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高血圧性脳症

 高血圧性脳症は、人のこととして考えたときに理解が進むと思います。比較的身近な人に発症していることも多いかと思います。理論的には動物でも似たようなことが起こります。しかし検査と診断、急性治療とその後の予後については大差があるのではないかと思います。

高血圧症によって脳内血管に出血性の障害が発生したときに考えられることをお話しします。

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<脳出血?脳梗塞?>

人で脳血管関連の障害が発生したときに、「くも膜下出血」とか「硬膜下出血」とか「硬膜外出血」などと伝えられるかと思います。これらは出血性の疾患です。それから似たような言葉として「脳梗塞」というのもあります。こちらは虚血性疾患で、出血性疾患とは病態が異なります。

出血性疾患では血管が破綻して周囲組織に血液が出てきます。血液凝固状態が良くなければ出血はしばらく続きますが、やがて「血腫」を作って出血は止まります。腕や足を強く打ったとき、「青あざ」ができたり「血豆」になったりして皮膚の色がくすんで見えることが有るかと思います。それが脳の中で発生していると想像してみてください。一方、脳梗塞は血管が詰まって、その血管が酸素や栄養素を配ることになっていたエリアに酸素や栄養素の供給が行かなくなることから発生した脳細胞の障害です。細胞の壊死から細胞障害性浮腫が発生します。

 

<出血の原因>

高血圧は脳血管出血の原因の一つに過ぎません。腫瘍ができていて血管が破綻することもあるし、出血性素因がある個体だったという可能性もあります。脳血管に動脈瘤があったのかもしれないし、血管奇形が有ったかもしれない。すごくまれな病態まで含めてしまうと(TVにそんな番組が有ったように思いますが)寄生虫の迷入だって出血の原因になり得ます。そして探ることができ、いろいろ見たけれど原因がわからない場合ももちろんあります。

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<出血が起こると>

出血した血液による「血腫」が作られます。血の色をしたゼリー状の塊、生のレバーに似たような感じですがもっとふわっとしたババロアのような物です。これが脳の実質を圧迫します。Mass effect(マスエフェクト)といって、脳腫瘍と同じような状況を作り出します。そして、その塊によって局部的に血液の流れは障害を受けることになり、二次的に虚血性の状態(酸素や栄養素が行き渡らないために浮腫が発生してきます)にもなってきます。圧迫によっても、虚血による浮腫によっても、頭蓋内の圧は上昇してきます。

血腫は時間が経過すると吸収されますが、圧迫から組織が壊死したり、壊死部分がぽっかりと空洞になったり、他の組織に置き換わり瘢痕組織を作ったりなど、その後も脳組織が完全に再生することがないため、影響を残すことになります。

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<脳神経症状の出現と経過>

脳血管障害は急性に発症します。数時間から数日かけての経過で、一時的には悪化したようになりますが、そのときをピークにその後はあまり変化がないかあるいは少しばかり改善したような経過をたどります。多くは数日で改善傾向になって、支持療法をしているうちに寛解する(症状が落ち着く)ようになるのです。「大多数は」、という言葉を前置きすることを忘れました。

あまりにも重症だったりすると、急性期のうちに、診断を付ける間もなく亡くなってしまいます。甚急性です。

猫で、原因不明の死亡例の中には、これがあるのではないかという先生もおられるくらいです。例えば、ドスンという音がして行ってみるとさっきまでタンスの上で寝ていた猫が落下していて見るともう息がなかった、というとき、落下で死亡したのではなく、死亡した結果、落下したというようなことです。

どこにどの範囲で病変があるのかによって重篤度に違いが出ます。場所的には脳幹(脳の中心部)に病変がある方が辺縁よりもしんどいですし、できた血腫のサイズは小さい方が予後は良好です。またイベントが発生した時に飼い主さんが不在で治療開始までに時間が経過していたというような場合も、すぐに治療できた場合と比べると予後は良くありません。基礎疾患が明らかにあるとき(例えば慢性腎臓病とかクッシング症候群とか)、基礎疾患のコントロールができていても再発する可能性はあります。繰り返すことにより予後は悪くなるし、それに伴って生存期間も短くなります。

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<あらわれる臨床症状>

障害を受けた血管が走る場所によって、脳血管障害が見せる症状は少しずつ異なっています。専門の先生から見ると、この症状の細かな分類で、大体どのあたりに発生した障害なのかを推定することができるようです。①前頭・頭頂葉とか②側頭・頭頂葉とか③後頭葉、④視床や中脳、⑤小脳、⑥脳幹というざっくりした部分わけです。(すみません、私は自信持って「この場所でしょう」と言い当てることはできません。)また病変が広範囲にできていたり、複数箇所有れば、症状も重なります。

全部を箇条書きに記します。いわゆる中枢神経系の症状です。出血性でなくても同じ症状が出ることがあるので、これらが見えるからと言って、すべては脳血管の障害によるものではないこともお伝えしておきます。

・精神状態の変化(攻撃的、静か)

・意識レベルの変化(はっきりしている、眠っているよう)

・姿勢反応の低下から消失(しっかりと立っていられない)

・唇の痛み感覚が鈍る

・瞬き反応が低下から消失(目の前に手をかざしても目を閉じない)

・同じ方向にぐるぐる回る

・頭を傾ける、首をかしげたままになる

・頭を押しつける

・てんかん発作

・眼の向きがおかしくなる

・眼球がゆらゆら揺れる(くるくる回る)

・瞳孔の大きさが左右で違う

・四肢の麻痺

・顔面麻痺

 

<診断するとき>

一般に全身状態を診て、血圧測定をしたり、血液検査をしたりするくらいではわかりません。神経学的な検査を行なってもそれを確認することができるという範囲内にとどまります。症状が緩やかに落ち着いてきたところで「おそらく脳血管障害だったのでしょう」ということになるくらいです。

いわゆるゴールドスタンダードはCRMRIの検査です。可能であれば両方とも受けてもらえると、今の症状が「脳腫瘍」や「脳炎」「認知機能不全症候群」ではないという除外診断もできるし、異常が発生した部位や範囲を特定することも可能かと思います。いざ、そうなったときに大きな設備のある病院に行ければ、画像検査による判断が可能です。

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<脳血管障害の治療>

人医療と大きく異なるのは治療にも及びます。特に発生直後の急性期では「きっとそうだろう」レベルの診断になります。普通のホームドクターができる範囲内の治療は、救急的に内科的な脳圧をコントロールする治療になるでしょうが、それらの薬を使う根拠の見つけどころがわかりません。高血圧という既往歴、今発症している脳神経学的な症状から、「おそらく脳圧が上がっているに違いない」と脱水症に気をつけながら脳の降圧剤の点滴治療をするというのも危なっかしい橋を渡るような治療です。激しいけいれんがあるようであれば、特殊な系統の麻酔薬で眠らせ、気管に管を通して酸素療法があります。またけいれんに中休みがあり内服投与が可能であれば抗けいれん薬による内服療法ということになります。

それらに加え、ほとんどは支持療法、つまり、食事がとれない状態ならば水分や栄養素の補充のための点滴や流動食的な給餌療法、立てないときにはそれなりの看護をするといった内容です。

さらに経過して状態が安定すれば、リハビリテーションを含めた看護や介護が必要になってくるかもしれません。

高血圧が原因の脳症だと判断がついても、神経系のトラブルが発生したイベント時に、すぐ降圧治療を施すことはありません。脳内圧が上昇しているときには障害部位で脳の血流を調整する機能が壊れているため、急に血圧を低下させることは、障害の起こっている部分でさらにかん流が低下してしまう危険もあるからです。症状が落ち着いてから、血圧系のお薬を服用して貰います。

いずれにしても動物の様子をじっと観察しながら、行きすぎた治療にならないよう気をつけて実施することになります。

 

というわけで、標的器官障害としての脳血管障害の怖さを知っていただき、これはやっぱり高血圧症をコントロールして、予防的に備える方が賢明だとわかっていただけるとありがたいです。

今日のお話はこれでおしまいです。

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犬と猫の高血圧症

 犬と猫の高血圧症についてお話しします。

 

<高血圧症>

「全身性の高血圧症」という用語は、収縮期血圧(わたしたちが血圧測定をしたときの高い方の値です)が持続的に高いときに適応されます。高血圧症は大きく3つに分けられます。ひとつは①環境や状況のストレス要因から引き起こされる高血圧で、もうひとつは②病気に関連して起こる高血圧、そして③考えられる病気がないのに起こっている高血圧です。①は「状況性高血圧症」と呼んでおきましょうか。不安や興奮によるもので、人の「白衣性高血圧」を思い浮かべていただくとわかりやすいと思います。②は「二次性高血圧症」です。代表的な原因疾患は犬では慢性腎臓病、急性腎臓病、副腎皮質機能亢進症、糖尿病で、猫は慢性腎臓病、糖尿病、甲状腺機能亢進症です。また珍しい病気なのですが原発性高アルドステロン症では高血圧を持つ割合が高いです。それからある種の薬剤によっても高血圧を引き起こすことがわかっています。そして、二次性高血圧症を引き起こすことが知られている明らかな病気が発見できない状態で高血圧が生じているようなときは③の「特発性高血圧症」に分類されます。

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<高血圧をコントロールしなくてはいけない理由>

慢性的に血圧が高い状態が続いていると、身体の大切な器官に障害を引き起こすことになります。「標的器官障害」といいます。(人では標的臓器障害と言っています。同じことです。)高血圧を治療する目的はこの障害の予防です。

標的臓器には、腎臓や眼、脳、血管や心臓などがあげられます。

どのような困ったことが起こるのかというと、以下の通りです。

    慢性腎臓病がより急速に進行する

    蛋白尿を悪化させる(より多くの蛋白が尿に流れ出てしまいます)

    網膜剥離等により失明の危険が高まる(高血圧性眼症といわれています)

    脳血管障害から来る神経症状が発生する(高血圧性脳症です)

    心臓肥大を起こす

高血圧性眼症については以前お話ししました。
http://heartah.blog34.fc2.com/?preview_entry=&editor=&key=4176e98086535e1e386993409ed84eafa48aa0ae17449f4c2c94683c5b91cc17&t=1557457459

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<高血圧症かどうかの検査>

高血圧症になるかもしれない原発疾患をもつ動物であれば、フォローアップ検診のときに常に気にしながら血圧測定をすることが望ましいです。(はじめは慣れなくて、腕や尻尾にカフを巻かれると興奮してうまく測定できないかもしれませんが、継続するうちには動物も慣れてなんとか測定できるようになります。)

もし標的器官障害に似た症状があれば、高血圧症を発症しているかもしれないと、診断する上でチェックしていくことになります。

高血圧症は目で見てわかることはありません。Brown先生によると、実験的に高血圧にした猫の臨床症状は、動かない、寝ていることが多い、食欲が変化する(どうやら増えることもあったらしいです)などで、これといった特徴的な症状ではありませんし、私たちが「高齢だからね」と思ってしまう状態と同じ、いわば微妙な症状です。だからこそ、より意識的に血圧測定を日常にしていかないといけないことなのかもしれません。(とくに10歳になる前、9歳ころから血圧測定の練習ができるといいなぁと思っています。)

犬や猫の高血圧症の有病率は知られていません。見かけ上健康な犬を用いた調査では400頭の調査で0.5%、1000頭の調査で0.9%、215頭の調査で2%などとなっています。常々、シェットランドシープドックが犬種的に怪しい(罹患率が高い)と思っていますが、(これは全くの個人的な見解で獣医学的な根拠は何もありません。体感的にそう思うだけです。)たまたまこの犬種だけに絞った調査があって、それによると13%となっていました。(きっと偶然しょうけれど。)

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<血圧測定>

血圧は「静かなところで、飼い主さんと一緒に、落ち着かせてから」測定する、というのが測定法の定番です。けれど犬や猫によっては飼い主さんがいると落ち着かず抱っこをせがむなどして興奮が収まらないため、「できるだけ静かな状況を作る」のに飼い主さんが同室でない方がベターな場合もある(むしろその方が多い!)ことをお伝えしておきます。

意識化の動物はこの機械がいいとか、あの機械では問題が出るとか論文レベルでは機械の評価が有りますが、良好なデータを得るのには、とにかく動物に慣れて貰うことが一番です。当院では今、二つの異なる機械を使用しています。一方は推奨されている機械で、音で聴取し判断していく機械です。こちらを使って測定していくのには時間がかかります。慣れない犬猫では必要なデータを数回測定しようとする前に嫌になってしまうようです。もう一方は、数値を目視することが可能で、比較的楽に測定ができます。安定している犬猫で二つを比べると、非常に関連性の高い記録が得られます。慣れない犬や猫では、カフの圧迫が気になるようで、手早く済ませようと考えています。

1回の測定で5回から10回くらい測定します。最初のデータと、あまりに動いたりするなどで安定性に欠けるデータを除いた数回の平均値を採用しています。人なら待合室で(場合によってはお風呂屋さんの脱衣室などで!)ご自身で腕を通して測定してきていただけるのに、犬や猫は手間がかかります。

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<高血圧の診断>

高血圧かどうかは、1回の測定だけでは判断しません。少し離れた2日で測定し、2日目も高かった場合に「高血圧です」としています。

数値的には、収縮期血圧が

140mmHg未満~正常です。標的器官障害のリスクは最小限です。

140159mmHg~プレ高血圧です。標的器官障害のリスクは低いです。

160179mmHg~高血圧です。中等度の標的器官障害が心配されます。

180mmHg以上~重度の高血圧です。標的器官障害のリスクが高いです。

というように判断しています。

IRISが定める慢性腎臓病の二次分類はこの数値とは異なります。)

この数値をもとに、次の検査をいつ頃するのか、それをどう判断し、いつから治療を始めるのか、どんな治療をするのかを考えていきます。

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<高血圧の治療>

治療の目的は、標的器官障害の可能性を減らすこと、もし起こったとしてもその重症度を減らすことにあります。

目標は標的器官障害のリスクを最大限に減らすところまで下げる、数値的には収縮期血圧を160mmH未満になるように達成させることです。(ですから数回の測定で160mmHgに満たないプレ高血圧症に入る犬や猫たちは今のところ治療の対象にしていません。)

収縮期血圧が160mmHgを超える犬猫の、血圧を高めるもとになる病気を同時に発見したとき、まずはじめの病気の治療をして血圧の変化を見ながら高血圧治療に入るときと、見つけた時点で同時に高血圧治療を始めるときがあります。これは、もとの病気がお薬でコントロールされるのを待つ時間的な余裕があるかどうか、一度にいくつもの薬を処方してそれを動物が(これは投与する飼い主さんが、に言い換えることもできるかと思いますが)受け入れられるかどうかにもかかってきます。基本的には同時に治療を始めたいです。200mmHgを超えるようなときは、「お願い、頑張って!」の祈るような気持ちです。

血圧を下げることは全身性低血圧を引き起こしてしまうリスクも合わせ持っています。急激に血圧を低下させるのはかえって危険なことになります。何度か測定をしながら、「うちの子」の「今の状態」にちょうどいいお薬(もとの病気の治療薬も含め、場合によっては1種類だけにとどまりません)と、投与量を探っていきます。つまり、開始するときのお薬はよりマイルドなものでマイルドな量を選びます。維持していくのにちょうど良いと思われる薬の種類と量が決まるまで、1週間とか2週間の間隔で来院をお願いしています。

再診のたびに血圧測定をしていくと、動物たちもいよいよ慣れてきます。ほぼ毎回一定の数値になっていると安心です。それでも、その日のコンディションや診察までの待ち時間の過ごし方によって簡単に数値が変化します。毎回高いとなると、それはお薬の見直しをする必要があるというサインとして捕らえています。

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<高血圧症のときに使われるお薬>

犬ではRAAS阻害薬と、カルシウムチャンネル遮断薬が広く使われているお薬です。RAAS阻害薬は高タンパク尿作用(これはそのまま腎保護作用になります)のため、もとの疾患に腎臓病を持つ犬では間違いなく第一選択の降圧薬です。RAAS阻害薬として有用なのがACE阻害薬ですが、これは僧帽弁疾患などの心臓病の初期開始薬としてずっと使われてきたお薬でもあります。薬のパンフレットでも僧帽弁閉鎖不全症についての記述が紙面のほとんどを閉めています。そのため、この薬がうちの子の「高血圧のために」処方されていたことをすっかり忘れてしまう飼い主さんも出てくるようになります。そのくらい「僧帽弁疾患」のために処方されることが多いからです。「心雑音の有無」だけがこのお薬の処方の目安ではないこともご理解ください。

一方猫では、カルシウムチャンネル遮断薬がずっとファーストチョイスになってきていましたが、猫でもRAAS阻害薬を併用します。長い目で見ると腎臓をまもる仕事をしてくれるRAAS阻害薬系統のお薬ですが、とくに脱水を起こしていることが多い慢性腎臓病の猫では、脱水を改善させないうちに用いると腎臓機能を悪くさせてしまいますので、点滴治療で脱水を改善させ、腎機能を守れる状態にしてから使い始めます。

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<おねがいしたいこと>

高血圧こそ、沈黙の状態です。標的器官障害は長時間かけてゆっくりと発生しています。適切な治療と、経過観察をないがしろにしないことはとても重要です。何かを予防するお薬は、投与しなくてもすぐにその予防していた病状を発症するわけではないので、お薬の恩恵を過小評価しがちです。すぐに薬の利点は見えないわけですが、高血圧の管理によって飼育動物の生活の質が高い状態で維持できていく(現在進行形です)ことをご理解いただきたいと思います。将来のための治療薬が高血圧管理のお薬です。

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<おまけ・塩分の高い食事と高血圧>

517日は「世界高血圧デー」なんですけれど、同時に「減塩の日」でもあります。塩分摂取と高血圧についてお話する機会が多いことをここでもお伝えします。

食餌中のナトリウムの問題は専門家の間でも、多くの論議が出るテーマになっています。正常な犬や猫の血圧は、塩分の影響は受けにくいようだという報告が出ていました。犬や猫では、自然に発生した全身性高血圧症で高ナトリウム摂取が高血圧に与える影響そのものは体系的に評価されていないようです。今のところわかっているのは、ナトリウム制限だけでは血圧を低下させることはないということです。そして、慢性腎臓病の猫では塩分の摂取量が多いと悪影響を及ぼすことがあります。それで、犬と猫の高血圧に関するACVIM(米国獣医内科学会)の合意声明を出した委員会のメンバーは「食餌性Naの多量摂取について避ける」よう勧めています。IRISでも慢性腎臓病があるときのNaは「お薬と併用して徐々に制限する」ように勧めています。適切な食事としてNaは不可欠な栄養素ですし、併発疾患や嗜好性の問題もあるので、個々で考える必要があると思います。

今週、体調不良により日曜日の更新予定が遅くなってしまいました。17日に間に合ってヨカッタ~!

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全身性高血圧症・続き

全身性高血圧症のお話、前回の続きです。



 <高血圧が影響を及ぼす臓器と障害>

高血圧症が継続している(慢性的な高血圧症になっている)と、腎臓や眼、脳(中枢神経系)、心血管系に障害を与えます。障害の中には陰に隠れて、わからない状態のものが多いです。ですから、たいていは気がついたときには後戻りできないようなことになっています。

障害を受ける臓器

高血圧による影響・症状

問題を発生させる

可能性がある血圧値

コメント

腎臓

腎機能低下の進行が早まる

蛋白尿が増す

血圧>160mmHg

原因か結果かがわからない

網膜剥離

眼の中の出血など

血圧>180mmHg

「高血圧性網膜症」

抑うつ状態になる

運動失調をおこす

発作を起こす

血圧>180mmHg

虚血性脳梗塞や

出血性損傷による

心臓

心肥大

不明

 

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腎臓が悪いために高血圧になっているのですが、高血圧であることが腎臓病を発症させたり、病気の進行を早めたりすることになります。腎臓病の進行のバロメーターになるのは尿中のタンパクです。

眼は高血圧性網膜症として知られています。収縮期血圧が180mmHg以上でリスクが高まりますが、たいていは「眼がおかしい」と思ったときにはすでに失明しているケースがほとんどです。

高血圧性脳症では、「抑うつ状態」で静かになる(元気がない)か、「前庭疾患」のようにしっかり立っていられないなどの運動失調、けいれん発作などが突然始まります。収縮期血圧が180mmHg以上でリスクが高まります。

高血圧は心臓にも影響を与えます。「左室肥大」といっていますが、この結果流れが悪くなった場合、すでに僧帽弁閉鎖不全症のある犬では僧帽弁逆流を悪化させてしまいます。

 

ボーダーライン未満の血圧は臓器に及ぼす影響は最小限なので、それ以上診断をしていく必要はありませんが、150/95とか160/100あたりになるとやはりそれなりのリスクが出てきますので、血圧を上げる病気が潜んでいないかどうかを見つけることに加え、今後何か症状を出すことはないのか、時間を追って継続的に測定していきます。

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<高血圧症の治療>

高血圧症の治療には、心臓病の初期に使われるのと同じ、レニンーアンギオテンシン系を阻害する薬(アンギオテンシン変換酵素阻害薬:ACE-I)が使われます。アンギオテンシン受容体遮断薬(ARB)も使われることがあります。この薬1種類だけで十分にコントロールできないときには別の薬(カルシウムチャンネルブロッカー:CCB)も加えます。

投薬を始めるサインは収縮期血圧が160mmHgを超えてきたとき、というのが多くの先生達の合意するところです。

 

<心臓病でも同じお薬が処方になる>

はじめに処方するのは心疾患で用いられるお薬と同じものです。この時点で心雑音を感じられないと、「心臓病じゃないのに、どうしてこの心臓用の薬を服用するのだろう」ということになるかもしれません。お薬には「慢性心不全用」の薬として表示してありますから。でも、今心雑音が聞こえる、聞こえないということではなく、高血圧症でも同じ薬が処方になるというところを理解しておいてください。そして継続により、腎臓はもちろんのこと、心臓も、眼も、脳も守られていきます。それから高血圧によって左心室肥大は降圧剤によって改善することも知られています。

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<おわりに>

心雑音、犬の症状を中心に心臓(腎臓)保護薬の投薬を開始するのでは、身体を守りきれないかもしれないと思うこの頃です。心雑音の有無の判定には、獣医師側の主観によるところもあり、軽度の雑音を聞き逃してしまう心配があるし、犬の症状の有無に関して言えば、飼い主さんの主観や気づき、犬と一緒にいる時間などの制限があるからです。腎臓や心臓を守るための投薬開始サインの一つに血圧測定はあると思います。人と同じように、ある程度の年齢が来たらルーチンに血圧測定をするといいのかなぁと思います。

それから、治療による恩恵を受けているときは好状態が続いています。「もう治ったね」「薬は要らないね」と思ってしまうこともあるかと思います。「すっかりいつもと同じ、元気も食欲もある!」からです。けれど、薬によって、このような状態が得られているだけで、薬による援助がなくなると、身体はまたこの状態を維持するために無理をしなければいけないことになります。病気には「治らないけれどうまくつきあっていくと、進行を遅らせることができる病気」があります。心臓病や腎臓病と同じように高血圧症もそういう「コントロールしていく病気」の一つです。

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高血圧症

 517日は「世界高血圧デー」です。

犬や猫にも、高血圧症があります。

犬と猫の高血圧症についてご紹介します。

 

<血圧というのは?>

心臓から送り出された血液が血管の内壁を押す力が「血圧」です。血圧は水銀柱を押し上げる力をあらわすmmHgで示されます。Hgは水銀のことで、これを何ミリメートル(mm)押し上げるか、というのが圧力の単位、「mmHg」になっています。

送り出される血液の量や血管の太さ、血管の抵抗によって血圧の値は変化します。たくさん血液が送られているとき、血管が狭くなっているとき、血管が硬くなっているときなどでは圧力がかかるので、血圧は高くなります。

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<血圧を測定する>

血圧測定には動脈に管を入れて測定する(観血法といいます)のが最も正確だと言われていますが、日常的にそのような検査を行なうことは現実的ではありません。

犬や猫は足に分布している血管が多数枝分かれしていることから、血圧測定は困難だと長年言われてきました。1972年にドップラー血圧計が開発され、麻酔中に動脈内に管を入れなくても簡易に血圧をモニタリングすることができるようになり、この方法は広まってきました。すでに1992年の獣医麻酔外科雑誌には、母校の心臓・腎臓関係の諸先生方が手術時に実験を行ない、ドップラー法を観血法と比較検討したところ有用であるという結果が出ています。

私たちが血圧測定をするときですが、腕に巻いたカフに空気圧をかけ、医師(または看護師)が聴診器を当てながら測定して貰うのが昔からの方法です。コロトコフ法といいますが、このとき聴診器では血管から出る音を聴いています。今、家庭で普及している血圧計は、血管の音の代わりに血流による振動をキャッチしています。オシロメトリック法といいます。

大きい犬にはこの方法、小型犬や猫にはあの方法、と推奨される先生もおられますが、SA Brown 先生によると「測定装置の選択は操作者の経験と好み」でよい、ということですから細部にこだわる必要も無いのかもしれません。

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<高血圧症はいくつ以上から?>

ちょっと高齢の方になると、「上が150で、下が100。もっと下げるように言われてるんだけどねぇ。」なんていう会話をされている患者さんがおられます。なんとなく、「このくらいが高血圧になるんじゃないの?」という数字を感覚的に持っていらっしゃるようです。

「上」というのは「収縮期血圧」、「下」は「拡張期血圧」のことを指しています。

将来、高血圧症による身体の不調が発生するリスクに基づいて、IRISでは血圧をステージ分けして、高血圧かそうでないかを評価しています。

収縮期血圧

拡張期血圧

将来のリスク

血圧の評価

150mmHg未満

95mmHg未満

最小

高血圧ではない

150~159mmHg

95~99mmHg

軽度

ボーダーライン

160~179mmHg

100~119mmHg

中等度

高血圧

180mmHg以上

120mmHg以上

深刻

重度な高血圧

これからすると、人(人では140/90mmHg以上を高血圧)よりも幾分高い、160/100mmHgからがはっきりとした高血圧ということになります。人では、ある数値を超えたときに脳出血や脳梗塞が起りやすくなるという地点を見ていったときに、みえてきた数値が140/90mmHgで、ここがボーダーラインです。動物でボーダーラインであるのは150/95mmHgです。この数値よりも低く押えられている方が将来安心ということになります。

実際私たちが高血圧症と診断するときの収縮期血圧は150mmHg以上です。血圧は、動物が興奮していたり、不安を感じていたりしても生理的に上昇しますから、(もちろん白衣性高血圧もあります)、何度か測定して「間違いなく高い」を得ることにしています。同じ日にも数回測定しますが、1週間以上の間を開けてまた同じように測定して結論を出します。はじめの頃は高い数値が出る日に低めに出る日が混じっていても、いずれは「持続的は高血圧症」に移行していくようです。やはり継続測定は大切です。

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<サイレントキラー>

高血圧は「サイレントキラー」と言われています。高血圧に自覚症状がないのは、経験されていらっしゃる方も、またご自身でなくてもご家族の中にいらっしゃるかと思いますが、症状がないためにそのままになっていて、あるとき突然、大変なことになるわけです。それが「沈黙の殺し屋」と言われるゆえんです。

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<高血圧症の原因は?>

人ではほとんどが遺伝と生活習慣による「原発性」(一次性)の高血圧に、加齢やその他の発症因子が加わって何らかのイベントが起るわけですが、動物の場合はほとんどが何か病気に併発した「二次性の高血圧症」になります。

高血圧症を引き起こす病気として、犬では

・慢性腎臓病

・副腎皮質機能亢進症

・糖尿病

・肥満

・甲状腺機能低下症

などが考えられます。

猫では

・慢性腎臓病

・甲状腺機能亢進症

などが挙げられます。そのほかある種の薬によっても引き起こされることがわかっています。




長くなりました。今日はここまで。
今週は病気のわんこさん、それも結構重篤な病気のわんこさんが目立ちました。マイデスクに座れることがなくて、日曜日の朝の更新が1日半ほど遅れてしまいました。


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猫の慢性腎臓病

寒い寒いと屋内にいる時間が長く、外の様子を気にすることもなく過ごしておりましたが、自然というのは素晴らしいもので着々と春の準備が整ってきている様子です。小さな春の花が咲き始めていました。

例年、閑散期に当たる1月2月は、ご家族さま向けのパンフレットを新しく作る作業に費やしています。内容が古くなってきたので改訂する必要があるのに日々忙しくて更新できなくて古いままお渡ししていたようなものとか、質問が多いから言葉で話す以外に持ち帰り用冊子を新しく作っておく必要があるものとか、そのようなこといろいろです。

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こちらは慢性腎臓病にかかってしまった猫ちゃんの
ご家族さま向けにお渡しする予定の冊子です。

今年は猫の腎臓病のパンフレットを作り替えました。たいていの病気は文字中心の病気説明パンフレットA4用紙1枚でほぼ十分なのですが、慢性腎臓病ってどうしてこんなにお話しすることが多いのでしょう。これまでの説明用紙(A4用紙2枚分)をさらに短くすることはできませんでした。済みません。よ、よ、4枚。。。これはまた折を見て、簡易バージョンを作る必要があるレベルです。(><)
 
それから、このブログでは角度を変えて、こっちからあっちからとお話しする機会が多くて、重なった内容も多いのですが、挿絵も探し出しまして、もっと読みやすいように「猫の腎臓病」ファイルを作りました。待合室読本です。ここには新しい腎臓病パンフレットや、企業さんからいただいている資料なども挟んであります。

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ファイルです。
気になったらお手にとって開いてくださいね。

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ブログの文章に加筆、わかりにくいかなというところも
絵やブラフ、図など入れわかりやすくしたつもりです。
 
おりしも、3月は腎臓病月間。腎臓病について知っていただきたい一ヶ月です。それにちょうど春のお彼岸週間は2年に1度あるIRISの学会week。いわば腎臓週間です。

10歳を超えた猫の3頭に1頭は慢性腎臓病という検査結果が出る時代。症状が出るのは病期がそこそこ進んでしまったとき。それまでは症状をあらわさないのが腎臓病です。来月からは犬の検診が増え、猫さんは待合室でもリラックスしにくくなることが予想されます。健康診断はいつでも受けられますが、わんこの来院数が少ない今月中は貓さん向けに特におすすめです。ご来院、お待ちしております。
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慢性腎臓病にかかってしまったご家族だけでなく、
高齢猫を飼育されていらっしゃる方には、あらかじめ
読んでいただけるとうれしい内容です。

 
3月掲示版用のポスターです。
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腎臓は背中の方にあります。左右二つです。


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年をとるだけで腎臓病になる?
そういうこともあります。

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腎臓病の初期症状は?
実は分からないことが多いのです。

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腎臓のお仕事は?
いろいろな仕事をしています。

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愛猫の腎臓は元気でしょうか?
病院でできる検査がいろいろあります。

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腎臓病の治療といったら?
足し算的に治療は増えていきます。

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元気に暮らしていけるように、補助します。
腎臓を守り、残る力を生かしていきます。




今シーズンはインフルエンザが大流行していましたね。かくいう私も「鬼のかく乱」とでもいうような状態で、体調を崩してしまいました。たまに体調を崩すと、調子の悪い犬や猫の気持ちが分かります。ウィルス性鼻気管炎でもなかなか食事を始められない猫が居ますが、体温計では測りきらないような微熱のために「お口が苦い」「何を食べてもおいしくない」のかもしれないなぁと改めて思いました。回復期には消化器系に作用する薬で食欲をそそり、食べ始めても胃がつっかえることがないように補助してやることも必要なのかもしれません。まだまだ巷のインフルエンザは収束を見せていないようです。皆さま、どうぞお体には十分ご自愛いただきますように。

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テーマ : 動物病院
ジャンル : ペット

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愛知県西尾市丁田町杢左51-3
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