 
前立腺の病気についてお話しをしてきました。今回は前立腺の腫瘍についてお話しします。

<前立腺の腫瘍>
前立腺に発生する腫瘍は「腺がん」か「扁平上皮がん」のことが多いです。(どちらなのかを病理学的に区別するのは難しいそうです。)

前立腺が大きくなる病気のほとんどは未去勢のオス犬に発生しますが、前立腺腫瘍の場合は未去勢のオス犬よりは去勢済みのオス犬の方が発生率は高いです。

とにかく良性腫瘍であることは少なくて、前立腺に腫瘍が発生したとするとそれはほとんどが悪性のものです。「前立腺腫瘍」=「前立腺がん」のイメージです。ですから「あれっ?」と思うような節があれば、とくに去勢済みのオス犬で前立腺が肥大したときの症状を出していれば、大急ぎでお越し下さい。「老齢犬に発生する」と思われがちな腫瘍ですが、老齢のちょっと手前、9歳から10歳くらいの高齢犬に発生のピークがあります。この年齢層が要注意です。

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<気づいて!この症状>

・オシッコが出にくい。(決して尿道の問題だと軽く考えないように!)

・ウンチをするのに息ばる。(便秘かも、ウンチが硬いのかもなどと思わないで!)

・尿道から出血性の液が出てくる。(ひとりエッチのお汁だなんて思わないで!)

・体重減少や食事量の低下。(うまいこと痩せてきて良かったなんて思わないで!)

 

<病院で身体検査>

外から見た感じは普通です。主に直腸検査が診断的に意味のある検査です。実は触った感じから「前立腺腫瘍」の疑いが始まります。

・直腸検査をすると、硬くてごつごつした(弾力性がない)前立腺に触れます。左右対称ではありません。

・犬は前立腺を触られて痛みを示します。

・熱っぽい犬もいます。

・元気がなくなっていることもあります。

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<尿検査や前立腺液の検査>

直腸検査をしないで血液検査や尿検査などのラボ検査をするだけでは、診断へのとっかかりを得られないような気がします。これといった異常点がラボ検査では見つけられません。直腸検査で異常を見つけると積極的に前立腺の検査を実施していきます。

・尿は血尿になっているかもしれません。感染性のこともあります。

・前立腺検査では細胞検査が有益な検査になります。前立腺をマッサージして(痛がります。ごめんね、わんちゃん)、細胞を集め検査します。院内検査でふだん見受けられないような細胞が見つかります。これで疑いが深まります。
 

<細胞の検査>

腫瘍なのかもしれない部分を細い針で刺して腫瘍を疑う組織内の細胞を病理の先生に見ていただく検査(細胞診といいます)があります。皮膚や粘膜、皮膚のすぐ下の組織(目で見て分かるような部分です)にできた細胞の塊はこのように(穿刺)して間違いないだろうと思うのですが、膀胱にできた塊や前立腺にできた塊に針を刺すと、その周囲と針を引いて出してくるお腹の部分に腫瘍細胞をばらまいてしまうかもしれないという「危険」を潜めています。それで前立腺の腫瘍が疑われた場合は、超音波検査で観察しながら(針は刺さずに)カテーテルを使って吸引して細胞を集める検査をしています。
確定診断はこのようにして集めた細胞から病理専門医に委ねられます。

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<超音波の検査>

画像検査は重要な検査です。

・超音波で見ると前立腺は大きくなっていて、内部構造も整っていない部分を見つけることができます。

・前立腺の他、膀胱、その前方の腎臓や尿管もチェックします。前立腺の腫瘍は前立腺尿道から膀胱へ波及します。そして尿管が膀胱に開口するところが腫瘍細胞で埋まってしまうと腎臓からの尿の流れが停滞するために水尿管、水腎症を併発してしまうのです。そのような尿の流れがまだ順調にいっているのかどうか、すでに停滞をおこしてはいないかを確認します。

・付近のリンパ節もチェックします。転移の有無を調べます。

 

X線検査>

X線検査も行います。

・前立腺そのものを見るほかに、前立腺近くのリンパ節や腰椎や骨盤の骨に変化が無いかどうかを見ていきます。前立腺は近くのリンパ節や骨に転移しやすく、骨が増殖していることもまた溶けてきて骨密度が低下していることもあります。

・下腹部のほか上腹部や胸部の撮影も行いますが、肺などへの転移病巣が無いかを確認するためです。

・腫瘍の広がりや転移をしっかりつかまないと治療のプランを立てられないため、細かく調べることになります。X線検査も重要な検査です

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<慎重に治療のプランを練りましょう>

前立腺がんの治療は外科、内科、また放射線のオプションもあります。ステージにより選択できる治療が違います。また一度は治療をあきらめてしまう方もいらっしゃいますが、腫瘍は日々増大していき、今の状態がずっと続くわけではありません。次のステージになればまた別の問題が起こってきます。これから起こりえることを想定し、今できることは何か、この後こうなったらどうするのかまで踏まえてしっかりとした治療計画を考える必要があります。


・前立腺の腫瘍で根治を目標に置くのは転移がない初期の場合に限られます。それでも局所再発や遠隔転移が後日発生することもあります。

・根治目的の治療には前立腺切除術があります。前立腺は尿道を取り囲むようにある組織ですので、尿道の取り扱いが検討事項になります。そのまま温存する(前立腺尿道だけを取る)かまたは尿路変更(膀胱から前立腺全体を切除する)の手術を行うのかの問題です。非常に難易度の高い手術ですので、腎泌尿器外科の専門医がいる病院をご紹介します。

・ピロキシカム(鎮痛消炎剤の仲間ですがシクロオキシゲナーゼ(COX-2阻害効果があり、腫瘍の増大を抑制する効果があります)も補助療法として有効です。転移が見られない犬に特に有効です。

・複雑な手術を受けたくない場合には化学療法(抗がん剤による内科療法)を選択することができます。3週に1回の点滴療法です。このときもピロキシカムの併用が可能です。そこそこ手応えのある治療法だという印象はあります。

・すでに不完全ながらも尿路閉鎖がある(膀胱へ腫瘍が拡大してきている)場合に、尿路変更の手術(尿管腹壁瘻)を行うと延命効果が得られます。

・積極的な治療を行わないと決めた場合でも、その後の経過で苦しそうな犬の姿を見て「なんとかならないものか」と後から治療を始めたくなってしまうことがあります。そうなった時点から犬にしてあげられることは大変限られてきます。排泄路だけ確保する手術に踏み切るかどうか、もしくは鎮痛薬を用いた苦痛からの解放だけにするのかなど再び検討する必要が出てきます。

・診断後は選択した治療の種類に関わらず経過観察が必要です。

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<この先どうなるのでしょうか>

予後は大変厳しい病気です。

一般成書に記載がある「生存期間中央値」は甚だしく短いのですが、これは諸外国では「より良く生きる」ことを重要視されているために、進行している症例では発見と同時に安楽死されていて、その場合の生存日数は「0日」となるためです。飼い主さんの「あきらめない気持ち」が動物の未来をもたらしていくのは間違いないと思います。

早期に発見され、早期に根治治療に入った場合、うまくすると1年以上の生存期間を得られるようです。定期的なフォローアップには必ずお越し下さい。

診断された時点で既に進行していた症例では余命が短いことを覚悟して下さい。さらに進行していった場合(転移も含めて)有効な治療策は無くなってしまいます。犬のQOLを考えた人道的な処置も考慮の一つになります。


<予防できる?>

残念ながら予防方法はなく、早期発見と早期治療でステージが進む前に対処するのが最善策になっています。

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<早期発見はできるのか>

現在、BRAF遺伝子を調べると、移行上皮がんや前立腺がんの場合高い頻度で変異が見られます。この検査は「おかしなところがあるけれど、がんによるものなのかそれとも炎症性の変化なのか悩ましい」というようなときに用いる検査で、前立腺がんがあるかどうか分からないけれど広く網にかける検査(スクリーニング検査)ではありません。

無の段階から有を探し当てるのには広く誰でも検査が受けられ(検査が簡単であること)、そして安価で調べられる検査で、その検査の検出率が高く(感度が高いこと)、他のことではその検査項目に引っかかって来ない(特異度が高い)ことが望まれます。人の前立腺がんの腫瘍マーカーであるPSA検査(prostate specific antigen:前立腺特異抗原)は人において前立腺がんの早期発見に有用で、これができてから前立腺がんの死亡率が格段に減少したそうですが、犬では有用ではありません。犬に有用な腫瘍マーカーが発見されて、「もしかしたら前立腺がんが生まれているかも」を早期にお安く知ることができたら良いのにと思います。

 
<おわりに>

もし愛犬が腫瘍だと分かったときご家族の皆さんはすごくがっかりされているだろうと思います。前立腺がんでは先が長くないかもしれません。でもまだ間があります。虹の橋のたもとに彼らを送るまでには時間があります。だって今生きて闘病しているところなのですから。悲しんでいる時間を今の彼らとの思い出づくりの時間に変えてみてはどうでしょうか。治療によって時間が稼げます。このあともっと状態は悪くなるのかもしれませんから、今こそいっぱい写真を撮ってあげて下さい。好きな物は何だったでしょう。好物メニューを思い出して作って下さい。でもグルメすぎてしまうと下痢になることもありますのでご注意下さい。

 

前立腺の主な病気をご紹介しようと始め、11月中このテーマとするつもりだったのに、クリスマスソングの聞こえる今日までかかってしまいました。お忙しい季節かと思いますが、愛犬のことをしてあげられるのは健康なあなたです。どうかあなた自身の健康にもご留意してください。


もう一回、前立腺関連の病気についてお話しして、この前立腺シリーズを終わりにしようと思います。

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