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犬の緑内障

10月になりました。もうカレンダーの残り枚数が3枚になってしまいました。季節の変わり目で不安定なお天気が続いていた9月も終わり、お出かけに気持ちの良い陽気になりました。10月第1週にはNational Wolk Your Dog Week というのがあります。それも今日が最終日ですが。「犬と一緒にお散歩に行きましょう週間」とでも訳したらいいのでしょうか。とにかく気持ちのいい季節にはわんことのお散歩も弾みます。ただし、わんこの視力が有るのなら、のことです。
今日はわんこの視力を急に奪っていく病気、「緑内障」についてお話しします。

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瞳が緑色になる病気・・・ではありません。
 

<緑内障というのは>

目の中には眼房水という水が入っています。眼房水の圧力が眼圧で、これによって目の張りや大きさが保たれています。緑内障は眼房水が溜まりすぎて高眼圧になり目の痛みを起こし、またゆくゆくは網膜の視神経に障害を起こすので失明してしまう病気です。
白内障は瞳が白くなる病気だから、緑内障は目が緑に見えてくる病気、と思われている患者さんもおられます。「緑になっていないから緑内障じゃない。大丈夫。」みたいな感じです。残念ですが「瞳の色が変わるので病気がすぐにわかる」という簡単なものではありません。

柴犬やシーズ、アメリカンコッカスパニエル、ゴールデンレトリーバーなど原発性に緑内障を起しやすい犬種が有ります。突然眼圧が上昇します。遺伝的な素因を持っています。目に構造的な問題があると考えられます。別の構造上の問題でビーグルは徐々に眼圧が上昇する好発犬種です。

また白内障やその他の目の病気に続発することも有りますので、人気犬種のダックスやトイプードル、チワワにも無縁の病気というわけではありません。続発性の緑内障ではこの犬種たちの発生が多いくらいです。なので、このわんこたちのご家族さんも「緑内障という怖い目の病気が有る」ことを記憶の隅に置いといてもらえるとウレシイです。

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柴犬は緑内障の好発品種です。


<典型的な柴犬の緑内障の場合>

年齢は7歳から8歳くらい。

急に発症し、激しい目の痛みがあります。

違和感があるため目をショボショボさせます。

痛みのために元気がなくなります。

ものすごい痛みから嘔吐してしまう犬もいます。

目の様子が変だからと顔を見てみようとするけれど、目の近くを触られるのも痛みのためにいやがります。

離れてみると、眼球がもう一方に比べて一回り大きくなっているように見えることもあります。

黒目のまわりの白い部分に血管が浮き出ていて赤く、恐怖映画の中に出てきそうな様相です。

ぱっと見た目が、濁りのために青く(~銀色に)感じられる場合があります。このときは中が見えません。瞳は見つけられません。

青くしっかり濁っていないまでも、黒目の部分がうすく白く濁っていることがあります。

明るいところに居るのに瞳がぱぁ~っと大きく開いているのに気づかれるかもしれません。そしてその大きさがそのまま変化しない(大きいまま)かもしれません。

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まぶしい!目をショボつかせるのが初期症状です。



<緑内障の病気経過>

症状を出す前にはすでに病気が始まっていて、潜伏期と呼ばれています。この時期は犬にとっては違和感が有るかもしれませんが、それを訴えることができるのかな?もし訴えられたとしてそれを受け止めることができるのかな?と思います。

次に時々眼圧が上がったり、平常に戻ったりの時期があります。「なんとなく目がおかしい」の段階です。来院されて、緑内障を疑って眼圧測定したものの異常値ではないことが多いです。ここで緑内障の治療薬を使ってしまうと後でほんとに緑内障だったかな、なんて心をもやもやさせる段階です。でも使わないで緑内障のステージを進めてしまったらもっと後悔するステージです。どちらにしても獣医さん泣かせの段階です。

その次の段階が、飼い主さんが犬の目の異常にはっきりと気づいて病院に連れてこられるときです。この段階で来られるのが一番多いです。先ほどお話ししたような症状が出ています。けれど残念なことに、たいていのこのステージで、多くの犬はすでに失明しています。

さらにこの時期を経過すると、症状があるのに眼圧は下がっています。

さらに経過したのが、私たちが「牛眼」と呼んでいる状態です。目玉がくりんと出ています。もちろん視力は有りません。

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初期治療に成功すれば視力の寿命を延ばすことができます。



<緑内障の治療>

緑内障の治療はひたすら眼圧を下げること。それはそのまま目の痛みを取ります。そして、もし視力が残されているのであればこれを救うことになりますが、これはあまり期待できないかもしれません。

結論から言ってしまうと緑内障は「外科の病気」になるかもしれません。迅速に眼圧を下げるには点眼では時間がかかりすぎるからです。目に細い針を刺して水を抜く処置も急性期には必要な救急処置の範囲です。でもなかなか眼圧が下がらないといっても何度も針刺し処置ができるわけでもありません。しかし眼科専門医に愛犬を届けるのに急なことでうまく連携が運ぶかどうかはわかりません。やっぱり、この先のことはどうあれ、点眼による治療をはじめることになります。

もうひとつ、身も蓋もないことをいいますが、緑内障は進行性の病気です。つまり、治ることは無い。気長にいうと視力が確保できる期間をできるだけ伸ばしていく治療です。遺伝に裏打ちされた構造上の欠陥があるために発症した病気ですから、今は右だけまたは左だけの状態かもしれませんけれど、残された片方が同じような状態になるのも予想されます。もう一方が悪くまで最初の発症から1年少しというのが標準的な期間ですが、この片目は機能している期間をできるだけ長くしていきたいので、丈夫な方の目に予防的な点眼をするというのも治療の一環として必要になります。「え?悪いのは右ですけど。左に目薬をさすの?」とはよく言われます。そうなんです。けれど予防的な点眼は目に見えないので良くなっている感じがしない、やめたからといって急に悪くなるわけでもない、顔のまわりを触られるのが大嫌いで(しかも凶暴な?)柴犬に点眼をするのは、ごほうびのない作業を続けるのでモチベーションも上がらないだろうとお察しします。

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点眼をしっかりできた犬はうまくいきます。
がんばって!



<緑内障治療に使われる目薬>

目に痛みがある急な発症で、目に炎症がないとき、新しく動物用にできた白いキャップの目薬が有効です。これまでは空色キャップの目薬を処方していました。同じ成分ですが、今までのものよりも薬物濃度が高く、有効です。発症からすぐの段階では1時間ごとにでも点眼を繰り返すようにします。

もし炎症があるようなら、(目が青くなっていたり白く濁っていたりするとき)この目薬をはじめる前に、液が濁っている目薬(これも動物用です)をお願いします。この時、眼圧を下げるための目薬も併用しますが、動物用の白いキャップの目薬ではなく青いキャップの目薬です。

緑内障治療に使われる目薬は眼圧を下げることを目的としたものですが、大きく分けると眼房水を作るのを押える薬、前眼房に有る水を排出させるように働きかける薬、両方の作用がある薬が有ります。(その作用のさせ方によりもっと細かな分類があります。)それで、なかなか反応が悪いときは、一つだけでなく、二つとか三つくらい併用することになります。合剤になっているものもあります。

点眼液には11回と書いてあったりしますが、急性期のひどい状態を乗り越えるため、あえて12回から3回、またはそれ以上に頻回の点眼をお願いすることもあります。点眼液に書いてあることとお願いすることが違いますが、「先生、まちがっちゃったのね」ってことは無いです。急性期には念入りに点眼してください。そして眼圧はちゃんと下がって来るかどうかの再診は翌日とか翌々日とかすぐにお願いしています。

基本、再診日が近いというのは病状の変化が急であって、予後に不安があるときです。長期のお薬を処方できるのは状態が安定していて、予後に不安がないということです。

安定期には点眼回数は少なくて大丈夫です。予防的な点眼も同様です。予防していた方の目が怪しくなってきた場合、点眼液の種類が変わったり点眼回数が変わったりします。

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いよいよ!というときには手術もあります。



<緑内障の時の点眼以外の治療>

激しい痛みと炎症を抑えるために、点滴によるステロイド療法を行なうことがあります。

視神経を守るために、全身性高血圧のときに使うお薬を服用していただくことがあります。

使用できるサプリメントがあります。

外科が必要と思われるときには眼科専門医と連携する必要があります。急性期に連携するのが難しいかもしれません。このとき眼科専門医にお願いする外科は眼球切除術ではありません。虹彩を切ったりする手術で眼圧を下げる手術です。目を守るものです。

最終段階で連携をする場合の手術は眼球切除から義眼挿入手術になるかもしれません。

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お散歩にも注意が必要です。



<もうひとつ、大切なこと>

頸動脈に圧受容器があります。血圧を関知するところです。頸動脈を圧迫すると眼圧が上がります。興奮でも上昇します。暴れ症の柴犬が散歩の時、首輪からリードでつながれていて、ぐいぐい引っ張るのは眼圧を上げることになります。胴輪にして、しかもリードをつける部分が背中側ではなく前胸部にあるものを選んで装着してもらうのがおすすめです。前にあると勢いを制御しやすいからです。

あらかじめうちのわんこに緑内障の遺伝素因があるかどうかを調べる遺伝子検査があります。緑内障好発犬種はこの検査で陽性であったら絶対に、また遺伝子検査をしていなくても、首輪にかかる圧力を分散させると、目を守ることになります。

 

10月9日は「てくてく」お散歩の日だそうです。いつまでも視力を保って、すがすがしい秋空の下、気持ちよくお散歩に出かけたいです。 

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猫の日光皮膚炎、扁平上皮がん

 扁平上皮がんに進行してしまった?!

猫の日光皮膚炎はそのままにしておくと、扁平上皮がんへと進んでしまうことがあります。今日は前回の続きです。

扁平上皮がんはまわりに浸潤して急速に増殖する特徴をもつ悪性腫瘍です。時間の経過とともに大きくなり、あまりに大きくなってしまうと、治癒させられなくなります。そのかわり腫瘍が大きくなる前に診断されれば、効果的に治療させることができます。

 

<症状>

局所の皮膚の潰瘍は、数か月にわたって治らない傷のような様相で、実際にそのように思われて来院されることが多いです。かさぶたができては取れて出血を繰り返すとか、耳の縁がギャザーのようになってきたというようなことです。耳の先端が一般的ですがそのほかに鼻(ときに鼻腔内)、眼瞼(めぶち)、唇で、ここは毛に覆われていない部分です。

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目や耳を気にして掻くことがあります。



<診断>

皮膚がんの段階で病院に来院された場合の診断手順についてお話しします。

まずはこれまでの経過を伺います。それから身体検査です。腫瘍化したところは視診が中心です。近くのリンパ節を触診して、腫れていないかどうかを確認します。基本的なラボ検査として血球系の検査と血液の生化学的検査をしますが、これは体内の諸器官が正常に機能しているかどうかを確認するものです。この腫瘍は悪性で早期に転移するため、胸部や腹部のX線検査を通して肺や肝臓などにも目を向ける必要があります。初診の段階ですべて行なうこともあるし、途中までのこともあります。

中心的な検査は細胞の検査です。腫瘍そのものに針を刺し細胞を観察します。ここにできた腫瘍がどんな種類の腫瘍なのかを判断する最善の方法で、生検と呼ばれています。扁平上皮がんのできやすい部位に別の腫瘍細胞、たとえば血管肉腫やリンパ腫などを見つけることがあります。腫瘍の種類が違う場合、異なる治療プランを立てることになります。腫れたリンパ節があれば、ここにも針を刺して細胞を観察しますが、リンパ組織で腫瘍細胞が見つかることは転移を意味しています。確実性を求めるため、病理の専門医にも材料を回して確認を仰ぎます。

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耳の先端部分にも気を配ってください。



<治療>

腫瘍の大きさ(広がり)と腫瘍の数によっても変わりますが、基本は腫瘍が発生している部位とその周辺を広く切除する手術です。手術で腫瘍とそれを取り囲む広い組織が除去されることは、腫瘍周辺に広がっていたかもしれない(目で見たのではわからないくらいの)小さい細胞塊まで確実に除去することになります。場合によっては、外科手術中に多くの組織が除去され、切除した部位を覆う皮膚が不足するようなことがあります。このようなときは、近くの皮膚まで切開を伸ばし、反転させて腫瘍があったところを覆い隠す皮膚弁を使います。また近隣の組織から回転させるのも難しい場合は、体の別の領域から皮膚を採取し腫瘍が存在していた領域をかぶせる皮膚移植と呼ばれる技法を使うことになります。さらに広範囲に腫瘍が増大しているときは、より深刻な除去をしなければいけない状況です。例えばつま先にある腫瘍は罹患したつま先の切断を必要とするように、鼻の腫瘍は鼻の(部分的かもしれませんが)除去が必要になってきます。腫瘍が耳に見つかった場合、耳の一部が除去されます。こうしたタイプの外科手術は、美容的に異なる外観になってしまいますが、その点を除いて術後はうまく回復します。ただ、一部、どうしても腫瘍が完全に除去しきれなかったということも起こります。このようなとき手術後に化学療法を推奨する場合があります。時には手術が実用的でないと判断して、化学療法のみを治療手段とすることがあるかもしれません。この場合の化学療法は、腫瘍が早く成長するのを防ぎ、猫をより快適にするために役立ちます。完治を目的にした治療ではないことをご承知ください。

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たとえ耳を無くすことになっても、初期段階ならば命までは失いません。



<生活と管理>

猫はどうしても痛みを感じるはずです。術後は鎮痛剤を与えて不快感を最小限に抑えるようにします。鎮痛薬は注意深く使用します。予防可能な医療事故の1つに、投薬過多というのがあります。痛そうだったからと日に何度も鎮痛薬を与えてはいけません。指示には注意深く従ってください。

退院後は猫の活動を制限し、静かな場所に置いてやってください。ケージ・レストといって、しばらくケージ内で過ごさせるやり方が最も向いていると思われます。もう動き回っても大丈夫、というポイントは、それが何日後になるのかはそれぞれによって違ってくるとは思いますが、再診日に猫と術後の傷を確認してお伝えします。回復期には食事と水の摂取量を監視することが重要です。猫が食べる気分にならない場合は、完全に回復するために必要な栄養を得るため、栄養チューブを使用する必要が出てくるかもしれません。とにかく頭まわりの出来事はとても痛いので、なかなか食欲が湧いてこないものです。それから猫があまり動かなくても済むように、トイレ箱を猫が寝ている場所に近づけて置くとか、箱の深さを浅いものに変えるなどしてトイレへの出入りを簡単にしてやってください。傷跡を保護するカラーの管理ももちろん大切です。局所の塗り薬をお願いすることになったときも、内服薬と同じように指示に従ってください。

回復後も、定期的な検診スケジュールを設定します。再発が起こりやすいため、新しい腫瘍が発生していないかどうかを確認し、また肺や肝臓に転移はないかどうかを確認するために胸部や腹部のX線写真を撮影します。

 

<おわりに>

ただの「日焼け」であったはずの日光皮膚炎はそのままにしていると、とても深刻な皮膚がんへと進行してしまい、しまいには命を奪いかねないような状況になってしまいます。

今年の夏は特別に暑く、そして紫外線量もたくさんでした。秋になり暑さは一段落つきましたが、皮膚への影響が現れてくるのは今からです。もし、今このブログを読んでいただいている時点で「うちの猫、耳が変だ!」と思われることがありましたら、急いで病院へお越しください。また今の時点では何ともなかった場合も、この後引き続き、耳の先端部分の観察をお願いします。

9月は「がん征圧月間」でしたので腫瘍のお話を3ついたしました。

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猫の日光皮膚炎、扁平上皮がん

 日だまりで猫がまったりしているのを見ると癒やされます。猫にひなたぼっこはとてもお似合いです。けれど強い日差しには危険が潜んでいます。猫が太陽光線を浴びすぎると日光皮膚炎発症する可能性があります。日焼けは炎症です。何度も炎症が繰り返され、組織が修復しようと繰り返すうちに情報伝達が間違った方向に進み皮膚が腫瘍化してしまうことがあります。10月に入ると紫外線量は減少しますが、夏の間に受けた皮膚刺激が具現化してくるのもこれからの季節です。

今回は2回続きで「猫の日光皮膚炎」と「扁平上皮がん」についてお話しします。はじめは日光皮膚炎、来週は扁平上皮がんの予定です。

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白い被毛の猫さんは日光の影響を受けやすいです。

<日光皮膚炎とは>

 日光皮膚炎は、猫の皮膚がんにつながる進行性の皮膚疾患です。早期に気づいて処置し、皮膚がんに進行するのを防ぐ必要があります。

 

<猫の日光皮膚炎の症状>

 初期段階では、赤みを帯びているだけ、または鱗状の皮膚(カサカサしたものが吹き出ている)に見えることがあります。進行するにつれて、皮膚がえぐれたり(潰瘍)、重度のガサガサ(痂皮)が発生することがあります。猫は患部を気にして頭を振ったり、後ろ足で掻くような仕草をすることがあります。

 日光皮膚炎は通常、耳の縁に発生します。先端部分が多いです。鼻の付近や目ぶちに出ることもあります。耳や鼻、目の周りには皮膚を保護する毛があまり見られません。こうした部位は光線の影響を受けやすいのです。

 

<日光皮膚炎の影響を受けやすい猫>

 すべての猫に日光皮膚炎を発症する可能性が有るのですが、その猫たちみんなが同じように腫瘍になりやすいわけではありません。白猫か淡い色をしている猫は一番リスクが高く、次いで白黒のぶち猫でも耳の先端部が白い猫です。また光線をより多く浴びる機会があるので屋外に出る猫は屋内の猫よりもリスクが高いです。でも屋内猫であってもリスクはゼロではありません。なぜなら、猫は窓際で太陽の光を浴びるのが大好きだからです。紫外線はガラス窓を通して屋内にも差し込んできます。

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屋外は日陰になっていても要注意。

<日光皮膚炎を防ぐ方法>

 日光に曝露されれば常に日光皮膚炎のリスクがありますが、特に皮膚が影響を受けやすい猫には、日光から猫を保護する必要があります。

 

<屋外猫の予防>

 屋外に行く猫は日光皮膚炎のリスクが最も高いので、日中のピーク時である午前10時から午後4時に屋外に出るのを制限できると良いと思います。それが不可能な場合は、日焼けを避けることができる日陰が家のまわりにないかどうかを確認し、そこに猫の好みのクッションを置くなどして猫を誘導してもらえるとうれしいです。それから「見渡しても家のまわりには日陰がないよ」というときですが、そういう場合は日曜大工を頑張っていただいて、猫が入れるくらいの大きさで十分なので、猫用パティオなどを用意して日陰を作ってもらえると、さらにさらにうれしいです。

 

<屋内猫の予防>

 屋内猫の日光皮膚炎のリスクは低いですが、それでも猫がひなたぼっこをする時には紫外線を吸収しています。カーテンは太陽光を遮断するのに役立ちますが、薄い布一枚で日焼けを止めることはできませんし、そもそも猫はカーテンの裏(部屋の方じゃなくてより窓に近い側)に隠れて寝そべるのも大好きです。窓にUV遮断フィルムを貼ることをお勧めします。そうすれば光は透過してきますが、有害な光線の一部をカットすることができます。

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クリームを塗って予防します。

<日焼け止めクリーム>

 市場にはペットに優しい日焼け止めクリームがあります。しかし一部には亜鉛、サリチル酸、プロピレングリコールなどの猫の健康に有害な物質を含むものもあるので注意が必要です。スプレータイプよりはクリームタイプの方が塗布するときに猫がびっくりしません。

  

<日光皮膚炎の治療>

 皮膚炎が軽度な(血管炎の段階)では、ステロイド療法で痒みを抑え、猫が気にして掻きむしらないような処置を行ないます。潰瘍を形成しているような段階で腫瘍化しないように処置するときは、軽度の鎮静剤を利用し、局所をレーザー光で治療することも考えられます。しかし病変が皮膚がんに進行する場合は手術が適応です。扁平上皮細胞がんはいわゆる抗がん剤にはほとんど反応しないため、内科療法は無効です。

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がんばったわんこ・そら君その2

 先週の続きです。

 

<何か有効な治療法はないのかしら>

病理結果が返ってくるまで、数日から1週間くらいかかります。途中でお休みが入ると長くなるし、運良く週のはじめだと週末には結果が分かる、というような具合です。そしてその間というのは最新の情報を集めるための時間のようなものでもあります。特に今回の場合は、いわゆる第一選択治療は外科だけれども、第二選択には何があるのかを結果報告と同時にお伝えしたいわけです。新しい治療方法はないか、あったとして実現可能な方法なのかというところを、腫瘍科の専門誌やら過去の論文やらを中心にチェックします。腫瘍の先生にこっそり教えてもらう、というのも一つの調査手段ではあります。

そうして調べていくと、一つの抗がん剤がヒットしてきました。値段は高いけど、3週間に1回の点滴治療。これなら実際できなそうでもありません。副作用の問題もさほど強くはないようで、高度獣医療を提供してくれる高次病院にゆだねなくても、ここで治療ができそうです。また、海外薬でもないので入手も困難ではありません。病理結果の報告日に、「抗がん剤による治療」をプレゼンテーションすることにしました。

 

<抗がん剤で治療してみませんか>

病理結果をご報告する日、外科ではないけど、消極的ではない腫瘍との闘い方を提案することになりました。

抗がん剤による治療の具体的な方法、治療に要する費用、考えられる副作用など、お伝えしました。ただ、この治療で「どのくらい生きられるのか」というこれからの見通しは残念ながら情報不足です。それでも、「3週間に1回、外来での治療」というのはお勤めを持つファミリーさんでも無理のないスケジュールです。やってみる価値はありそうです。実施していくことになりました。

 

<初めての点滴、抗がん剤治療>

初診からちょうど1週間後に当たる日から抗がん剤治療が始まりました。抗がん剤はほとんどが静脈内から薬を入れます。そしてそのまま入れるものもあるけれど、輸液剤に混ぜてゆっくり点滴していくものもあります。そら君に使ったのはインクのように濃い藍色をした薬で、これを輸液剤に溶くとまさしくきれいな「空色」になる薬でした。点滴中は「気持ちが悪くなる」様子や「吐いてしまう」ことも見られず、静かに治療を受けてくれました。第1回目の治療は無事に終了しました。

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<先生、安楽死してください>

初めての抗がん剤療法の3日後、ウンチはにゅるっと出てくるようになった、とういう報告を受けました。けれどそれからさらに5日後、「ウンチがシャーシャーなんです。これでは見ていられません。安楽死してください。」というお願いです。

たしかに抗がん剤の後、数日に渡ってウンチが緩くなりさらには水の様にまでなってしまうと、今後もこうした治療を受けていくことには大きな問題があります。けれどそら君はぐったりしているどころか、なかなか調子は良さそうです。よくよく聞いてみると、「今生の別れかもしれない、今のうちに好きなものを腹一杯食わせてやろう」ということで、大好物をいっぱい食べさせてもらっているようでした。これは、抗がん剤の副作用というよりは、急性の腸炎、食べ過ぎによる下痢の可能性が高いのではないかと思われました。それで、食べ過ぎの下痢治療をしてファミリーさんの気持ちの変化を待つことにしました。すぐに下痢を止めたかったので注射をしました。それから5日分の腸内細菌のバランスを整えるお薬を処方、フードも特別療法食に限定です。

その後の来院で下痢は注射1本で翌日からぴたっと止まった、ということでした。「お別れかもしれない」というと、好物をたくさん食べさせたくなるのは人情です。誰もが陥りそうな罠です。が、そら君のおなかのことも考えて、できるだけ日常的な食事を与えてもらうことにしました。そうして「下痢による安楽死事件」はそのあとずっと笑い話になりました。

 

<抗がん剤、順調です>

3週に1回の点滴治療を繰り返すうちに、「投与後1週間はちょっと食べが鈍る。その次の2週目は回復してきて、3週目は普通に食べられるようになり体重も戻る」、というサイクルがあることが分かってきました。排便や排尿は正常ではなかったものの、以前に比べ困難の度合いが減ってきていました。初診のときは9.25Kgだった体重もじわりじわりと増え、ついに10Kgを超える日もありました。「そこそこ元気で、オシッコの1回量は少ないけれど、トイレに連れ出す回数を多くすれば漏れずに出せる」ということでした。

抗がん剤の前の血液検査で異常値が出てくると「今週は休薬。お注射は延期。」になるのですが、休薬することもなく、そら君の治療はきっちり順調に進みました。

尿検査で細菌感染が見られることがありました。チョロチョロしか出ていないときに細菌感染は起こりがちなことです。抗菌薬で対応しながら無理なく過ごすことができました。超音波検査をすると前立腺もわずかですが小さくしぼんでいます。

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<オシッコの流れが悪くなってる>

けれど抗がん剤治療が5回目になるとき、おしっこをするのに身体に力を入れて「う~ん」というような絞り出すような姿勢をするが見られてきました。検査をすると前立腺尿道が狭くなっているのがわかりました。

尿道は前立腺の中をトンネルのように走りますが、そのトンネルが土砂崩れに遭って大変狭くなっているような状況でした。尿の通り道をなんとかするため、トンネル補修に相当する処置を行ないました。けれどそら君にはそれはとても違和感のあることのようでした。尿路を通しても症状は改善されず、むしろQOLは低くなってしまったようにも見えました。残念。

6回目の抗がん剤治療のとき、今度は尿管から膀胱への入り口の片方が狭まってきていて腎臓からのオシッコの流れが悪くなっているのが分かりました。けれど7回目のときにはそんな流れも一時的だった様で再び良好な流れに変わっていました。

それにしても、次に腎臓から膀胱への尿の流れが悪くなるのは間違いないことでした。

 

<尿の流れを確保する外科手術はどうだろう>

姑息的な手術という言い方をする時がありますが、腫瘍そのものを寛解目的に取り除くのではなく、生命維持に有効、延命に効果を発揮する手術があります。全部取り切らないけれど、小さくすることで圧迫を解除する手術や、うんちやおしっこの経路を確保するための手術もその一つです。そら君にはこうした尿路変更術、人工肛門設置術など、それなりのものを形成していかないと、この先が難しくなってきそうです。そして、その「この先」の日が徐々に近づいてきていると感じていました。どの方法がいいのだろう、どのタイミングでどんな方法を使うのがいいのだろう。こうなったときはこの手術、ああなったときはあの手術というような23回と手術を繰り返すことは、そら君にもそら君ファミリーにとっても負担が大きいため非現実的です。時間があればメモ帳に腎臓と尿管、膀胱から尿道の絵を描いて考えていました。

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<その日が来た>

腫瘍細胞は確実にそら君の身体をむしばんで来ていました。食事もだんだんと喜んで食べなくなってきていました。これまでだってファミリーさんの創意工夫、食べさせようとする熱意でなんとか食べていてくれたようなものです。おかげで体重減少も最小限で済んでいました。

抗がん剤予定日にはまだ少し早いある日、「いよいよ何をやってもそらが食べてくれない」と再診にいらっしゃいました。検査をすると尿から排泄されるべき窒素代謝物が体内に溜まっているのがわかりました。尿流が滞っている証拠です。もう待てません。尿路を変更しなければいけない時がやってきました。根治手術にはためらいのあったファミリーさんも、この事態回避のための手術に同意してくださいました。

こうして、「腎臓から出てきた尿管を膀胱から取り外してお腹の壁から外に出す」手術を行ないました。手術時間が短時間で済むように考えた末の手術方法です。

 

<おしっこがお腹の壁から出てきます>

尿路を確保するために前立腺の中を通過する尿道に特殊な管を通す処置をしたときにはひどい違和感で苦しんでいたそら君でしたが、今回の手術は異物が入らないためか、術後はとても快調そうでした。ただ、おしっこがお腹からいつも漏れ出てくるので術後はペットシーツやマナーベルトを装着したままの生活です。尿出口のまわりの皮膚がおしっこかぶれにならないように、また外部から腎臓までの距離が近づいたので前にも増して細菌感染を起こさないように注意は必要でした。でもそんなことは全然気にならないそら君、再び元気に、そして食欲も日々回復していきました。

 

<このごろ寝てばかり>

尿の出口は確保できましたが、諸悪の根源である前立腺がんは依然、身体の中で増殖を続けていました。そら君はこのころ、常にある鈍い痛みと同居しているようでした。昼夜となく、静かに寝ていることが多くなりました。

腫瘍はその塊の中に神経を通すことはなく、ひたすら増殖のための血管だけを豊かにしています。だから腫瘍があっても痛みがないので、自分の身体でさえも気づきにくいのです。しかし大きくなった塊がまわりの神経に触れると圧迫を感じます。そして骨に乗り移っていったときには尋常ではない痛みを感じることになります。前立腺は骨盤の骨に囲まれた中にあり、腫瘍が大きくなっていく段階で骨盤近くのリンパ節にも、骨盤の骨にも腫瘍細胞は飛び散っていきます。

腫瘍の増殖を抑える効果を期待して使っていた抗がん剤ですが、もう今のそら君に必要なのは痛みを抑えることなのだろうと思われました。それで、予定していた抗がん剤治療を打ち切ることにし、緩和治療に入りました。

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<そらが、そらが!>

「こんなところで寝てちゃだめでしょ」「ほらほら起きて、向こうに行きましょ」

最後の呼びかけに、そら君は応えることはありませんでした。ほんとにその場で寝ているような最期だったそうです。

あれこれ考えては頭を悩ませていたそら君との濃厚な日々の思い出と、痛みから解放されて良かったという安堵の気持ちと、いろいろ訳のわからない複雑に入り交じった感情がいっぱい、いっぱい押し寄せてきました。ファミリーさんも、病院のスタッフもみんな涙でぐっちょり。でも、よく頑張った。病気と闘ったそら君も、看護に介護に手を尽くしたファミリーさんも。

今でもそら君のお話がちょくちょく出てきます。ちょっと大きめのダックちゃんが来たとき、同じカラーのダックちゃんが来たとき、同じ太っちょ体型のわんこが来たとき、仕草が似ているわんこが来たとき。まぁ、いってみればいつもいつもです。

 

9月の第2日曜日はペットメモリアルデー。虹の橋を渡っていったペットたちに思いを起こし、こころを癒やすための日でした。
わたしたちは日頃「元気で生きていく」ことにばかり目を向けています。でも近頃はそれだけじゃないよね、って思います。「より良く生きる」ことと「その子らしく亡くなっていく」こともとても重要だよねって。

突然亡くなってご家族を悲しませてしまうわんこやにゃんこ、思いがけない病気になってしまったけど残りの時間をがんばって闘病してくれたわんこやにゃんこ、高齢だったけれどご家族の期待に応えてしっかり生きてくれたわんこやにゃんこ。どの子も、みんなみんな、愛情いっぱいのご家族と素晴らしい時間を過ごし、すてきな生き方をしてきたなって思い出しています。そしてその一部の時間でしたけれど、一緒にさせて貰えたことを嬉しく思います。虹の橋の向こうのわんこたち、にゃんこたち、すてきな時間をありがとう。そしてご家族のみなさま、すてきな思い出をありがとうございました。
合掌




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がんばったわんこ・そら君

 今日は久しぶりに「がんばったわんこ」のお話です。残念ながらそら君はすでに虹の橋を渡って行っています。9月第2日曜日、今日はペットメモリアルデー(World Pet Memorial Day )、虹の橋を渡ったペットたちについて思い起こし、わたしたちの心を癒やすための日です。思い出のわんこについてお話しするとともに、犬の前立腺がんのことを知っていただく目的でお話しします。

 

<そら君>

89ヵ月、去勢手術済みのロングヘアードダックス、そら君が今日のお話の主人公です。引っ込み思案で我慢強いわんこでした。これは何度か飼い主さんが変わるなどして度々生活に変化があったことが原因だったのかもしれません。最初の飼い主さんが「飼えなくなったから保健所に連れて行く」という情報を聞きつけ、次の飼い主さんが引き取ってくれました。それから一人暮らしをされている二番目の飼い主さんの病気と入院で三番目のお宅に行きましたが、先住猫さんが彼を快く受け入れてくれず、猫さんの2倍から3倍も体格のあるそら君でしたが、毎日をぼんやり過ごしていました。その後縁あって最終になる今のファミリーと暮らすことになり、現在はこの生活をとても喜んでいたようです。自分からは要求を出さない遠慮がちなそら君、照れ屋の甘えん坊さんになっていました。

よくありがちなことではありますが、食べることが大好きなわんこでした。生後10ヵ月のときに去勢手術を行ったのですが、徐々に体重を伸ばし、4歳の頃にはジュニア期の体重を遙かに超える(理想体重の1.5倍にもなる)超肥満犬になっていました。けれど減量作戦に成功してからもリバウンドすることなく、よい体重を維持していました。スリム体型に変えられたのもニューファミリーの愛情のたまものだったと思います。

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<そらの様子が変だ!>

そんなそら君の調子が良くないと病院に連れてこられたのは「何回もオシッコをしている」ことのほかに、「うんちが出にくそう」にしているのに気づいたからでした。オシッコの症状だけのときは「寒いのかな。膀胱炎かな。膀胱に石ができちゃったのかな。」と思われていたそうです。けれどそれがちょうど年末年始のお休みにかかってしまい、お休みが明けるのを待って病院に来院されました。

「うんちが出にくい膀胱炎なんて、いくらなんでもオカシイ」と思われたそうです。

 

<様子をじっくりお伺いしました>

たしかに膀胱炎ではウンチの出方までおかしくなることはありません。

オシッコの出方について聞いてみました。

「時間まで待てなくなった。

少しの量のシッコを日に何回もしている。

それがちびちび漏らすようなかんじで出て来るようになった。

オシッコの最後の方でオシッコといっしょに血が出てきた。」

なるほど、なるほど。たしかに膀胱炎や尿道結石のときとよく似た症状です。

さらにウンチの出方について、くわしく聞いてみました。

「はじめはげんこつ飴くらいのウンチをポトリと落としていた。

もともとはコロコロで「蹴飛ばせば転がる」くらいだったのに、次第にゆるゆるになって「蹴飛ばしたら靴にくっつくだろうな」くらいの柔らかさになってきた。」

そうです。それから

「ひと月前のウンチはふつうにいきんで出していて、形は筒型、太さもしっかりあった。

それが今は平べったい、きしめん状のウンチになって、太さも細くなっている。

ウンチをする気があって、うんうんときばっているけれど出にくい。

なかなかウンチが顔を出さない。」

これはウンチを出すのに相当苦労していそうです。

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<いやな予感がする>

オシッコ、ウンチともに出にくくなってくるのは、未去勢の犬ならば前立腺の病気が一番疑われます。前立腺肥大症です。さらに「会陰ヘルニア」で直腸や膀胱の位置が変わっていたりしてもこのような症状を出します。けれどそら君はジュニア期に去勢済みです。身体検査でおしり周りを触っても「会陰ヘルニア」のようなぶよぶよする感じは全くありません。脳裏をかすめたのは「前立腺がん」でした。

 

<検査をするよ>

手順は①直腸検査、②レントゲンの検査、③エコー検査、④尿検査と細胞の検査、そして⑤血液の検査をすることにしました。普通は血液を採取してから画像検査に入ることが多いですが、今回は排便困難の原因を調べるのがいの一番。いつもと順序が違って、検査データを出すのにロスタイムが生じるかもしれませんが、画像検査を先に行いました。

 

<直腸検査>

直腸検査というのは、直腸に指を入れ触れることができるエリアを確認する検査です。直腸そのものに心配があるときにウンチの通り道になる粘膜面に触れて検査をします。ウンチの通路の途中に狭くなっているところはないか、名前のように「真っ直ぐ」になっていなければならないはずの「直腸」が折れ曲がったり、ポケットのような部分ができてウンチを出しにくくなっていたりしていないかを探ります。粘膜面にポリープのようなおできがないかどうかも触って確認します。また直腸を介して、解剖学的にすぐ下にある前立腺にも触れることができるので、その大きさや固さ、弾力性のほか、左右対称になっているか、表面がつるんとしているかなどを調べます。

そら君の直腸は真っ直ぐで寄り道のない、太さもしっかりある立派な直腸でした。しかし前立腺に触れる部分は狭まっていて、指で押すと反射的にいきみが出ました。また痛そうでもありました。ふくれている前立腺は硬く、右と左の大きさが不揃いで、表面はでこぼこしていました。

「う~ん。この感触は、まずいなぁ。」前立腺がんの疑いが深まりました。

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<レントゲン検査>

前立腺の大きさやかたち、それから直腸との位置関係、ウンチの滞り、さらに腰椎や骨盤の骨、近くのリンパ節がどんな状況になっているのかを一目で判断できるのはレントゲンの検査です。腹部のレントゲン撮影を行いました。さらに、万が一(肺の方に転移してはいないだろうか)のことも頭に入れて胸部の撮影も行いました。

前立腺は大きく、内部に所々白っぽい部分が見えました。小さな膀胱でオシッコを貯めていられない様子が伝わってきました。

心配していたリンパ節や骨の部分は正常、肺にも転移は見られませんでした。腎臓も大きく腫れている様子はなく、オシッコはきちんと流れていそうでした。

「そっか。疑いは濃いけれど、まだ、最悪の事態にまで進展していることはなさそうだ。」

 

<超音波検査>

膀胱は小さくて、内張りの壁が厚くなっていました。オシッコを出そう出そうと力を入れている様子がわかりました。膀胱の内部、尿が貯留しているところは少しもやもやが見えました。オシッコの中に細胞成分が入っていたりするとこんな風に見えてきます。

前立腺の形が左右に違いがあって、内部も均質ではありませんでした。濃い白色の部分と黒い部分が、グレーの組織の中にまだらにあります。

「なんで、そら君にこんなことが起きちゃうかなぁ」じわりじわりと診断がついていく中、悲しいものがこみ上げてきました。

 

<尿検査、細胞の検査>

とにかく、病理の先生に最終診断をお願いしなければいけません。前立腺に直に針を刺して細胞を採取する方法を選ばれる先生もおられますが、刺した針を通して採取した腫瘍細胞をおなかの中にばらまいてしまう危険もあります。尿を採ってから、前立腺をマッサージして膀胱を通して細胞を採ることにしました。

尿検査ではたくさんの上皮細胞も出てきました。マッサージ液からも多くの細胞が採れました。とれたものを病理の先生に送り「膀胱や尿道に見られる普通の細胞なのか、腫瘍性の細胞なのか、もし腫瘍性だとしたら良性のものなのか、悪性のものなのか」などを調べてもらうことにしました。もちろん先生に渡す前に材料の一部を使い、院内で染色して顕微鏡で確認してみます。

そこには日常見受けられない細胞がありました。腫瘍細胞はどんどん増えていく細胞です。細胞分裂をしている途中の細胞に出くわすことが多いです。そら君の標本にはそうした「怪しい細胞」がたくさん見られました。

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<血液検査>

スクリーニング検査と呼んでいる血液検査は、今現在の体調について教えてくれます。貧血状態ではないか、白血球や血小板の数はそろっているか、肝臓や腎臓の機能が衰えていないかどうかというのは、もし内科的な治療(抗がん剤による治療)を選択する場合には不可欠の検査です。

そら君、腫瘍細胞があるときに高くなる項目と炎症を示す項目が高いほか、問題になる結果はありませんでした。

 

<そら君はおそらく前立腺がんです>

「十中八九、前立腺がんでしょう。確定診断が返ってくるまでに、治療方針を決めていきましょう。」とお話をしました。根治手術がなかなか大変だということも、もし手術をしない場合の余命が大変短くなるだろうということもあり、今後のプランを決定するのは悩める問題です。しかし、ファミリーさんは一つの決めごとをしていたことを伝えてくれました。それは「何かあっても手術はしません」ということでした。これは飼育当初に決めたことだそうです。

それでも、何もしないでいたら今の状況がますますひどくなるだけです。前立腺がんの細胞特性からすると、腫瘍の増大を抑えるための鎮痛消炎剤に反応する可能性があることを伝え、消極的ではあるけれども投薬による内科治療を始めました。

続きは次週に。




テーマ : 動物病院
ジャンル : ペット

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