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犬のストルバイト尿石

ストルバイト結石・犬の場合

ストルバイト結石は主に下部尿路に問題を起こします(膀胱結石、尿道結石)が、腎臓にまで影響を及ぼす(腎結石)こともあります。

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尿石症のおはなし、続きです。

<犬のストルバイト結石の原因は感染!>

昔から多かったストルバイトの石は尿の細菌感染(ウレアーゼを作り出す細菌)が原因です。

細菌性膀胱炎を何度も繰り返している犬は、リスクが高いです。「オシッコが赤い」「何度もトイレに行こうとする」「すぐしゃがみ込む」「滴々ともらす」「おなかを硬くして痛そう」「便秘かと思った」などの膀胱炎関連の症状が繰り返され、「またいつものやつだ」と思って薬だけもらってすごしていると、実は石が育っている場合があります。敏感な飼い主さんだと「ちかごろオシッコがにおう」ことにも気づかれていることがあります。オシッコはオシッコの臭いがありますが、細菌感染を起こしているときは、健康なオシッコとは違うアンモニア臭のキツいにおいがしてきます。

「膀胱炎はしっかり治しましょう。」

で、お話は終わりません。実は繰り返し感染してしまうには、それなりの理由があるのです。しっかり治しても再発を繰り返す犬たちがいます。

・オシッコがジャーっと出ない、

・自在に排尿できない、

・何かの拍子にお漏らしがある、

・膀胱炎以外にも細菌感染をおこしやすい、

・お水をたくさん飲む、

・オシッコの濃度が薄い

など、思い当たる節があるときは膀胱炎関連だけでなく、もっと広範囲に検査を受ける必要があります。検査は「再発しやすかった感染性膀胱炎」の原因を探って、再発に対処できるものなら対処するという目的です。

細菌感染は、尿の排泄順路に逆らって、膀胱から尿管、腎臓に上って行ってしまうことがあり、そうすると腎盂炎を起こし、最終的に腎盂にもストルバイト結石を形成します。ときに左右ともに大きな石ができていて驚かされます。腎盂炎があると急な発熱や痛みがみられますが、一定時期を過ぎたのか、石はあるけれど無症状な犬もいます。腎臓にできた石の治療は簡単ではありません。また腎臓機能を脅かします。繰り返しを許してはいけないのです。

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犬のストルバイト結石の特徴を1枚にまとめました。
ぶら下げであります。
お手にとってご覧ください。
決しておよそのわんこだけの問題ではないです。

<切らなきゃだめですか?>

膀胱に石があることが分かり、それがストルバイトの石だと判断されたら、基本は溶解です。そのまま、内科療法にまっしぐら。抗菌薬を服用しつつ、溶解のための特別療法食をしっかり食べてください。

治療中に心配なことがあります。溶けている途中で膀胱結石が小さくなって、尿道に石が落ちてしまうことがあることです。そのようなときは、犬は排尿がスムーズでは無くなるので、すぐに分かります。来院し、尿道に管を通し、フラッスして石を膀胱に戻します。

腎臓にあって、すごくでかくて、実質を圧迫するほどの石の場合、「切るしかない」と手術をにおわすことがあるかもしれません。膀胱内の石が、膀胱そのもの、すっぽり、というくらい大きい場合も、「切って出す」ことをおすすめするかもしれません。特別療法食で、という制限が守れない場合も、「溶かすのは難しいかも=切った方が速い」になります。これまでの自由食では石が成長したけど、処方食プラスおやつ食のために石の成長を止めた、くらいで終わってしまう可能性があります。しっかり溶かせない場合は外科的に取り出すしか有りません。

「溶かす」、というのは溶かすことができる溶液(酸性の尿)のなかに石がしっかり浸かり混んで初めて溶解状況が整います。溶かす液体に十分石が浸かることができなければ溶けてこないので、大きすぎる石や、溶解液をしっかり作り出せない場合は、溶かそうにも無理なわけです。キュウリのぬか漬けなんか考えてもらえるといいですけれど、ぬか床がしっかりしていないとうまく漬からないのです。石がでかすぎて尿に浸らないような状況は、漬け物樽いっぱいに野菜が入っていてぬか床との接地面が不足しているような状況です。それから特別療法食がうまく食べられない状況は、ぬか床の塩分濃度とか乳酸発酵がうまくできていないような状況です。

こんなときは「切らなきゃだめです」のときです。でも、犬のためにいいことは何かというと、「食べないから切る」ことでは無く、「食べさせて溶かす」ことです。

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いろいろの石。
この中で、おにぎり型、色白、すごくでっかい!
のはストルバイトの石です。


 <溶けましたけど、もういいですよね?>

素直に療法食を食べられたわんこで石の具合も良い状況だと、石は1か月後には必ず変化があるものです。

これまで再発を繰り返していたというわんこでも、再発原因が明らかになり、そちらの治療も行うことで再発しにくくなります。けれど、再発原因をどうにもすることができない場合もありますので、問題が改善された場合も、改善できなかった場合も、石が消失してから定期的に尿検査をして再発を防止するようにします。1か月とか3か月で尿の感染が無いかどうかを調べます。一次予防は尿路感染症を継続してなくすことです。感染さえ抑えられればこの石の再発はありません。

特別療法食の中に「再発防止食」があります。これさえ食べていれば「再発が防止できる」と誤解をされている飼い主さんもおられます。この食餌はこれ単体では再発を防ぐことはできませんが、私たちはそれでもおすすめしています。それは、発見できなかった尿路感染があったとき、尿結石を形成されるのを遅らせたり、最小限に抑えることができるからです。再発防止の食事は、結石を作らせる物質(前駆物質)が少なく、尿の酸性度が調整してあります。もちろん、一般食と混ぜて食べさせていたり、おやつを与えていたりするとその効果は得られません。

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うちわがあります。
ご自由にお持ち帰りいただけます。
無くなってたらごめんね。
なかなか好評です。

<続きますが、ひとこと>

細菌感染による尿石ではありますけれど、別に不潔にしていたから感染を起こすというわけでもありません。感染しやすい構造的な特徴をもつ犬がいます。

例えば交通事故の結果とか神経系の病気の結果、不幸にも腰麻痺になってしまった犬はとてもハイリスクな犬たちです。二重に、三重にいろいろなことが身体に起こります。そうで無くてもいろいろとお世話くださっているのに、こういうことが起こります。介護不足だったからということではありません。ご自身を責める必要などありません。腫瘍などで新しい尿路口を造設した犬も同じで、感染しやすいです。自然の排泄口がいかに素晴らしくできていることかと感心します。

副腎皮質機能亢進症では体内からステロイドホルモンが多量に分泌される結果、感染を起こしやすい身体になっています。こういう犬たちもハイリスクさんです。

    

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犬と猫の尿石症

 犬と猫の尿石症についてのお話しです。

6月から待合室で「犬猫の尿石症」について掲示しています。暑くなってくる前に、飲水量を増やすことに注目していただきたいので梅雨時だけど今がいい頃合いだというのと、たまたま某メーカーさんの予防食リニューアルというのもあって、オリジナルの説明プレートを用意してみました。今日までに2週間ほど経過しましたが、初診で尿石症を診断することが多く、尿石症はどちらかというと少し冷えてくる秋に多いイメージでしたが、そんなこともない、やっぱりオールシーズンいつでも発生している一般的な病気であることを痛感しています。

尿結石の中には、注意しておけば予防できるものがあります。今はなんともないように見えて、問題はこれから発生するかもしれません。決して他人事の病気ではないのです。

そんなわけで、尿路にできる石のお話にお付き合いください。

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尿路結石についてご紹介しています。
別の用件で診察に来られても、
「あっ!そうだ!オシッコがおかしかった!」
なんてことがあれば、ついでにお話しください。

<尿路に石があるとどうなるか>

尿路はオシッコができて、流れて、排泄される経路です。腎臓~尿管~膀胱~尿道になります。

腎臓~尿管を上部尿路、

膀胱~尿道を下部尿路

といって、分けています。尿管と尿道は一文字違いですが、別の組織です。

尿結石はこのうちのどこかに存在する石です。

尿結石は尿路のさまざまな場所を自然に通過したり、ずっとそこに居続けたりします。そのあいだ、そのままの状態で成長せずにいることもあるし、自然に溶解してしまうこともありますが、成長を続ける(大きくなる、数が増える)こともあります。どこかにある石全部が何かしらの症状を出すのではなくサイレントで、気がつかれないこともあります。たった一度血尿を出したけれど、その後はなんともない、なんていうこともあります。たまたま画像検査をしたら発見するということもあります。

けれど、好ましくないことも起こします。

いくつかの、怖い例を挙げてみます。

・石がある組織の内側の壁、たとえば膀胱なら膀胱の粘膜を傷つけます。傷がつくと粘膜表面から量の問題はありますが出血します。

・傷があると、細菌感染を起こしやすいです。

・慢性的な刺激によって粘膜はポリープを作るかもしれません。それは腫瘍と区別がつきにくいものです。

・腎盂(やや広い)→尿管(とても狭い)→膀胱(広い)→尿道(狭い)という構造になっていますので、石が移動し、狭い部分を通過する途中で閉塞を起こすかもしれません。

・両腎に影響するほどの完全で持続的な閉塞が起こると、腎障害を起こします。それは急性の尿毒症を起こすかもしれません。

・重篤な閉塞が生じた後、尿の流れを早急に再開させないと腎臓は急速に壊れ、2日から4日くらいの間には亡くなることも予想されます。

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いろんな石があります。
石毎にでき方に特徴が有ります。
手術しなくても大丈夫な石もあります。
きちんとしてれば予防も再発しないようにもできる石もあります。

<石によって組成が違います>

尿路結石にはいろいろ種類があります。石の成分のことです。

昔、激しく昔ではないけど、そう、昭和の頃です。犬も猫も、「尿石ができているぞ」とわかったとき、その石はほとんどがリン酸アンモニウムマグネシウム(ストルバイト)でできていました。この石は長いこと、結石の原因のNO.1でした。それも80%くらいはこの石でした。今は減ってきています。この石は予防が可能になったからかもしれないし、飼い方が良くなったせいかもしれません。

近年増えてきているのがシュウ酸カルシウム結石です。これまで80%を占めていたストルバイト結石は、その半分(よりちょっと多く)をシュウ酸カルシウム結石に譲った感じです。猫のシュウ酸カルシウム結石は腎臓から落ちて(膀胱まで行く途中の)細い尿管で石が立ち往生してしまうと、急性の腎障害を起こし命の危険が高いので、特に注目が集まっています。この状態に対しては外科、それも緊急の外科が必要ですし、手術ができたからといってこうなった猫たちを100%救えるかというとそうではなく、もし危機的状況を一旦回避できても難しい状態が継続します。亡くなる確率も高いし、救えても慢性の腎臓病となってしまうことも多い厳しい病気です。

ストルバイト結石が大半を占めていた昔でも、シュウ酸カルシウム結石がその半分を譲られた今でも、変わらず10%~20%くらいは別の石が占めています。それが代謝に関係してくる石と不明の石です。一部の犬では腸から肝臓に行く血管(門脈)に異常があったり、また肝臓に障害のある犬があり、そのために尿酸アンモニウム結石を形成することがあります。またダルメシアンに代表されますが、遺伝的にプリン体の代謝ができない個体でも発生しやすいことがあります。それから腎尿細管で再吸収されないことから発生してしまうシスチン結石があります。まれなのですが、これも遺伝的疾患で、できてしまう犬には繰り返し石ができてしまいます。原因はわかっているけれどコントロールが難しい結石です。

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犬も猫も、よく見られる石の種類は変わってきています。

<尿結石を発見する>

石の発見に使われるのは、レントゲン検査や超音波検査などの画像検査(と尿検査、可能ならば血液検査)です。レントゲン検査するとき私たちは、「KUB」:腎臓(K)~尿管(U)~膀胱(B)を全部入れて撮影しますが、さらに尿道とその先の出口までしっかり撮影するようにしています。ときに、一枚では治りきらず、前の方、後ろの方の2枚に分かれて撮影することもあります。(横から撮影するだけで)

読影するときはじっくり見ていきます。小さい動物ではできている石も、ほんの小さな石であることがあります。撮影後も色合いの調整や拡大など、画像を調整して確認します。X線の「透過性」と私たちは呼んでいますが、くっきり写る石からぼんやりレベルの石、また、X線をすり抜けて写らない石というのもあります。レントゲン撮影そのものは皆さんもご存じの通り、「はい、息を大きく吸って~止めて~はい」「バシャン!」の数秒のことなのですが、読影には時間がかかります。

超音波検査では、動物にじっとしていただくことが要求されます。一瞬の撮影タイムであるレントゲン撮影と違って、それなりの時間が必要です。石のようなもの、石かどうか怪しい物体があるような場合は、尿道に管を入れその管から生理食塩水を流し、水の流れや物体の動きを通して、怪しい物体を探ります。大きな石でしっかり影を作るようなものだと判断しやすいのですが、微妙なときは判断するのに困ることがあります。直腸にウンチがいっぱいあってわかりにくいということもあり、「浣腸してから撮りなおししようか」なんてことにもなります。

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腎臓から尿管、膀胱、そして尿道まで、
石はどこにでもできてしまいます。
レントゲン検査でわかる石を載せています。

<見つかった石、取らなきゃいけない?>

「悪さをしている石」は無くした方がいいです。たまたま偶然見つかっただけで「悪さをしていそうに無い石」の場合は見守りもありです。

「悪さをしている」、「悪さをしそう」などの判断は重要ポイントです。たとえば腎結石が見つかっても、流れを妨げている、感染症を繰り返している、痛みを出している、腎臓が圧迫されるくらいでっかいなどは「悪さをしている」ので「切る方」に入る石です。偶然見つけた小さな腎結石で、流れも妨げていない、感染もしていない、痛みももい、とても小さな石の場合は「見守り」になります。また膀胱にあって「悪さをしそうにない石」というのは、今も問題を起こしていない(血尿とか尿路感染などの症状が全く出ていない)し、適度な大きさがあって尿道に落ちそうにない(閉塞しそうにない)石です。症状が出たときにどうしようか考えれば良い「見守り」になります。

そして「手術でなければ取り出せない石」と「内科的に溶解が可能な石」があり、溶かせることができる石ならば(何か緊急に困ることが無ければ)ゆっくり溶かしていくのが動物にやさしい方法です。「手術しなければならない石」で「予防法がない石」ならば、何度も繰り返し手術するくらいなら、見守り続け、必要以上に手術回数を増やさない方法もあることになります。

「見守る石」は「様子を見ましょう」と言われるかもしれません。これは「そのままにしておいて良い」という意味ではありません。定期的にチェックが必要ですが今は手を出さないという意味です。獣医師からの言葉をちょっとアレンジして判断されてしまっている飼い主さんもおられますのでお伝えしておきます。

基本的にストルバイト結石は溶かす石に分類されています。尿酸結石とシスチン結石も一度は溶解を検討してみる石です。見守りや取り出しの手術になりやすいのはシュウ酸カルシウム結石です。

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今月からリニューアルの尿石予防食です。

<石の種類は体内にあるときに特定できるか>

石によって切らなくても溶かせる石がある、となると、取り出してから検査するのでは無く、体内にあるうちに決定して処置を決める必要があります。出てきていない石がどの組成の石なのか、外から見て分かるものでしょうか。

動物の品種・性別・年齢やできている石の場所、代謝異常などの病気の様子、尿路感染の有無、食餌などから、どの石なのかを予測することは可能です。また画像検査で推測することも可能です。例えば、X線には写らないけれど超音波検査だとはっきりわかる石、X線でぼんやりわかる石、X線で小さくてもくっきりわかる石などの写り方によっても判断できます。それから超音波検査でいろいろな角度からあててみて推測されるおおまかな形、石の大きさと数なども参考になります。尿検査で尿のpHを調べることができますが、酸性度、アルカリ度によってできやすい石に違いがあるので、これも参考になります。結石成分が過飽和であったとき、管に入れた尿を回転させ沈んだ物を顕微鏡で調べてみると、結晶成分を見つけ出すことができます。有力な手がかりです。

こんなことをヒントに、だいたい推測することができます。しかし、ある石が原因で感染が起こり二次的に感染性のストルバイト結石を形成することもあります。血液検査でミネラル成分を調べ、高カルシウム血症があるなど、というのもヒントにはなります。

しかし状況証拠が一つの方向に正しく導かれるとも限りませんので、判断に苦しむこともあるし、複数の成分が絡み合ってできている「混合結石」の場合もあるため、決定が難しいときもあります。

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サンプルフードが並べてあります。
石ができていない犬猫でも、
肥満を含めたほかの病気がないときには
これらを利用することが可能です。
予防になります。

<特殊な犬?普通の犬?>

遺伝的疾患を持った特別な犬や猫だけに尿結石ができるのはできた石全部のなかで10%~20%未満です。あとは「こんな風に飼っていると石ができちゃうかも」というのがあります。もちろん体質によって「すぐにできちゃうぞ」から「いずれできちゃうぞ」くらいの巾は有るかもしれません。「うちの子は一度もできたことないし、関係ない病気じゃないかな」と思われていらっしゃる飼い主さんはとても多いです。でも人生における「まさか」は犬でも猫でも起こりますので、「関係ないぞ」なんて思わないで予備知識を入れておいていただけると良いなぁと思います。

 

<続きますが、ひとこと>

「様子を見ているうちに変化して、すぐになんとかしなければいけなくなる結石」は一定数あります。はじめはきっと「見守り」だったのだけど、どこかで「悪さをし始めた石」に変わったはずです。はじめから「切除が必要だったけれどそのままにしちゃった石」も無いとはいえませんが、すべてがそうではないと思うのです。「定期的な検査で様子を追っていく」ことで「切りどき」を逃さないようにすることが大切です。「様子を見る」というのを「何もしなくてもいい」と読み違えてしまうと、「切りどき」を過ごしてしまう危険があります。

「見守り」「様子観察」「様子見」はいつも以上に「神経を細やかにして臨床症状が出ていないかどうか気を配る」必要があるし、忘れずに再診に出かける必要があるというのを心に留め置いてください。

<改正動物愛護法のこと>

話は変わりますが、動物愛護法が変わりました。これまで以上に罰則は強化されました。心を痛める事件もありますが、これによって無くなればウレシイです。
ショップで売られる子犬の週齢も、今後引き上げられることが決定しました。小さい方がかわいい、幼い方がなつきやすいといった逸話は、動物行動学からは完全に否定的です。幼少時には親子のスキンシップと同腹子同士の遊びを通じて得られるものが多く、これが日本犬に適応されなかったことはとても残念です。日本犬だけを除外するエビデンスはありません。
飼育者にとって関連してくるのは「マイクロチップ」の埋め込みです。これまで飼育されてきた動物には努めて入れて欲しいということになっています。終生飼育の義務づけ的な側面もありますが、むしろ、万が一大きな災害が起こって迷子になっても、最後はマイクロチップの情報を頼りに飼い主さんと再会することができます。いつでも挿入は可能です。この際にぜひ、ご検討ください。不安に思うこと、知りたいことがあれば診察のときにどうぞ。






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高血圧性脳症

 高血圧性脳症は、人のこととして考えたときに理解が進むと思います。比較的身近な人に発症していることも多いかと思います。理論的には動物でも似たようなことが起こります。しかし検査と診断、急性治療とその後の予後については大差があるのではないかと思います。

高血圧症によって脳内血管に出血性の障害が発生したときに考えられることをお話しします。

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<脳出血?脳梗塞?>

人で脳血管関連の障害が発生したときに、「くも膜下出血」とか「硬膜下出血」とか「硬膜外出血」などと伝えられるかと思います。これらは出血性の疾患です。それから似たような言葉として「脳梗塞」というのもあります。こちらは虚血性疾患で、出血性疾患とは病態が異なります。

出血性疾患では血管が破綻して周囲組織に血液が出てきます。血液凝固状態が良くなければ出血はしばらく続きますが、やがて「血腫」を作って出血は止まります。腕や足を強く打ったとき、「青あざ」ができたり「血豆」になったりして皮膚の色がくすんで見えることが有るかと思います。それが脳の中で発生していると想像してみてください。一方、脳梗塞は血管が詰まって、その血管が酸素や栄養素を配ることになっていたエリアに酸素や栄養素の供給が行かなくなることから発生した脳細胞の障害です。細胞の壊死から細胞障害性浮腫が発生します。

 

<出血の原因>

高血圧は脳血管出血の原因の一つに過ぎません。腫瘍ができていて血管が破綻することもあるし、出血性素因がある個体だったという可能性もあります。脳血管に動脈瘤があったのかもしれないし、血管奇形が有ったかもしれない。すごくまれな病態まで含めてしまうと(TVにそんな番組が有ったように思いますが)寄生虫の迷入だって出血の原因になり得ます。そして探ることができ、いろいろ見たけれど原因がわからない場合ももちろんあります。

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<出血が起こると>

出血した血液による「血腫」が作られます。血の色をしたゼリー状の塊、生のレバーに似たような感じですがもっとふわっとしたババロアのような物です。これが脳の実質を圧迫します。Mass effect(マスエフェクト)といって、脳腫瘍と同じような状況を作り出します。そして、その塊によって局部的に血液の流れは障害を受けることになり、二次的に虚血性の状態(酸素や栄養素が行き渡らないために浮腫が発生してきます)にもなってきます。圧迫によっても、虚血による浮腫によっても、頭蓋内の圧は上昇してきます。

血腫は時間が経過すると吸収されますが、圧迫から組織が壊死したり、壊死部分がぽっかりと空洞になったり、他の組織に置き換わり瘢痕組織を作ったりなど、その後も脳組織が完全に再生することがないため、影響を残すことになります。

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<脳神経症状の出現と経過>

脳血管障害は急性に発症します。数時間から数日かけての経過で、一時的には悪化したようになりますが、そのときをピークにその後はあまり変化がないかあるいは少しばかり改善したような経過をたどります。多くは数日で改善傾向になって、支持療法をしているうちに寛解する(症状が落ち着く)ようになるのです。「大多数は」、という言葉を前置きすることを忘れました。

あまりにも重症だったりすると、急性期のうちに、診断を付ける間もなく亡くなってしまいます。甚急性です。

猫で、原因不明の死亡例の中には、これがあるのではないかという先生もおられるくらいです。例えば、ドスンという音がして行ってみるとさっきまでタンスの上で寝ていた猫が落下していて見るともう息がなかった、というとき、落下で死亡したのではなく、死亡した結果、落下したというようなことです。

どこにどの範囲で病変があるのかによって重篤度に違いが出ます。場所的には脳幹(脳の中心部)に病変がある方が辺縁よりもしんどいですし、できた血腫のサイズは小さい方が予後は良好です。またイベントが発生した時に飼い主さんが不在で治療開始までに時間が経過していたというような場合も、すぐに治療できた場合と比べると予後は良くありません。基礎疾患が明らかにあるとき(例えば慢性腎臓病とかクッシング症候群とか)、基礎疾患のコントロールができていても再発する可能性はあります。繰り返すことにより予後は悪くなるし、それに伴って生存期間も短くなります。

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<あらわれる臨床症状>

障害を受けた血管が走る場所によって、脳血管障害が見せる症状は少しずつ異なっています。専門の先生から見ると、この症状の細かな分類で、大体どのあたりに発生した障害なのかを推定することができるようです。①前頭・頭頂葉とか②側頭・頭頂葉とか③後頭葉、④視床や中脳、⑤小脳、⑥脳幹というざっくりした部分わけです。(すみません、私は自信持って「この場所でしょう」と言い当てることはできません。)また病変が広範囲にできていたり、複数箇所有れば、症状も重なります。

全部を箇条書きに記します。いわゆる中枢神経系の症状です。出血性でなくても同じ症状が出ることがあるので、これらが見えるからと言って、すべては脳血管の障害によるものではないこともお伝えしておきます。

・精神状態の変化(攻撃的、静か)

・意識レベルの変化(はっきりしている、眠っているよう)

・姿勢反応の低下から消失(しっかりと立っていられない)

・唇の痛み感覚が鈍る

・瞬き反応が低下から消失(目の前に手をかざしても目を閉じない)

・同じ方向にぐるぐる回る

・頭を傾ける、首をかしげたままになる

・頭を押しつける

・てんかん発作

・眼の向きがおかしくなる

・眼球がゆらゆら揺れる(くるくる回る)

・瞳孔の大きさが左右で違う

・四肢の麻痺

・顔面麻痺

 

<診断するとき>

一般に全身状態を診て、血圧測定をしたり、血液検査をしたりするくらいではわかりません。神経学的な検査を行なってもそれを確認することができるという範囲内にとどまります。症状が緩やかに落ち着いてきたところで「おそらく脳血管障害だったのでしょう」ということになるくらいです。

いわゆるゴールドスタンダードはCRMRIの検査です。可能であれば両方とも受けてもらえると、今の症状が「脳腫瘍」や「脳炎」「認知機能不全症候群」ではないという除外診断もできるし、異常が発生した部位や範囲を特定することも可能かと思います。いざ、そうなったときに大きな設備のある病院に行ければ、画像検査による判断が可能です。

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<脳血管障害の治療>

人医療と大きく異なるのは治療にも及びます。特に発生直後の急性期では「きっとそうだろう」レベルの診断になります。普通のホームドクターができる範囲内の治療は、救急的に内科的な脳圧をコントロールする治療になるでしょうが、それらの薬を使う根拠の見つけどころがわかりません。高血圧という既往歴、今発症している脳神経学的な症状から、「おそらく脳圧が上がっているに違いない」と脱水症に気をつけながら脳の降圧剤の点滴治療をするというのも危なっかしい橋を渡るような治療です。激しいけいれんがあるようであれば、特殊な系統の麻酔薬で眠らせ、気管に管を通して酸素療法があります。またけいれんに中休みがあり内服投与が可能であれば抗けいれん薬による内服療法ということになります。

それらに加え、ほとんどは支持療法、つまり、食事がとれない状態ならば水分や栄養素の補充のための点滴や流動食的な給餌療法、立てないときにはそれなりの看護をするといった内容です。

さらに経過して状態が安定すれば、リハビリテーションを含めた看護や介護が必要になってくるかもしれません。

高血圧が原因の脳症だと判断がついても、神経系のトラブルが発生したイベント時に、すぐ降圧治療を施すことはありません。脳内圧が上昇しているときには障害部位で脳の血流を調整する機能が壊れているため、急に血圧を低下させることは、障害の起こっている部分でさらにかん流が低下してしまう危険もあるからです。症状が落ち着いてから、血圧系のお薬を服用して貰います。

いずれにしても動物の様子をじっと観察しながら、行きすぎた治療にならないよう気をつけて実施することになります。

 

というわけで、標的器官障害としての脳血管障害の怖さを知っていただき、これはやっぱり高血圧症をコントロールして、予防的に備える方が賢明だとわかっていただけるとありがたいです。

今日のお話はこれでおしまいです。

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犬と猫の高血圧症

 犬と猫の高血圧症についてお話しします。

 

<高血圧症>

「全身性の高血圧症」という用語は、収縮期血圧(わたしたちが血圧測定をしたときの高い方の値です)が持続的に高いときに適応されます。高血圧症は大きく3つに分けられます。ひとつは①環境や状況のストレス要因から引き起こされる高血圧で、もうひとつは②病気に関連して起こる高血圧、そして③考えられる病気がないのに起こっている高血圧です。①は「状況性高血圧症」と呼んでおきましょうか。不安や興奮によるもので、人の「白衣性高血圧」を思い浮かべていただくとわかりやすいと思います。②は「二次性高血圧症」です。代表的な原因疾患は犬では慢性腎臓病、急性腎臓病、副腎皮質機能亢進症、糖尿病で、猫は慢性腎臓病、糖尿病、甲状腺機能亢進症です。また珍しい病気なのですが原発性高アルドステロン症では高血圧を持つ割合が高いです。それからある種の薬剤によっても高血圧を引き起こすことがわかっています。そして、二次性高血圧症を引き起こすことが知られている明らかな病気が発見できない状態で高血圧が生じているようなときは③の「特発性高血圧症」に分類されます。

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<高血圧をコントロールしなくてはいけない理由>

慢性的に血圧が高い状態が続いていると、身体の大切な器官に障害を引き起こすことになります。「標的器官障害」といいます。(人では標的臓器障害と言っています。同じことです。)高血圧を治療する目的はこの障害の予防です。

標的臓器には、腎臓や眼、脳、血管や心臓などがあげられます。

どのような困ったことが起こるのかというと、以下の通りです。

    慢性腎臓病がより急速に進行する

    蛋白尿を悪化させる(より多くの蛋白が尿に流れ出てしまいます)

    網膜剥離等により失明の危険が高まる(高血圧性眼症といわれています)

    脳血管障害から来る神経症状が発生する(高血圧性脳症です)

    心臓肥大を起こす

高血圧性眼症については以前お話ししました。
http://heartah.blog34.fc2.com/?preview_entry=&editor=&key=4176e98086535e1e386993409ed84eafa48aa0ae17449f4c2c94683c5b91cc17&t=1557457459

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<高血圧症かどうかの検査>

高血圧症になるかもしれない原発疾患をもつ動物であれば、フォローアップ検診のときに常に気にしながら血圧測定をすることが望ましいです。(はじめは慣れなくて、腕や尻尾にカフを巻かれると興奮してうまく測定できないかもしれませんが、継続するうちには動物も慣れてなんとか測定できるようになります。)

もし標的器官障害に似た症状があれば、高血圧症を発症しているかもしれないと、診断する上でチェックしていくことになります。

高血圧症は目で見てわかることはありません。Brown先生によると、実験的に高血圧にした猫の臨床症状は、動かない、寝ていることが多い、食欲が変化する(どうやら増えることもあったらしいです)などで、これといった特徴的な症状ではありませんし、私たちが「高齢だからね」と思ってしまう状態と同じ、いわば微妙な症状です。だからこそ、より意識的に血圧測定を日常にしていかないといけないことなのかもしれません。(とくに10歳になる前、9歳ころから血圧測定の練習ができるといいなぁと思っています。)

犬や猫の高血圧症の有病率は知られていません。見かけ上健康な犬を用いた調査では400頭の調査で0.5%、1000頭の調査で0.9%、215頭の調査で2%などとなっています。常々、シェットランドシープドックが犬種的に怪しい(罹患率が高い)と思っていますが、(これは全くの個人的な見解で獣医学的な根拠は何もありません。体感的にそう思うだけです。)たまたまこの犬種だけに絞った調査があって、それによると13%となっていました。(きっと偶然しょうけれど。)

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<血圧測定>

血圧は「静かなところで、飼い主さんと一緒に、落ち着かせてから」測定する、というのが測定法の定番です。けれど犬や猫によっては飼い主さんがいると落ち着かず抱っこをせがむなどして興奮が収まらないため、「できるだけ静かな状況を作る」のに飼い主さんが同室でない方がベターな場合もある(むしろその方が多い!)ことをお伝えしておきます。

意識化の動物はこの機械がいいとか、あの機械では問題が出るとか論文レベルでは機械の評価が有りますが、良好なデータを得るのには、とにかく動物に慣れて貰うことが一番です。当院では今、二つの異なる機械を使用しています。一方は推奨されている機械で、音で聴取し判断していく機械です。こちらを使って測定していくのには時間がかかります。慣れない犬猫では必要なデータを数回測定しようとする前に嫌になってしまうようです。もう一方は、数値を目視することが可能で、比較的楽に測定ができます。安定している犬猫で二つを比べると、非常に関連性の高い記録が得られます。慣れない犬や猫では、カフの圧迫が気になるようで、手早く済ませようと考えています。

1回の測定で5回から10回くらい測定します。最初のデータと、あまりに動いたりするなどで安定性に欠けるデータを除いた数回の平均値を採用しています。人なら待合室で(場合によってはお風呂屋さんの脱衣室などで!)ご自身で腕を通して測定してきていただけるのに、犬や猫は手間がかかります。

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<高血圧の診断>

高血圧かどうかは、1回の測定だけでは判断しません。少し離れた2日で測定し、2日目も高かった場合に「高血圧です」としています。

数値的には、収縮期血圧が

140mmHg未満~正常です。標的器官障害のリスクは最小限です。

140159mmHg~プレ高血圧です。標的器官障害のリスクは低いです。

160179mmHg~高血圧です。中等度の標的器官障害が心配されます。

180mmHg以上~重度の高血圧です。標的器官障害のリスクが高いです。

というように判断しています。

IRISが定める慢性腎臓病の二次分類はこの数値とは異なります。)

この数値をもとに、次の検査をいつ頃するのか、それをどう判断し、いつから治療を始めるのか、どんな治療をするのかを考えていきます。

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<高血圧の治療>

治療の目的は、標的器官障害の可能性を減らすこと、もし起こったとしてもその重症度を減らすことにあります。

目標は標的器官障害のリスクを最大限に減らすところまで下げる、数値的には収縮期血圧を160mmH未満になるように達成させることです。(ですから数回の測定で160mmHgに満たないプレ高血圧症に入る犬や猫たちは今のところ治療の対象にしていません。)

収縮期血圧が160mmHgを超える犬猫の、血圧を高めるもとになる病気を同時に発見したとき、まずはじめの病気の治療をして血圧の変化を見ながら高血圧治療に入るときと、見つけた時点で同時に高血圧治療を始めるときがあります。これは、もとの病気がお薬でコントロールされるのを待つ時間的な余裕があるかどうか、一度にいくつもの薬を処方してそれを動物が(これは投与する飼い主さんが、に言い換えることもできるかと思いますが)受け入れられるかどうかにもかかってきます。基本的には同時に治療を始めたいです。200mmHgを超えるようなときは、「お願い、頑張って!」の祈るような気持ちです。

血圧を下げることは全身性低血圧を引き起こしてしまうリスクも合わせ持っています。急激に血圧を低下させるのはかえって危険なことになります。何度か測定をしながら、「うちの子」の「今の状態」にちょうどいいお薬(もとの病気の治療薬も含め、場合によっては1種類だけにとどまりません)と、投与量を探っていきます。つまり、開始するときのお薬はよりマイルドなものでマイルドな量を選びます。維持していくのにちょうど良いと思われる薬の種類と量が決まるまで、1週間とか2週間の間隔で来院をお願いしています。

再診のたびに血圧測定をしていくと、動物たちもいよいよ慣れてきます。ほぼ毎回一定の数値になっていると安心です。それでも、その日のコンディションや診察までの待ち時間の過ごし方によって簡単に数値が変化します。毎回高いとなると、それはお薬の見直しをする必要があるというサインとして捕らえています。

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<高血圧症のときに使われるお薬>

犬ではRAAS阻害薬と、カルシウムチャンネル遮断薬が広く使われているお薬です。RAAS阻害薬は高タンパク尿作用(これはそのまま腎保護作用になります)のため、もとの疾患に腎臓病を持つ犬では間違いなく第一選択の降圧薬です。RAAS阻害薬として有用なのがACE阻害薬ですが、これは僧帽弁疾患などの心臓病の初期開始薬としてずっと使われてきたお薬でもあります。薬のパンフレットでも僧帽弁閉鎖不全症についての記述が紙面のほとんどを閉めています。そのため、この薬がうちの子の「高血圧のために」処方されていたことをすっかり忘れてしまう飼い主さんも出てくるようになります。そのくらい「僧帽弁疾患」のために処方されることが多いからです。「心雑音の有無」だけがこのお薬の処方の目安ではないこともご理解ください。

一方猫では、カルシウムチャンネル遮断薬がずっとファーストチョイスになってきていましたが、猫でもRAAS阻害薬を併用します。長い目で見ると腎臓をまもる仕事をしてくれるRAAS阻害薬系統のお薬ですが、とくに脱水を起こしていることが多い慢性腎臓病の猫では、脱水を改善させないうちに用いると腎臓機能を悪くさせてしまいますので、点滴治療で脱水を改善させ、腎機能を守れる状態にしてから使い始めます。

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<おねがいしたいこと>

高血圧こそ、沈黙の状態です。標的器官障害は長時間かけてゆっくりと発生しています。適切な治療と、経過観察をないがしろにしないことはとても重要です。何かを予防するお薬は、投与しなくてもすぐにその予防していた病状を発症するわけではないので、お薬の恩恵を過小評価しがちです。すぐに薬の利点は見えないわけですが、高血圧の管理によって飼育動物の生活の質が高い状態で維持できていく(現在進行形です)ことをご理解いただきたいと思います。将来のための治療薬が高血圧管理のお薬です。

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<おまけ・塩分の高い食事と高血圧>

517日は「世界高血圧デー」なんですけれど、同時に「減塩の日」でもあります。塩分摂取と高血圧についてお話する機会が多いことをここでもお伝えします。

食餌中のナトリウムの問題は専門家の間でも、多くの論議が出るテーマになっています。正常な犬や猫の血圧は、塩分の影響は受けにくいようだという報告が出ていました。犬や猫では、自然に発生した全身性高血圧症で高ナトリウム摂取が高血圧に与える影響そのものは体系的に評価されていないようです。今のところわかっているのは、ナトリウム制限だけでは血圧を低下させることはないということです。そして、慢性腎臓病の猫では塩分の摂取量が多いと悪影響を及ぼすことがあります。それで、犬と猫の高血圧に関するACVIM(米国獣医内科学会)の合意声明を出した委員会のメンバーは「食餌性Naの多量摂取について避ける」よう勧めています。IRISでも慢性腎臓病があるときのNaは「お薬と併用して徐々に制限する」ように勧めています。適切な食事としてNaは不可欠な栄養素ですし、併発疾患や嗜好性の問題もあるので、個々で考える必要があると思います。

今週、体調不良により日曜日の更新予定が遅くなってしまいました。17日に間に合ってヨカッタ~!

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全身性高血圧症・続き

全身性高血圧症のお話、前回の続きです。



 <高血圧が影響を及ぼす臓器と障害>

高血圧症が継続している(慢性的な高血圧症になっている)と、腎臓や眼、脳(中枢神経系)、心血管系に障害を与えます。障害の中には陰に隠れて、わからない状態のものが多いです。ですから、たいていは気がついたときには後戻りできないようなことになっています。

障害を受ける臓器

高血圧による影響・症状

問題を発生させる

可能性がある血圧値

コメント

腎臓

腎機能低下の進行が早まる

蛋白尿が増す

血圧>160mmHg

原因か結果かがわからない

網膜剥離

眼の中の出血など

血圧>180mmHg

「高血圧性網膜症」

抑うつ状態になる

運動失調をおこす

発作を起こす

血圧>180mmHg

虚血性脳梗塞や

出血性損傷による

心臓

心肥大

不明

 

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腎臓が悪いために高血圧になっているのですが、高血圧であることが腎臓病を発症させたり、病気の進行を早めたりすることになります。腎臓病の進行のバロメーターになるのは尿中のタンパクです。

眼は高血圧性網膜症として知られています。収縮期血圧が180mmHg以上でリスクが高まりますが、たいていは「眼がおかしい」と思ったときにはすでに失明しているケースがほとんどです。

高血圧性脳症では、「抑うつ状態」で静かになる(元気がない)か、「前庭疾患」のようにしっかり立っていられないなどの運動失調、けいれん発作などが突然始まります。収縮期血圧が180mmHg以上でリスクが高まります。

高血圧は心臓にも影響を与えます。「左室肥大」といっていますが、この結果流れが悪くなった場合、すでに僧帽弁閉鎖不全症のある犬では僧帽弁逆流を悪化させてしまいます。

 

ボーダーライン未満の血圧は臓器に及ぼす影響は最小限なので、それ以上診断をしていく必要はありませんが、150/95とか160/100あたりになるとやはりそれなりのリスクが出てきますので、血圧を上げる病気が潜んでいないかどうかを見つけることに加え、今後何か症状を出すことはないのか、時間を追って継続的に測定していきます。

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<高血圧症の治療>

高血圧症の治療には、心臓病の初期に使われるのと同じ、レニンーアンギオテンシン系を阻害する薬(アンギオテンシン変換酵素阻害薬:ACE-I)が使われます。アンギオテンシン受容体遮断薬(ARB)も使われることがあります。この薬1種類だけで十分にコントロールできないときには別の薬(カルシウムチャンネルブロッカー:CCB)も加えます。

投薬を始めるサインは収縮期血圧が160mmHgを超えてきたとき、というのが多くの先生達の合意するところです。

 

<心臓病でも同じお薬が処方になる>

はじめに処方するのは心疾患で用いられるお薬と同じものです。この時点で心雑音を感じられないと、「心臓病じゃないのに、どうしてこの心臓用の薬を服用するのだろう」ということになるかもしれません。お薬には「慢性心不全用」の薬として表示してありますから。でも、今心雑音が聞こえる、聞こえないということではなく、高血圧症でも同じ薬が処方になるというところを理解しておいてください。そして継続により、腎臓はもちろんのこと、心臓も、眼も、脳も守られていきます。それから高血圧によって左心室肥大は降圧剤によって改善することも知られています。

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<おわりに>

心雑音、犬の症状を中心に心臓(腎臓)保護薬の投薬を開始するのでは、身体を守りきれないかもしれないと思うこの頃です。心雑音の有無の判定には、獣医師側の主観によるところもあり、軽度の雑音を聞き逃してしまう心配があるし、犬の症状の有無に関して言えば、飼い主さんの主観や気づき、犬と一緒にいる時間などの制限があるからです。腎臓や心臓を守るための投薬開始サインの一つに血圧測定はあると思います。人と同じように、ある程度の年齢が来たらルーチンに血圧測定をするといいのかなぁと思います。

それから、治療による恩恵を受けているときは好状態が続いています。「もう治ったね」「薬は要らないね」と思ってしまうこともあるかと思います。「すっかりいつもと同じ、元気も食欲もある!」からです。けれど、薬によって、このような状態が得られているだけで、薬による援助がなくなると、身体はまたこの状態を維持するために無理をしなければいけないことになります。病気には「治らないけれどうまくつきあっていくと、進行を遅らせることができる病気」があります。心臓病や腎臓病と同じように高血圧症もそういう「コントロールしていく病気」の一つです。

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